異世界嫁探し紀行 ※ただし人外に限る

Mr.K

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冒険には目的が付き物

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 思えば、何故MoEを始めたのだったか。
 ヴィクターは静かに目を閉じ、その切っ掛けとなった大切な思い出を記憶の奥底から掘り起こす。
 そう、あれはいつも入り浸っていた『人外を嫁にしたい奴、集まれー!』とかいう名前で作られていたネットの掲示板での出来事だった―

『うはwwwwこのゲームwwwwファンタジー物なのにwwwwロボ娘可愛すぎwwww』
『マジ?やるわ』

―しかしながら、そんなに凝った話は無かった。あとあの頃のヴィクターは割とチョロかった。
 ちゃんと内容は面白かったし、それに登場する機械文明マキナの女型ロボットモンスターはどれも可愛かった為、結果オーライではあったが。

 そうしてMoEを始め、実はレベルを上げないとサマナーになれない事を知ったり、クエストをこなさいと好みのロボ娘もといモンスターがパートナーにならない等という現実を知りながら悪戦苦闘を続けた。それが縁でジョンと出会い、そして自分と同じように人外が好きな者達とめぐり合い、そしてしまいにはギルドまで立ち上げた。
 あの頃は本当に楽しかったと、ヴィクターは思う。何せ、人外の存在との交流がまともに存在するゲームなど、大して無かったのだ。
 今後、似たようなゲームが登場する可能性はなきにしもあらずだが、それでも一番愛着のあるゲームは何かと訊かれれば、ヴィクターは迷わずこう答えるだろう。「MoEだな」、と。

「いやぁ、マジもんの異世界?MoEっぽい感じの?ってぇこたぁ、ねぇ?うひひ…」
「おいおい、気色悪い笑い方してんじゃ…うへへ…」

…が、しかし。いくら愛着があるとは言っても、所詮はゲーム。即ち、架空の世界でしかない。
 いくら理想の世界だからと言っても、MoEではそもそもNPCとの結婚機能すらないのだ。ましてや、人外との結婚などできるはずもない。というか、その可能性すら普通は考えられないだろう。
 彼らとて、それぐらい重々理解している。それを理解した上で、というより、だからこそ、彼らは人外好きを拗らせ、人外娘を嫁にするなどという、本来なら叶うはずもない夢想を抱くのだ。

 だが、ここは異世界。そしてこれは、夢ではない。紛れもない現実だ。そしてその現実は、彼らの中にある、一つのタガを外す。

「俺、ココデ、ヨメ、作ル」
「お前なんか退化してんぞ」
「だってよ。ここ異世界ぞ?ファンタジーぞ?絶対高貴で気品溢れて文字通りの高嶺の花で、それでいて普段はプライド高そうだけどデレると頭をスリスリさせてくる麗しの雌ドラゴンがいるに決まってるだろォ!?」
「分かるけど理想高すぎなぁい?あと雌って。雌ってお前…」
「あと強敵を前にして慄いてるところに、首撫でて温めてあげたい」
「お前それゲームの話…」
「あとフ○ック」
「それ以上はよせ!」

 ここが紛れもない現実の世界であるという事は、即ち己の願望が叶うチャンスがあるという事だ。よしんば夢の中だとしても、それならそれでいい。とにかく、夢を叶えるチャンスなのだ。

「てかよく考えなくても、お前もう嫁いるじゃん。セッ○スできんじゃん」
「だからよせっつってんだろ!…まぁ、アレだ。どうもパートナーではあっても、こう、恋人的な?そんな甘い感じはないっつぅか…」
「ふぅん。ならお前の目的は、フラグ建てて好感度上げて、あわよくばセッ」
「おい」
「…イチャイチャするって所か」
「That's right.」
「…OK、まずはどっちに行こうか決めようや」
「No reaction!?Why!?」

 特に意味も無く、微妙なネイティブ感を醸し出す英語による返事を唐突にしだすヴィクターだが、そんな彼にも、此処でやる事がある。
 確かに、彼は今のマキナのような無機質さも好きだ。というか、元々そういう手合いのロボが好物だ。だが、そこから人間性を得ていくロボというのも彼の好みだ。というか、余程ロボと呼ぶ必要性がないレベルでメカニカルな要素がないようなキャラでなければ、基本的に彼の好物だと言っても過言ではない。

「で、マップは?」
「え、何?お前さんまだ確認してないとか?」
「え、何?確認してないの俺だけ?」
「まぁ今んところ、俺とお前しかいないしな。というわけで、未だに確認してないヴィクター君に残念なお知らせです」
「…やーな予感しかしない」
「マップどころかメニュー画面も開けません」
「やっぱりだもぉぉぉぉん!!!」

 サラッと衝撃的な事実を明かされたが、よくよく考えたら装備品が今着ている物以外にないのだから、当然ストレージ等も確認できていないというわけで。つまりそれは、メニュー画面がそもそも開けないという意味でもあり。
 そんな単純な事実にしばらくして気付いたものの、それはそれで逆に自分がマヌケなように思え、ヴィクターは逆に気落ちしてしまった。

「…おや、なにか問題でもございましたか」

 と、そんな時に。相変わらずの抑揚のない語調で、マキナが話すのが聞こえる。それも、すぐ後ろで。
 そうして振り返ってみれば、マキナは足音も無くヴィクターの背後にやってきていた。

「ウワッ!…あー、ビックリした。全然気づかなかった…」
「全然気配も無かった…コイツ、できる…!」

 あまりにも唐突過ぎた為に軽く心臓が止まりかけていたヴィクターに対し、ジョンはどこか、強者を求めて戦い続ける格闘家のような雰囲気を醸し出し、そのただでさえ濃い顔に笑みを浮かべる。
 いつもながら、コイツの頭の中どうなってるんだ、などと思いつつ、ヴィクターはそれまでに分かった事を、何とかマキナに伝わるように纏めつつ、彼女にその概要を話した。まさか、彼女に「実はキミはゲームの登場人物で、ここはゲームの世界なんだ」と言うわけにもいかない。

 しばしの間、マキナは彼らの話す内容に耳を傾け、それからふむ、と何かを思案すると、「それでしたら」と彼らに切り出す。

「この先に、原生生物の群れと、その群れが形成した集落らしき場所が確認できました。外見的特徴から察するに、恐らく『エルフ』種かと思われますが、いかがいたしましょう」
「…エルフ?」

 エルフ。言わずもがな、ファンタジーに登場する有名な亜人種の名前だ。それは、MoEにおいても変わらない。
 人類種よりも長命。それでいて、誰もかれもが美形で、とりわけ目を引くのは、その長い耳。魔法の扱いに長け、近接戦闘よりも弓による中・遠距離戦が得意な、自然を愛する種族。
 エルフがいるのならば、彼らと接触して何かしら情報が得られるかもしれない。彼女が言いたいのはそういう事だった。

 ただ、と彼女は続ける。

「どうやら、現在進行形で別の種族からの襲撃を受けているようで」
「え?」
「穏やかじゃないわね」
「ムサいからやめろ。…で、どの種族が襲ってるんだ?」
「はい。目視で確認した限りでは、集落を襲っているのは『オーク種』かと」
「…おっとぉ?」

 瞬間、二人とも「どこかで聞いたような組み合わせだな」などと思ってしまったのは言うまでもないだろう。
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