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05エルフ2

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「妹さん、早く見つかるといいね」

 私は前を歩くサスケの背中にそう声をかけた。

 私たちは役所を出て、商店街へと続く道をケイロンさんと三人で歩いている。ダンジョン調査のための物資を購入しに行くためだ。

 サスケは足を止めず、首だけで振り返った。

「え?ああ、ありがとう。まぁ家出するくらい生命力の強い妹だからね。きっと元気ではいるから急がなくてもいいんだ」

 サスケがプティアに来た目的は、家出した妹さんを探すことだった。サスケのお母さんが去年亡くなっていて、その形見を届けるために探しているそうだ。

 プティア辺りにいるという情報を得て来たのはいいものの、この街には周辺の村も含めて三十万人以上が生活しているらしい。

 その中の一人を探すのは簡単ではなく、フレイさんにその調査をお願いしていた。

 フレイさんはこの街の評議長だ。その気になれば調べるのはそう難しくはないのだろう。

 ダンジョン調査にサスケが必須ではないことを知りながら、私の気持ちを崩さないためにそれを快諾したように見えた。

「お母さんの形見ってどんな物なの?」

 私はちょっと突っ込み過ぎかと思いながらもそう尋ねた。さっきまでサスケ自身のことを全然聞いていなかったのを後悔しているからだ。

 サスケは今度は足を止めた。そしてカバンから何かを取り出し、私に手渡した。

「これなんだけど……クウが持ってて」

 サスケが渡してくれたのは一本のネックレスだった。綺麗なエメラルドグリーンの宝石が嵌められている。

「え?持っててって……そんな大切なもの、預かれないよ」

 いきなりそんな事を言われても困ってしまう。

 ケイロンさんがネックレスを興味深そうに覗き込んだ。

「これは……なるほど。クウさん。サスケ君の言う通り、それはクウさんが持っていた方がいいものです」

「どういうことですか?」

「それは魔素を込めるだけで肉体の強度を上げることができる魔道具です。多くの人はある程度そういった事ができますが、クウさんは全くできないんですよね?考えてもみれば、モンスターの跋扈ばっこするダンジョンに入るには必須アイテムですよ」

 なるほど、確かにそれはありがたい。

 しかし形見の品に何かあったらと思うと、簡単に受け取れるものではないように思う。

 私はネックレスを握った手をサスケの方へ伸ばした。

「ありがたいけど、それなら自分で買うよ。報酬も前払いでくれたし」

「このレベルの魔道具となると、報酬がほぼ空になりますよ?」

「ええ!?」

 やばい。魔道具やばい。

(そりゃそうか……命がかかったものだもんね)

 サスケは伸ばした私の腕を優しく押し返してくれた。

「いいから持っててよ。母さんなら絶対にそうしろって言う。そういう人だったんだ。それに、クウってなんだか母さんに似てる」

 そんな優しいお母様に似てるとは光栄だ。

 私は遠慮を感じながらも、ネックレスを受け取ることにした。

「ありがとう。じゃあ、早速つけてみるね」

 ネックレスをつけた私を、サスケは一瞬だけ寂しそうな目で見た気がした。

(私……そんなにお母さんに似てるのかな)

 私はそう思いながら、ネックレスの宝石をじっと見つめた。

 すると、突然その石が淡く光り始めた。

「わ、わ、わ」

「すごいじゃないですか。もう魔素を込める術を身につけているとは」

 ケイロンさんは褒めてくれたが、私自身には魔素を使っているという自覚がほとんどない。意識をちょっと集中させているだけだ。

 ただ、契約魔法や使役魔法を使う時もそうだったが、軽く自分の意識を持っていかれるような感覚はある。

 精神力を吸われるというか、ずっとそうしていたら疲れるだろうな、という感じだ。

 私はよく分からないなりにネックレスへの集中力を高め、それから自分で自分の腕を叩いてみた。

「……すごい、痛くない!」

 初めは軽く叩いていたが、どれだけ叩いても痛くないので力を込めてバンバン叩いた。それでも全然痛くない。

 私はなんだか楽しくなってしまい、腕を叩き続けながらついネックレスへの集中を切らしてしまった。

「!!……いったぁ」

 急に蘇った痛覚に、私は腕を抑えてうずくまった。

 なるほど、魔素の供給を切らしてしまうとすぐにこうなるわけだ。痛いが勉強にはなった。

「大丈夫?」

「はふぅ」

 サスケが腕に回復効果のあるスライムローションを塗ってくれた。

 それはありがたいのだが、ゾクゾクしてヤバイからほどほどでいいです。

「あ、ありがとう。もう大丈夫。とりあえずやり方も分かったし、大切に使わせてもらうね」

 サスケとお母さんに本当に感謝だ。確かに実際の戦闘だと、これがあるのとないのとでは全然違うだろう。

「ちゃんと妹さんが見つかったら返すからね。フレイさんすごく良い人そうだったし、きっとすぐに見つけてくれるよ」

 私はその端正な容姿と透き通るような声を思い浮かべながら、またウットリしてしまった。あの声で優しく耳元で囁かれたい。

 サスケがそれを横目で見ながら、ぼやくような口調で言った。

「ヒューマンの女の子は皆エルフが好きだよね。クウもあんなのが好み?」

(ん?)

 私はサスケの語調に何か引っかかりを覚えた。

 これは、この少年はもしかして、お姉さんが他の男にウットリしてる事にヤキモチを妬いちゃってるんじゃないかな?

(あら、サスケってそうなの?可愛い少年じゃの~♫)

 私は嬉しいというか愉快というか、そんな気持ちになりながらサスケの顔を覗き込んだ。それからその柔らかい頬をぷにぷにとつつく。

「私はサスケみたいな可愛い子も好きだよ~」



 サスケは顔を赤くしながら怒ってみせた。

「ちょ、ちょっと!やめてよ、もう……僕らスライム族はみんなそうやって幼く見られるから損してるんだ。可愛い可愛いって言ってもらえるけど、本当に可愛がられるだけだからさ。結局得するのはエルフみたいな種族なんだよ」

 あ、そういうアレですか。別にヤキモチ妬いてくれてるわけじゃなくて、種族単位の軽いうらやまみたいなやつ。

(憧れのお姉さん的なポジションを体験できるかと思ったのに……残念)

 私はちょっぴりガッカリしながら、ずっと聞いてみたいと思っていたことを聞いてみた。

「サスケって何歳なの?」

「二十三だよ」

「二十三!?年上なの!?」

 私は驚いた。スライムは幼く見えるとは言っていたが、まさか年上とは。

 っていうか、私と初めて会った時に『お姉さん』って呼んでたじゃないか。私が老けて見えたってことか?くそぅ。

「クウはいくつ?女性に年齢を聞くのは失礼かと思って今まで控えてきたけど」

 くっ、しかも女性に対する気遣いまでちゃんと出来ている。出来る大人の男だ。

「……二十一」

 なぜか敗北感を感じつつ答えると、ケイロンさんも自己申告してきた。

「私は四十です。つい先日、四十路の大台に乗りました」

 ケンタウロスの年齢は見た目とあまり変わらないのか、ケイロンさんの実年齢は見た目相応といったところだった。ただし、こんな素敵なナイスミドルはなかなかいないが。

 私はサスケの小さくて可愛らしい容姿を眺めながらしみじみとつぶやいた。

「二十三かぁ……そうかぁ、二十三かぁ……」

「なに?二十三だと何か問題でもある?」

「いや、むしろ何も問題ないなと思って。二十三だと、ちゃんと成人だもんね」

「?……そりゃまぁ、成人だけど」

 サスケは私の言うことがよく理解できずに眉根を寄せていたが、それを追求する前に商店街に着いたのでその話はそこで打ち切りになった。

 もちろん私は追求するされてもその時思ったことを言うつもりなどない。

 なぜなら私の頭に浮かんでいた単語は、清純派女子なら絶対に口に出してはならない単語だったからだ。

(合法ショタ!!)

 私はその夜のセルフケアのネタを心に決めていた。


***************


☆元ネタ&雑学コーナー☆

 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。

 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。


〈エルフとフレイ〉

 フレイはエルフの国を治める北欧神話の神様です。

 たくさんいる神様の中でも特にイケメンだったらしく、その辺が『光の妖精』とされるエルフの上に立つことに繋がっているのかもしれません。

 しかも豊穣の神様だから、人々からありがたがれて崇拝されていました。

 ただ、それがちょっと変な方向にいってまして……

 像や絵にされる時、すごい『巨根』にされることが多かったらしいんですね。

 豊穣が子宝などと結びついたようで、神様の像なのにガッツリおっきしててちょっと面白い。

 とはいえ、こういう男根崇拝などの性器崇拝は文化的にかなりメジャーなもので、世界中のあらゆる地域で見られます。

 日本でも複数の神社で御神体がアレな感じになっています。


〈ネックレスをプレゼントする意味〉

 アクセサリーにはそれぞれプレゼントの意味があるらしく、ネックレスは『束縛』とか『独占』とからしいです。

 首輪を連想させるからでしょうか?

 手錠を連想させるブレスレットも同じ感じらしいです。

 ちなみにリングは切れ目がないことから『永遠』『ずっと一緒』、イヤリングは耳に近いから『自分の存在を感じていて欲しい』とか言われています。

 でもこういうのって書籍とかサイトによって書いてあることが結構違いますし、そもそもアクセサリー全般にマーキング的な独占の意味合いがありますよね。

 何よりこんな話を本気で真に受けても盛り下がるだけなので、小話のネタ程度しておきましょう。

 アクセサリーなんて贈りたいから贈る、気に入ったからつけてる、くらいの方がいいと思います。
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