上 下
39 / 86

処方解説 当帰建中湯、桂枝茯苓丸

しおりを挟む
【処方解説 桂枝茯苓丸】

 瘀血を除くための薬を『駆瘀血剤くおけつざい』と言いますが、桂枝茯苓丸は駆瘀血剤の代表的な処方です。

 この瘀血、一言で血の滞りなどといえば簡単な単語に聞こえます。しかしその症状、兆候がやたら多い。

 肩こりや粘膜が暗紫色なのは血流が悪ければそうなるかなと思いますが、ニキビや肌荒れ、目の下のクマやくすみ等の肌トラブルも瘀血の兆候だと言われても、いまいちピンときません。

 しかも乾燥肌になると瘀血よりも血虚けっきょ(血の不足)が疑われるという摩訶不思議な追加情報まで出されると、もうさっぱりです。(まぁ血は潤いを与える作用があるとされるからなんですが)

 とどのつまり、東洋医学における血は物質としての血液のみではなくもう少し広い範囲のものを指すということです。

 気血水という概念については今後ゆっくり触れていこうと思いますが、多分に概念的です。字面だけで理解しようとすると逆に分からなくなるという現状が起こるので、注意してください。

 他にも瘀血の兆候として、頭痛や冷えのぼせ、へそ周りの圧痛などを覚えておいていただけれいいかなと思います。

 そして瘀血があると婦人科系の不調に陥りやすいので、結果として桂枝茯苓丸は生理関連のトラブルや更年期障害に頻用されています。

 ただし作中でも触れた通り、瘀血であれば男性でも効くのでそこは誤解のないように。

 それとここは強調しておきたいのですが、桂枝茯苓丸は瘀血によく効く薬とはいえ、これだけで心筋梗塞や脳梗塞など対処するのは無理です。

 たまに漢方だけで何とか済ませようとする方がいますが、漢方が全ての疾患を治せるなら今日の医学の発展はありえません。

 漢方がよく効く疾患、漢方でなければ対処できない疾患も多々ありますが、万能ではないことはよく理解しておきましょう。

 特に重い疾患に関しては西洋医学的な検査、治療を必ず受けてください。


《処方解説 当帰建中湯》

 当帰建中湯は桂枝加芍薬湯に当帰を加えた処方です。

 ……とだけ作中では紹介しましたが、実際にはそれだけでなく芍薬の量が少し減らされています。話をスッキリさせるために触れていませんがご了承ください。

 そもそも漢方は処方する先生やメーカー、文献によって多少の分量違い、生薬違いがよくあるので、その辺りは今後もざっくりやらせていただきます。ご勘弁を。

 当帰建中湯は桂枝加芍薬湯と同じ様に腹痛などにも用いられますが、一味加えられている当帰が補血調経、活血止痛の生薬なので(血を補い、月経を調節し、血の流れを良くし、痛みを抑える)、生理痛には特に効果が期待できます。

 月経痛がひどい時だけ当帰建中湯へ変更、もしくは 追加すると楽になるケースがあるので、辛い方は試してみると良いでしょう。


【処方解説アドバンス】

・今回は特に難しいことも書いてますが、流し読みでOKです。無理に理解、暗記しようとする必要はありません。

・桂枝茯苓丸では桃の種である桃仁トウニンと牡丹の皮である牡丹皮ボタンピが協同して作用し、血の道を通す。

・加えて芍薬も血に良いのだが、桃、牡丹、芍薬とやたら身近な植物が多い。

・桂枝茯苓丸は瘀血の生薬を集めただけの処方ではない。桂枝ケイシによって気を巡らせ、茯苓ブクリョウによって水を巡らせる。

・桂枝で気の巡りを良くすれば血の流れにも良い影響を及ぼし、茯苓は瘀血によって生じる水滞を改善する。

・気能血行、血載気行……つまり気は血を巡らせ、血は気を載せて巡っている、という相互関係がある。

・気は血を動かす推動作用と、漏れ出ないようにする固摂作用を持つ。

・血は全身に栄養と潤いを与える働きだけでなく、精神活動を支える働きもあるとされる。(鉄不足でイライラが生じるのが良い例かも)

・駆瘀血剤の代表とも言える桂枝茯苓丸だが、その名前が『気の桂枝』と『水の茯苓』から取られている辺り、血流だけに目を向けた単純な処方でないことがうかがえる。

・中医学的に、血ができるのには二ルートある。

・一つは、飲食物を消化して得られる水と気が合わさり、五臓の『心』が作用して作られるルート。ちなみに消化するのは『脾』とされるので脾も関係。このルート(心)は実際に行われている臓器と矛盾するので理解しづらいが、そもそも血と血液が少し違うので気にしてもしょうがない。

・物質としての血液は骨髄から作られるが、もう一つはこっちのルート。つまり骨からも血が生まれると考えられている。

・ただしこっちのルートの診療的には骨ではなく『腎』に注目する。腎が蓄えている精(腎精)は骨をつかさどり、髄は骨を満たしている。ゆえに『腎精は血を化成する』とも言われる。逆に血が精に変化して腎に補充されるため、『精血同源』という言葉もある。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ
恋愛
 塚森病院の事務員をする朱理は、心ない噂で心に傷を負って以来、メガネとマスクで顔を隠し、人目を避けるようにして一人、カルテ庫で書類整理をして過ごしていた。  ところがそんなある日、カルテ庫での昼寝を日課としていることから“眠り姫”と名付けた外科医・神野に眼鏡とマスクを奪われ、強引にキスをされてしまう。  それからも神野は頻繁にカルテ庫に来ては朱理とお茶をしたり、仕事のアドバイスをしてくれたりと関わりを深めだす……。  神野に惹かれることで、過去に受けた心の傷を徐々に忘れはじめていた朱理。  だが二人に思いもかけない事件が起きて――。 ※大人ドクターと真面目事務員の恋愛です🌟 ※R18シーン有 ※全話投稿予約済 ※2018.07.01 にLUNA文庫様より出版していた「眠りの森のドクターは堅物魔女を恋に堕とす」の改稿版です。 ※現在の版権は華藤りえにあります。 💕💕💕神野視点と結婚式を追加してます💕💕💕 ※イラスト:名残みちる(https://x.com/___NAGORI)様  デザイン:まお(https://x.com/MAO034626) 様 にお願いいたしました🌟

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...