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序章《エリックside》
序章《エリックside》2
しおりを挟む「《―…っ!!》」
「《―…エリック?》」
タヒチでの撮影時、私は現地の猛毒の虫に噛まれて倒れてしまった。
「《エリック!医療班、早く!》」
「《私は大丈夫です。…雅彦様。撮影を―…》」
「とりあえず横になれる場所まで運ぼう。どこかあるかな?》」
「《はい!こちらに》」
いけません、マイペースなあなたがこんなことに時間を割いてはいけないのです。
スケジュールが詰まっているのに。
私が倒れるなどと―…
目を開けると、暖色のライトの傍で座って本を読んでいる雅彦様が見えた。
「《雅彦様…?》」
「《やぁエリック。目が覚めたかい?まだ微熱かな?解毒剤が早く投与できてよかった…》」
「《―…撮影は》」
「《撮影は終わったよ》」
日付を確認すると、タヒチに着いて2日しか経過していなかった。
あり得ない、終わったなどと。
「《終わったって…日付がまだ…あと5日間あるのに》」
「《あぁ体を起こさないでエリック。君が体調悪そうだったから、休憩を無しにして本気を出して2日で撮影を終わらせたんだよ》」
「《あり得ません…集中力の無い雅彦様が…すぐ休憩する雅彦様が…すぐに逃げ出す雅彦様が》」
「《おいおい、酷いなぁエリック。あー、久しぶりだこんなに本気を出したのは。もっとのびのび撮影したかったなぁ》」
撮影後に渡されたサンプルの写真をドヤ顔で私に見せつけ、「本当だろう?」と言わんばかりの表情をしてくる主様。
まさか、本当に終わったのか?
信じがたい―…
「《帰国まであと5日。それまでに体調を治せるかなエリック?》」
「《もう大丈夫です》」
「《体調管理も執事の仕事だよ。君は執事失格だ》」
主に体調を心配されるなど、本当に私は執事失格だ。
「《ご迷惑をおかけして申し訳ございません。雅彦様、もしかしたら菌が移るかもしれません。部屋を出てください》」
「あぁ、いいねぇ。俺が倒れたらモデルの仕事を休めるかな?移して欲しいなぁ」
―…日本語だ
こうして雅彦様から日本語と英語を日々繰り返して会話が飛んでくることにも慣れていた。
合間に日本語の勉強をしているが、意味だけはなんとなく分かってきていた。
「《ふざけないでください》」
「日本語、分かるようになってきた?」
「《話せませんが、意味は少しずつ》」
「《さすがは俺の執事だ。あと5日間はゆっくり休みなさい。主の命令だよ。そうじゃなきゃ俺が早く撮影を終わらせた意味がない》」
そう言って雅彦様は部屋を出て、ビーチではしゃいでいた。
この人には敵わない。
管理されているのは私のほうだ。
「エリックー!ウォーターガンで勝負だ!」
「《やりませんよ。やめてください。濡れます》」
「君の父は全力でやってくれたぞ?俺に負けるのが怖いのか?そっかー、怖いかー」
「《怖くなどありません!》」
執事と主の一線を引いても、その線を越えてやってきてしまう。
本当の兄弟のように私と接する雅彦様がいた。
明るく、ユーモアがあって
優しく、他人想いで
強く、誰からも愛される
なぜあなたなのか。
神はなぜあなたから百合亜様という一番大切なものを奪ったのか。
復讐のためだけに生きる人生になんてして欲しくない。
幸せになってほしい。必ず。
だから雅彦様を一生守る。
そう、誓った。
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