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25ギルタブルル1

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(何あれ……誘ってるのかしら?)

 私は頬につけられた一筋の傷痕を見て、そんなことを考えた。

 店に入ってきた精悍な顔つきの男性は、ひと目で歴戦の猛者だということがよく分かる。

 頬の傷痕もそうだし、眼光鋭い切れ長の瞳も一般人のそれではなかった。姿全体に、これまで戦いの中で生きてきた人間特有の厳しさが浮かんでいる。

 そして何より目を引くのは、腰から伸びた太いサソリの尾だ。

 その先端の針は死を思わせるほどの深い漆黒だった。刺されればただでは済まないだろう。

 恐ろしいが、強くて危険な香りの魅力がある。それはもはや、メスを誘っているとしか思えなかった。

「召喚士のクウというのはお前か?」

 その人はまっすぐにこちらへ歩いて来てそう尋ねた。

 私がアステリオスさんのお店で食後のミルクを楽しんでいる時のことだ。

 普段なら至福のリラックスタイムなのだが、今はでっかいサソリの尾を立てた人に話しかけられているのでリラックスはできそうもない。

 いくらその男性がワイルドイケメンであるとはいえ、さすがに心の中で身構えた。

「は、はい。そうですけど……」

 私は改めてその人の姿を上から下まで見た。

 やはり目を引くのはサソリの尾をだが、それ以外にもヒューマンと異なる点がある。

 足が鳥の足だった。鉤爪の部分に革製のカバーを履いているが、おそらく床を傷つけないための靴のようなものなのだろう。

 人の体に鳥の足、サソリの尾を生やした種族なようだ。

「催眠耐性のあるモンスターを使役していると聞いた。そうなのか?」

 催眠耐性?

 正直よく分からないが、多分そんな子はいなかったと思う。

「えーっと……」

 私が首を傾げているところへ、アステリオスさんが声をかけてきた。

「多分ハンズの事じゃないか?スライムの方のな」

「え?スケさんってそんな能力があるんですか?」

 私は格納筒をポンポンと叩いてスケさんを出した。スライムの右腕がテーブルの上にちょこんと立つ。

「この子、今まで催眠なんてかけられたことないと思いますけど……」

 いまだによく話が掴めない私に、アステリオスさんが補足してくれた。

「多分だが、話がごちゃごちゃになってるな。前にお前が魅了魔法をかけられた時、そいつが平手打ちを食らわせて魔法を解いたって話をしてただろう?それに尾ひれがついたんじゃねぇか?」

「あぁ、そういえば」

 言われてみれば、確かにそんな事があった。

 ヴァンパイアのヴラド公に初めて会った時、出会い頭にいきなり魅了の魔法をかけられたのだ。

 確かにその時はスケさんが私の指示なしで動いて助けてくれた。

「ごめんなさい。そういうわけなので……」

 おそらく仕事の依頼だったのだろうが、力になれそうもない。断るしかないだろう。

 しかし、その人は事情を聞いても首を横に振った。

「いや。確認だが、そのハンズはお前が催眠状態で指示が出せないにも関わらず、自律してお前の目を覚まさせたということだな?」

「そうです」

「なら十分だ。仕事を手伝って欲しい。俺の名はオブトという。ギルタブルルのオブトだ」

 ギルタブルル。

 初めて聞く名前の種族だったが、どうやらサソリの尾と鳥の足を持った種族らしい。

 オブトさんはこちらへ右手を差し出し、握手を求めてきた。

 手には頬と同じようにいくつもの傷痕が見える。

 私はそれを握り返しながら、この人の戦士としての半生をぼんやりと夢想した。

「依頼は紅孔雀べにくじゃくの群れの討伐だ。と言っても、討伐自体は俺がやる。そのサポートを頼みたい」

 オブトさんはテーブルの向かいに座ってからすぐに本題を切り出した。

 ただ、私には紅孔雀というモンスターが分からない。

「紅孔雀……」

 私はつぶやきながら、そばに立ったアステリオスさんの方をちらりと見た。

 気の利く店主はすぐに教えてくれる。

「紅孔雀は大型の鳥モンスターだ。デカくて赤い孔雀だと思えばいい。クチバシの一撃が強力だが、特殊な羽根の模様を見せて催眠魔法をかけてくることもある」

「催眠魔法、ですか。それでさっきの話に……」

「いや、紅孔雀の催眠魔法はそれほど強力じゃない。来ると分かっていれば、気を強く持つだけでも防げる。それにオブトはバリバリの武闘派だ。紅孔雀はそれなりに強いが、サポートを頼まんといかんほどの敵じゃないだろう」

 アステリオスさんは腕を組み、座ったオブトさんを見下ろした。

 何があった?どんな事情だ?

 口にはしなかったが、そう問いかけているのは私にも分かった。

 オブトさんはそちらを見ずに片手だけ上げて答えた。

「……黒孔雀が出た。しかも俺のせいだ」

 それだけ言い、苦い顔をしてそのまま黙った。

 言われたアステリオスさんはというと、こちらもほぼ同じような顔をして黙ってしまった。

 急に二人ともに黙られても、事情の分からない私としては困る。

 紅孔雀と黒孔雀はどう違うのだろうか。

「えっと……黒孔雀ってそんなに強いモンスターなんですか?」

 アステリオスさんはため息をついてから答えてくれた。

「……強いというか、厄介なんだよ。黒孔雀は紅孔雀が種々の要因で変異した個体だが、催眠魔法と知能が大幅に強化される」

「催眠魔法と知能……」

「そうだ。特に強い個体はそれを駆使して他のモンスターを操り、大軍団を作って街を侵攻してくることすらある。実際に何年か前にプティアの街も襲われた」

 モンスターの大軍団に街が襲われる。私はそれを想像して血の気が引いた。

「そ、それは大事おおごとですね」

「大事だし、大仕事だった。街中の戦える奴らが総出で防いだな」

 なるほど、それでアステリオスさんも嫌そうな顔をしているわけだ。よほど大変だったのだろう。

 アステリオスさんはその表情のままオブトさんに尋ねた。

「しかし、お前のせいってのはどういうことだ?」

 オブトさんは頬の傷痕を指先で掻きながら答えた。

「以前に仕留め損なった紅孔雀がいてな。尾の毒針を打ち込んだんだが、その時は複数のモンスターに囲まれていて十分な量の毒を注入できなかった。それでもいったんは倒れてたから安心してたんだが、次に気づいた時には森の奥へと逃げていく所だった。その後ろ姿が一部黒く変色してたんだ。俺が毒を打ち込んだ部位だ」

「変色……そりゃ毒のせいじゃないのか?」

「いや。皮膚だけならまだしも、羽根まで黒くなっていたからな。黒孔雀への変異要件は個体によって異なるらしいが、そいつの場合はおそらく俺の毒に耐えたことが刺激になったんじゃないかと思う」

「まぁ、そういうケースもあるかもしれんが……」

「それからしばらくして、黒孔雀に隊商が襲われたという情報が入った。というか、ついさっきそういう話を聞いてな。すぐにでもその現場へ向かうつもりだ」

「なるほどな。それで催眠に対する保険だけかけようと思ってクウに声をかけたわけか」

「そうだ」

 二人の会話で私も大体の事情は把握できた。

 しかし、このお仕事にはかなりの不安を感じる。

「あの……大軍団を作るようなモンスター相手に私たちだけで大丈夫でしょうか?」

「俺が聞いた情報だと、その黒孔雀は十体ほどの紅孔雀を率いていただけだったらしい。黒孔雀が危険だといっても、弱い個体・進化したての個体は実際そんなものだ。今ならまだ驚異ではない」

 オブトさんの意見にアステリオスさんも同意した。

「そうだな、確かに早い方がいい。クウが嫌じゃなけりゃ行ってやれ。催眠にかかったら平手打ちしてくれる使役モンスターがいるのは確かにプラスだし、ハンズなら目がないから黒孔雀の催眠魔法も効かないだろう。確かにお前が適任だ」

 そうか、羽根の模様を見せて催眠をかけるって言ってたな。

 うちのスケさんカクさんには効かないわけだ。それは頼もしい。

「分かりました。お手伝いさせてもらいます」

「すまない。恩に着る」

 オブトさんは目を伏せて謝意を表した。その肩にアステリオスさんが手を置く。

「無理はするなよ。俺も念のため役所に兵を出すよう言っておく。黒孔雀案件なら役所も重い腰を上げるだろう。まぁ、お前なら心配要らんだろうが……」

 アステリオスさんはそこまで言ってから、ニヤリと口の端を吊り上げて言葉を足した。

「もしかしたら孔雀相手じゃあ、お前のサソリとヘビが怯えて縮こまっちまうかもしれないしな」

「ふん、孔雀ごときで縮こまるか」

 オブトさんは鼻を鳴らして応じ、アステリオスさんは声を上げて笑った。

 しかし、最後の方は私にはよく分からない話だ。

 孔雀相手に怯える?

 サソリはともかく、ヘビ?

 首を傾げる私に気づいたアステリオスさんが教えてくれた。

「孔雀ってのは、サソリやヘビを餌にするんだよ。そういった毒持ちのやつを襲うから、縁起のいい益鳥として飼われることも多い」

「へぇ、知りませんでした。綺麗なだけじゃないんですね。じゃあ、紅孔雀も毒に対する抵抗力があったからオブトさんの毒に耐えたんでしょうか?」

「いや、だからといって毒に強いと証明されているわけじゃないらしい。孔雀も毒ヘビに噛まれたら普通に死ぬしな」

「ヘビ……」

 サソリやヘビが孔雀を恐れる理由は分かったが、なぜヘビの話が今出てきたのかは分からなかった。

 オブトさんはサソリの尻尾と鳥の足を持っているが、どこにもヘビらしきパーツは見当たらない。

 まだ不思議そうな顔をする私を見て、アステリオスさんはニヤリと口の端を吊り上げた。

「ギルタブルルって種族は尾がサソリ、足が鳥、そして男の股間にぶら下がってるアレがヘビなんだよ」

「ア、アレがヘビ!?」

 私は思わず声を裏返した。

(どどど、どういうこと?あれがヘビでできているってことは、ヘビがお股にぶら下がってるわけ?ってことは、めっちゃ長いの?それに……使う時にはヘビが出たり入ったり出たり入ったり?)

 私の頭には七色の妄想があふれてパンクしそうになった。あまりの衝撃に脳がショートしてしまう。

 ごちゃごちゃになったカラフルな思考の中で、ただ一つだけ確かだと思うこともあった。

(……先っぽは亀の頭じゃなくて、蛇の頭って単語になるんだろうな)



****************


「さ……さぁ来い……俺の毒で……即死させてやる……」

「……あの、すごく震えてますけど大丈夫ですか?」

 私は残像が見えるほどの激しい震え方をしたオブトさんを見て、思わず気づかいの声をかけた。

「む、武者震いだ……」

 オブトさんは声まで震わせてそう答えたが、どう見ても恐怖に怯える生物の震え方だ。

 つい先ほどまで全く普通だったのに、紅孔雀を前にした途端オブトさんは弱々しい小動物のようになった。

 普段は完全に猛者っぽい雰囲気を醸し出しているのでギャップがすごい。

「あの……なんだったら私が倒しますけど」

 私はすでにスライムハンズのスケさんとドラゴンハンズのカクさんを召喚している。

 紅孔雀は初見のモンスターだが、特にカクさんは強いのでやれそうな気がした。

「いや!!……クウに依頼したのはあくまでサポートだ。俺がやる」

 オブトさんは震える足で紅孔雀へ向かって行った。

 小声で、

「逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ……」

って言ってるのが聞こえてくる。なんだかすごく可愛そうに見えた。

 目の前にいる紅孔雀は三体だ。

 隊商が襲われたという場所に私たちが着くと、この三体だけが残って荷を漁っていた。

 すでにかなり荒らされていたので、他のモンスターたちは満足してもう去ったのだろう。

 紅孔雀の一体がオブトさんへ駆けて来た。そしてその勢いのままにクチバシで突きかかる。

 紅孔雀はゆうに二メートルを超える大きさで、孔雀というよりもダチョウのようなサイズ感だ。

 その巨体から振り下ろされるクチバシはかなりの威力であることが想像された。

 しかし、そのクチバシはオブトさんに届く前に力を失って地に落ちた。

 クチバシよりも段違いに速いスピードで、サソリの尾針が紅孔雀の首を刺したのだ。

(速い!っていうか、全然見えなかった……それに、毒ってあんなにすぐに効くんだ)

 私はその一撃に驚愕した。

 この速度で効果が出るということは、おそらく普通の毒ではない。魔素の込められた毒魔法なのだろう。

 倒れた紅孔雀の左右から、残り二体が襲いかかってきた。やはりクチバシで突きかかってくる。

 オブトさんは右から来る一撃を身を反らしてかわしつつ、左の一体に向かって足を振り上げた。

 ギルタブルルの足は鋭い鉤爪のついた鳥足だ。紅孔雀の顔はザックリと切り裂かれた。

 オブトさんはその足でさらに頭を掴み、体重をかけて地面に叩きつけた。

 そしてその時にはもう一体の胸に毒針を突き刺している。

 三体の紅孔雀はほんの数瞬で絶命させられた。

 震えているのを見た時にはどうなるものかと思ったが、さすがはアステリオスさんが『バリバリの武闘派』と太鼓判を押すだけのことはある。

「す、すごいですね……」

 私はあまりにハイレベルな戦いに、それだけ言うのがやっとだった。

「まぁ、こんなものだ」

 ようやく震えの止まったオブトさんは、また猛者っぽい雰囲気を取り戻して短く答えた。

 それから荒らされた荷のそばにしゃがみ込んで、周囲につけられた足跡を確認した。

「残りの連中もまだそう遠くには行っていないだろう。追うぞ」

 言うが早いか、オブトさんは地面を見ながらすぐに歩き出した。

 迷わず森の中に入っていく。討伐経験が豊富なようなので、きっと追跡技術も並ではないのだろう。

 私はその背中を追いながら尋ねてみた。

「あれだけ強いのに、やっぱり孔雀は苦手なんですか?」

 オブトさんはギクリと足を止めたものの、またすぐに歩き出した。

 振り向かずとも苦い顔をしているのが分かる。

(嫌なこと聞いちゃったかな)

 そうは思ったが、先ほどのオブトさんは明らかにおかしい。

 いくら強いとはいえ、正常な判断力が失われていては危険だ。確認はしておいた方がいいだろう。

 オブトさんは肩越しに振り返って苦笑いを見せた。

「……アステリオスには強がって見せたがな。孔雀を前にすると、どうしても腰回りから震えが来るんだよ」

 それはつまり、サソリとヘビの部分が反応しているということだろう。

 生物としての本能はどうしようもない気がする。

(でも……それなのに自分から黒孔雀の討伐に来てるんだからすごいよね)

 そう考えると、本当に責任感の強い人なんだということがよく分かる。

 オブトさんは木々の隙間から空を見上げた。

 木漏れ日の向こうは透き通るような青空だった。

「……だが考えてもみたら、俺も駆け出しの頃は孔雀が相手じゃなくてもさっきみたいに震えてたな。本当に弱かったし、いつも怖くて仕方ないのを我慢して戦ってた」

「そうなんですか?」

 私には意外な話だった。

 これほど強いオブトさんが弱かった姿を想像できない。

「あぁ、俺は毒も弱かったしな」

「えっ?そんなに太いサソリの尻尾があるのに?」

「サソリの毒ってのヤバげなイメージを持たれがちだが、実はそのほとんどが致死的なものじゃないんだよ。そんなのは二、三パーセントくらいだな」

 それはまた意外な話だ。

 サソリといえば刺されれば死ぬくらいに思っていたが、そうでもないことが多いのか。

「そもそも昆虫を捕食するために使うのが主な毒だからな。俺の毒もモンスターを倒せるようなレベルじゃなかったが、鍛えて強くしたんだ。ヒューマンには感覚的に分かりづらいだろうが、ギルタブルルにはそんな事もできる。そして込める魔素を調節しながら今の強さに至った。今でも常に改良中だがな」

 なるほど、猛者も初めから猛者だったわけではないという事だ。

「でも……そんなに怖かったんならなんでこんな仕事をしてるんですか?」

 私の質問に、オブトさんは背中を見せたまま軽く手を上げて答えてくれた。

「つまらない話だ。惚れた女が、強い男が好きだと言った。だから強くなろうとした。それだけだよ」

(何それステキ!!)

 全然つまらなくなんてない。

 私はぜひこの話を掘り下げたくなった。

「その女性とはどうなったんですか?オブトさん、もう十分強い男ですよね?」

「どうもなってないよ。その女は強くもなんともない、普通に優しい男と結婚した。だからつまらない話だと言ったろう?」

 そうなのか。

 なんだか残念な気もするが、現実ってそんなものなのかも知れない。

 掘り下げようにも、すぐに話が尽きてしまった。

 しかし、オブトさんの方はなぜか笑っているのが背中越しに伝わってきた。

「……そういえばあの頃、怖かったら女のことを考えて気持ちを奮わせていたな。あの気持ちを思い出してみたら、多少は震えも止まるかもしれん」

 オブトさんがそう言った所で、不思議な甘い匂いか漂ってきた。

 その匂いが強くなるにつれて、私たちの足元に綺麗な赤い花が増えてきた。

「この匂い……花の匂いですか?あっ、踏むと靴が真っ赤になっちゃう」

「そうだ。染料にも使われる花だから濃い色が付くが、今日中に洗えば水で落ちるから心配するな。それより、この花が咲いている場所には紅孔雀が多いと言われている。近いかもしれんぞ」

 そういえば花の赤は紅孔雀の色とよく似ている気がする。

 保護色になるから好まれるのかもしれない。

「はい、注意します」

 オブトさんの警告に私は気を引き締めた。

 オブトさんが強いのはよく分かったが、黒孔雀がどの程度のものなのかはまだ分からない。

「基本的なことを確認しておくぞ。もしモンスターの中に黒いものが見えたらすぐに目を逸らせ。どうしてもそこを見ないといけない状況でも直視はせず、足元を見るかせめて焦点をぼかせ。黒孔雀の催眠魔法は視覚を通して効果を発揮する。しっかり見えれば見えるほど、催眠にかかる可能性が高くなる」

「了解です。そういえば、催眠ってかかったらどんな風になるんです?」

 私は魅了の魔法にはかかったことがあるが、その時には魔法をかけた相手がとにかく素晴らしものに感じられた。

 モンスター相手でも同じようなことになるのだろうか?

「紅孔雀や黒孔雀が人間相手にかける魔法は主に三種類だ。一つ目は金縛りで、かかれば動けなくなる。二つ目は混乱で、とにかく支離滅裂な行動をする」

「支離滅裂な行動って、何するか分からないってことですか?」

「そうだが、結構多いのが仲間への攻撃だ。一種の恐慌状態に陥り、しかも敵味方の区別もつかなくなる。結果として周囲のものを攻撃しまくるんだが、これが一番怖いな」

 私はオブトさんの尾針が自分へ向かって来るのを想像して身を震わせた。

 絶対にそれだけは避けたい。

「オブトさんが混乱になったら私、生きてる自信がないです」

「だからスライムハンズにはクウより先に俺の目を覚まさせるように命じておいてくれ」

「そうします。スケさん分かった?」

 スケさんは手首を曲げてうなずいた。

 よし。うちの子はみんな賢いからちゃんとやってくれるだろう。

「それで三つ目だが、理性消失というのがある。その名の通り、かかったら理性の糸が切れて、その人間が今本能的にやりたいことをやってしまうんだ。多くの場合、その場から逃げ去るらしい。モンスターを目の前にしてる訳だからな」

「確かに。私もそうする気がします。こんな仕事してますけど、本音では怖いですもん」

「ほとんどの人間はそうだろうな。それでも俺は生粋の戦士だから戦う……と言いたいところだが、孔雀相手じゃ逃げちまうんだろうなぁ」

 オブトさんは自虐的に笑って、軽く頭をかいた。

「……そういえば昔、アステリオスのやつが理性消失の催眠魔法にかかったことがあったな」

「えっ!?どうなったんですか?」

「そりゃもう地獄だよ。辺り一帯が廃墟に……しっ」

 オブトさんは人差し指を立てて静かにするよう伝えてきた。

 話がいいところだったのだが、その先を促せるような雰囲気ではない。

「……いたぞ」
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