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06プティア東ダンジョン2
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大型の蜂モンスター、キラービーが私たちの頭上をブンブンと飛び回っている。五十センチを超える超巨大蜂だ。
たくさん群れるモンスターなのか、二十匹以上はいるように思えた。
尻尾の鋭い針をこちらに向けて、距離を置いた状態で威嚇しているようだ。
しかし私たちを襲うならそんなことはせず、すぐにでも攻撃してくるべきだった。
こちらのメイン戦力であるケイロンさんは飛び道具である弓矢が武器だし、私のスライムたちはこれくらいの高さならジャンプで届く。
ケイロンさんは矢を一度に三本つがえ、同時に放った。
それらは見事に全て命中し、キラービーがバタバタと落ちてくる。
そして次の瞬間には、私のスライムたちも残りのキラービーに向かって跳んでいく。
レッドに触れたものは羽を燃やされ、ブルーが当たったものは凍りついた。イエローに触れたものは軽くかすっただけで痙攣して落ちてくる。
そうやって、私たちはキラービーの群れを難なく殲滅した。
「だいぶ慣れましたね。この程度の攻撃ならすぐに魔素切れを起こすこともないでしょう」
ケイロンさんはそう言って私のことを褒めてくれた。
私たちはダンジョンを進みつつ、力加減の具合を試している。
私は召喚でも使役でもかなりの力を与えられることが分かったが、節約しないとすぐに魔素切れを起こしてしまうのだ。
私の魔素の質である魔質はランクSで最高等級らしいのだが、魔素の量自体はランクBらしい。
普通の人はDかEが多いらしいのでそれでもかなり高いのだが、あんな攻撃を繰り返していたらすぐに枯渇してしまう。
そもそも召喚・使役魔法は燃費の悪い魔法という話だった。
実際、もう何度も枯渇しかけて魔素補充薬をグビグビと飲んでいた。おしっこに行きたくなる。
「慣れたっていうか、全部この子たちが考えてくれてるんですけどね」
ケイロンさんは加減が上手くなったと褒めてくれたが、実際にはスライムたちの功績なのだ。
実戦経験の無い私に加減の程度など分かるわけがない。
そこで、どれくらい力を込めればいいかをスライムたちから念話で教えてもらい、それに応じて魔素を与えることにした。
三匹とも元々野生で過ごしていたのだから、敵モンスターの強さもある程度は肌で分かるらしい。
(やっぱりうちの子たちは頭がいい)
私は改めて親バカを発揮した。まぁ実際に上手くいっているのだからいいだろう。
「本当ならこの鑑定杖を使って、自分で考えながらやらないといけないんでしょうけど……」
私はフレイさんから支給された鑑定杖を取り出した。
モンスター鑑定に特化したもので、使役しようとするモンスターの強さを知りたい召喚士にとっては必需品らしい。
ただ、私はまだステータスを見てもよく分からないし、戦闘中に使う余裕などあるわけがない。
ケイロンさんもそれは重々承知していた。
「それはおいおいでいいでしょう。今日はとにかく、無事帰ることが目的です」
「そうですね。でもダンジョンのモンスターが大したことなくて良かった。今のところ、苦戦はしてませんもんね」
私はにこやかにそう言ったが、ケイロンさんとサスケは苦笑いを返した。
(あれ?そうでもなかったのかな?)
私は今まで倒したモンスターを思い返した。
初めに倒した一角ウサギのアルミラージ、先ほど倒した大きな蜂のキラービー、それから頭が二個ある犬のオルトロス、動く石像ガーゴイルなんてのもいた。
力加減には手こずったものの、倒すのが難しかったモンスターはいない。
サスケは苦笑いを続けながら頭をかいた。
「どのモンスターも、普通の人が簡単に倒せるようなものじゃないんだよ?少なくとも僕一人じゃ無理だ」
そう言うサスケはサスケで、結構いい働きをしていた。スライムローションの瓶を投げつけているのだ。
サスケは昨日、街で色々なスライムローションを買い込んでいた。
当たった敵が痺れるものや、混乱してしまうもの、煙が上がって目くらましになるようなもの等があり、相手の数が多かったり囲まれたりした時には特に効果を発揮した。
「そうかな。サスケもすごかったじゃない」
「やめてよ。魔質Sの召喚士とケンタウロスの賢者と並んで、すごいなんて言える人間がそうそういるもんか」
ケンタウロスの賢者。
ケイロンさんはどうやら世間からそう呼ばれているらしい。
聞いてもなんだか嫌そうな顔をするだけなので詳しいことは分からないが、すごい人のようだ。確かにやたらと物識りではある。
その賢者はひがむようなことを言ったサスケに笑顔を向けた。
「何を言ってるんですか。サスケ君、中和持ちでしょう?珍しいし、技術の要るすごい事です」
「中和持ち?」
私は何のことか分からず聞き返した。
物識り賢者は流れるような説明をしてくれる。
「サスケ君のスライムローションには『中和』という効果があります。昨日、商店街でたくさんのスライムローションを買っているのを見て分かりました。実は、あれらは全てそのままでは使えないんです」
「そうなんですか?」
「ええ。特に投げつけて使う場合には、相手にちゃんとかかるように『引力』の効果のあるローションを混ぜないと使い物になりません。ですが、ほとんどのスライムローションはそのままでは効果が反発して混ざらないという性質があります。そこで『中和』の効果のあるローションを加えるのです」
なるほど。確かに瓶を投げつけても相手に上手くかかるとは限らない。
「ただし、『中和』はただ混ぜればいいという簡単な作業ではありません。ローションを出す本人が微妙に魔素を調節しながら行わなくてはならない、完全な職人仕事です。初めから中和・混合されたものも売ってはいますが、そんなものは高くてそうそう使えませんしね」
「だから僕のローションは売れないんだ。もっとお手軽に稼げる効果のローションが良かったよ」
サスケは照れ隠しにかそんな風にぼやいたが、実はすごいスライムなんだということがよく分かった。
(でも……待てよ?ということは、昨晩私がサスケをネタにしてセルフケアに励んでた時、本人は隣室で一生懸命ローションを中和して今日の準備をしていたってことに……)
壁一枚隔ててやっていたことの違いに、私はなんだか罪悪感がこみ上げてきた。
ただ、罪悪感とともになぜか昨晩の興奮がまた蘇ってくる。『明日落ち着いて働くために』、とか思いながら随分と励んでしまった。
その興奮で私はとあることを思い出し、少し前から気になっていたことをケイロンさんに聞いてみた。
「あの……魔素切れって、疲れて眠くなる以外に何か変化を感じることってありますか?」
私はこのダンジョンに入ってから何度も魔素が少なくなっているが、その都度強い眠気を感じていた。
魔素は精神力のようなものなので、枯渇してくると精神的な疲労を感じて眠くなる。あらかじめそれは聞いていた。
(でも……眠くなる以外にもすごく感じる変化があるんだよね)
ケイロンさんはうなずいて答えた。
「基本的には精神的疲労、それに伴う眠気が自覚症状です。ですが、その人にとって精神力が回復するほどの強い嗜好があれば、その欲求を感じることがあると聞いたことがあります」
「……というと?」
よく話を掴めなかった私に、サスケがその一例を教えてくれた。
「例えば僕の知り合いに食べるのがとにかく好きな奴がいるんだけど、そいつは魔素が少なくなるとものすごくお腹が空くらしいんだ。それで実際に食事すると、ただの食料でも魔素が回復する」
ほ、ほう……
私が頬を引きつらせながらその話を聞いていると、ケイロンさんが補足してくれた。
「私も絵描きが絵を描くことで魔素を回復するという話を聞いたことがありますね。あまりある話ではないので、実際にそういった体質の人に会うことはめったにないのですが……クウさんも何か感じますか?」
「え?いいえ、全然。すごく眠くなるだけです」
(本当はめっちゃムラムラします!!)
私は心の中だけで正直に答えた。
そう、私は魔素が少なくなれば少なくなるほど、より強く発情してしまうのだ。
さっきも魔素補充薬を飲む直前はもう結構やばくて、サスケのヌルヌルローションや可愛い顔、ケイロンさんのしなやかな筋肉やナイスミドルな横顔を見るだけで辛抱たまらなかった。
早く帰ってそれらをネタにセルフケアに励みたいと思ったものだ。
(っていうか、私にとってはいやらしい事が精神力を回復させるほどの強い嗜好なのか……)
そう思うとなんだか悲しい気持ちになった。
おかしい。心は完全に清純派女子のはずなのに。
不思議と私をこの世界に飛ばしたお爺さんの声が頭に浮かんだ。
『むっつりすけべだからじゃ』
やかましいわ。清純派女子ったら清純派女子なの。
私が怒りで足取りを荒くしていると、頭の中にスライムたちからの念話が浮かんだ。
「え?あ、一番奥に着いたの?」
私は足を止めて周りを見渡した。
そこは野球ができそうなほど広いドーム状の空間だった。
かなりの広さだが、気持ちがいいくらいに何もない。ただただ空間が広がっているだけだ。
そしてスライムたちが一番奥だと言った通り、そこから先に続く道は見当たらない。
サスケとケイロンさんも同じようにその空間を見回した。
「ここが最深部?だだっ広いだけで何もないけど」
「確かに見える範囲には何もありませんが……何か仕掛けがあるかもしれません」
ダンジョンには基本的に、それを満たすと消滅するという条件が存在する。
ということは、最深部には何かしらある可能性が高いと思うのが普通だろう。
「ですが我々の目的はあくまで下見とマッピングです。危険を犯す必要はありませんので、ここで引き返しましょう」
私もケイロンさんの意見に賛成だ。私の魔素も魔素補充薬ももうそれほど多くはないし、目的さえ果たせているなら早々にお暇したい。
私たちは一斉に踵を返した。
が、その目と鼻の先に石の壁が落ちてきた。
ゴオンッ!!
という重低音とともに降ってきたそれはかなり分厚そうな壁で、もと来た道が完全に塞がれてしまった。
私は嫌な予感がして、すぐにレッドに魔素を集中させた。
洞窟の壁も破壊していたし、本気でぶつかればこの石壁も壊せるかもしれない。
「レッド、この壁を……」
しかしその言葉の途中で、私たちは石の壁から遠ざかることになった。
視界の中を、壁の石肌が下から上へと流れていく。
地面が急に消え、私たちは落下していたのだった。
「キャアァアア!!」
私は気持ちの悪い浮遊感に悲鳴を上げたが、それは長くは続かなかった。
すぐに下の階の床とぶつかり、腰とお尻に衝撃を受ける。
幸い痛みはほとんど感じなかった。
それなりの高さから落ちたようではあったが、反射的に肉体の強度を上げるネックレスに魔素を込めたので怪我にはならなかったようだ。
「ビックリした……二人とも大丈夫?」
私の質問に、サスケとケイロンさんは苦々しい口調で答えた。
「大丈夫だよ。今は、ね」
「ええ、数秒後にはどうか分かりませんが……」
その言葉の意味を私はスライムたちからの念話で知り、そして自分の目で確認してから絶望した。
私たちはモンスターに囲まれていた。
それも、数百体はいようかという、大量のモンスターたちに。
たくさん群れるモンスターなのか、二十匹以上はいるように思えた。
尻尾の鋭い針をこちらに向けて、距離を置いた状態で威嚇しているようだ。
しかし私たちを襲うならそんなことはせず、すぐにでも攻撃してくるべきだった。
こちらのメイン戦力であるケイロンさんは飛び道具である弓矢が武器だし、私のスライムたちはこれくらいの高さならジャンプで届く。
ケイロンさんは矢を一度に三本つがえ、同時に放った。
それらは見事に全て命中し、キラービーがバタバタと落ちてくる。
そして次の瞬間には、私のスライムたちも残りのキラービーに向かって跳んでいく。
レッドに触れたものは羽を燃やされ、ブルーが当たったものは凍りついた。イエローに触れたものは軽くかすっただけで痙攣して落ちてくる。
そうやって、私たちはキラービーの群れを難なく殲滅した。
「だいぶ慣れましたね。この程度の攻撃ならすぐに魔素切れを起こすこともないでしょう」
ケイロンさんはそう言って私のことを褒めてくれた。
私たちはダンジョンを進みつつ、力加減の具合を試している。
私は召喚でも使役でもかなりの力を与えられることが分かったが、節約しないとすぐに魔素切れを起こしてしまうのだ。
私の魔素の質である魔質はランクSで最高等級らしいのだが、魔素の量自体はランクBらしい。
普通の人はDかEが多いらしいのでそれでもかなり高いのだが、あんな攻撃を繰り返していたらすぐに枯渇してしまう。
そもそも召喚・使役魔法は燃費の悪い魔法という話だった。
実際、もう何度も枯渇しかけて魔素補充薬をグビグビと飲んでいた。おしっこに行きたくなる。
「慣れたっていうか、全部この子たちが考えてくれてるんですけどね」
ケイロンさんは加減が上手くなったと褒めてくれたが、実際にはスライムたちの功績なのだ。
実戦経験の無い私に加減の程度など分かるわけがない。
そこで、どれくらい力を込めればいいかをスライムたちから念話で教えてもらい、それに応じて魔素を与えることにした。
三匹とも元々野生で過ごしていたのだから、敵モンスターの強さもある程度は肌で分かるらしい。
(やっぱりうちの子たちは頭がいい)
私は改めて親バカを発揮した。まぁ実際に上手くいっているのだからいいだろう。
「本当ならこの鑑定杖を使って、自分で考えながらやらないといけないんでしょうけど……」
私はフレイさんから支給された鑑定杖を取り出した。
モンスター鑑定に特化したもので、使役しようとするモンスターの強さを知りたい召喚士にとっては必需品らしい。
ただ、私はまだステータスを見てもよく分からないし、戦闘中に使う余裕などあるわけがない。
ケイロンさんもそれは重々承知していた。
「それはおいおいでいいでしょう。今日はとにかく、無事帰ることが目的です」
「そうですね。でもダンジョンのモンスターが大したことなくて良かった。今のところ、苦戦はしてませんもんね」
私はにこやかにそう言ったが、ケイロンさんとサスケは苦笑いを返した。
(あれ?そうでもなかったのかな?)
私は今まで倒したモンスターを思い返した。
初めに倒した一角ウサギのアルミラージ、先ほど倒した大きな蜂のキラービー、それから頭が二個ある犬のオルトロス、動く石像ガーゴイルなんてのもいた。
力加減には手こずったものの、倒すのが難しかったモンスターはいない。
サスケは苦笑いを続けながら頭をかいた。
「どのモンスターも、普通の人が簡単に倒せるようなものじゃないんだよ?少なくとも僕一人じゃ無理だ」
そう言うサスケはサスケで、結構いい働きをしていた。スライムローションの瓶を投げつけているのだ。
サスケは昨日、街で色々なスライムローションを買い込んでいた。
当たった敵が痺れるものや、混乱してしまうもの、煙が上がって目くらましになるようなもの等があり、相手の数が多かったり囲まれたりした時には特に効果を発揮した。
「そうかな。サスケもすごかったじゃない」
「やめてよ。魔質Sの召喚士とケンタウロスの賢者と並んで、すごいなんて言える人間がそうそういるもんか」
ケンタウロスの賢者。
ケイロンさんはどうやら世間からそう呼ばれているらしい。
聞いてもなんだか嫌そうな顔をするだけなので詳しいことは分からないが、すごい人のようだ。確かにやたらと物識りではある。
その賢者はひがむようなことを言ったサスケに笑顔を向けた。
「何を言ってるんですか。サスケ君、中和持ちでしょう?珍しいし、技術の要るすごい事です」
「中和持ち?」
私は何のことか分からず聞き返した。
物識り賢者は流れるような説明をしてくれる。
「サスケ君のスライムローションには『中和』という効果があります。昨日、商店街でたくさんのスライムローションを買っているのを見て分かりました。実は、あれらは全てそのままでは使えないんです」
「そうなんですか?」
「ええ。特に投げつけて使う場合には、相手にちゃんとかかるように『引力』の効果のあるローションを混ぜないと使い物になりません。ですが、ほとんどのスライムローションはそのままでは効果が反発して混ざらないという性質があります。そこで『中和』の効果のあるローションを加えるのです」
なるほど。確かに瓶を投げつけても相手に上手くかかるとは限らない。
「ただし、『中和』はただ混ぜればいいという簡単な作業ではありません。ローションを出す本人が微妙に魔素を調節しながら行わなくてはならない、完全な職人仕事です。初めから中和・混合されたものも売ってはいますが、そんなものは高くてそうそう使えませんしね」
「だから僕のローションは売れないんだ。もっとお手軽に稼げる効果のローションが良かったよ」
サスケは照れ隠しにかそんな風にぼやいたが、実はすごいスライムなんだということがよく分かった。
(でも……待てよ?ということは、昨晩私がサスケをネタにしてセルフケアに励んでた時、本人は隣室で一生懸命ローションを中和して今日の準備をしていたってことに……)
壁一枚隔ててやっていたことの違いに、私はなんだか罪悪感がこみ上げてきた。
ただ、罪悪感とともになぜか昨晩の興奮がまた蘇ってくる。『明日落ち着いて働くために』、とか思いながら随分と励んでしまった。
その興奮で私はとあることを思い出し、少し前から気になっていたことをケイロンさんに聞いてみた。
「あの……魔素切れって、疲れて眠くなる以外に何か変化を感じることってありますか?」
私はこのダンジョンに入ってから何度も魔素が少なくなっているが、その都度強い眠気を感じていた。
魔素は精神力のようなものなので、枯渇してくると精神的な疲労を感じて眠くなる。あらかじめそれは聞いていた。
(でも……眠くなる以外にもすごく感じる変化があるんだよね)
ケイロンさんはうなずいて答えた。
「基本的には精神的疲労、それに伴う眠気が自覚症状です。ですが、その人にとって精神力が回復するほどの強い嗜好があれば、その欲求を感じることがあると聞いたことがあります」
「……というと?」
よく話を掴めなかった私に、サスケがその一例を教えてくれた。
「例えば僕の知り合いに食べるのがとにかく好きな奴がいるんだけど、そいつは魔素が少なくなるとものすごくお腹が空くらしいんだ。それで実際に食事すると、ただの食料でも魔素が回復する」
ほ、ほう……
私が頬を引きつらせながらその話を聞いていると、ケイロンさんが補足してくれた。
「私も絵描きが絵を描くことで魔素を回復するという話を聞いたことがありますね。あまりある話ではないので、実際にそういった体質の人に会うことはめったにないのですが……クウさんも何か感じますか?」
「え?いいえ、全然。すごく眠くなるだけです」
(本当はめっちゃムラムラします!!)
私は心の中だけで正直に答えた。
そう、私は魔素が少なくなれば少なくなるほど、より強く発情してしまうのだ。
さっきも魔素補充薬を飲む直前はもう結構やばくて、サスケのヌルヌルローションや可愛い顔、ケイロンさんのしなやかな筋肉やナイスミドルな横顔を見るだけで辛抱たまらなかった。
早く帰ってそれらをネタにセルフケアに励みたいと思ったものだ。
(っていうか、私にとってはいやらしい事が精神力を回復させるほどの強い嗜好なのか……)
そう思うとなんだか悲しい気持ちになった。
おかしい。心は完全に清純派女子のはずなのに。
不思議と私をこの世界に飛ばしたお爺さんの声が頭に浮かんだ。
『むっつりすけべだからじゃ』
やかましいわ。清純派女子ったら清純派女子なの。
私が怒りで足取りを荒くしていると、頭の中にスライムたちからの念話が浮かんだ。
「え?あ、一番奥に着いたの?」
私は足を止めて周りを見渡した。
そこは野球ができそうなほど広いドーム状の空間だった。
かなりの広さだが、気持ちがいいくらいに何もない。ただただ空間が広がっているだけだ。
そしてスライムたちが一番奥だと言った通り、そこから先に続く道は見当たらない。
サスケとケイロンさんも同じようにその空間を見回した。
「ここが最深部?だだっ広いだけで何もないけど」
「確かに見える範囲には何もありませんが……何か仕掛けがあるかもしれません」
ダンジョンには基本的に、それを満たすと消滅するという条件が存在する。
ということは、最深部には何かしらある可能性が高いと思うのが普通だろう。
「ですが我々の目的はあくまで下見とマッピングです。危険を犯す必要はありませんので、ここで引き返しましょう」
私もケイロンさんの意見に賛成だ。私の魔素も魔素補充薬ももうそれほど多くはないし、目的さえ果たせているなら早々にお暇したい。
私たちは一斉に踵を返した。
が、その目と鼻の先に石の壁が落ちてきた。
ゴオンッ!!
という重低音とともに降ってきたそれはかなり分厚そうな壁で、もと来た道が完全に塞がれてしまった。
私は嫌な予感がして、すぐにレッドに魔素を集中させた。
洞窟の壁も破壊していたし、本気でぶつかればこの石壁も壊せるかもしれない。
「レッド、この壁を……」
しかしその言葉の途中で、私たちは石の壁から遠ざかることになった。
視界の中を、壁の石肌が下から上へと流れていく。
地面が急に消え、私たちは落下していたのだった。
「キャアァアア!!」
私は気持ちの悪い浮遊感に悲鳴を上げたが、それは長くは続かなかった。
すぐに下の階の床とぶつかり、腰とお尻に衝撃を受ける。
幸い痛みはほとんど感じなかった。
それなりの高さから落ちたようではあったが、反射的に肉体の強度を上げるネックレスに魔素を込めたので怪我にはならなかったようだ。
「ビックリした……二人とも大丈夫?」
私の質問に、サスケとケイロンさんは苦々しい口調で答えた。
「大丈夫だよ。今は、ね」
「ええ、数秒後にはどうか分かりませんが……」
その言葉の意味を私はスライムたちからの念話で知り、そして自分の目で確認してから絶望した。
私たちはモンスターに囲まれていた。
それも、数百体はいようかという、大量のモンスターたちに。
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