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13ヴァンパイア2
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「すっご……」
私は展望塔の端から身を乗り出して戦いを見ていたが、それ以上の言葉が続かなかった。それくらい凄い戦いだ。
ヴァンパイアは強い、ということがよく分かる。空を飛べるということもあるし、ただ単純に膂力が強い。
眷属の超絶美人なお姉さま方が素手でワイバーンの羽根をちぎり取っている姿は、なかなかのギャップ萌えだ。
ただし、そのちぎり取った羽根に口を付けて血を吸う様はかなり好みの分かれる所だろう。
「戦いながら血を飲んでるのは、魔素の補充になるからですか?」
私は隣りで観戦しているピノさんに尋ねながら、自分も魔素の補充薬を飲んだ。
やはりガルの使役はキツイ。
「おっしゃる通り魔素の補充になりますが、それだけではありません。傷ついた体も血で回復します。ただし、人間の血に比べてモンスターの血はかなり効率が落ちますが」
その解説に、私は一人の人間として恐怖を感じた。
つまるところ、ある意味でヴァンパイアは人間相手に戦うのに特化した種族とも言えるだろう。ヴラド公が一人で城を落とせたのはこの辺りが理由かもしれない。
そのヴラド公はというと、やはり眷属と比べても段違いに強かった。
腕を狼に変化させてワイバーンに噛み付いたり、たくさんのコウモリに変身して干からびるまで血を吸ったりしている。
遠目にはよく分からないが、小さな虫にもなれるようだ。
他の眷属のお姉さま方の変化はコウモリくらいだが、ヴラド公はかなり多芸なようだった。
しかし私のガルも負けていない。風魔法の真空波で敵を切り刻んだり、爪で頭を握り潰したりしている。
ワイバーンはガルとほぼ同程度のサイズだが、フィジカルではガルが圧倒的に勝っているようだ。
私はガルを少しでもサポートしようと身を乗り出して戦いを凝視していたが、ピノさんがその体勢を心配してくれた。
「クウ様、そんなに乗り出すと落ちてしまいます。お気をつけください」
「でも鳥目っていう言葉があるくらいだから、暗いとあの子はあんまり見えないんじゃないかと思うんです」
「鳥目というのは半分以上は嘘ですよ」
「えっ?そうなんですか?」
「確かに鶏など夜目の利かない鳥もおりますが、そうでない鳥が多いのが実情です。夜行性のイメージが強いフクロウはもちろんのこと、鷹や鴨なども普通に夜目が利きます」
「知らなかった……」
「そもそもガルーダは視覚も嗅覚も優れたモンスターです。ここまで遠く離れていれば、ガルーダの判断に任せた方がよろしいでしょう」
私は言われた通りそうした。
ただどちらにせよ、要求される魔素が大きいのでキツイのは変わらない。魔素補充薬をグビグビ飲んだ。
ピノさんはそれを横目に見ながらまた気づかってくれた。
「クウ様も大変ですね。ご協力、本当に感謝いたします。しかしこちらが完全に押しておりますので、もはや時間の問題かと」
「そうですね……ん?……なんだろう?……なにか来ます!!」
私はなんだか猛烈に嫌な予感がして声を大きくした。何か良くないものが来るのを感じる。
「上……真上です!!」
私とピノさんが空を見上げると、天を裂くような勢いで何かが降りてきた。ちょうどヴラド公の真上だ。
それは稲妻のようにヴラド公へ落ちた。
「あれは……ワイバーンロード!!」
ピノさんが叫ぶような声を上げた。
私も叫びたい気持ちはよく分かった。
ワイバーンロードというモンスターは初見だが、他のワイバーンの十倍くらいの大きさはあるだろう。もはや怪獣だ。
しかも、その怪獣がヴラド公の胴体に思い切り噛み付いていた。
その一噛みで普通の人間ならば命はなかっただろう。実際、私は死んだと思った。
が、ヴラド公は体をコウモリに変え、散り散りになって逃げた。そして眷属のお姉さま方がワイバーンロードの周囲を飛び回り、撹乱する。
ワイバーンロードは火を吹いてそれを追い払おうとした。
その隙にヴラド公のコウモリは私たちのいる展望塔に集まって、また元の人の姿になった。
ピノさんがそこへ駆け寄る。
「ヴラド様、ご無事でしょうか?」
「無事だ、と言いたいところだが、かなりの傷を負ってしまったな。このワイバーンの群れは今まで何度も撃退してきたが……あれほどの個体はいなかった。しかもあやつめ、完全に狙って不意をついてきたぞ。油断したな」
ヴラド公はごく冷静な口調だったが、私は体を見て息を飲んだ。
上等な服に大穴が空いて、血がドクドク流れている。普通の人間なら死んでいるだろう。
ヴラド公の顔がこちらを向いた。
「クウよ、痛快なショーにするつもりがこんな事になってすまない。すまないついでに頼みがあるのだが、いいか?」
「は、はい。なんでしょうか?」
私は嫌な予感がした。ヴラド公の犬歯がキラリと光った気がしたのだ。
「血を少し飲ませてくれ」
やっぱりキター。
さすがに私は怖くなって半歩下がった。
「え、えーと……」
「もちろん死ぬほどは飲まない。そうだな、コップ二杯ほどの量で結構だ。痛みもない」
コップ二杯というと、400mLくらいだろうか。ちょうど献血で抜かれる量くらいではある。
「でも……」
「頼む。こうしている間にも私の眷属たちが危険に晒されているのだ。早く助けに行ってやらねば」
確かに眷属のお姉さま方はワイバーンロードを足止めするために、懸命にその周りを飛び回っていた。
ワイバーンロードはそれを仕留めようと追い回しているが、数が多いので今のところ上手く撹乱できている。しかし、その牙がかかるのは時間の問題だろう。
こうなると断るに断れない。
「ど……どうぞ……」
異世界なんてところに来て色々な覚悟はしていたつもりだが、まさかヴァンパイアに血を吸われる羽目になろうとは。
「すまんな、恩に着る」
ヴラド公は言うが早いか、私の腰に手を回して引き寄せた。
産まれてこの方、異性からこんな風にされたことのない私は胸をドキドキさせた。
公爵様の端正な顔がとても近くにある。
鋭い牙は私には見えなかった。おそらく怖がらせないように、視界から外れてから口を開けたのだろう。
ヴラド公の顔が私の首筋へと流れていき、その唇が肌に触れる。
その途端、私のつま先から毛の先に至るまで全身を強烈な快感が疾走った。
並の快感ではない。普段のセルフケアでの昇天が十回分くらい一度に来たほどの快感だ。しかもそれが血を吸われている間、ずっと続く。
気持ち良いのだが、あまりに気持ち良過ぎて心と体が壊れそうになった。
(ヤバい……ダメ……もうダメ……死んじゃう……)
私が本当の意味での昇天を覚悟した時、ようやくヴラド公の唇は私の首筋を離れた。
「ハァ……ハァ……ハァ……あぅ」
完全に腰砕けになってその場にへたり込んでしまった。
そんな私にヴラド公の言葉が降ってくる。
「何という上質な血だ……これまで私が飲んできた血の中でも一、二を争うほどの血だぞ」
「お……お褒めにあずかり……光栄ですぅ……」
私はぐったりとした返事を返すのがやっとだった。
逆にヴラド公の声は活き活きしている。
「完全回復どころか、体の奥から魔素が溢れてくるようだ。助かったぞクウ。後は見ていろ」
「いえ……私も……もう少し働きます」
「無理をするな。ヴァンパイアは血と共に魔素を吸う。お前の魔素は枯渇しかけているはずだ」
ところがどっこい。
あまりに強すぎる昇天を経験した私の魔素は枯渇どころか満タンも満タン、むしろ容量オーバーで破裂しそうだ。
私は両手で顔を叩いて気合を入れた。
眷属のお姉さま方が危ないのだ。やれるだけのことはやらなければ。
足腰はまだ立ちそうもないが、幸い召喚士にとっては大したことではない。
「ガル、ゴッドバード!!」
私は破裂しそうなほどの魔素をガルに送り込んだ。それと同時にガルの全身が光り輝く。
超高熱になった体をワイバーンロードへと突っ込ませた。
ワイバーンロードは身をよじってそれをかわそうとしたが、完全には避けきれない。ガルの翼に触れた部分の皮膚がキレイにえぐれた。
それを見たヴラド公が感嘆の声を漏らす。
「なんと、あの幼さでゴッドバードまで使うのか……よほど血筋の良いガルーダかもしれないな。それにまだそれだけの魔素を残しているとは、クウも相当なものだ」
いえ、相当だったのはあなたの吸血の気持ち良さです。
っていうか、私の体はあれを性的な快感とみなしたわけだ。実際そんな感じだったけど。
「よし、クウ。ガルーダにワイバーンたちの周囲を回らせて、出来るだけ一箇所に集まるよう誘導させてくれ」
「分かりました」
私は言われた通りをガルに伝え、ガルはゴッドバードのまま周囲をぐるりと回り始めた。
ゴッドバードの威力はすでにワイバーンロードで証明済みだ。
ワイバーンたちはガルを避けて円の内側に集まってきた。
「よくやってくれた。あとは任せておけ」
ヴラド公はワイバーンたちの方へと飛んでいった。確かに血を吸う前よりも動きがキビキビしているように見える。
ピノさんがそれを見送りつつ、私の首に布を当ててくれた。自分でも気づかなかったが、吸われた部分から血が流れていたようだ。
「ありがとうございます」
「いえ、お礼を言わなければならないのは私どもの方です。報酬もきちんと上乗せしておきますので」
「助かります。ホントに」
「お礼のついでと言ってはなんですが、これから良いものをお見せできますよ」
なんだろう、と思っている間にヴラド公がワイバーンたちの所へたどり着いた。
それと同時に、眷属たちが一斉にその場を去り始める。
その避難が完了してから、ヴラド公は地面に向かって手をかざした。
夜なのではっきりとは見えなかったが、その動きで地面に染みのようなものが点々と現れたようだった。血のような染みが。
そしてヴラド公が手を振り上げるのに合わせ、その染みから何十本もの槍が現れて天へと向かって伸び上がった。
血の色をした鋭い槍だ。それがワイバーンたちを下から突き刺す。
「く、串刺しの林だ……」
私の口にした表現の通り、一瞬にしてワイバーンたちの串刺しの林が現れた。
血の色の槍が、ワイバーンたちから滴る血でさらに赤く上塗りされる。
ほとんどは即死しており、生きているものはその苦しげな身悶えが恐怖を誘った。
ピノさんは良いものが見られると言っていたが、壮観ではあってもちょっとスプラッター過ぎやしないだろうか。
「『串刺し公』、それがヴラド様の二つ名です。少々恐ろしげな呼称ではありますが、人間相手にこれをやればそのくらいにあだ名されるのも仕方のないことでしょう」
「…………」
私はなんの言葉も返せなかった。
ヴラド公は素敵な紳士だが、やはりヴァンパイアなのだ。
ワイバーンロードも幾本もの槍に貫かれている。ただ、まだ息はあるようで苦しそうに身じろぎしていた。
「ガル、とどめを……」
私がそう命じかけた瞬間、ワイバーンロードの周りに竜巻が発生した。風魔法だ。
そしてその中でワイバーンロードが穴の空いた羽根を一生懸命羽ばたかせているのが薄っすらと見えた。
やがてワイバーンロードは竜巻に巻き込まれるようにして、上空へと舞い上がって行った。串刺しにならずに済んだ数匹のワイバーンたちもそれを追って離れていく。どうやら逃げるようだ。
「追わなきゃ!ちゃんと仕留めないと、また来ますよね!?」
「いえ、今日あれを仕留めるのは無理でしょう。ワイバーンロードは上位種に分類されるドラゴンですが、上位種ともなれば相当な生命力を誇ります。奴らの根城は分かっていますし、その内プティアの街の方から討伐依頼を出してもらいますよ」
(……その依頼を見つけても、絶対に受けないようにしよう)
そう心に決めた。
相手は完全に怪獣だ。どっちかっていうと、巨大ヒーローが相手するやつだ。
ヴラド公も深追いせず、展望塔へ戻って来た。
「クウのおかげで比較的楽に片がついたぞ。礼を言う」
「お役に立てて良かったです」
「しかし、私に血を吸われるのは良かっただろう?お前さえ望めばまたいつでも……」
「いえ、もう二度と結構です」
私はまたきっぱりと断った。
ヴラド公にはそれが意外だったようだ。
「……多くの女は吸血時の快楽を求めて自ら身を差し出すのだがな。お前はよほど自制心が強いらしい」
(自制心っていうか、恐怖心なんだけど……)
この世界に来てブーストされた私の発情体質は、快感をより強く感じさせるように働いている。
だから普通の人にとってはものすごく気持ち良い吸血でも、私にとっては気持ち良すぎて心身ともに壊れそうになるのだ。
それに、快楽に依存してしまうことへの恐怖もある。
クスリでも、性でも、恋でも、賭博でも、何かしらの快楽を得られるものに人は依存してしまいがちだ。
依存が過ぎれば身も、心も、身近な人も、あらゆるものを壊してしまいかねない。
快楽とはどこかで距離を置く冷静さがないといけないし、麻薬のように危険が分かっている快楽には初めから触れるべきではない。
「クウへの報酬は上乗せしてやるが……せっかくだからもう一つ褒美をやろう。クウよ、お前さえ良ければ召喚契約を結んでやる」
「ええ!?いいんですか!?」
私にとってはかなりありがたい話だ。
串刺し公の強さは恐ろしいほどよく分かった。それこそ怪獣クラスだ。これ以上頼りになる被召喚者はいないだろう。
しかし、さすがになんの代償もなくこれだけの大きな力を手にすることはできなかった。ヴラド公は条件をつけてきたのだ。
「ただし、私は腐っても誇り高きヴァンパイアの始祖だ。私を喚ぶ度に報酬をもらおう」
「……血ですか?」
私はそう思ったが、ヴラド公の回答はその斜め上をいっていた。
「そうだな、一度目は血だけで勘弁してやろう。しかし、二度目はお前の唇をもらおう」
「く、唇!?」
「唇程度で驚くな。三度目は操をもらうぞ」
「みみみ、操!?」
操っていうことは、あんなことやこんなことを……っていうか、経験ないってバレてる。なぜだ。
「そして四度目は、私の眷属になってもらう。それが契約の条件だ」
いったんは喜びに舞い上がった私だったが、すぐに頭が冷えてしまった。
だってこの契約、四度召喚したら死ぬまで血を吸われるんだもん。
(でも……一回だけなら今回と同じようなものだし……こんなすごい人、一回喚べるだけでも価値はあるよね)
私はそう判断した。
「……分かりました」
「そうか、この条件を飲むか。ふふふ……召喚されるのが楽しみだな」
ヴラド公は愉快そうに笑ったが、その後ろに控えるアルジェさんから何やら不穏な空気を感じる気がする。
そりゃ旦那が他の女に操をもらうとか言ってたら殺気の一つも出るだろう。ただ、この人死んでるはずなんだけどな。
「じゃあ契約魔法を……コントラクトゥス・リートゥス」
私は右手の人差し指と親指とで輪を作り、その呪文を唱えた。ケイロンさんと契約を結んで以来だから、だいぶ久しぶりだ。
しかし、指が光らない。ケイロンさんの時は赤く光ったのに。
「あれ、なんでだろう?」
首を傾げる私に、ヴラド公が尋ねた。
「その指はもう使っているのではないのか?」
「え?使ってる?」
「召喚士のくせにそんなことも知らんのか。一度召喚契約に使った指の輪は、その契約が破棄されるまで使えないのだ」
完全に初耳だ。
っていうか考えたら私、召喚魔法の勉強全然してないな。ちょっと問題だ。
「すいません、知りませんでした……」
「一つの輪に一人だけだから、必然的に契約を結ぶ相手の数は限られる。使えるのは左右の指で八本と、男なら口と肛門でもう二つだ」
「肛門!?」
私は驚きつつも、ドキドキした。もうこれはBLの妄想が一本出来上がる。
「っていうか、男ならってことは……」
「そうだ、女は一つ穴が多いから契約できる人数が一人多い」
わぁお得。って、これは喜んでいいもんなのかな。
「しかもその穴で契約した者は特別に強い力を発揮できるという話だが……それは三回召喚されるまで待とう。ほら、さっさと他の指で輪を作れ」
(三回喚んだ暁には召喚契約を結び直させられるのか……)
とにもかくにも、私は反対の左手の人差し指と親指とで輪を作った。
「コントラクトゥス・リートゥス」
指の輪が赤く光りだす。そこにヴラド公が指を入れた。
私はその光景を見つめながらつい三度目の召喚を妄想してしまい、ドキドキムラムラハァハァしてしまった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈ヴァンパイアとドラキュラ〉
吸血鬼として最も有名なキャラクターは『ドラキュラ』だと思います。
人によってはドラキュラというのが吸血鬼全てを指す言葉だと思ってる方もいらっしゃるかもしれません。
でもこのドラキュラというのは、実在した『ヴラド三世』という人物の別名なんです。
ヴラド三世のお父さんがドラゴン騎士団(かっけぇ)に所属していたことから『ドラクル』と呼ばれ、その息子という意味で『ドラキュラ」になったそうです。
ヴラド三世は十五世紀のワラキア公国君主でしたが、当時のワラキアは大国に挟まれて戦争を余儀なくされる状況でした。
その戦いの中でヴラド三世は大量の敵兵を殺し、その死骸を串刺しにして林のように並べるという残虐行為を行いました。
と言っても別に好きでやったわけではなく、相手の戦意を削ぐための戦略だったようです。
実際に攻めてきた敵はこれでテンション激下がりになり、しかも疫病なども重なって撤退しました。
また、ヴラド三世は当時農民にしか適用されなかった串刺し刑を貴族にも行ったそうです。
こんなことが重なった結果、『串刺し公』という二つ名まで付き、現代では『ヴラド・ツェペシュ』という呼称が有名になっています。
こういった血なまぐさいイメージから後世の吸血鬼小説でモデルにされ、ヴァンパイア=ドラキュラというほどに広まったようです。
〈妻の身投げ〉
ヴラド三世はその後、様々な人間の思惑の中で幽閉の身になってしまいます。
そしてその頃に奥さんがお城の塔から身投げして、亡くなってしまいました。
奥さんの名前や身投げした詳細な経緯などは分かっていないのですが、アルジェシュ渓谷のポエナリ城がその現場であることからアルジェの名前をいただきました。
今回の元ネタはちょっと悲しいお話でした。
〈吸血コウモリ〉
『ほとんどのコウモリは血を吸わない』
という話は結構知ってる人も多いと思います。
チスイコウモリというほんの一部の種類だけなんですね。
では、他のコウモリは何を食べているのか?
これが本当に多種多様で、果実や花の蜜など植物を食べるものもいれば、虫やカエルなどの小動物、果ては水中の魚を捕まえる種類までいるそうです。
そう思うと、逆に血を食事にするチスイコウモリはかなり特殊なんだとよく分かります。
哺乳類で血を主食に生きていけるのはこの生物くらいではないでしょうか。(コウモリは哺乳類。鳥じゃないよ)
ちなみにこのチスイコウモリ、吸血後はお腹タプタプで重くなっちゃうから飛べないらしいです。跳ねて移動するんだとか。
よく漫画なんかで血を吸って飛び回ってるコウモリがいますが、あれは色々無理があるんですね。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
私は展望塔の端から身を乗り出して戦いを見ていたが、それ以上の言葉が続かなかった。それくらい凄い戦いだ。
ヴァンパイアは強い、ということがよく分かる。空を飛べるということもあるし、ただ単純に膂力が強い。
眷属の超絶美人なお姉さま方が素手でワイバーンの羽根をちぎり取っている姿は、なかなかのギャップ萌えだ。
ただし、そのちぎり取った羽根に口を付けて血を吸う様はかなり好みの分かれる所だろう。
「戦いながら血を飲んでるのは、魔素の補充になるからですか?」
私は隣りで観戦しているピノさんに尋ねながら、自分も魔素の補充薬を飲んだ。
やはりガルの使役はキツイ。
「おっしゃる通り魔素の補充になりますが、それだけではありません。傷ついた体も血で回復します。ただし、人間の血に比べてモンスターの血はかなり効率が落ちますが」
その解説に、私は一人の人間として恐怖を感じた。
つまるところ、ある意味でヴァンパイアは人間相手に戦うのに特化した種族とも言えるだろう。ヴラド公が一人で城を落とせたのはこの辺りが理由かもしれない。
そのヴラド公はというと、やはり眷属と比べても段違いに強かった。
腕を狼に変化させてワイバーンに噛み付いたり、たくさんのコウモリに変身して干からびるまで血を吸ったりしている。
遠目にはよく分からないが、小さな虫にもなれるようだ。
他の眷属のお姉さま方の変化はコウモリくらいだが、ヴラド公はかなり多芸なようだった。
しかし私のガルも負けていない。風魔法の真空波で敵を切り刻んだり、爪で頭を握り潰したりしている。
ワイバーンはガルとほぼ同程度のサイズだが、フィジカルではガルが圧倒的に勝っているようだ。
私はガルを少しでもサポートしようと身を乗り出して戦いを凝視していたが、ピノさんがその体勢を心配してくれた。
「クウ様、そんなに乗り出すと落ちてしまいます。お気をつけください」
「でも鳥目っていう言葉があるくらいだから、暗いとあの子はあんまり見えないんじゃないかと思うんです」
「鳥目というのは半分以上は嘘ですよ」
「えっ?そうなんですか?」
「確かに鶏など夜目の利かない鳥もおりますが、そうでない鳥が多いのが実情です。夜行性のイメージが強いフクロウはもちろんのこと、鷹や鴨なども普通に夜目が利きます」
「知らなかった……」
「そもそもガルーダは視覚も嗅覚も優れたモンスターです。ここまで遠く離れていれば、ガルーダの判断に任せた方がよろしいでしょう」
私は言われた通りそうした。
ただどちらにせよ、要求される魔素が大きいのでキツイのは変わらない。魔素補充薬をグビグビ飲んだ。
ピノさんはそれを横目に見ながらまた気づかってくれた。
「クウ様も大変ですね。ご協力、本当に感謝いたします。しかしこちらが完全に押しておりますので、もはや時間の問題かと」
「そうですね……ん?……なんだろう?……なにか来ます!!」
私はなんだか猛烈に嫌な予感がして声を大きくした。何か良くないものが来るのを感じる。
「上……真上です!!」
私とピノさんが空を見上げると、天を裂くような勢いで何かが降りてきた。ちょうどヴラド公の真上だ。
それは稲妻のようにヴラド公へ落ちた。
「あれは……ワイバーンロード!!」
ピノさんが叫ぶような声を上げた。
私も叫びたい気持ちはよく分かった。
ワイバーンロードというモンスターは初見だが、他のワイバーンの十倍くらいの大きさはあるだろう。もはや怪獣だ。
しかも、その怪獣がヴラド公の胴体に思い切り噛み付いていた。
その一噛みで普通の人間ならば命はなかっただろう。実際、私は死んだと思った。
が、ヴラド公は体をコウモリに変え、散り散りになって逃げた。そして眷属のお姉さま方がワイバーンロードの周囲を飛び回り、撹乱する。
ワイバーンロードは火を吹いてそれを追い払おうとした。
その隙にヴラド公のコウモリは私たちのいる展望塔に集まって、また元の人の姿になった。
ピノさんがそこへ駆け寄る。
「ヴラド様、ご無事でしょうか?」
「無事だ、と言いたいところだが、かなりの傷を負ってしまったな。このワイバーンの群れは今まで何度も撃退してきたが……あれほどの個体はいなかった。しかもあやつめ、完全に狙って不意をついてきたぞ。油断したな」
ヴラド公はごく冷静な口調だったが、私は体を見て息を飲んだ。
上等な服に大穴が空いて、血がドクドク流れている。普通の人間なら死んでいるだろう。
ヴラド公の顔がこちらを向いた。
「クウよ、痛快なショーにするつもりがこんな事になってすまない。すまないついでに頼みがあるのだが、いいか?」
「は、はい。なんでしょうか?」
私は嫌な予感がした。ヴラド公の犬歯がキラリと光った気がしたのだ。
「血を少し飲ませてくれ」
やっぱりキター。
さすがに私は怖くなって半歩下がった。
「え、えーと……」
「もちろん死ぬほどは飲まない。そうだな、コップ二杯ほどの量で結構だ。痛みもない」
コップ二杯というと、400mLくらいだろうか。ちょうど献血で抜かれる量くらいではある。
「でも……」
「頼む。こうしている間にも私の眷属たちが危険に晒されているのだ。早く助けに行ってやらねば」
確かに眷属のお姉さま方はワイバーンロードを足止めするために、懸命にその周りを飛び回っていた。
ワイバーンロードはそれを仕留めようと追い回しているが、数が多いので今のところ上手く撹乱できている。しかし、その牙がかかるのは時間の問題だろう。
こうなると断るに断れない。
「ど……どうぞ……」
異世界なんてところに来て色々な覚悟はしていたつもりだが、まさかヴァンパイアに血を吸われる羽目になろうとは。
「すまんな、恩に着る」
ヴラド公は言うが早いか、私の腰に手を回して引き寄せた。
産まれてこの方、異性からこんな風にされたことのない私は胸をドキドキさせた。
公爵様の端正な顔がとても近くにある。
鋭い牙は私には見えなかった。おそらく怖がらせないように、視界から外れてから口を開けたのだろう。
ヴラド公の顔が私の首筋へと流れていき、その唇が肌に触れる。
その途端、私のつま先から毛の先に至るまで全身を強烈な快感が疾走った。
並の快感ではない。普段のセルフケアでの昇天が十回分くらい一度に来たほどの快感だ。しかもそれが血を吸われている間、ずっと続く。
気持ち良いのだが、あまりに気持ち良過ぎて心と体が壊れそうになった。
(ヤバい……ダメ……もうダメ……死んじゃう……)
私が本当の意味での昇天を覚悟した時、ようやくヴラド公の唇は私の首筋を離れた。
「ハァ……ハァ……ハァ……あぅ」
完全に腰砕けになってその場にへたり込んでしまった。
そんな私にヴラド公の言葉が降ってくる。
「何という上質な血だ……これまで私が飲んできた血の中でも一、二を争うほどの血だぞ」
「お……お褒めにあずかり……光栄ですぅ……」
私はぐったりとした返事を返すのがやっとだった。
逆にヴラド公の声は活き活きしている。
「完全回復どころか、体の奥から魔素が溢れてくるようだ。助かったぞクウ。後は見ていろ」
「いえ……私も……もう少し働きます」
「無理をするな。ヴァンパイアは血と共に魔素を吸う。お前の魔素は枯渇しかけているはずだ」
ところがどっこい。
あまりに強すぎる昇天を経験した私の魔素は枯渇どころか満タンも満タン、むしろ容量オーバーで破裂しそうだ。
私は両手で顔を叩いて気合を入れた。
眷属のお姉さま方が危ないのだ。やれるだけのことはやらなければ。
足腰はまだ立ちそうもないが、幸い召喚士にとっては大したことではない。
「ガル、ゴッドバード!!」
私は破裂しそうなほどの魔素をガルに送り込んだ。それと同時にガルの全身が光り輝く。
超高熱になった体をワイバーンロードへと突っ込ませた。
ワイバーンロードは身をよじってそれをかわそうとしたが、完全には避けきれない。ガルの翼に触れた部分の皮膚がキレイにえぐれた。
それを見たヴラド公が感嘆の声を漏らす。
「なんと、あの幼さでゴッドバードまで使うのか……よほど血筋の良いガルーダかもしれないな。それにまだそれだけの魔素を残しているとは、クウも相当なものだ」
いえ、相当だったのはあなたの吸血の気持ち良さです。
っていうか、私の体はあれを性的な快感とみなしたわけだ。実際そんな感じだったけど。
「よし、クウ。ガルーダにワイバーンたちの周囲を回らせて、出来るだけ一箇所に集まるよう誘導させてくれ」
「分かりました」
私は言われた通りをガルに伝え、ガルはゴッドバードのまま周囲をぐるりと回り始めた。
ゴッドバードの威力はすでにワイバーンロードで証明済みだ。
ワイバーンたちはガルを避けて円の内側に集まってきた。
「よくやってくれた。あとは任せておけ」
ヴラド公はワイバーンたちの方へと飛んでいった。確かに血を吸う前よりも動きがキビキビしているように見える。
ピノさんがそれを見送りつつ、私の首に布を当ててくれた。自分でも気づかなかったが、吸われた部分から血が流れていたようだ。
「ありがとうございます」
「いえ、お礼を言わなければならないのは私どもの方です。報酬もきちんと上乗せしておきますので」
「助かります。ホントに」
「お礼のついでと言ってはなんですが、これから良いものをお見せできますよ」
なんだろう、と思っている間にヴラド公がワイバーンたちの所へたどり着いた。
それと同時に、眷属たちが一斉にその場を去り始める。
その避難が完了してから、ヴラド公は地面に向かって手をかざした。
夜なのではっきりとは見えなかったが、その動きで地面に染みのようなものが点々と現れたようだった。血のような染みが。
そしてヴラド公が手を振り上げるのに合わせ、その染みから何十本もの槍が現れて天へと向かって伸び上がった。
血の色をした鋭い槍だ。それがワイバーンたちを下から突き刺す。
「く、串刺しの林だ……」
私の口にした表現の通り、一瞬にしてワイバーンたちの串刺しの林が現れた。
血の色の槍が、ワイバーンたちから滴る血でさらに赤く上塗りされる。
ほとんどは即死しており、生きているものはその苦しげな身悶えが恐怖を誘った。
ピノさんは良いものが見られると言っていたが、壮観ではあってもちょっとスプラッター過ぎやしないだろうか。
「『串刺し公』、それがヴラド様の二つ名です。少々恐ろしげな呼称ではありますが、人間相手にこれをやればそのくらいにあだ名されるのも仕方のないことでしょう」
「…………」
私はなんの言葉も返せなかった。
ヴラド公は素敵な紳士だが、やはりヴァンパイアなのだ。
ワイバーンロードも幾本もの槍に貫かれている。ただ、まだ息はあるようで苦しそうに身じろぎしていた。
「ガル、とどめを……」
私がそう命じかけた瞬間、ワイバーンロードの周りに竜巻が発生した。風魔法だ。
そしてその中でワイバーンロードが穴の空いた羽根を一生懸命羽ばたかせているのが薄っすらと見えた。
やがてワイバーンロードは竜巻に巻き込まれるようにして、上空へと舞い上がって行った。串刺しにならずに済んだ数匹のワイバーンたちもそれを追って離れていく。どうやら逃げるようだ。
「追わなきゃ!ちゃんと仕留めないと、また来ますよね!?」
「いえ、今日あれを仕留めるのは無理でしょう。ワイバーンロードは上位種に分類されるドラゴンですが、上位種ともなれば相当な生命力を誇ります。奴らの根城は分かっていますし、その内プティアの街の方から討伐依頼を出してもらいますよ」
(……その依頼を見つけても、絶対に受けないようにしよう)
そう心に決めた。
相手は完全に怪獣だ。どっちかっていうと、巨大ヒーローが相手するやつだ。
ヴラド公も深追いせず、展望塔へ戻って来た。
「クウのおかげで比較的楽に片がついたぞ。礼を言う」
「お役に立てて良かったです」
「しかし、私に血を吸われるのは良かっただろう?お前さえ望めばまたいつでも……」
「いえ、もう二度と結構です」
私はまたきっぱりと断った。
ヴラド公にはそれが意外だったようだ。
「……多くの女は吸血時の快楽を求めて自ら身を差し出すのだがな。お前はよほど自制心が強いらしい」
(自制心っていうか、恐怖心なんだけど……)
この世界に来てブーストされた私の発情体質は、快感をより強く感じさせるように働いている。
だから普通の人にとってはものすごく気持ち良い吸血でも、私にとっては気持ち良すぎて心身ともに壊れそうになるのだ。
それに、快楽に依存してしまうことへの恐怖もある。
クスリでも、性でも、恋でも、賭博でも、何かしらの快楽を得られるものに人は依存してしまいがちだ。
依存が過ぎれば身も、心も、身近な人も、あらゆるものを壊してしまいかねない。
快楽とはどこかで距離を置く冷静さがないといけないし、麻薬のように危険が分かっている快楽には初めから触れるべきではない。
「クウへの報酬は上乗せしてやるが……せっかくだからもう一つ褒美をやろう。クウよ、お前さえ良ければ召喚契約を結んでやる」
「ええ!?いいんですか!?」
私にとってはかなりありがたい話だ。
串刺し公の強さは恐ろしいほどよく分かった。それこそ怪獣クラスだ。これ以上頼りになる被召喚者はいないだろう。
しかし、さすがになんの代償もなくこれだけの大きな力を手にすることはできなかった。ヴラド公は条件をつけてきたのだ。
「ただし、私は腐っても誇り高きヴァンパイアの始祖だ。私を喚ぶ度に報酬をもらおう」
「……血ですか?」
私はそう思ったが、ヴラド公の回答はその斜め上をいっていた。
「そうだな、一度目は血だけで勘弁してやろう。しかし、二度目はお前の唇をもらおう」
「く、唇!?」
「唇程度で驚くな。三度目は操をもらうぞ」
「みみみ、操!?」
操っていうことは、あんなことやこんなことを……っていうか、経験ないってバレてる。なぜだ。
「そして四度目は、私の眷属になってもらう。それが契約の条件だ」
いったんは喜びに舞い上がった私だったが、すぐに頭が冷えてしまった。
だってこの契約、四度召喚したら死ぬまで血を吸われるんだもん。
(でも……一回だけなら今回と同じようなものだし……こんなすごい人、一回喚べるだけでも価値はあるよね)
私はそう判断した。
「……分かりました」
「そうか、この条件を飲むか。ふふふ……召喚されるのが楽しみだな」
ヴラド公は愉快そうに笑ったが、その後ろに控えるアルジェさんから何やら不穏な空気を感じる気がする。
そりゃ旦那が他の女に操をもらうとか言ってたら殺気の一つも出るだろう。ただ、この人死んでるはずなんだけどな。
「じゃあ契約魔法を……コントラクトゥス・リートゥス」
私は右手の人差し指と親指とで輪を作り、その呪文を唱えた。ケイロンさんと契約を結んで以来だから、だいぶ久しぶりだ。
しかし、指が光らない。ケイロンさんの時は赤く光ったのに。
「あれ、なんでだろう?」
首を傾げる私に、ヴラド公が尋ねた。
「その指はもう使っているのではないのか?」
「え?使ってる?」
「召喚士のくせにそんなことも知らんのか。一度召喚契約に使った指の輪は、その契約が破棄されるまで使えないのだ」
完全に初耳だ。
っていうか考えたら私、召喚魔法の勉強全然してないな。ちょっと問題だ。
「すいません、知りませんでした……」
「一つの輪に一人だけだから、必然的に契約を結ぶ相手の数は限られる。使えるのは左右の指で八本と、男なら口と肛門でもう二つだ」
「肛門!?」
私は驚きつつも、ドキドキした。もうこれはBLの妄想が一本出来上がる。
「っていうか、男ならってことは……」
「そうだ、女は一つ穴が多いから契約できる人数が一人多い」
わぁお得。って、これは喜んでいいもんなのかな。
「しかもその穴で契約した者は特別に強い力を発揮できるという話だが……それは三回召喚されるまで待とう。ほら、さっさと他の指で輪を作れ」
(三回喚んだ暁には召喚契約を結び直させられるのか……)
とにもかくにも、私は反対の左手の人差し指と親指とで輪を作った。
「コントラクトゥス・リートゥス」
指の輪が赤く光りだす。そこにヴラド公が指を入れた。
私はその光景を見つめながらつい三度目の召喚を妄想してしまい、ドキドキムラムラハァハァしてしまった。
***************
☆元ネタ&雑学コーナー☆
ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。
本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。
〈ヴァンパイアとドラキュラ〉
吸血鬼として最も有名なキャラクターは『ドラキュラ』だと思います。
人によってはドラキュラというのが吸血鬼全てを指す言葉だと思ってる方もいらっしゃるかもしれません。
でもこのドラキュラというのは、実在した『ヴラド三世』という人物の別名なんです。
ヴラド三世のお父さんがドラゴン騎士団(かっけぇ)に所属していたことから『ドラクル』と呼ばれ、その息子という意味で『ドラキュラ」になったそうです。
ヴラド三世は十五世紀のワラキア公国君主でしたが、当時のワラキアは大国に挟まれて戦争を余儀なくされる状況でした。
その戦いの中でヴラド三世は大量の敵兵を殺し、その死骸を串刺しにして林のように並べるという残虐行為を行いました。
と言っても別に好きでやったわけではなく、相手の戦意を削ぐための戦略だったようです。
実際に攻めてきた敵はこれでテンション激下がりになり、しかも疫病なども重なって撤退しました。
また、ヴラド三世は当時農民にしか適用されなかった串刺し刑を貴族にも行ったそうです。
こんなことが重なった結果、『串刺し公』という二つ名まで付き、現代では『ヴラド・ツェペシュ』という呼称が有名になっています。
こういった血なまぐさいイメージから後世の吸血鬼小説でモデルにされ、ヴァンパイア=ドラキュラというほどに広まったようです。
〈妻の身投げ〉
ヴラド三世はその後、様々な人間の思惑の中で幽閉の身になってしまいます。
そしてその頃に奥さんがお城の塔から身投げして、亡くなってしまいました。
奥さんの名前や身投げした詳細な経緯などは分かっていないのですが、アルジェシュ渓谷のポエナリ城がその現場であることからアルジェの名前をいただきました。
今回の元ネタはちょっと悲しいお話でした。
〈吸血コウモリ〉
『ほとんどのコウモリは血を吸わない』
という話は結構知ってる人も多いと思います。
チスイコウモリというほんの一部の種類だけなんですね。
では、他のコウモリは何を食べているのか?
これが本当に多種多様で、果実や花の蜜など植物を食べるものもいれば、虫やカエルなどの小動物、果ては水中の魚を捕まえる種類までいるそうです。
そう思うと、逆に血を食事にするチスイコウモリはかなり特殊なんだとよく分かります。
哺乳類で血を主食に生きていけるのはこの生物くらいではないでしょうか。(コウモリは哺乳類。鳥じゃないよ)
ちなみにこのチスイコウモリ、吸血後はお腹タプタプで重くなっちゃうから飛べないらしいです。跳ねて移動するんだとか。
よく漫画なんかで血を吸って飛び回ってるコウモリがいますが、あれは色々無理があるんですね。
***************
お読みいただき、ありがとうございました。
気が向いたらブクマ、評価、レビュー、感想等よろしくお願いします。
それと誤字脱字など指摘してくださる方々、めっちゃ助かってます。m(_ _)m
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