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02ケンタウロス2

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「私と契約していただけませんでしょうか?」

「……はい?」

 ケイロンさんの突然の申し出に、私は思わず聞き返した。

 っていうか今の今まで召喚士って、モンスターとか召喚して戦うんだと思っていた。

「えっと……召喚の契約って人相手にするものなんですか?てっきりモンスター相手なのかと……」

「なるほど、確かに記憶がなければそう思っても不思議はありませんね」

 ケイロンさんは一度うなずいてから説明を続けてくれた。

「モンスター相手の場合は契約ではなく、屈服させた上で魔法をかけて隷属させるのが普通です。隷属させることが出来るのは自分よりも魔質が低いモンスターだけなので、ここでも魔質は重要になります。そしてモンスターを隷属させて使う場合は、召喚魔法の中でも特に『使役』と呼びます」

(隷属、使役……ってなんかいやらしい響きだな)

 私はそう思ってまた背筋をゾクリとさせた。いい加減どうにかならないかこの体質。

「召喚契約を結んだ場合は相手が拒否すれば呼び出されませんし、どちらか一方の意思で契約は破棄されます。ですから人相手だと普通は契約ですね。私はかねてより、被召喚者となって自らの力を磨きたいと思っていました。よろしければ私と契約を結んで、働かせてください」

「ええ、それは喜んでお願いしたいんですが……」

 ケイロンさんには、今すでに私のために働いてもらっている。そのお返しに私の魔素をあげられるのなら、ぜひそうしたい。

「でも、契約の仕方が分からないんです」

 そこが問題だった。

 そもそも普通の女子大生だった私に魔法なんて使えるのだろうか。

 ケイロンさんはうなずいて教えてくれた。

「私も知識としてしか知らないのですが、契約を望む召喚士はまず指で輪を作り、『コントラクトゥス・リートゥス』と唱えるそうです」

「輪、ですか?……こんなのでいいのかな?」

 私は人差し指と親指で輪を作った。

 ジェスチャーとしてはOKのサインか、お金のサインになる形だ。

 そしてケイロンさんの言った呪文を唱えてみる。

「えっと……コントラクトゥス・リートゥス?」

 その途端、指の輪が赤く光りだした。私はその色が血に似ていると思った。

「わっ!?ビックリした」

 驚く私の前に立つケイロンさんも同じような表情をしていた。

「魔法どころか魔素の知識もないのに……いきなり契約魔法を使えるとは。クウさんには確かに召喚士の才能があふれていますね。あとは、この穴に私の体の一部を入れればいいだけのはずです」

 ケイロンさんはそう言って、人差し指を私の指の輪に入れた。

(なんかこれ……急に卑猥なジェスチャーになった気がするけど……)

 つい先ほどまでOKサインだったものが、今は乙女が直視できないようなサインになってしまっている。

 私の心はドキドキしてその事ばかりが気になったが、煩悩は召喚契約の発動にはまるで影響ないらしい。

 赤い光が強くなり、一瞬目が開けられないほどになった。

 私たちは目をつむり、そして次に目を開けたときには何事もなかったかのように光は消えていた。

「……これで終わりですか?光はすごかったけど、全然実感ないんですが……」

「試してみましょう。クウさん、先ほどのように輪を作って、私の名前を念じてみてください」

 私はケイロンさんに言われた通りにしてみた。すると、また血のような赤い光が浮かび上がった。

 見ると、ケイロンさんの人差し指も同じようになっている。

「……いま私の頭の中に、抽象的ですが召喚に応じるかどうかの問いが浮かびました。応じると答えます」

 次の瞬間、ケイロンさんが一瞬消えた。しかしそれは本当に一瞬のことで、すぐに同じ場所にケイロンさんが現れた。

「成功です!やりましたよ!召喚されました!」

「え?これで召喚なんですか?」

「元いた場所と同じ所に召喚されたので分かりづらいと思いますが、今の私はちゃんとクウさんの魔素を受けています。力がみなぎるのを感じますよ」

 そう言ってケイロンさんは森の中を駆け回ってみた。確かにその速度は驚くほど速い。まるで羽根でも生えたかのようだ。

「すごい……Sランクの魔素を受けるとここまで力が上がるのか……クウさん、ありがとうございます。召喚される度に少しずつでもこの魔質に近づけると思うと、嬉しくてしょうがありません。今後もぜひび出してください」

「いえ、私としても助かります。これからもよろしくお願いします」

 私はケイロンさんにあらためて頭を下げた。

 この世界でこれからの生活がどうなるかは分からないが、ケイロンさんのような理知的な紳士に助けてもらえるなら本当に心強い。

 ケイロンさんは私に馬の横腹を近づけた。

「さあ乗ってください。私は今、対価をもらってあなたのために働く身です。街まで可能な限り快適な旅をご提供しましょう」

 私は言われた通り、またケイロンさんにまたがらせてもらった。

(でも快適な旅っていうより、快楽の旅になっちゃうんだよな……)

 ケイロンさんが歩みを再開させ、私の股間への振動と摩擦も再開された。

 私は悶絶しながらも、必死にそれに耐える。

 しかも、それだけでも気が変になりそうだったのに、思わぬ所からまた別の責め苦を受けることになった。

「ひゃあぁん」

 私は足の裏にヌルリとした感触を覚えて、必死に抑えていた声を上げてしまった。

 見ると、サスケが私の足を掴んでヌルヌルとスライムローションを塗りつけている。



「ごめん、くすぐったかったな?足の裏にちょっと傷があったからさ。治しておこうと思って」

 さっき落馬した時についた方の足だった。

 石か何かあって傷になったのかもしれない。確かに足が少しズキズキしていた。

「そ、そう……ありがと。でも、ちょっとなら大丈夫だよ」

「いや、足の裏の怪我はちゃんと治しておかないと。靴を買ってからも辛い思いするよ」

 ケイロンさんもサスケの言うことに同意した。

「サスケ君の言う通りです。それに小さな傷でも、化膿すると大事になりかねませんからね」

 そう言いながらも、ケイロンさんは歩みを止める気配はない。

 足にローションを塗りたくるだけなので、進みながらでも出来るという判断なのだろう。

(でも……こっちは完全に二点攻めになってるんですけど!!)

 足裏からお尻へと、ゾクゾク感が神経を伝ってさかのぼって来る。

 まさか足の裏が性感帯になるなんて思ってもみなかった私は相当な衝撃を受けていた。これはちょっとした新境地かもしれない。

 股間だけでも耐え難かったのに新しい世界まで開かれて、私の神経はもう臨界に達していた。

 そしてサスケが指の股の間にヌルリと割り入った時、私はついに耐えきれずこの世界二度目の昇天を経験した。

「…………っ!!」

 必死に声を押し殺し、吐息だけを熱くする私へケイロンさんが前を向いたまま声をかけてきた。

「街に着いたらまず、クウさんの服を買わないといけません。でも、少し涼しめの服を買った方がいいかもしれませんね」

「……え?そうでしょうか?」

 森を見たところ、季節は初春くらいではないかと思う。少なくともそれほど暑い季節ではない。

「クウさんはどうやら汗っかきなようですから。あ、別に背中が汗で濡れているのが嫌というわけではありませんよ?そもそも私は普段人を乗せる時には鞍を用意しますから、むしろ自分の汗で濡れているのが当たり前ですし」

(……ごめんなさい、あなたの背中を濡らしているのは汗じゃありません)

 私はその事に盛大な冷汗をかいたため、結果的には汗ということでなんとか誤魔化すことが出来たのだった。


***************


☆元ネタ&雑学コーナー☆

 ここから先は筆者が話の元ネタなどを気の向くままに書き記しているコーナーです。

 本編のストーリーとは関係ないので興味ない方は読み飛ばしてください。


〈足の裏のくすぐったさ〉

 足の裏ってくすぐったいですよね。

 でもこの『くすぐったさ』、実は科学的にはよく解明されていないんです。

 皮膚の痛覚や触圧覚、温度覚なんかはその神経や伝達物質がありますが、『くすぐったい覚』の神経はいまだに見つかっていません。

 結果として『複数の神経が複合的に働いて』くすぐったくなるという、曖昧な科学的結論になっています。

 そしてその曖昧さのせいか面白いことを言われてまして、『くすぐったい』というのは『快』と『不快』の狭間の状態であるという説があるんですね。

 これがリラックスした状態だと『快』の方に傾きやすく、要は気持ち良くなるそうなんです。

 そういう点から首筋や脇、脇腹、内股など『くすぐったいポイント』と『性感帯』との関連性まで言及されています。 

 特に相手に気を許していると『快』になりやすいわけなので、恋人や配偶者をくすぐってみると自分に心を開いているかが分かるかもしれませんね。


〈ケンタウロス〉

 割とメジャーな幻想生物だとは思いますが、元ネタのギリシャ神話では『野蛮な種族』扱いされていることはあまり知られていないと思います。

 酒好きの暴れ者で、しかも好色だそうです。

 ただ全員が全員そうというわけではなく、名前を拝借したケイロンは医学や音楽、武術などにも精通している知的なケンタウロスです。

 かの有名な英雄、ヘラクレスやアキレスの師匠でもありました。

 ちなみに夜空に輝く射手座はこのケイロンですから、世界で一番目にされているケンタウロスでしょうね。
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