異世界嫁探し紀行 ※ただし人外に限る

Mr.K

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エルフは人種か人外か問題

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 マキナの報告を受けた一行―といっても、マキナを含めたった三人しかいないが―は深いジャングルを掻き分け、エルフの集落があるらしい方向に向かって順調に進行していた。

「…しっかし、エルフねぇ」
「お?なんだ、乗り気じゃなさそうじゃないの」
「まー、なんというかさぁ…」

 どうにも浮かない顔をしたヴィクターに、ジョンはいつも通りの軽い口調で問いかける。

「エルフっていやぁよ。やっぱさ、排他的なイメージっていうかさ。人間の事見下してそうとか、余所者に厳しいとか、そういうイメージあるじゃん?」
「イメージの押し付け、良くない」
「…まぁ、この際イメージならイメージでいいさ。それで本当は良い連中でした、ってんなら儲けモンよ。けどさ、もしイメージ通りの連中だったらどうする?特にお前なんか…なぁ?」
「俺?俺、どっか変か?」

 不思議そうに首を傾げるジョンだが…はっきり言って、この男ほどおかしな人間もそうおるまい。

 そもそもの話―

「変に決まっとるやろこのタコ助!なぁ、普通に考えておたくみたいな恰好の奴を、『普通の人間』だと思うんか?ええ!?」
「この恰好のどこがおかしい!?」
「じゃあ言ったらぁ!上半身裸なだけならただのコ○ン・ザ・グレートよろしくな蛮族なところが、そのとんがり帽子に後ろのでけぇ卵が、一人では手に負え無さそうな頭のイカれた大男感を更に際立たせてんの!そんぐらい分かれや!」

 そう、感極まって関西弁が漏れ出ているヴィクターの語る通り、ジョンの恰好は間違いなく、『普通の人間』のするそれではないのだ。無論、ヴィクターの恰好ももしかするとおかしな恰好であると思われるかもしれないが、生憎、今の彼らはこの世界を『MoEに限りなく近い世界』であると考えている為、勢力的に言えば魔法文明マジェントとは敵対関係にある機械文明マキナに属する衣類ではあるが、まぁ何とかなるだろうと、そんな風に捉えている。
 だがしかし、ジョンのそれは勢力がどうとか、そんなスケールの話ではない。そも、元々のゲームでも確かにユニークな恰好をするプレイヤーはいたが、ここまでおかしな恰好をするプレイヤーは、ジョンを含めてもほとんどいないだろう。

「なんだとこの野郎。どこからどう見ても立派な魔法使いだろうが」
「どこが魔法使いやねん!?魔法使い要素、帽子しかあらへんやんけ!」
「何!?分からないのか!?この肉体から迸る魔力が…!」
「あーはいはい。熱気と汗でムンムンだね。うんうん」
「ロマンのねぇ事言ってんじゃねぇこのバカ野郎!」
「ホボォ!?」

 一体どの辺りがアウトだったのか。先程までのは別に良かったのか。その辺りは定かではないが、とにかくジョンは額に青筋を浮かべながら、怒りのままに拳を固め、ヴィクターの頬を思いっきり殴り抜いた。

 それはもう、痛みがどうこうというレベルではない。痛みよりも先に衝撃が襲い掛かり、そしてその衝撃は、脳を保護する頭蓋骨へと到達。最終的には頭蓋骨そのものを揺さぶり、内部の脳を震盪せしめた。

…そして、自身の主人たる男に対するジョンの蛮行を、マキナが見逃すはずも無く。

「マスター!…ジョン殿、如何に貴方がマスターのご友人であらせられる御方であろうと、マスターへの狼藉は許されませんよ」
「ほう?面白ェ。一度、アンタともやり合ってみたいと思ってたんだ…」

 何やら物騒な物音を立て、無表情ながらジョンに明確な敵意を向けるマキナに、ジョンも不敵な笑みを浮かべて挑発で返す。

「…ぼえぇ…」

 そんな剣呑な雰囲気の中、ヴィクターはしばらくの間、脳震盪の影響で立ち直る事が出来ず、ようやく助け起こされたのはそれから数分経過してからの事だった。



******



「…申し訳ありません。この体は『主に奉仕せよ』という命を受けて生まれ落ちたものではありますが…その、何分経験がなく…」
「うん、許すからその意味深な感じやめようね?あ、ここを真っ直ぐだっけ?」
「あ、はい。そうです」
「あとジョンは絶対に許さん」
「んだとコン畜生」

 ようやく脳震盪から復活したヴィクターを先頭に、どこかのんびりとした足並みでジャングルを進む一行。マキナはと言えば、先程の事を悔いているのか、非常に申し訳なさそうにしながらヴィクターの二歩後ろをふよふよと浮遊しながら前進し、ジョンは彼女から右に少し離れたところを、釈然としない態度で歩いている。
 ただ今現在進行中でエルフが襲われているというのに、そんな調子で本当に大丈夫なのか怪しくなるが、まぁ何とかなるのだろう。…なるんじゃないだろうか。多分。

 と、そんな時、ジョンはヴィクターの元へと駆け寄る。
 その顔には、先程までとは打って変わり、ニマニマと笑顔を浮かべている。

「で、どうなんだよ」
「どうって…何が?」
「エルフのところに行くのが乗り気じゃない理由さ。実のところは?」
「…好みじゃない」
「具体的には?」
「ロボ娘じゃない」
「もっと」
「あの冷たさを通り越して暖かみすら感じられる鋼鉄の皮膚。感情を押し殺したというより、感情そのものを知らないような、無垢な無機質さ。それに…」

 そこまで言うと、ヴィクターは黙り込み、ただチラチラと、後ろにいるマキナを見やる。
 「どうしたんでぇ」とジョンが問いかけてみれば、ヴィクターは「耳を貸せ」と、ジョンの耳元に口を寄せ、手で声が漏れないように隠すと何事かを囁く。

「…は、ハッハッハ!」

 話し終えたヴィクターがジョンから離れると、ジョンは何がおかしいのか、高笑いを始めた。

「わ、笑うなやい!」
「ヘッ、だってよ、んな童貞クサい…」
「え、ええやろーがよぉ!夢見たってなぁ!」

…つまり、そういった旨の内容だったのだろう。これには愉快だと、ジョンは高笑いを繰り返す。

 そんなやり取りをする前方の二人を、マキナは無機質な瞳で見つめていた。

 そんな彼女をヴィクターが見れば、きっと不思議そうにしていると感じていただろう。

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