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40ダークエルフ1

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(何あれ……誘ってるのかしら?)

 私は彫刻のような美貌を包む褐色の肌を見て、そんなことを考えた。

 その色合いは何に例えればいいだろう。

 芳醇な香り漂うカフェモカか、幸福な甘味あふれるココアか、濃く入れた渋めのミルクティーもこんな色をしているかもしれない。

 総じて言えば、何かしら人の欲求を誘うような色をしている。それが人形のような美しさを覆っているのだから、人は見惚みとれるしかない。

 褐色の肌と絶世の美貌を兼ね備えたその姿は、もはやメスを誘っているとしか思えなかった。

「こちらが私の従兄弟いとこのデックです」

 と、そう紹介してくれたのはエルフの評議長、フレイさんだ。今日も耽美的な笑顔が素敵。

「デックだ」

 デックさんはを短い自己紹介を口にしながら手を差し出した。

 私はドキドキしながらその手を握る。

「召喚士のクウです。よろしくお願いします」

 私の手を握り返したデックさんは切れ長の目を細めた。その笑顔がまた蠱惑的で、私の心臓はいっそう高鳴った。

「よろしくお願いしたいのはこちらの方だよ。こんな面倒な依頼をよく受けてくれたものだと思う」

 デックさんは軽く頭を下げ、私に謝意を示してくれた。それに合わせて細い髪が揺れ、長く尖った耳を撫でる。

 フレイさんの従兄弟であるデックさんはエルフという種族だ。フレイさん同様、その容姿は超絶イケメンの一言に尽きる。

 ただし、二人の外見には大きな違いがあった。

 フレイさんの肌が透けるような白なのに対し、デックさんの肌は濃い褐色をしている。そのせいか、どことなくワイルドな魅力を醸し出していた。

(ダークエルフ……っていうんだよね。肌の色以外はエルフと違わない気もするけど)

 少なくともヒューマンの美的感覚でいうと、どちらの種族も非常に整った顔立ちをしていらっしゃる。実に羨ましい限りだ。

(う~ん……どっちもイイなぁ。フレイさんから紳士的にエスコートされるのもイイし、デックさんからちょっと強引に迫られるのもイイ)

 私は超絶イケメン二人を前に妄想を始めかけていたが、そうとは思わないデックさんは普通に会話を続けた。

「森に湧いた小さな虫モンスターを地道に潰していく仕事だ。相手の数は無数とも言えるほどだし、気の遠くなるような作業になるだろう。本当にやってもらえるのか?」

「ええ、ワイバーンロードを相手にするよりはよっぽど気楽ですし」

 私は横目でフレイさんに視線を送りがらそう答えた。

 フレイさんはそれを受けて苦笑してしまう。

 あの時はフレイさんとヴラド公の悪知恵で上位龍の討伐戦に参加させられたのだ。

「クウさんにはあの時も今回も感謝していますよ。本当にありがとうございます」

 その様子を見て、デックさんはまた笑った。

「やっぱり持つべきものは権力者の従兄弟だな。その紹介なら嫌な仕事でも引き受けてもらえるか」

「今回のはそれほど嫌でもないですけどね。私、地味なコツコツ系作業は好きですし、虫も別に苦手じゃないですから」

 フレイさんを悪者にするのも可愛そうなので、そう言ってフォローしてあげた。

 それに、今言ったことは別に嘘でもない。

(でも、確かに今回の依頼は多くの人が嫌がるやつなんだよね。虫相手のコツコツ系……)

 依頼された仕事の内容はそういったものだった。

 なんでもデックさんたちダークエルフの住む森で、森林害虫となるモンスターが大発生しているらしい。

 その駆除が依頼なわけだが、なかなか受けてくれる人がいなくて困っていた。

 というのも、この虫の駆除は魔法や薬剤散布でいっぺんにできるものではなく、地道に虫を一匹一匹殺していかなくてはならないらしいのだ。

 そういう地道な作業を嫌う人は多いし、そもそも虫が苦手だから無理という人も少なくない。

 さらに言うと、時間のかかる作業なので拘束期間が十日間と長く、その割に報酬は後払いで十万円だ。

 駆除対象の虫は一応モンスターなので危険もあることを考慮すると、低額と思われても仕方ないだろう。

 それで依頼を受ける人がいなくて困っていたデックさんが従兄弟のフレイさんに相談して、そこから私にお鉢が回ってきたというわけだ。

「それで拘束期間なんですけど、本当に三日間だけでいいんですよね?」

 私はデックさんにそう確認した。フレイさんとの交渉で、そういう話になっていたのだ。

「ああ、召喚士ならそれで十分だろう。複数のモンスターで同時に駆除を行えるわけだからな」

 こういう所は召喚士の強みだ。作業要員が多いため、コツコツ系の仕事には向いている。

 十日で十万円が三日で十万円になるのなら、まだ検討の余地があるだろう。

(フレイさん、初めはしれっと十日間で話を通そうとしてきたけど……イケメンとお金とは切り離して考えないと)

 それは女として生きていく上で、とても大切なポリシーだ。そこの線引きをしっかりしておかないと人生単位でつまづく事になりかねない。

 そんなある意味危険なイケメンたちは、腰が溶けてしまいそうな笑顔をこちらに向けてきた。

「クウさんがこの街で召喚士をやってくれていて、本当に助かりますよ」

「そうだな、優秀な人材がいることは街の資産だ」

 キラキラと光らんばかりの美貌で微笑まれた私は、ついだらしのない笑みを返してしまった。

 しかしそれでも、というか、だからこそ、このポリシーだけは今後も守らねばと思った。


***************


「こいつらが森林害虫モンスターの『バークビートル』だ」

「お、大きいんですね……」

 私は大木の麓に群がる甲虫たちを見て思わず頬を引きつらせた。

 正直なところ、ちょっと引いている。

 というのも、バークビートルの大きさが想像よりもかなり大きかったのだ。虫を潰していく仕事だと聞いていたのでコオロギ程度を想像していた。

 が、目の前にいる甲虫は軽く手の平大のサイズがある。それが一本の樹に何十匹も集まっていた。

 虫が苦手じゃない人でもこれは引いてしまうだろう。

「バークビートルはそれほど強いモンスターではないが、指を食い千切る程度の力はある。気をつけるんだぞ」

「は、はい……」

 私自身も使役モンスターに混じってプチプチ潰していくつもりだったが、それはやめておこう。

「こいつらは主に木を食べて栄養にするモンスターで、樹皮に穴を開けて中に潜り込む。その中に卵も産むんだ」

「こんなのに穴を開けられたら樹はひとたまりもありませんよね。せっかくの立派な森なのに……」

 私は周囲の森を見回した。

 私たちが今いるのは、デックさんたちダークエルフが住む村にほど近い森の中だ。

 と言っても、ダークエルフの村は森とほとんど同化しているから、どこまでが森でどこまでが村かが判然としない。

 住居の多くはツリーハウスであり、大木に寄り添うようにして作られている。プティアの街と違って防壁もないので、ここも村だと言われれば村な気もする。

 ちなみに森の中には普通にモンスターもいるのだが、エルフの村周辺にはめったに現れない。

「エルフやダークエルフは植物魔法が得意で、木にモンスターよけの結界を張れるんだ。だからこんな森の中でも村を作れるし、ほとんどの建物が木に接してるのはそういう理由だ」

 私が村に着いた時、デックさんがそう説明してくれていた。

 私はメルヘンなツリーハウスにただただテンションを上げるばかりだったが、何事にも理由はあるものだ。ほとんどのモンスターは結界魔法を嫌って近寄らないらしい。

 ただし物事には多くの場合、例外がある。それが私たちの目の前にいるバークビートルだ。

「こいつらにも結界魔法が効かないわけではないが、効果が薄くてそれほど嫌がらないんだ。それに結界を張れる木の本数には限りがあるからな。俺たちは森の恵みで生きているわけだし、村は無事でも周辺の森を荒らされるだけでも大問題だ」

 にもかかわらず、ここの所バークビートルが大発生している。それで駆除の依頼を出したということだ。

 ただ、ダークエルフの村はほとんどのものを自給自足で賄っているらしく、そのせいで現金収入が少ない。

 それで低額の報酬しか用意できなかったという話だった。

(あの素敵なツリーハウスの村を守るために、頑張らなくちゃ)

 私は気合を入れ直して自分の仕事に集中した。

「皆、出ておいで」

 手持ちのモンスターたちを全て一度に召喚した。ガルーダのガルまで喚び出したので、大きな疲労感が私を襲う。

 すぐに魔素の補充薬を飲んで回復した。

「んくっ……んくっ……んくっ……ふぅ。それじゃ皆でこの虫モンスターを倒していって欲しいんだけど、手分けして……」

 と、私がそこまで言ったところでガルが食い気味に動き出した。

 バークビートルが群がる樹の根元にくちばしを突っ込み、高速でついばみ始める。

「ちょっ……ガル?……え?……お、美味しいの?あぁ、そっか。鳥は虫を餌にすることも多いもんね」

 ガルからの念話で、そういう満足げな感情が伝わってきた。

 ガルは燃費が悪いから今回は使うまいかと悩んでいたが、本人が喜んでるならまぁいいだろう。

 っていうか、これなら勝手に食べてくれるから使役しなくてもいいな。後で解除しておこう。

「他の子たちもバークビートルをやっつけられるかな?樹は傷つけない方がいいから、熱攻撃とかは無しにしてね」

 私の指示通り、他の使役モンスターたちも潰すなり、刺すなり、斬るなり、噛むなりしてバークビートルを倒していく。

 唯一、ワイバーンロードのローだけは小さすぎてバークビートルといい勝負してるけど。

 それでもこちらの数は多いし、何よりガルが超やる気なので樹一本のバークビートルはすぐに駆除できた。

「速いな……」

 デックさんはその速度に驚いているようだった。

 それはそうだろう。人間が地道にやったんじゃ、十人がかりでもこの速さは無理だ。

 それに、召喚状態だと痛みを感じないし死ぬこともない。この駆除で一番怖いのは、大量のバークビートルに群がられて一斉に反撃を食らうことだ。

 それを怖がらなくていいというのは大きいだろう。

 デックさんは木の周りをぐるっと一周して、その状態をチェックした。

「……これくらいなら放置しておいても回復するだろうな。このままでいいだろう」

「あんまり穴が空いてませんもんね」

「穴自体も問題だが、病気が特に問題なんだ」

「病気?」

「そうだ。バークビートルは体に『ナラ菌』という菌を保持しているんだが、それに感染した木は水分の通る道管が詰まって死に至る。いわゆる『ナラ枯れ』というやつだな。それが厄介なんだ」

「ナラ枯れ?……私の故郷でも聞いたことがあるような……」

 なんかテレビの環境問題特集とかでそんな話を聞いたような気もする。

 ナラ枯れでかなりの面積の森林が被害を受けてるとかなんとか……確か、キクイムシとかいう虫が原因なんだっけ。

「クウの故郷でもそうか。この森でも過去に大被害を受けたことがあるんだ。バークビートルにとっては死んだ木の方が食べ物として適しているから、そういう菌と共生して枯らすという説もあるな」

 なるほど。生き物というものは本当によくできている。

 デックさんは視線を木から使役モンスターたちへと移した。

「それにしても……大したものだ。このスピードなら想定以上の数を駆除できそうだな。予定通り、手分けしての作業を頼めるか?」

「分かりました。それじゃ、レッド以外は森の中にバラけてくれるかな。各自でバークビートルを探して駆除。レッドは私と一緒にいてね」

 指示に従い、レッドスライムのレッド以外は散って行った。レッドには護衛として私に同行してもらうことにする。

 私とデックさんは森の中を移動しながら他の木をチェックしていった。

 しばらく歩いてから、デックさんが一本の大木の前で足を止めた。

「……この木はもう完全に駄目だな。伐り倒すしかない。軽ければ薬剤散布や植物魔法で回復させられるが、ここまで完全にやられてはどうしようもない」

 デックさんの言う通り、その木の葉は完全に茶色になっていた。幹にはいくつもの穴が空いている。

「こんな大きな木なのに、もったいないですね……」

 この木がここまで育つには相当な歳月が必要だったろう。そう思うと、私はなんだか悲しい気持ちになった。

 デックさんも私の言葉にうなずく。

「そうだな。こんな木を少しでも減らすためにしっかり駆除していこう。ただ……このサイズになると伐り倒すのも一苦労だな。流石にスライム一匹じゃ無理だろうから、他の使役モンスターもいったんここに集めてもらっていいか?」

「あ、それならレッドだけでも大丈夫ですよ。折って倒しても構いませんよね」

「……なに?……で、出来るなら構わないが……」

 許可をもらった私は早速レッドに魔素を込めた。

 そして強めのアタックを命じる。

「レッド、へし折っちゃって!!」

 私の命令を受けたレッドは地面に一度たわみ、勢いをつけて木にぶつかった。

 轟音が鳴り響き、大木がレッドのぶつかった部位からミシミシと音を立てて倒れる。

 その折れた断面に、多数のバークビートルがいるのが見て取れた。

「レッド、連続アタック!!今度は燃やしてもいいよ!!」

 レッドは火炎のローションで炎をまとい、バークビートルたちへと突っ込んでいく。

 あるものは潰され、あるものは焼かれ、バークビートルたちは絶命していった。

 飛び立って逃げようとしたのもいたが、その瞬間にレッドの起こす熱で羽根を焼かれて落ちる。

 それをレッドは容赦なく潰していった。

「よーし。後は火事にならないように、木の燃えてる部分を潰しておいて」

 レッドは私のイメージ通り、火のついた部分を崩して鎮火まで終わらせてくれた。

 なんならブルーを呼んで消そうかとも思ったが、その必要もなさそうだ。

「こんな感じでいいですか?っていうか、確認を取らずにちょっと燃やしちゃったんですけど良かったですかね?」

 私がそう尋ねながら振り向くと、デックさんは口を半開きにさせたまま黒焦げになった木を見つめていた。

「デックさん?」

「あ、ああ……どっちにしろ枯れてる木だから構わないが……まさかスライムが一撃でこの大木をへし折るとは」

 どうやらレッドのパワーに驚いたらしい。

 うちのレッドは超巨大ヤテベオまてへし折ってるくらいだから、大木とはいえ普通の木なら楽勝だ。

 私は折れた木に近づいてその表面を触った。

「木の中までボロボロになってる。かわいそう……」

 と、私が崩れた塊を持ち上げた時、デックさんが鋭い声を上げた。

「待てっ、そこには多分……」

「え?」

 デックさんは早口で注意してくれたのだが、少し遅かった。私の手は止まらず、その部分を完全に持ち上げてしまった。

「……キャアッ」

 私は思わず短い悲鳴を上げた。

 そこから多数の物体が飛び跳ねて来て、私の体のあちこちにぶつかってきたからだ。

(しまった!まだ中にたくさんいた!)

 私は急いで全身に魔素を込め、その強度を上げた。このままだと体中を食いちぎられる。

 が、なぜかどこにも痛みを感じなかった。それどころか、甲虫であるバークビートルがぶつかったはずなのに硬いものが当たった感触すらもない。

 むしろ、なにかプニプニして柔らかい感じがする。

(……あれ?)

 私は冷静になって自分の体を見下ろし、その理由を理解した。

 出てきたのは甲虫モンスターではなく、芋虫のような幼虫モンスターだったのだ。

 拳くらいの大きさの幼虫が、私の体中にくっついている。

「……キャアァアア!!」

 私は再び悲鳴を上げた。いくら虫が苦手ではないと言っても、これはさすがに鳥肌が立つ。

 そんな私とは対照的に、デックさんは可笑しそうに笑っていた。

「あー……やっぱりいたか。それがバークビートルの幼虫なんだが、幼虫は人畜無害だから心配いらないぞ。むしろそいつは食用にもなる、森の珍味だ」

 珍味?これ食べられるの?

 そういえば元の世界でも蜂の子を食べる地域があったな。

 でも、さすがにこのビジュアルのものを口にするのはかなり抵抗がある。

 っていうか蜂の子を食べられる人でも、拳サイズの生きた幼虫が体中にくっついてたら鳥肌マックスでしょ。

「いや、無害って言われても……え?ちょっ……ふ、服の中に入ってくるんですけど!?」

「そいつらは狭いところが大好きだからな。服でもなんでも潜り込んでくる習性があるぞ」

「いやああぁああ!!」

 幼虫たちが私のシャツやスカートの中にまで侵入してきた。

 プニプニの巨大芋虫たちが服の中でモゾモゾしているのだ。私の背筋はゾゾゾっと震えた。



「で、出てって!出てってって!!」

 私は必死になって体中の幼虫を掴んでは投げた。掴んだ時の柔らかい感触もなんだか気味が悪い。

「ちょっ……下着の中はやめて!そ、そんなトコ……!」

「あっはっは」

 害がないからだと分かっているからだろうが、デックさんは相変わらず笑っていた。

 しかし一方の私はパニックだ。

 頑張って幼虫たちを服から出したが、一匹だけやたら素早いのがいてなかなか捕まらない。

 背中に回って手が届かなくなったので、後ろにいるデックさんにお願いした。

「デックさん取って!!」

「なに?いや……女性の服に手を突っ込んで取るのはちょっと……」

「いいから早く!!お願いします!!」

「……やれやれ、仕方ないな」

 デックさんは私の勢いに押されるようにしてしゃがんだ。そして腰のところからシャツに腕を入れて、幼虫へと手を伸ばす。

 が、やはりこの個体はやたらと素早い。

 芋虫みたいな動き方をするくせに、私の服の中を縦横無尽に動き回ってデックさんの手を逃れた。

「むっ……こいつめ、ちょこまかと……待て、待て!」

 なかなか捕まらないものだから、デックさんもだんだんとムキになってきた。

 初めは遠慮がちに腕を入れていたのだが、気づけば服の中をかき回すようにして幼虫を追っている。

 そこでふと、冷静になった私は気づいてしまった。

(私いま……超絶イケメンに体をまさぐられてる……)

 その事実に気がつくと、不思議なことに虫の這い回るゾゾゾという不快感が、快感による背筋ゾクゾクへと変わってしまった。

 めっちゃドキドキする。

「……あんっ……はぁっ……ふぅんっ」

「くそっ、こっちか!!」

 私は熱い吐息を漏らしてしまったが、虫追いに熱中してしまったデックさんには聞こえていないようだった。

(も、もうちょっとこのままでいようかな……)

 そう考えた私は、幼虫が捕まりそうになると微妙に体をくねらせてそれを阻止した。

 幼虫は服の中を移動して前にまで来ている。

 デックさんはすでに両腕を突っ込んでおり、後ろから私を抱きしめるようにして虫の位置を探った。

 傍から見れば、完全にいたし始めちゃってるカップルだ。

(む、虫と間違えて色んなところを触られちゃってる……)

 あちこちをまさぐられた私は、イケメンタッチにゾクゾク感じまくった。

 徐々に高まるその快感は、次第に最高潮へと近づいていく。そしてついには昇天に達してしまった。

「…………っ!!」

 私が必死に声を抑えて痙攣している時、デックさんの手はようやく幼虫に届いた。

「捕まえた!!……ん?おい、大丈夫か?」

「ハァ……ハァ……だ、大丈夫です……ちょっと……虫の気持ち悪さに疲れちゃっただけですから……」

 グッタリと地面にへたり込む私をデックさんが心配してくれた。

 本当は気持ち悪いどころか超気持ち良かったのだが、それはナイショにしておかねば。

「こ、これからは気をつけます……」

「そうだな。羽化前の幼虫には害があるわけではないが、毎回こうも疲れていると駆除が滞る。幼虫の駆除は後で村の人間にやってもらうから、回復したら次へ行こう」

(おかげさまで魔素は全回復してるんですけどね)

 そうは思ったものの、いきなりピンピン動き出すのも怪しいだろう。

 私は少し休んでからまた働き始めることにした。
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