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43アトラス3
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(何あれ……誘ってるのかしら?)
私はただの壁を見つめながら、そんなことを考えた。
目の前にあるのは本当にただの壁だ。
真っ白で、模様すらない壁。
だから誘うも何もあったものではないのだが、私はそんなことを考えてしまったのだ。
(ダメだ……魔素が減りすぎてムラムラが極限状態になってる)
そのせいでただの壁にまで発情してしまった。かなりの重症だ。
私はアトラス様がいなくなってからずっとただ待っていたのだが、なかなか帰って来ない。
時計がないので正確には分からないが、二、三時間は経っていると思う。
それでいったん部屋を出ようと考えたのだが、どこを探しても扉がないのだ。
壁も床も天井もただのっぺりと平たいだけで、外に繋がりそうな所がない。
(だから壁を壊せないかと思って頑張ってみたんだけど……やめとけばよかった)
ガイドのメロウさんも言っていたが、この神殿の壁は本当に硬い。
ガルのゴッドバードや、スライムぷにぽよキャノンですら傷一つつかなかった。
もともと私の魔素はアトラス様との戦闘でかなり減っていたのだ。
そこからさらに消耗した私はもうどうしょうもないくらいムラムラになってしまった。
(仕方ない。ここはセルフケアで回復を……)
そう考えて、自分の体に手を伸ばす。
部屋にはリンちゃんもカリクローさんもいるが、二人ともまだ意識を取り戻していない。
心置きなく乱れて回復してやろうと思った時、目の前の空間が歪んだ。
そして消えた時と同じように忽然とアトラス様が現れる。
ただし消えた時はクラーケンと融合した姿だったが、今は元のお爺さんに戻っていた。
「ふう。お待たせしたのぉ、お嬢さん」
「アトラス様!」
私はいったん回復をあきらめて手を後ろに回した。
ムラムラは相変わらずひどいが、それどころではない。
「ど、どうでした?」
私はざっくりと尋ねた。
色々聞きたいことはあるわけだが、なんと言っていいものが悩む。
アトラス様もその質問で私の聞きたいことは分かっただろう。
ゆっくりとうなずき、それから口を開いた。
「久しぶりに生の実感を得ることができたように思う。お嬢さんの言う通り、生きる力になったのじゃろう」
そう言うアトラス様の顔はどこかツヤツヤしており、確かな満足があったことをうかがわせた。
「良かった!!じゃあ……」
「しかし、億単位の歳月はやはり長い」
喜ぶ私の言葉をアトラス様は逆説で遮った。
それから儚げに笑う。
「お陰さまでもう縁がないと思っていた『喜び』というものに出会えたがな。きっと、このままでもお嬢さんのおかげでワシの寿命は伸びると思う。じゃがそれにだってやはり限界はあるからのぉ」
「アトラス様……」
アトラス様が生きてきたのは人間の感覚では想像もできない、途方も無い時間だ。
だからその苦しみなど私に理解できるはずもない。
ただし、それでも私の答えは変わらなかった。
「でも……やっぱり私の手で世界を終わらせることはできません」
その結論は変わりようがないのだ。
そこでアトラス様の笑顔が少し変わった。先ほどまでと違い、明るい笑顔だ。
「実はな、お嬢さんがワシを殺しても世界は崩壊せんのじゃよ」
「……え?どういうことですか?」
ちょっと待て。それだと話がまるっきり違うぞ。
「さっきはお嬢さんに役目を忌避されるのを恐れて隠してしまったが、お嬢さんがワシを殺せばワシの役目はお嬢さんに引き継がれる」
「私に?私が世界のバランスを取るためのシステムを動かすんですか?」
「その通りじゃ。ワシが異世界から才能のある人間を喚んでおったのは、新しい神になってもらおうと思ったからなんじゃ」
「あ、新しい神!?私って、神様候補生なんですか!?」
あまりの重大発表に、私の声は裏返ってしまった。
(いやいや……こんな異世界に来ただけでも驚きなのに、神様になれと言われましても)
アトラス様は驚く私へさらに追い打ちをかけてきた。
「候補生どころか、お嬢さんはすでに神様としての資格と治めるべき自分の世界を得とるんじゃよ。新免の神様って感じかの」
「ええっ!?いつの間にそんなことに……自分では全く変化を感じないんですが。っていうか、そもそも神様って何?」
ある意味で哲学的な疑問な気がする。
しかしアトラス様は割と明確に答えてくれた。
「ワシみたいのを神だと定義するならば、神になる条件は大きく二つある。一つは自分の管理する世界を持っておること、もう一つはその資格を持っておることじゃ」
なるほど。確かにざっと考えるとそんな感じかもしれない。
「でも私、両方とも持ってませんけど」
アトラス様は私の腰あたりを指さした。
「そこに下げた格納筒、それがお嬢さんの世界へのゲートじゃ。お嬢さんが管理すべき世界に繋がっておる」
「こ、これってそんな重大アイテムだったんですか!?……いくらなんでも説明が足らなさ過ぎですよ」
「お嬢さんの言う通りじゃが、システム維持のためワシは自由に動ける時間が限られておる。勘弁してくれ」
(その割に今も無駄話が多かった気がするけど……)
私はそんなことを思ったものの、時間が惜しいのは確かなので先を急いだ。
「じゃあ、神様の資格は?」
「お嬢さんは多分、金色のでっかい果物をもいでそのエネルギーを体に受けたじゃろう?あれが資格じゃ。ゲートを所持した者があのエネルギーを受けると、正式にその世界の神様になる」
そういえば大木のダンジョンを攻略した時にそんなことがあった。
金のリンゴを切り落とすと、その光が体の中に入って来たのだ。
「あれにそんな意味が……」
「ワシはそういうゲートや資格を複数作り、この世界に撒いておる。そして異世界からの転生者がそれらに惹かれるよう仕向けておるんじゃよ」
なるほど、確かにどちらのダンジョンにも不思議と誘われている感じがした。
しかし、そのことについて私には疑問が残った。
「なんだか、すごくまどろっこしい事をしてる気がするんですけど……異世界に転生させた時にくれれば良くないですか?」
「そうしたいのは山々なんじゃがな。この世界の住人はワシも含め、今はなき最高神によっていくつかの制約を受けておる。特にこの世界を壊しかねないような直接的行動は取れなくなっとるんじゃ」
「この世界の住人は制約を……あっ、だから私みたいな異世界の人間を喚んだんですか?」
「ご明察じゃ。そういう間接的な行動なら取れるのでな。迷惑をかけて申し訳なかったが、まぁ神様になれたということで勘弁してくれ」
そのトレードオフはどうだろう?
神様になれるかどうかはこの異世界に来てからの運と実力次第だ。
しかも神様になったという私は今のところ何の恩恵も受けてない。
「でも神様になってるとか言われても、なんの変化も感じないんですけど……」
「この世界にいる間はそうじゃろうな。しかしお嬢さんの管理する世界に入れば色々変化を感じるじゃろう」
「どうやって入るんですか?」
「難しくはない。お嬢さんが普段使役モンスターを格納筒に入れる要領で、自分を入れればいい」
なんだそれ。そんな簡単にできるのか。
私は言われた通り、格納筒を自分に向けて自分を吸い込むように念じた。
すると、いつもは虹色に輝く格納筒が、黒く輝いた。
黒なのに輝くというのはおかしい気もするが、確かに光っていると感じるのだ。
私の体はその漆黒の光に包まれて、意識ごと格納筒に吸い込まれていった。
***************
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私は黒い光に吸い込まれながら、そんなことを考えていた。
その光の奥に、何かがあるのを感じる。それは不思議と安心感を覚える何かであって、そこへ誘われているような気がするのだ。
(何だろう、これ……まるでそこが私の家みたいに感じる……自分のいるべき場所がそこにあって、その場所も私を待っててくれているような……)
私はその感覚に誘われるがままに進み、そしてたどり着いた。
「ここは……?」
私はそうつぶやいたつもりだったが、その声が耳から聞こえない。まるで世界から音が消えてしまったかのようだ。
(なにこれ……どういう状況?何にも感じられないんだけど)
それは非常に不思議な感覚だった。
私という存在はここに在るのに、その体が感じるはずの全ての感覚がないのだ。
そして、周囲にも何も無い。
いや、そもそも『周囲』という概念自体が存在しないのだという事を私は悟った。
私たちは普段、三次元の空間で『あそこにあれがある』といった場所を知覚するわけだが、今私がいるこの環境はその三次元空間が存在していない。
(変な感じ……本当に何も無いんだ。いや、無いっていう概念すら無いんじゃないかな)
もはや普通に考えたら頭がこんがらがってしまいそうな感覚だが、私には不思議とそれが受け入れられた。
しかもなぜかこの状況をコントロールできる気がするのだ。
(もしかして、これが神様になるってことなのかな……)
そんなことを考えながら、私にはふと気がついたことがあった。
(私の中に……何かいる?……外じゃなくて、私の中に……)
私が気づいたそれらは、まるで暖かい陽光のような印象を受ける存在だった。
(これは……うちの子たちだ!!)
私は自分の中に、使役モンスターたちの存在を感じ取っていた。
はっきりと形があるものではないが、確かにその存在を感じるのだ。
そして、それが私のエネルギーになっているのが分かる。
今は空っぽのこの世界で、私の中に見つけたその存在たちだけが光を発しているように感じられた。
(ん?……うちの子じゃないのも混じってるかも……ワイバーンに……巨大ヤテベオ?……あっ、これ……今まで格納筒で吸ったモンスターたちだ!!)
私はその存在にも気がついた。
(つまり……格納筒で吸ったものが私の、そして新しい世界のエネルギーになるってこと?)
つまりは、そういう事なのだろう。
(そうか……私があの異世界でモンスターを隷属させたり、倒したモンスターを吸ったりすると、そのエネルギーが新しい世界のエネルギーになるってことか)
私はそのギミックに納得しつつ、また一つ重大なことに気がついた。
(……しまった!!元の世界に戻る方法を聞いてなかった)
これは大失敗だ。
ここが私の新世界だとしても、とりあえずは一度帰らねば。世界の危機がどうのという話になっていたわけだし。
(えっと……どうしよう……うーん……)
この世界ではすでに脳みそなど無いことを知りながら、無い脳みそを一生懸命稼働させようとした。
(格納筒に吸い込む感じで新世界に来られたんだから、召喚の要領で出られないかな?)
私はそう思い、召喚魔法を使う時のように自分で自分の名を念じた。
私はただの壁を見つめながら、そんなことを考えた。
目の前にあるのは本当にただの壁だ。
真っ白で、模様すらない壁。
だから誘うも何もあったものではないのだが、私はそんなことを考えてしまったのだ。
(ダメだ……魔素が減りすぎてムラムラが極限状態になってる)
そのせいでただの壁にまで発情してしまった。かなりの重症だ。
私はアトラス様がいなくなってからずっとただ待っていたのだが、なかなか帰って来ない。
時計がないので正確には分からないが、二、三時間は経っていると思う。
それでいったん部屋を出ようと考えたのだが、どこを探しても扉がないのだ。
壁も床も天井もただのっぺりと平たいだけで、外に繋がりそうな所がない。
(だから壁を壊せないかと思って頑張ってみたんだけど……やめとけばよかった)
ガイドのメロウさんも言っていたが、この神殿の壁は本当に硬い。
ガルのゴッドバードや、スライムぷにぽよキャノンですら傷一つつかなかった。
もともと私の魔素はアトラス様との戦闘でかなり減っていたのだ。
そこからさらに消耗した私はもうどうしょうもないくらいムラムラになってしまった。
(仕方ない。ここはセルフケアで回復を……)
そう考えて、自分の体に手を伸ばす。
部屋にはリンちゃんもカリクローさんもいるが、二人ともまだ意識を取り戻していない。
心置きなく乱れて回復してやろうと思った時、目の前の空間が歪んだ。
そして消えた時と同じように忽然とアトラス様が現れる。
ただし消えた時はクラーケンと融合した姿だったが、今は元のお爺さんに戻っていた。
「ふう。お待たせしたのぉ、お嬢さん」
「アトラス様!」
私はいったん回復をあきらめて手を後ろに回した。
ムラムラは相変わらずひどいが、それどころではない。
「ど、どうでした?」
私はざっくりと尋ねた。
色々聞きたいことはあるわけだが、なんと言っていいものが悩む。
アトラス様もその質問で私の聞きたいことは分かっただろう。
ゆっくりとうなずき、それから口を開いた。
「久しぶりに生の実感を得ることができたように思う。お嬢さんの言う通り、生きる力になったのじゃろう」
そう言うアトラス様の顔はどこかツヤツヤしており、確かな満足があったことをうかがわせた。
「良かった!!じゃあ……」
「しかし、億単位の歳月はやはり長い」
喜ぶ私の言葉をアトラス様は逆説で遮った。
それから儚げに笑う。
「お陰さまでもう縁がないと思っていた『喜び』というものに出会えたがな。きっと、このままでもお嬢さんのおかげでワシの寿命は伸びると思う。じゃがそれにだってやはり限界はあるからのぉ」
「アトラス様……」
アトラス様が生きてきたのは人間の感覚では想像もできない、途方も無い時間だ。
だからその苦しみなど私に理解できるはずもない。
ただし、それでも私の答えは変わらなかった。
「でも……やっぱり私の手で世界を終わらせることはできません」
その結論は変わりようがないのだ。
そこでアトラス様の笑顔が少し変わった。先ほどまでと違い、明るい笑顔だ。
「実はな、お嬢さんがワシを殺しても世界は崩壊せんのじゃよ」
「……え?どういうことですか?」
ちょっと待て。それだと話がまるっきり違うぞ。
「さっきはお嬢さんに役目を忌避されるのを恐れて隠してしまったが、お嬢さんがワシを殺せばワシの役目はお嬢さんに引き継がれる」
「私に?私が世界のバランスを取るためのシステムを動かすんですか?」
「その通りじゃ。ワシが異世界から才能のある人間を喚んでおったのは、新しい神になってもらおうと思ったからなんじゃ」
「あ、新しい神!?私って、神様候補生なんですか!?」
あまりの重大発表に、私の声は裏返ってしまった。
(いやいや……こんな異世界に来ただけでも驚きなのに、神様になれと言われましても)
アトラス様は驚く私へさらに追い打ちをかけてきた。
「候補生どころか、お嬢さんはすでに神様としての資格と治めるべき自分の世界を得とるんじゃよ。新免の神様って感じかの」
「ええっ!?いつの間にそんなことに……自分では全く変化を感じないんですが。っていうか、そもそも神様って何?」
ある意味で哲学的な疑問な気がする。
しかしアトラス様は割と明確に答えてくれた。
「ワシみたいのを神だと定義するならば、神になる条件は大きく二つある。一つは自分の管理する世界を持っておること、もう一つはその資格を持っておることじゃ」
なるほど。確かにざっと考えるとそんな感じかもしれない。
「でも私、両方とも持ってませんけど」
アトラス様は私の腰あたりを指さした。
「そこに下げた格納筒、それがお嬢さんの世界へのゲートじゃ。お嬢さんが管理すべき世界に繋がっておる」
「こ、これってそんな重大アイテムだったんですか!?……いくらなんでも説明が足らなさ過ぎですよ」
「お嬢さんの言う通りじゃが、システム維持のためワシは自由に動ける時間が限られておる。勘弁してくれ」
(その割に今も無駄話が多かった気がするけど……)
私はそんなことを思ったものの、時間が惜しいのは確かなので先を急いだ。
「じゃあ、神様の資格は?」
「お嬢さんは多分、金色のでっかい果物をもいでそのエネルギーを体に受けたじゃろう?あれが資格じゃ。ゲートを所持した者があのエネルギーを受けると、正式にその世界の神様になる」
そういえば大木のダンジョンを攻略した時にそんなことがあった。
金のリンゴを切り落とすと、その光が体の中に入って来たのだ。
「あれにそんな意味が……」
「ワシはそういうゲートや資格を複数作り、この世界に撒いておる。そして異世界からの転生者がそれらに惹かれるよう仕向けておるんじゃよ」
なるほど、確かにどちらのダンジョンにも不思議と誘われている感じがした。
しかし、そのことについて私には疑問が残った。
「なんだか、すごくまどろっこしい事をしてる気がするんですけど……異世界に転生させた時にくれれば良くないですか?」
「そうしたいのは山々なんじゃがな。この世界の住人はワシも含め、今はなき最高神によっていくつかの制約を受けておる。特にこの世界を壊しかねないような直接的行動は取れなくなっとるんじゃ」
「この世界の住人は制約を……あっ、だから私みたいな異世界の人間を喚んだんですか?」
「ご明察じゃ。そういう間接的な行動なら取れるのでな。迷惑をかけて申し訳なかったが、まぁ神様になれたということで勘弁してくれ」
そのトレードオフはどうだろう?
神様になれるかどうかはこの異世界に来てからの運と実力次第だ。
しかも神様になったという私は今のところ何の恩恵も受けてない。
「でも神様になってるとか言われても、なんの変化も感じないんですけど……」
「この世界にいる間はそうじゃろうな。しかしお嬢さんの管理する世界に入れば色々変化を感じるじゃろう」
「どうやって入るんですか?」
「難しくはない。お嬢さんが普段使役モンスターを格納筒に入れる要領で、自分を入れればいい」
なんだそれ。そんな簡単にできるのか。
私は言われた通り、格納筒を自分に向けて自分を吸い込むように念じた。
すると、いつもは虹色に輝く格納筒が、黒く輝いた。
黒なのに輝くというのはおかしい気もするが、確かに光っていると感じるのだ。
私の体はその漆黒の光に包まれて、意識ごと格納筒に吸い込まれていった。
***************
(何あれ……誘ってるのかしら?)
私は黒い光に吸い込まれながら、そんなことを考えていた。
その光の奥に、何かがあるのを感じる。それは不思議と安心感を覚える何かであって、そこへ誘われているような気がするのだ。
(何だろう、これ……まるでそこが私の家みたいに感じる……自分のいるべき場所がそこにあって、その場所も私を待っててくれているような……)
私はその感覚に誘われるがままに進み、そしてたどり着いた。
「ここは……?」
私はそうつぶやいたつもりだったが、その声が耳から聞こえない。まるで世界から音が消えてしまったかのようだ。
(なにこれ……どういう状況?何にも感じられないんだけど)
それは非常に不思議な感覚だった。
私という存在はここに在るのに、その体が感じるはずの全ての感覚がないのだ。
そして、周囲にも何も無い。
いや、そもそも『周囲』という概念自体が存在しないのだという事を私は悟った。
私たちは普段、三次元の空間で『あそこにあれがある』といった場所を知覚するわけだが、今私がいるこの環境はその三次元空間が存在していない。
(変な感じ……本当に何も無いんだ。いや、無いっていう概念すら無いんじゃないかな)
もはや普通に考えたら頭がこんがらがってしまいそうな感覚だが、私には不思議とそれが受け入れられた。
しかもなぜかこの状況をコントロールできる気がするのだ。
(もしかして、これが神様になるってことなのかな……)
そんなことを考えながら、私にはふと気がついたことがあった。
(私の中に……何かいる?……外じゃなくて、私の中に……)
私が気づいたそれらは、まるで暖かい陽光のような印象を受ける存在だった。
(これは……うちの子たちだ!!)
私は自分の中に、使役モンスターたちの存在を感じ取っていた。
はっきりと形があるものではないが、確かにその存在を感じるのだ。
そして、それが私のエネルギーになっているのが分かる。
今は空っぽのこの世界で、私の中に見つけたその存在たちだけが光を発しているように感じられた。
(ん?……うちの子じゃないのも混じってるかも……ワイバーンに……巨大ヤテベオ?……あっ、これ……今まで格納筒で吸ったモンスターたちだ!!)
私はその存在にも気がついた。
(つまり……格納筒で吸ったものが私の、そして新しい世界のエネルギーになるってこと?)
つまりは、そういう事なのだろう。
(そうか……私があの異世界でモンスターを隷属させたり、倒したモンスターを吸ったりすると、そのエネルギーが新しい世界のエネルギーになるってことか)
私はそのギミックに納得しつつ、また一つ重大なことに気がついた。
(……しまった!!元の世界に戻る方法を聞いてなかった)
これは大失敗だ。
ここが私の新世界だとしても、とりあえずは一度帰らねば。世界の危機がどうのという話になっていたわけだし。
(えっと……どうしよう……うーん……)
この世界ではすでに脳みそなど無いことを知りながら、無い脳みそを一生懸命稼働させようとした。
(格納筒に吸い込む感じで新世界に来られたんだから、召喚の要領で出られないかな?)
私はそう思い、召喚魔法を使う時のように自分で自分の名を念じた。
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