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19ケットシー1

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(何あれ……誘ってるのかしら?)

 私はピンと立った縞模様の尻尾を見て、そんなことを考えた。

 触れたいと思うが、それを躊躇させるような孤高の雰囲気を発している。

 その美しい毛並みは、元の世界ではよく見かけていた『きじトラ』という猫のものだった。

 奈良時代、経典をネズミから守るために輸入された雉トラが日本猫の始まりだという説を聞いたことがある。

 もしその説が本当だしたら、雉トラは日本猫の元祖ということになる。

 久しぶりに見た故郷の光景は、最近ちょっぴりホームシックの私を誘っているとしか思えない。

(って言っても……日本で見てた雉トラは二足歩行でもなかったし、長靴も履いてなかったけど)

 そう、目の前で歩いているその雉トラは何かしらの種族の人であり、この世界では『人間』と称される存在だ。

 そして、ただの猫とは違い立派な長靴を履いている。革素材の長靴なのでロングブーツと言ったほうが正しいかもしれないが。

 元の世界でも猫が服を着させられることは珍しくないものの、長靴を履かされることはまずないだろう。

 雉トラさんの背は低く、ちょうど先日出会ったクーシーのシバさんと同じくらいしかなかった。頭の高さが私の胸あたりだ。

 その頭にテンガロンハットをかぶっている。

 そしてその下には首輪をはめており、尻尾のそばには細身の剣を下げていた。

(猫はこの尻尾が魅力的なんだよね。今みたいにピンと立ったり、クネクネしたり)

 その様子を見ているだけで飽きない。滑らかで、しかも不思議な力強さが感じられるように思えた。

 が、その尻尾が突然力を失って下に垂れた。そしてその直後、雉トラさん自身もうつ伏せに倒れて動かなくなってしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 どうやらただコケただけではないらしい。私は急いで駆け寄った。

 顔を覗き込むと、閉じていた細い目が薄っすらと開いた。

「吾輩……もう……五日……食べていないのである……」

 吾輩?また古風な喋り方だ。

 五日絶食には驚いたものの、私は少し安心した。

 何か大きな病気だったら大変だが、ただ空腹で倒れたのなら何か食べさせてあげたらいいだろう。

 それにタイミングの良いことに、ちょうど今クッキーを買いに行った帰り道だった。

「とりあえずクッキー食べます?あと、私の泊まってる宿屋の食堂がすぐ近くなのでそこへ行きましょう」


****************


(何か……つい最近全く同じ光景を見た気がするな)

 ネウロイさんの食堂でガツガツとお粥をかき込む雉トラさんを見て、私はそう思っていた。

 ただし、その時は猫ではなく犬だったが。

「ゆっくり食べた方がいいですよ。五日も食べていなかったのでしょう?」

 ネウロイさんのセリフもその時と全く同じだ。

 キジトラさんは少しペースを落としながら礼を言った。

「ありがとう。本当に助かったのである。恩人の方々の名前をうかがっておきたいのであるが……」

「私はこの宿屋を経営しているネウロイといいます。こちらは妻のルー。そしてあなたをここまで連れてきてくれたのが、うちの宿泊者のクウさんです」

 私とルーさんはペコリと頭を下げた。雉トラさんもスプーンを止めて頭を下げ返す。

「吾輩はケットシーである。名前はまだない」

(……ん?どこかで耳にしたことのあるようなセリフだな)

 不思議なデジャヴを感じたものの、とりあえず雉トラさんの種族が『ケットシー』だということは分かった。

 ルーさんがその自己紹介を聞いて首を傾げた。

「名前がない?」

「そうなのである。実は吾輩、とある罪で故国を追放されたのであるが、その時にこの長靴以外、故国で得たものは全て剥奪されたのである。それは名前すらも例外ではなく、ゆえに吾輩は故国を出て以来ずっと名無しで通しているのである」

 名前まで剥奪されるとは、この雉トラさん何をやったのだろう?

 気にはなった私はつい尋ねてしまった。

「とある罪?」

 もし話したくないなら無理に聞くつもりはなかったが、雉トラさんは普通に答えてくれた。

「国王の暗殺未遂である」

 はい?

 私たち三人はあまりの罪状に何も言えず、ただ目を丸くした。

「ちょっとやり過ぎちゃったのである」

「「「…………」」」

 雉トラさんは頭をかきながら軽く笑ったが、やり過ぎにもほどがある。テヘペロしてる場合じゃない。

 しばらくしてようやく立ち直ったネウロイさんが、かろうじて口をきいた。

「それは……むしろ国外追放と諸々の剥奪くらいでよく済みましたね」

 雉トラさんも同意してうなずいた。

「拙者もよく命があったものだと思うのである。しかし、国王を含めてみんな暗殺未遂があって良かったと思ってくれたので、なんとかこの程度の罰で済んだのである」

「暗殺未遂があって良かった?」

 そんな事があるのだろうか。

 私たちは疑問を深くしたが、雉トラさんは笑って事情を話してくれた。

「そうなのである。事の起こりは前国王が亡くなったところから始まるのである。前国王には王子が三人いて、遺言でそれぞれ遺産を与えられたのである。長男が国王の地位を、次男が財宝を、三男が吾輩を与えられたのである」

 私たち三人は最後の部分がよく分からず、さらなる疑問符を浮かべた。

 一人だけ遺産がケットシーってどういうことだ?

 雉トラさんもすぐに私たちの疑問に気づいて説明してくれた。

「あぁ、少し分かりにくかったのであるな。当時の吾輩は国軍の中でも特殊な独立騎士団を率いていたのである。それは国王の権力が及ばぬ騎士団であり、国王の無法を牽制する役割を持った騎士団なのである」

 国としてそういう仕組みを取っているということか。

 私は話を噛み砕いて尋ねた。

「……つまり、三男さんがその騎士団への命令権を与えられたっていう事ですか?もしもの時に長男さんの暴走を抑えるために」

「ご明察なのである。国王になった長男は、幸い暴走するほどの肝のある男ではなかったのであるが、国務の重圧に耐えきれず酒浸りの毎日を送るようになったのである」

 その話を聞いたネウロイさんは苦笑した。

「それは……あなたも三男さんもお困りになったでしょう。民にむごいような仕打ちでもしたなら騎士団として動くのも仕方ないでしょうが、本人の酒浸りでは……」

「まさにその通りなのである。軍事行動に移るような非道があったのならともかく、それをするほどの肝もなかったのである。ただ、それでもやはり国王が常時泥酔では政務が非常に滞るのである。それはそのうち国民生活にも影響を及ぼし、我が主である三男は大いに心を痛めたのである」

 厄介な話だな、と私は思った。

 王政を敷く国では王様の資質によって少なからずこういったことが起こるだろう。

 もちろん良し悪しあるだろうが、私たちのいるプティアの街は共和制だからこういったことは起こりにくい。

「苦しむ主を見ていられなくなった吾輩は、一騎士団長としてではなく、一人のケットシーとして国王の暗殺を試みたのである。それならば主である三男にも迷惑が小さいと考えたのである」

 雉トラさんはサラリと言ってのけたが、そう簡単なことではないだろう。

 主を守って自分だけが罪を被ろうというのだから、すごい忠誠心だ。

「拙者は国王をおだてて、酒と称した秘薬を飲ませることに成功したのである。それは飲んだ者を数分間だけネズミに変える秘薬なのである。そしてネズミになった国王を吾輩は食べようとした。しかしすんでの所でそれを主に止められて、吾輩は逮捕されたのである」

(……ん?ネズミになる薬?)

 私はこの話に違和感を覚えた。 

 本当に殺すつもりならそんな秘薬ではなく、初めから致死性の毒薬を飲ませればいいだけだ。

 雉トラさんは話を続けた。

「国王は吾輩に食べられそうになったのがよほど怖かったらしく、それまでの行いを反省して酒を断ったのである。元々重圧に弱かっただけで悪人ではなかったのであり、それ以来は政務に励んでいるそうなのである。そして我が主である三男は八方手を尽くしてくれて、吾輩の罰を国外追放と所持品の剥奪処分で済ましてくれたのである」

 少し遠い目で笑う雉トラさんの顔は、どう見ても暗殺未遂を犯したような犯罪者には見えなかった。

(……きっとこの雉トラさん、最終的にこうなることまで分かっててやったんじゃないかな?話から何だか長男さんに対する憎しみを感じないし。三男さんに止めさせたのも、わざとそうさせた感じがするし)

 そう思ったのは私だけではなかったらしい。

 ネウロイさんもルーさんも、雉トラさんに対する視線をむしろ優しくしていた。

 一応は前科者であるはずだが、どうも悪い人ではなさそうだ。

 そんな雉トラさんにルーさんが尋ねた。

「それで名前も無くされたんですね」

「何か一つだけ所持する事が許されたのであるが、吾輩が選んだのはこの長靴である。これは吾輩が三男に仕え始めた時、初めて贈られた思い出の品なのである。残念ながらセットのアンクレットは紛失したのであるが、今でもこの長靴は吾輩一番の宝なのである」

 ホロリとくるいい話だー。

 この雉トラさんは三男さんが本当に好きだったんだな。

「でも、ずっと名無しさんだと不便じゃありません?」

 ルーさんの質問に雉トラさんはうなずいた。

「それはおっしゃる通りなのである。もしよろしければ、恩人の方々に今名付けていただきたいのである」

 え?

 初対面でそれはちょっと困ってしまう。名前って割と重要なことで、責任重大だ。

 ネウロイさんとルーさんも困惑気味に眉根を寄せた。

「いやぁ、いきなり名前と言われましても……なぁ?」

「ええ……そうだ!クウちゃんならすぐにいい名前が思いつくんじゃない?使役モンスターにも全部名前つけてるんでしょ?」

 名案だと言わんばかりに表情を明るくしたルーさんの裾を、ネウロイさんがぐっと引っ張った。

 そして小さく首を横に振ってみせる。

(……ネウロイさん?なんですかその表情は。まるで私のネーミングセンスが良くないみたいじゃないですか)

 ちょっぴりムッとした私は、即座に名前を考えて提案した。

「じゃあ……キジトラさんっていうのはどうですか?」

 ネウロイさん夫婦は顔を見合わせた。

 だから何なんですか、その表情は。

 微妙な顔をした二人とは対照的に、雉トラさんは明るく笑ってくれた。

「ありがとう。では今日から吾輩の名前は『キジトラ』なのである。助けいただいた上に名前まで付けてもらって、感謝の言葉もないのである」

 そら見ろ、本人は満足そうじゃないか。

 私もその様子に満足し、キジトラさんに笑顔を返した。


****************


「あれが全部仕事の依頼なのであるか?すごい数なのである」

「そうです。あれだけあれば、私たちに向いてるのもあると思いますよ」

 私とキジトラさんは二人でアステリオスさんのお店に来ていた。

 クーシーのシバさんの時と同じように、先ほどの食事代と当面の宿代を私が立て替えてあげることになったのだ。

 その代わりに仕事を手伝ってもらう。

(どの仕事がいいかな?キジトラさんもすごく強かったから、どんな仕事でも大丈夫そうだけど)

 私はお店でキジトラさんが見せてくれた剣技を思い出していた。

 戦えるかと聞かれたキジトラさんは、一枚の紙を宙に投げた。

 そしてそれに剣を軽く突き刺した後、剣から抜いて私にくれた。

 初めは何のことやらさっぱり分からなかったが、よく見ると一度しか突かれていないと思っていた紙にはいくつもの穴が空いていた。

 目にも見えない速度で何度も突きを繰り出していたということだ。

 ネウロイさんとルーさんにはなんとか見えていたらしく、二人とも驚きで口が開きっぱなしになっていた。

(シバさんもキジトラさんも、これだけ腕が立てば行き倒れなんかにならなくて済みそうなものだけど……不器用な人の放浪って難しいんだな)

 私は改めてそんなことを考えていた。

 ちなみにシバさんにはすでにアステリオスさんのお店を紹介しているので、ちゃんと稼ぎながら自活できている。

 何度か一緒に仕事もしたのだが、シバさんが希望するのは主に討伐系の依頼だ。

(できるだけ安全に稼ぎたい私とは、ちょっと方向性が違うんだよね)

 そんなわけで、特別な事情がなければそれぞれで仕事をしている。

 もちろん必要があれば召喚させてもらうことにはなってるが。

 シバさんはモンスターと戦って自らを鍛え、最終的には召喚状態でなくても力の解放をできるようにするのが目標とのことだった。

(首輪で開放状態になれない縛りプレイも、それはそれで良い鍛錬になるって言ってたしな……ん?縛りプレイ?)

 私は自分の心のセリフにふと引っかかり、無駄にドキドキしてしまった。

 縛られた上に、首輪を引かれて歩くシバさんを妄想してしまう。

(そ、そういえばキジトラさんもよく似た首輪をつけてるな)

 私は一人顔を赤らめつつ、依頼書を眺めるキジトラさんを横目に見た。

(見た目は普通のペット用の首輪っぽいけど、もしかしたら……)

 私がそんなことを考えていると、キジトラさんが突然剣を抜きながら背後を振り返った。

 その剣に、もう一本の抜き味の剣がぶつかって高い音が響く。

「おのれ泥棒猫め!ここで会ったが百年目!成敗してやるから覚悟するでござる!」

 ござる?

 その珍しい語尾を発したのは、案の定シバさんだった。

 シバさんがキジトラさんに斬りかかっている。

 キジトラさんはそれを受けつつ叫び返した。

「吾輩が泥棒!?泥棒とはお前のことである!この泥棒犬め!」

 急に店内でつばぜり合いを始めた二人に、お客さんたちがどよめいた。

 慌てて外へ出ていこうとする人もいる。

 それはそうだろう、真剣が抜かれているのだ。

「ちょ、ちょっと!二人とも!」

 私がそう叫んだ瞬間、背後からものすごく恐ろしい何かを感じた。

 そしてそれはつばぜり合いをしていた二人も同じだったらしく、一斉にそちらを振り返った。

 見ると、アステリオスさんが大きな斧を右手に抱えて凄んでいる。

 私はこのお店にかなりの頻度で来ているが、こんなに怖いアステリオスさんを見るのは初めてだった。

 威圧感がハンパない。空気が重く、息をするのも苦しいほどだ。

「おい、お前ら。五つ数える間に外に出ろ。一、二……」

 アステリオスさんは五まで数える必要はなかった。

 シバさんとキジトラさんは一切の躊躇なく、扉に向かって駆けて行く。三を数え終わる前に外へ出ただろう。

 私もアステリオスさんへ頭を下げながら二人の後を追った。

 事情は分からないものの、外に出てからも二人を戦わせるわけにはいかない。

「二人とも、事情は分かりませんけどやめて……」

 外に出た私は争いを止めようと声を上げたが、二人はすでに剣を鞘に収めていた。

 そしてよく見ると、二人とも尻尾を股の間に挟んでいる。犬や猫が怯えている時にする行動だ。

「……やめてますね、もう。武器を抜いちゃだめですよ」

「抜けぬでござるよ。アステリオス殿……相当な使い手であるとは思っておったが、まさかあれ程とは」

 シバさんは震える声でそう言い、キジトラさんも同じような声で同意した。

「確かにこの店の周りでは抜けないのである。何なのであるか、あのミノタウロスは?あれではもし開放状態になれたとしても勝てるかどうか……」

 開放状態?

 ケットシーもクーシーと同じように力の開放で能力が跳ね上がるということだろうか。

 そういえば種族名もよく似ている。犬のクーシーと猫のケットシー。

「……いや、いま吾輩は少々見栄を張ったのである。開放状態になってもあれには到底勝てないのである。と言っても……どうせこの首輪のせいで開放状態にはなれないのであるから、見栄でもないのが悲しいところではあるが」

「拙者の開放状態でも勝てぬ。まぁ拙者は新たな主君であるクウ殿のおかげで、一時的に開放状態になれるようにはなったがな」

「なに!?」

 自慢げに顎を上げたシバさんの肩に、キジトラさんが掴みかかった。

「それは一体どういう……」

「ちょっと待ってください!二人とも、私には事情がさっぱり分からないんですけど。ちゃんと一から説明してもらえますか?」

 私は二人の間に体を入れて引き離した。

 一体どういう経緯でこうなってるんだ。

 二人は顔を見合わせた後、シバさんの方が話し始めた。

「……拙者たちは放浪の道中、偶然出会って数日旅を供にしたのでござる。お互い似たような境遇であったから、赤の他人には思えなかったのでござるよ」

 キジトラさんもシバさんに同意してうなずいた。

 確かに二人はよく似ている。二人とも剣の使い手だし、二人とも故国から追放されているのだ。

 しかも先ほどの会話からすると、首輪によって本来の力を失っているという状況まで同じということらしい。

 気が合わない方が変だろう。

「拙者たちは最終的にここプティアの街の南方にある山中で別れたのでござるが、その後しばらくして荷物の中から路銀と姫様から賜った小刀が失せていることに気づいたのでござる。これはやられたと思い後を引き返したのでござるが、泥棒猫の名無し殿はもう逃げ去った後で……」

「何を言うのであるか!泥棒をされたのは吾輩の方なのである!吾輩の金銭と大切なアンクレットもなくなっていたのである!盗んだのはシバ殿であろう!」

「何を言うか!?盗人猛々しいぞ!拙者が泥棒なぞ……」

「吾輩だって泥棒など……」

「ストップ!ストップ!ストッープ!!」



 私は二人に負けないよう声を張り上げて喧嘩を止めた。

 ちょっと落ち着いてください。またアステリオスさん来ますよ。

 少々ヒートアップしてしまったが、大体の事情は掴めた。

「詰まるところ、シバさんはキジトラさんが盗んだと思っていて、キジトラさんはシバさんが盗んだと思っている、と」

 私のまとめに対し、二人とも同時に鼻を鳴らした。

「思っている、ではなくそうなのでござる。前日の夜、最後に荷物を確認してから気づくまで名無し殿以外には会っておらん。荷物の中でも価値のある路銀と小刀だけ落とすとも考えられぬし」

「吾輩からしても同じなのである。シバ殿以外に疑うべき人間がいないのである。っていうか、吾輩はクウ殿に『キジトラ』という名前をいただいたので、今後は名無しではなくキジトラと呼んでほしいのである」

「なに!?拙者を差し置いて我が主君から名を頂戴するなどと……」

 いやいやいや、シバさんあなた名前はあるでしょう。

(なんか面倒なことになってるな……二人ともムキになってるし)

 私は深いため息をついた。

 それから二人に質問をしてみる。

「大体のことは分かりましたが、今お二人が一番しなければならないことが何かは分かりますか?」

 二人は首を傾げた。

「しなければ……?この泥棒猫をお上に突き出すことでござろうか」

「それはこちらのセリフなのである」

 ダメだこりゃ。

 私はまた一つため息をついてから、二人が取るべき重要な行動を教えてあげた。

「アステリオスさんに謝りに行くことです。このままじゃ、二人とも仕事を受けられませんよ?また行き倒れになってもいいんですか?」

 二人は顔を見合わせてから、不承不承うなずき合った。

 どうやら休戦協定が結ばれたようだ。
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