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19ケットシー2
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「謝ったってダメだ。店内で刃傷沙汰を起こすような連中に回せる仕事はねぇ」
開口一番そう言われた二人は、尻尾を下げてシュンとした。可愛そうだけどちょっと可愛い。
アステリオスさんは裏口から出てきて一応事情は聞いてくれた。
初め普通に表から入ろうとした二人はまた殺気をぶつけられ、すごすごと裏口に回ることになった。
私はなんとかフォローできないものかと頭を巡らせた。
「あの……二人とも反省してますし、ちょっとした誤解が原因みたいですし」
「誤解ではないのでござる」
「シバ殿が盗ったのである」
二人の即答に私は頬が引きつった。誰のために言ってあげてると思ってるんだ。
アステリオスさんも舌打ちを一つした。
「全然反省してねぇし、まだ仲も悪いし。店には入れられねぇよ。お前ら出禁だ」
「「そ、そんな……」」
二人は声を合わせて嘆いた。
それから今度はお互いを睨み合う。
「……あの双子岩でお主を切り捨てておればよかった」
「それはこちらのセリフなのである。双子岩をシバ殿の墓標にすればよかったのである」
もういい加減やめなさいよ二人共。そんなんだから今こんな状況になってるんでしょうが。
私はもうため息しか出なかったが、意外にもアステリオスさんが二人の会話に食いついた。
「おい。双子岩って、ここから南の山にある白と黒のデカい岩のことか?」
二人ともその質問にうなずいた。
「おっしゃる通りでござる」
「吾輩たちはあそこで最後の野営を共にしたのである。そして、そこで窃盗に遭ったのである」
その言葉にシバさんがまたキジトラさんを睨んだ。
しかしアステリオスさんはそんな様子には構わず、しばらく顎を撫でながら考えごとをしていた。
そして突然ニヤリと笑う。なんだか悪そうな顔だ。
「お前らそんなに戦いたいんなら、その双子岩で決闘しろ。俺が立ち会ってやる。そんで勝者には今後ずっと、とびきりの仕事ばかりを紹介してやるよ」
え?突然どういうことだろう?
いぶかしむ私に対し、アステリオスさんが悪そうな笑みを向けた。
「ただしクウ、お前も来て手伝うのが条件だ。二人を召喚して、開放状態で戦わせてくれ」
****************
「これが召喚……確かに力を感じるのであるが、本当にこれで開放状態になれるのであるか?」
キジトラさんは双子岩の前で召喚された自分の体を見下ろしていた。
私たちは道中で召喚契約を結び、到着してから初めて実際に召喚を行った。
魔素の消費を抑えるため、ぶっつけ本番でいいとアステリオスさんに言われたからだ。
「拙者は地力と召喚による強化とで首輪の力を超えられたのでござる。なれなかったとしたら、それはキジトラ殿自身の力不足ということでござるな」
挑発するようなシバさんを、キジトラさんは目を細めて睨んだ。
それからフーっと息を吐き、全身に力を込める。猫が威嚇をする時のように毛が逆立った。
しばらくすると、シバさんの時と同じように全身がほのかに発光し始めた。
ただし、シバさんの開放状態とは色が違う。シバさんは緑色だったが、キジトラさんは赤色だ。
赤いオーラが全身を包み、ケットシーの力が開放された。
それと同時に、召喚魔法を使う私への負荷が大きくなる。やはり開放状態での召喚維持は魔素の消費が激しい。
「なれた……開放状態になれたのである……」
キジトラさんは手を握ったり閉じたりしながら自分の体を確かめた。
それから剣を抜き、目にも止まらぬ速さで突きを繰り出す。
ひとしきり動きを確認した後、涙の溜まった瞳を私へと向けた。
「クウ殿……行き倒れていたのを助けてもらい、名前まで付けてもらった上、さらに再び開放状態にさせてもらえるとは……もはや恩の返しようも、ないのである……」
シバさんの時もそうだったが、やはり鍛え上げた人間が強さを失うというのはよほど辛いことらしい。
キジトラさんの言葉は涙で詰まって途切れ途切れだった。
あまり気兼ねされるもの申し訳ないので、私はできるだけ明るく笑って見せた。
「いや、そんな大げさですよ」
「そんな事はないのである。もしよろしければ、吾輩の新しい主になっていただけないだろうか?騎士として、吾輩の剣をクウ殿に捧げたいのである」
キジトラさんは剣を顔の前に立て、私にひざまずいた。なんだかデジャヴだ。
「え?いや、いきなり主って言われましても……」
「そうでござる!クウ殿が困っているではないか!」
シバさんが顔を険しくしてキジトラさんに掴みかかった。
いやいやいや。あなたつい先日ほぼ同じことしてましたよ?
「何をそんなにムキになっているのであるか?シバ殿の主君の戦力が増えるのであるから、むしろ喜ぶべきことでなのである。それともシバ殿の忠誠心は主君を独り占めにしたいだけのエセ忠誠心なのであるか?」
「ぐぬっ……」
痛いところを突かれたシバさんは悔しそうに言葉を詰まらせた。
反対にキジトラさんはドヤ顔を見せつける。
厄介だなぁ。なんか張り合ってるし、どうせ断っても食い下がってくるんだろうなぁ。
もう二人同じにしとけば文句ないよね。
「じゃあ……シバさんの時と同じように、召喚時だけの主ってことで」
「当面はそれでいいのである。ではよろしくお願いするのである」
満足げにうなずいたキジトラさんとは対象的に、シバさんは歯ぎしりでもしそうな表情で新たな同僚に言葉を投げた。
「キジトラ殿、喜ぶのはまだ早いでござるよ。その首と胴が繋がっていなければ主に仕えることも叶うまい」
言いながらスラリと刀を抜いた。心なしか、いつもより刃がギラギラしている気がする。
キジトラさんも剣をギラつかせて応じた。
「シバ殿こそ、心臓に穴が空いては主君に仕えることなどできないのである」
アステリオスさんはその様子を満足そうに眺めた。
「二人ともやる気満々で結構なことだ。クウ、始めさせてやれ」
「……仕方ないですね」
これはもう、一度思い切り喧嘩しないと収まらないだろう。
私は右手の中指と親指で輪を作り、シバさんを召喚した。ちなみにキジトラさんは左手の中指と親指にしている。
シバさんはすぐに力を開放し、緑色のオーラに包まれた。
そして私への負荷がさらに大きくなる。魔素が二人にどんどん吸われているのを感じた。
「二人とも、できるだけ早く済ませてくださいね」
魔素が急激に減ってムラムラしてきた私は二人にそうお願いした。
しかし何故かアステリオスさんがそれを否定する。
「いや。たっぷり時間をかけて、気の済むまで戦え」
「ぇえ?」
「いいんだよそれで。よし……始めろ!」
アステリオスさんの一言で、二人は弾けるように下がってまず距離をとった。
そして一瞬の静寂の後、二人はその中間地点でぶつかった。
私にはあまりにも速すぎてはっきりとは視認できなかったものの、ぼんやりと二人が絡み合う様子が見て取れる。
どうやらシバさんの斬撃をキジトラさんがいなしているようだった。
キジトラさんの剣はシバさんの刀に比べて細身だ。まともに受ければ折れてしまうのかもしれない。
華麗なほど滑らかな剣さばきで、上手く力をそらしている。
と思ったら、即座に攻守が交代して今度はキジトラさんが高速で突きかかっているようだった。
シバさんは剣を水平に構えてそれを迎え撃つ。矢継ぎ早に打ち込まれる刺突は、全てシバさんの刀に打たれて弾かれた。
凄まじい反射神経だ。
「すごい戦いですけど……魔素の消費もすごいんですよ」
「そりゃそうだろうな。ほらよ、魔素の補充薬はかなり持ってきたからどんどん飲め」
アステリオスさんは瓶の並んだ木箱を差し出してくれた。魔素補充薬が1ダース入っている。
私はそれをグビグビ飲みつつ、横目にうろんげな視線を送りながら尋ねた。
「……で、何を企んでるんですか?」
アステリオスさんはニヤリと笑いながら抗議してきた。
「何だよ『企んでる』って。俺が悪巧みしてるみたいじゃねぇか」
「してるでしょう?そんな悪そうな顔しちゃって」
「がっはっは!そうだな、そろそろ教えてやろう。この岩の周辺はシーフモンキーの縄張りなんだよ」
「シーフモンキー?」
「そうだ。シーフモンキーはその名の通り猿型のモンスターで、ほとんどの個体はかなり弱いから危険性としては小さなやつらだ。ただ、少し変わった習性を持っていてな。強い者の所持品を盗んで身に着けることを好むんだよ」
「……え?じゃあ、もしかして?」
「そうだ。二人がお互い盗まれたと思ってる物は、十中八九シーフモンキーが盗んだんだろう。弱い代わりに気配を消すのが上手いモンスターだから、寝てる間に盗みに来られたらそうそう気が付かないだろうな」
やっぱり誤解か。
どうせ何かしらの事情があるのだろうとは思っていたが、まさかモンスターに盗まれたとは思わなかった。
「でも、それなら何で黙って喧嘩させてるんですか。教えてあげればいいのに」
「シーフモンキーは不思議と物の価値が分かるやつらでな。いいもんばかり盗んで身に着けてるから、もし捕まえたら高価なもんを得られることが多い。ただし普段は隠れててめったにお目にかかれないんだよ。弱いモンスターゆえの本能だな」
「はぁ……」
「だが、強い者から盗みたくなるというのもやつらの強烈な本能だ。つまり強い者がいれば、それに惹かれて集まってくる。だから二人を開放状態で戦わせてるんだよ。あの状態は確かに強いが、魔素のオーラがだだ漏れだからな」
つまり、シバさんとキジトラさんを餌にしてシーフモンキーを釣り上げようという作戦なわけだ。
「……二人がちょっと可愛そうじゃないですか?」
「何言ってんだ。うちの店で騒ぎを起こしたんだから、これくらい当然だよ」
「せめて教えてあげればいいのに」
「本気でやった方がシーフモンキーが集まるだろ。召喚状態なら死ぬこともねぇしな」
「まぁ……それはそうですけど」
その点は私も考えていた。
どうせ喧嘩するなら召喚されてからの方がいい。これならば死ぬほどのダメージを受けても召喚前の場所に戻るだけだ。
ただし、魔素がほぼゼロの状態で戻るので相当しんどいとは思うが。
「クウにはシーフモンキーが集まってきたところで捕獲も手伝ってもらうぞ。使役モンスターを総動員してくれ」
「いいですけど……二人の召喚でしんどいから、ガルーダは召喚できませんよ」
私は魔素補充薬をまだグビグビと飲んだ。
っていうか、話を聞きながらもずっと飲んでいる。
補充した端から消費されていくから、どれだけ飲んでも満たされない。おかげでずっとムラムラし通しだ。
っていうか、っていうか、お腹タプタプでもう飲めないよ。
アステリオスさんは一本300mLくらいの瓶を1ダース用意してくれているが、それだと全部で3.6Lだ。
飲めるわけがない。
「……今の内にお花摘みに行ってきていいですか?」
「あぁ、そんだけ飲みゃそうなるわな。あっちに茂みがあったから行ってこい」
『お花摘み』というのは、要はトイレだ。登山などで女性がお花摘みと言ったら察してください。
私は離れた茂みの方へ行ってから腰を下ろし、スルリと下着を下げて用を足す。
そしてそれが済んでもすぐにはアステリオスさんの所へ戻らず、右腕スライムのスケさんを召喚した。
「ごめんねスケさん。これ以上飲むのはキツイから、ちょっと手伝って」
スケさんは私の顔に近づき、耳元と首筋をそのローションでぬるりと撫でた。
ゾクゾクとした快感が背筋を伝う。私自身も自分の体に手を伸ばした。
やはり薬での魔素補充には限界があるので、セルフケアでの回復を目指すことにしたのだ。
私はこの世界に来てから得てしまった発情体質のおかげで、魔素が枯渇してくるとめっちゃムラムラしてくる。
そしてそのムラムラを解消するべく行動すると、魔素が回復するのだ。
今も魔素がカラカラでめっちゃムラムラしていたので、セルフケアはかなり捗った。
そしてごく短時間で昇天を迎えることができ、魔素が一気に回復する。
……のだが。
「……足らない」
その回復した魔素もすぐに二人によって消費されてしまう。仕方なく私は立て続けに二回戦に突入した。
私はムラムラすると同時に、ちょっぴりイライラした。
何で私がこんなことになってるんだ。そう思うと喧嘩しているシバさんとキジトラさんに対して腹が立ってきた。
(……二人をセルフケアのネタにしてやる)
私は腹立ち紛れにそうやってフラストレーションを解消することにした。
そのくらいはバチが当たらないだろうし、妄想するだけなら自由だ。
考えたら二人ともなかなかネタとなるポイントが多い。二人ともドギースタイルがスゴそうだし、私を主として仕えるとか言ってるし。
(四つん這いになって二人から責められたり、反対にアレコレご奉仕させたり……)
私は妄想の中で二人を存分に弄んだ。そしてまたごく短時間で昇天を迎える。
「……っくぅぅ」
私がそんな声を漏らすのと同時に、茂みの低木がガサガサと音を鳴らした。私が起こした音ではない。
その音のした方から、小さな角の生えた猿が顔を出した。
「スケさん!!」
驚いた私は即座にスケさんに攻撃を命じた。
グーを作ったスケさんが猿の顔めがけて飛んでいく。
おそらくこの猿がシーフモンキーなのだろう。
アステリオスさんの言う通りあまり強いモンスターではなく、スケさんのパンチ一発で気を失って倒れた。
「あービックリした……って、あれ?」
私は倒れたシーフモンキーのそばに落ちている物に気がついた。
それはどうやら小刀のようだった。螺鈿の入った立派な拵えをしている。
「これもしかして、シバさんの?……あ。このシーフモンキー、アンクレットもしてる」
なんとその足首には宝石のついたアンクレットまでついていた。
もしこれが二人の物なら、とりあえず喧嘩の理由はもう無くなったことになる。
私は急いでアステリオスさんのところに戻った。
「お、帰ってきたな。そろそろ呼ぼうかと思ってたところだ。シーフモンキーがだいぶ集まってきたから、捕獲を始めてくれ」
周囲を見渡すと、確かに木々や茂みに隠れたシーフモンキーがちらほら見つけられた。
「分かりました。みんな出ておいで」
私はガル以外の使役モンスターを全て出した。そして魔素の補充薬を一本イッキ飲みしてから命じる。
「シーフモンキーたちを出来るだけたくさん動けなくして。完全に倒さなくてもいいから」
私の命令で、うちの子たちはすぐに動き始めた。
それぞれシーフモンキーたちにかかって行くが、特にイエローとレントの二体は目覚ましい働きをしてくれた。
イエローはスピード・ジャンキーなのでものすごい速度で次々に感電させていくし、レントはたくさんの枝を同時に伸ばして敵を捕らえられる。
今回の目的にはおあつらえ向きの二体だった。
しばらくすると、周囲は倒れたり拘束されたりしたシーフモンキーだらけになった。
集まった半分ほどはやれただろうか。
私たちは残りが逃げてしまった時点で身に着けている物の回収を始めた。
「……すごい量になりましたね」
盗品は積み上げると腰くらいの高さの山になった。
しかもこのほとんどが価値あるものだという事だから、大変な金額になるだろう。
アステリオスさんもホクホク顔でそれらを見下ろした。
「大漁大漁」
「これって全部自分の物にしていいんですか?」
「いや。モンスターに盗られたとはいえ、元はちゃんと所有者のある物だ。ちゃんと役所に届けるさ」
「え?じゃあ儲けはないんじゃ……」
「ちゃんと一割の謝礼を貰えるんだよ。それに、三ヶ月しても所有者が見つからなかった場合には丸々貰えることになってる。遺失物とほぼ同じ扱いだな」
なるほど。
どのくらい所有者が見つかるかは分からないが、これだけあれば結構な稼ぎになるだろう。
アステリオスさんは満足げにうなずくと、大斧を持ち上げた。そしてシバさんとキジトラさんの方を向く。
二人はいまだに戦い続けており、剣が空を切る音や金属のぶつかる音が鳴り続いていた。
「え?アステリオスさん、どうするんですか?もう戦いを止めるなら召喚を解除しますけど」
「いや、そのままでいい。俺は確か『勝者にはとびきりの仕事ばかりを紹介してやる』って言ったよな?」
「ええ、そう言ってました」
「じゃあ……二人には敗者になってもらわないといけねぇからな!」
アステリオスさんは無造作に大斧を振り上げ、それを目の前の空間に激しく振り下ろした。
轟音とともに衝撃波が発生し、シバさんとキジトラさんへと向かう。
二人は驚いて飛び退いたが、それまで二人がいた地面に大きな亀裂が入っていた。
「「ア、アステリオス殿、何を……?」」
喧嘩しているはずの二人は、ぴったりと息を合わせてハモった。
「何って、俺も参加させてもらおうと思ってよ。こっからはバトルロイヤルだ。三人のうち、最後に立ってたやつが勝者だからな」
それからアステリオスさんは今日一番の悪い顔を見せた。
その顔を見たシバさんとキジトラさんは、震えながら尻尾を股の間に挟む。
そしてこの後に起こる一方的な蹂躙の中で、私は本物の怪物を目の当たりにするのだった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈ケットシー〉
ケット・シーはアイルランドの民間伝承に登場する猫の妖精です。
『ケット』が猫で『シー』が妖精なので、まんま猫妖精ですね。
名前はクーシーととても良く似ているのですが、クーシーが妖精の丘の番犬なのに対し、ケットシーは言葉も喋れて自分たちの王国を作っているそうです。
クーシーはほぼ犬扱いなのに、ケットシーは高等生物扱いなんですね。
不公平。
〈cats and dogs〉
英語で『cats and dogs』と言うと『犬猿の仲』という意味のことわざになります。
日本と動物が違うのがちょっと面白いですね。
では『It's raining cats and dogs.』と言うと、どういう意味になるでしょう?
正解は『土砂降りだ』なのです。犬猿の仲から少し離れた気もしますね。
この慣用句の由来は諸説あるのですが、一説には『北欧神話で猫が雨、犬が風を起こすとされているから』とも言われています。
晴れて欲しい時には猫に優しくしてあげるといいかもしれません。
〈長靴をはいた猫〉
割と知らない人もいると思うので一応あらすじ書いておきますが、『長靴をはいた猫』というおとぎ話があります。
三人兄弟の父親が亡くなり、息子たちはそれぞれに遺産をもらうことになりました。
遺言により長男には粉挽き小屋、次男にはロバ、そして三男には猫が相続されたのですが、さすがに三男はがっかりしてしまいます。
どう考えても自分の遺産だけ資産価値が低い。
しかし猫は『心配いりません。私に長靴をください』と言って長靴をもらい、その国の王様のところへ行きました。
そして猫は上手いことやって王様と仲良くなり、しかも三男を貴族だと信じさせることに成功します。
さらに猫は広大な領地を持つオーガの所へ行き、これを騙して食べてしまいます。
『オーガさんはライオンやゾウに化けられて凄い!でも……さすがにネズミには化けられないでしょう?』
と言って煽り、言葉巧みに己の捕食対象にしてやりました。
こうして三男はオーガの城を得た上に、王様にも気に入られて王女様と結婚できたのです。
めっちゃ端折りましたが、だいたいこんな感じでしょうか。
筆者は小さい頃にこの話を聞いて、
『長靴関係ないじゃん!!』
って思ってました。
でも調べると、この当時はブーツが貴族など高貴な人間の象徴だったらしいのです。
身なりを整えて王様に会いに行った、ということですね。
つまり『長靴をはいた猫』の『長靴』は、現代で言うところのブランドスーツや高級腕時計みたいなもんなのでしょう。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
開口一番そう言われた二人は、尻尾を下げてシュンとした。可愛そうだけどちょっと可愛い。
アステリオスさんは裏口から出てきて一応事情は聞いてくれた。
初め普通に表から入ろうとした二人はまた殺気をぶつけられ、すごすごと裏口に回ることになった。
私はなんとかフォローできないものかと頭を巡らせた。
「あの……二人とも反省してますし、ちょっとした誤解が原因みたいですし」
「誤解ではないのでござる」
「シバ殿が盗ったのである」
二人の即答に私は頬が引きつった。誰のために言ってあげてると思ってるんだ。
アステリオスさんも舌打ちを一つした。
「全然反省してねぇし、まだ仲も悪いし。店には入れられねぇよ。お前ら出禁だ」
「「そ、そんな……」」
二人は声を合わせて嘆いた。
それから今度はお互いを睨み合う。
「……あの双子岩でお主を切り捨てておればよかった」
「それはこちらのセリフなのである。双子岩をシバ殿の墓標にすればよかったのである」
もういい加減やめなさいよ二人共。そんなんだから今こんな状況になってるんでしょうが。
私はもうため息しか出なかったが、意外にもアステリオスさんが二人の会話に食いついた。
「おい。双子岩って、ここから南の山にある白と黒のデカい岩のことか?」
二人ともその質問にうなずいた。
「おっしゃる通りでござる」
「吾輩たちはあそこで最後の野営を共にしたのである。そして、そこで窃盗に遭ったのである」
その言葉にシバさんがまたキジトラさんを睨んだ。
しかしアステリオスさんはそんな様子には構わず、しばらく顎を撫でながら考えごとをしていた。
そして突然ニヤリと笑う。なんだか悪そうな顔だ。
「お前らそんなに戦いたいんなら、その双子岩で決闘しろ。俺が立ち会ってやる。そんで勝者には今後ずっと、とびきりの仕事ばかりを紹介してやるよ」
え?突然どういうことだろう?
いぶかしむ私に対し、アステリオスさんが悪そうな笑みを向けた。
「ただしクウ、お前も来て手伝うのが条件だ。二人を召喚して、開放状態で戦わせてくれ」
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「これが召喚……確かに力を感じるのであるが、本当にこれで開放状態になれるのであるか?」
キジトラさんは双子岩の前で召喚された自分の体を見下ろしていた。
私たちは道中で召喚契約を結び、到着してから初めて実際に召喚を行った。
魔素の消費を抑えるため、ぶっつけ本番でいいとアステリオスさんに言われたからだ。
「拙者は地力と召喚による強化とで首輪の力を超えられたのでござる。なれなかったとしたら、それはキジトラ殿自身の力不足ということでござるな」
挑発するようなシバさんを、キジトラさんは目を細めて睨んだ。
それからフーっと息を吐き、全身に力を込める。猫が威嚇をする時のように毛が逆立った。
しばらくすると、シバさんの時と同じように全身がほのかに発光し始めた。
ただし、シバさんの開放状態とは色が違う。シバさんは緑色だったが、キジトラさんは赤色だ。
赤いオーラが全身を包み、ケットシーの力が開放された。
それと同時に、召喚魔法を使う私への負荷が大きくなる。やはり開放状態での召喚維持は魔素の消費が激しい。
「なれた……開放状態になれたのである……」
キジトラさんは手を握ったり閉じたりしながら自分の体を確かめた。
それから剣を抜き、目にも止まらぬ速さで突きを繰り出す。
ひとしきり動きを確認した後、涙の溜まった瞳を私へと向けた。
「クウ殿……行き倒れていたのを助けてもらい、名前まで付けてもらった上、さらに再び開放状態にさせてもらえるとは……もはや恩の返しようも、ないのである……」
シバさんの時もそうだったが、やはり鍛え上げた人間が強さを失うというのはよほど辛いことらしい。
キジトラさんの言葉は涙で詰まって途切れ途切れだった。
あまり気兼ねされるもの申し訳ないので、私はできるだけ明るく笑って見せた。
「いや、そんな大げさですよ」
「そんな事はないのである。もしよろしければ、吾輩の新しい主になっていただけないだろうか?騎士として、吾輩の剣をクウ殿に捧げたいのである」
キジトラさんは剣を顔の前に立て、私にひざまずいた。なんだかデジャヴだ。
「え?いや、いきなり主って言われましても……」
「そうでござる!クウ殿が困っているではないか!」
シバさんが顔を険しくしてキジトラさんに掴みかかった。
いやいやいや。あなたつい先日ほぼ同じことしてましたよ?
「何をそんなにムキになっているのであるか?シバ殿の主君の戦力が増えるのであるから、むしろ喜ぶべきことでなのである。それともシバ殿の忠誠心は主君を独り占めにしたいだけのエセ忠誠心なのであるか?」
「ぐぬっ……」
痛いところを突かれたシバさんは悔しそうに言葉を詰まらせた。
反対にキジトラさんはドヤ顔を見せつける。
厄介だなぁ。なんか張り合ってるし、どうせ断っても食い下がってくるんだろうなぁ。
もう二人同じにしとけば文句ないよね。
「じゃあ……シバさんの時と同じように、召喚時だけの主ってことで」
「当面はそれでいいのである。ではよろしくお願いするのである」
満足げにうなずいたキジトラさんとは対象的に、シバさんは歯ぎしりでもしそうな表情で新たな同僚に言葉を投げた。
「キジトラ殿、喜ぶのはまだ早いでござるよ。その首と胴が繋がっていなければ主に仕えることも叶うまい」
言いながらスラリと刀を抜いた。心なしか、いつもより刃がギラギラしている気がする。
キジトラさんも剣をギラつかせて応じた。
「シバ殿こそ、心臓に穴が空いては主君に仕えることなどできないのである」
アステリオスさんはその様子を満足そうに眺めた。
「二人ともやる気満々で結構なことだ。クウ、始めさせてやれ」
「……仕方ないですね」
これはもう、一度思い切り喧嘩しないと収まらないだろう。
私は右手の中指と親指で輪を作り、シバさんを召喚した。ちなみにキジトラさんは左手の中指と親指にしている。
シバさんはすぐに力を開放し、緑色のオーラに包まれた。
そして私への負荷がさらに大きくなる。魔素が二人にどんどん吸われているのを感じた。
「二人とも、できるだけ早く済ませてくださいね」
魔素が急激に減ってムラムラしてきた私は二人にそうお願いした。
しかし何故かアステリオスさんがそれを否定する。
「いや。たっぷり時間をかけて、気の済むまで戦え」
「ぇえ?」
「いいんだよそれで。よし……始めろ!」
アステリオスさんの一言で、二人は弾けるように下がってまず距離をとった。
そして一瞬の静寂の後、二人はその中間地点でぶつかった。
私にはあまりにも速すぎてはっきりとは視認できなかったものの、ぼんやりと二人が絡み合う様子が見て取れる。
どうやらシバさんの斬撃をキジトラさんがいなしているようだった。
キジトラさんの剣はシバさんの刀に比べて細身だ。まともに受ければ折れてしまうのかもしれない。
華麗なほど滑らかな剣さばきで、上手く力をそらしている。
と思ったら、即座に攻守が交代して今度はキジトラさんが高速で突きかかっているようだった。
シバさんは剣を水平に構えてそれを迎え撃つ。矢継ぎ早に打ち込まれる刺突は、全てシバさんの刀に打たれて弾かれた。
凄まじい反射神経だ。
「すごい戦いですけど……魔素の消費もすごいんですよ」
「そりゃそうだろうな。ほらよ、魔素の補充薬はかなり持ってきたからどんどん飲め」
アステリオスさんは瓶の並んだ木箱を差し出してくれた。魔素補充薬が1ダース入っている。
私はそれをグビグビ飲みつつ、横目にうろんげな視線を送りながら尋ねた。
「……で、何を企んでるんですか?」
アステリオスさんはニヤリと笑いながら抗議してきた。
「何だよ『企んでる』って。俺が悪巧みしてるみたいじゃねぇか」
「してるでしょう?そんな悪そうな顔しちゃって」
「がっはっは!そうだな、そろそろ教えてやろう。この岩の周辺はシーフモンキーの縄張りなんだよ」
「シーフモンキー?」
「そうだ。シーフモンキーはその名の通り猿型のモンスターで、ほとんどの個体はかなり弱いから危険性としては小さなやつらだ。ただ、少し変わった習性を持っていてな。強い者の所持品を盗んで身に着けることを好むんだよ」
「……え?じゃあ、もしかして?」
「そうだ。二人がお互い盗まれたと思ってる物は、十中八九シーフモンキーが盗んだんだろう。弱い代わりに気配を消すのが上手いモンスターだから、寝てる間に盗みに来られたらそうそう気が付かないだろうな」
やっぱり誤解か。
どうせ何かしらの事情があるのだろうとは思っていたが、まさかモンスターに盗まれたとは思わなかった。
「でも、それなら何で黙って喧嘩させてるんですか。教えてあげればいいのに」
「シーフモンキーは不思議と物の価値が分かるやつらでな。いいもんばかり盗んで身に着けてるから、もし捕まえたら高価なもんを得られることが多い。ただし普段は隠れててめったにお目にかかれないんだよ。弱いモンスターゆえの本能だな」
「はぁ……」
「だが、強い者から盗みたくなるというのもやつらの強烈な本能だ。つまり強い者がいれば、それに惹かれて集まってくる。だから二人を開放状態で戦わせてるんだよ。あの状態は確かに強いが、魔素のオーラがだだ漏れだからな」
つまり、シバさんとキジトラさんを餌にしてシーフモンキーを釣り上げようという作戦なわけだ。
「……二人がちょっと可愛そうじゃないですか?」
「何言ってんだ。うちの店で騒ぎを起こしたんだから、これくらい当然だよ」
「せめて教えてあげればいいのに」
「本気でやった方がシーフモンキーが集まるだろ。召喚状態なら死ぬこともねぇしな」
「まぁ……それはそうですけど」
その点は私も考えていた。
どうせ喧嘩するなら召喚されてからの方がいい。これならば死ぬほどのダメージを受けても召喚前の場所に戻るだけだ。
ただし、魔素がほぼゼロの状態で戻るので相当しんどいとは思うが。
「クウにはシーフモンキーが集まってきたところで捕獲も手伝ってもらうぞ。使役モンスターを総動員してくれ」
「いいですけど……二人の召喚でしんどいから、ガルーダは召喚できませんよ」
私は魔素補充薬をまだグビグビと飲んだ。
っていうか、話を聞きながらもずっと飲んでいる。
補充した端から消費されていくから、どれだけ飲んでも満たされない。おかげでずっとムラムラし通しだ。
っていうか、っていうか、お腹タプタプでもう飲めないよ。
アステリオスさんは一本300mLくらいの瓶を1ダース用意してくれているが、それだと全部で3.6Lだ。
飲めるわけがない。
「……今の内にお花摘みに行ってきていいですか?」
「あぁ、そんだけ飲みゃそうなるわな。あっちに茂みがあったから行ってこい」
『お花摘み』というのは、要はトイレだ。登山などで女性がお花摘みと言ったら察してください。
私は離れた茂みの方へ行ってから腰を下ろし、スルリと下着を下げて用を足す。
そしてそれが済んでもすぐにはアステリオスさんの所へ戻らず、右腕スライムのスケさんを召喚した。
「ごめんねスケさん。これ以上飲むのはキツイから、ちょっと手伝って」
スケさんは私の顔に近づき、耳元と首筋をそのローションでぬるりと撫でた。
ゾクゾクとした快感が背筋を伝う。私自身も自分の体に手を伸ばした。
やはり薬での魔素補充には限界があるので、セルフケアでの回復を目指すことにしたのだ。
私はこの世界に来てから得てしまった発情体質のおかげで、魔素が枯渇してくるとめっちゃムラムラしてくる。
そしてそのムラムラを解消するべく行動すると、魔素が回復するのだ。
今も魔素がカラカラでめっちゃムラムラしていたので、セルフケアはかなり捗った。
そしてごく短時間で昇天を迎えることができ、魔素が一気に回復する。
……のだが。
「……足らない」
その回復した魔素もすぐに二人によって消費されてしまう。仕方なく私は立て続けに二回戦に突入した。
私はムラムラすると同時に、ちょっぴりイライラした。
何で私がこんなことになってるんだ。そう思うと喧嘩しているシバさんとキジトラさんに対して腹が立ってきた。
(……二人をセルフケアのネタにしてやる)
私は腹立ち紛れにそうやってフラストレーションを解消することにした。
そのくらいはバチが当たらないだろうし、妄想するだけなら自由だ。
考えたら二人ともなかなかネタとなるポイントが多い。二人ともドギースタイルがスゴそうだし、私を主として仕えるとか言ってるし。
(四つん這いになって二人から責められたり、反対にアレコレご奉仕させたり……)
私は妄想の中で二人を存分に弄んだ。そしてまたごく短時間で昇天を迎える。
「……っくぅぅ」
私がそんな声を漏らすのと同時に、茂みの低木がガサガサと音を鳴らした。私が起こした音ではない。
その音のした方から、小さな角の生えた猿が顔を出した。
「スケさん!!」
驚いた私は即座にスケさんに攻撃を命じた。
グーを作ったスケさんが猿の顔めがけて飛んでいく。
おそらくこの猿がシーフモンキーなのだろう。
アステリオスさんの言う通りあまり強いモンスターではなく、スケさんのパンチ一発で気を失って倒れた。
「あービックリした……って、あれ?」
私は倒れたシーフモンキーのそばに落ちている物に気がついた。
それはどうやら小刀のようだった。螺鈿の入った立派な拵えをしている。
「これもしかして、シバさんの?……あ。このシーフモンキー、アンクレットもしてる」
なんとその足首には宝石のついたアンクレットまでついていた。
もしこれが二人の物なら、とりあえず喧嘩の理由はもう無くなったことになる。
私は急いでアステリオスさんのところに戻った。
「お、帰ってきたな。そろそろ呼ぼうかと思ってたところだ。シーフモンキーがだいぶ集まってきたから、捕獲を始めてくれ」
周囲を見渡すと、確かに木々や茂みに隠れたシーフモンキーがちらほら見つけられた。
「分かりました。みんな出ておいで」
私はガル以外の使役モンスターを全て出した。そして魔素の補充薬を一本イッキ飲みしてから命じる。
「シーフモンキーたちを出来るだけたくさん動けなくして。完全に倒さなくてもいいから」
私の命令で、うちの子たちはすぐに動き始めた。
それぞれシーフモンキーたちにかかって行くが、特にイエローとレントの二体は目覚ましい働きをしてくれた。
イエローはスピード・ジャンキーなのでものすごい速度で次々に感電させていくし、レントはたくさんの枝を同時に伸ばして敵を捕らえられる。
今回の目的にはおあつらえ向きの二体だった。
しばらくすると、周囲は倒れたり拘束されたりしたシーフモンキーだらけになった。
集まった半分ほどはやれただろうか。
私たちは残りが逃げてしまった時点で身に着けている物の回収を始めた。
「……すごい量になりましたね」
盗品は積み上げると腰くらいの高さの山になった。
しかもこのほとんどが価値あるものだという事だから、大変な金額になるだろう。
アステリオスさんもホクホク顔でそれらを見下ろした。
「大漁大漁」
「これって全部自分の物にしていいんですか?」
「いや。モンスターに盗られたとはいえ、元はちゃんと所有者のある物だ。ちゃんと役所に届けるさ」
「え?じゃあ儲けはないんじゃ……」
「ちゃんと一割の謝礼を貰えるんだよ。それに、三ヶ月しても所有者が見つからなかった場合には丸々貰えることになってる。遺失物とほぼ同じ扱いだな」
なるほど。
どのくらい所有者が見つかるかは分からないが、これだけあれば結構な稼ぎになるだろう。
アステリオスさんは満足げにうなずくと、大斧を持ち上げた。そしてシバさんとキジトラさんの方を向く。
二人はいまだに戦い続けており、剣が空を切る音や金属のぶつかる音が鳴り続いていた。
「え?アステリオスさん、どうするんですか?もう戦いを止めるなら召喚を解除しますけど」
「いや、そのままでいい。俺は確か『勝者にはとびきりの仕事ばかりを紹介してやる』って言ったよな?」
「ええ、そう言ってました」
「じゃあ……二人には敗者になってもらわないといけねぇからな!」
アステリオスさんは無造作に大斧を振り上げ、それを目の前の空間に激しく振り下ろした。
轟音とともに衝撃波が発生し、シバさんとキジトラさんへと向かう。
二人は驚いて飛び退いたが、それまで二人がいた地面に大きな亀裂が入っていた。
「「ア、アステリオス殿、何を……?」」
喧嘩しているはずの二人は、ぴったりと息を合わせてハモった。
「何って、俺も参加させてもらおうと思ってよ。こっからはバトルロイヤルだ。三人のうち、最後に立ってたやつが勝者だからな」
それからアステリオスさんは今日一番の悪い顔を見せた。
その顔を見たシバさんとキジトラさんは、震えながら尻尾を股の間に挟む。
そしてこの後に起こる一方的な蹂躙の中で、私は本物の怪物を目の当たりにするのだった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈ケットシー〉
ケット・シーはアイルランドの民間伝承に登場する猫の妖精です。
『ケット』が猫で『シー』が妖精なので、まんま猫妖精ですね。
名前はクーシーととても良く似ているのですが、クーシーが妖精の丘の番犬なのに対し、ケットシーは言葉も喋れて自分たちの王国を作っているそうです。
クーシーはほぼ犬扱いなのに、ケットシーは高等生物扱いなんですね。
不公平。
〈cats and dogs〉
英語で『cats and dogs』と言うと『犬猿の仲』という意味のことわざになります。
日本と動物が違うのがちょっと面白いですね。
では『It's raining cats and dogs.』と言うと、どういう意味になるでしょう?
正解は『土砂降りだ』なのです。犬猿の仲から少し離れた気もしますね。
この慣用句の由来は諸説あるのですが、一説には『北欧神話で猫が雨、犬が風を起こすとされているから』とも言われています。
晴れて欲しい時には猫に優しくしてあげるといいかもしれません。
〈長靴をはいた猫〉
割と知らない人もいると思うので一応あらすじ書いておきますが、『長靴をはいた猫』というおとぎ話があります。
三人兄弟の父親が亡くなり、息子たちはそれぞれに遺産をもらうことになりました。
遺言により長男には粉挽き小屋、次男にはロバ、そして三男には猫が相続されたのですが、さすがに三男はがっかりしてしまいます。
どう考えても自分の遺産だけ資産価値が低い。
しかし猫は『心配いりません。私に長靴をください』と言って長靴をもらい、その国の王様のところへ行きました。
そして猫は上手いことやって王様と仲良くなり、しかも三男を貴族だと信じさせることに成功します。
さらに猫は広大な領地を持つオーガの所へ行き、これを騙して食べてしまいます。
『オーガさんはライオンやゾウに化けられて凄い!でも……さすがにネズミには化けられないでしょう?』
と言って煽り、言葉巧みに己の捕食対象にしてやりました。
こうして三男はオーガの城を得た上に、王様にも気に入られて王女様と結婚できたのです。
めっちゃ端折りましたが、だいたいこんな感じでしょうか。
筆者は小さい頃にこの話を聞いて、
『長靴関係ないじゃん!!』
って思ってました。
でも調べると、この当時はブーツが貴族など高貴な人間の象徴だったらしいのです。
身なりを整えて王様に会いに行った、ということですね。
つまり『長靴をはいた猫』の『長靴』は、現代で言うところのブランドスーツや高級腕時計みたいなもんなのでしょう。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
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