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処方解説 麻黄湯

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【処方解説 麻黄湯】

 麻黄湯はインフルエンザでよく処方される漢方薬です。分類としては葛根湯と同じ解表薬かいひょうやくになります。

 作中でも紹介した通り抗ウイルス作用が確認されており、化学合成された西洋医学の抗ウイルス薬と比較しても遜色ない効果が期待できます。

 しかも薬価が安い、となると『インフル≒麻黄湯だ!』となる医師がいるのも納得できる話ですね。

 ただそんな臨床データを知らない患者さんたちからは、

「なんだよ、わざわざ受診したのに漢方かよ」

的なことを思われてしまうこともある、かわいそうな漢方です……

 効くんですよ?麻黄湯。

 そんなこんなで医療従事者からはインフルエンザとセットで捉えられがちな麻黄湯ですが、別にインフルエンザでなくても効きます。

 特に熱が高かったり、体の節々が痛むような風邪には効果的なので、重めのしんどい風邪に向いたパワフルな漢方、というイメージでしょうか。

 ただし虚弱な人やすでに汗をたくさんかいているような人が服用すると、過剰な発汗によって津液しんえき(体の正常な体液)を損ない、かえって消耗してしまうので注意が必要だと言われています。

 ちなみに前話で扱った葛根湯は麻黄湯と比べると発汗作用も強過ぎず、加えて津液を補う生薬も配合されているため、比較的そのようなことにはなりづらい構成になっています。やはり葛根湯は使いやすい薬だと言えるでしょう。

 とはいえ、インフルエンザのように高熱が出て節々が痛むような症例には麻黄湯の方が向いているのは確かです。

 やはり個々人に最も合う薬を選んでいけることこそ、漢方の真骨頂と言えるのではないでしょうか。


【麻黄剤】

 麻黄湯はその名の通り、麻黄を主薬とする漢方です。

 この麻黄という生薬はかなりの優れもので、発汗、解熱、鎮咳、利尿、鎮痛など多岐に渡る薬効を有しています。

 しかも他の生薬と組み合わせることで相乗効果を発揮し、桂皮ケイヒとなら発汗、杏仁キョウニン石膏セッコウとなら鎮咳、ジュツ薏苡仁ヨクイニンとなら利湿止痛が強化されると言われています。

 そんな単独プレイも連携プレイもできる優秀な麻黄君ですが、ちょっとヤンチャな一面もあって誰でも彼でも適しているというわけではありません。

 そのヤンチャ面とは『交感神経の刺激作用』です。

 これにより重度の高血圧、心臓病などの循環器系障害、高度の腎臓病、排尿障害、甲状腺機能亢進症の方などは慎重投与となります。該当する方は服用に当たって医師、薬剤師に相談した方がいいでしょう。

 また交感神経は『闘争と逃走の神経』なんて言われるくらいなので少々の興奮作用があり、スポーツではドーピング薬物に指定されているので注意が必要です。

 他には著しく胃腸虚弱な患者にも慎重投与とされています。

 ちなみにこの『慎重投与』とは書いて字の如くな意味ですが、臨床現場では慎重投与の薬もよく投与されているので『慎重投与=絶対に飲めない』ということではないのであしからず。

 このように効果も注意もはっきりしている麻黄なので、漢方業界には麻黄を配合した処方を指す『麻黄剤』という分類用語まであります。

 現場では例えば、

『麻黄剤だから効果は比較的はっきり出ると思うよ』

とか、

『麻黄剤だから漫然と長期に投与するのは良くないな』

とか話されます。

 漢方の構成生薬なんて本当に呪文のようなものですが、今後は麻黄が入った処方が出てきたら『おっ、麻黄剤だな』とご注目いただければと思います。
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