異世界嫁探し紀行 ※ただし人外に限る

Mr.K

文字の大きさ
上 下
4 / 7

異世界に来たからチート能力得られると思うのは甘え

しおりを挟む
「こ、この野郎…相変わらず戦闘能力高いし…やる事がエグいんだよマジで…つかなんで痛覚があるんだこれ…」
「あれでもまだ全力じゃないんだがな」
「マジッスか」
「恐れながら、止めた私から言わせていただくと、全体のスペックの七分の一も発揮されていないかと」
「マジッスか…」

 それを聞くと、ヴィクターは途端に元気を無くす。
 このジョンという男とは、リアルも含めてかれこれ三、四年ほどの付き合いだが、正直彼が一体何の仕事をしているのか、それどころかゲームをやる事以外のプライベートに関して全く知らないし、皆目見当もつかない。
 ある時は中東のどこそこ―後で調べてみると、大絶賛紛争中の地域だった―で仕事をしてきたとのたまい、ある時は秘境の遺跡に高名な探検家と一緒に向かい、ご丁寧に自撮りまで送ってきた事もあった。その時の写真の背後で、何やら遺跡のオブジェが怪しげに光っていたのだが、きっと光りの反射か何かだろう。とりあえずヴィクターはそう思い込む事にした。

 まぁ端的に言ってしまえば、そんじょそこらの主人公よりも主人公をやっていそうな男、それがジョンであった。

「良いよなぁ…そんないい体つきしててさ」
「そんな意味深な事言われても困るんだが、そもそもこの体、アバターのまんまだからな?あと、お前もなんやかんやでハッタリかましてとんでもねぇ事するよな」
「?とんでもねぇ事とは?」
「マキナさんや、そこを真似る必要はないんじゃよ。…いや別にぃ?そんなやましい事なんて…」

 途端に目を泳がすヴィクター。しかしツッコミを入れるべき所にはきっちり入れていく。律儀にツッコミを入れるのは、関西人の性か。無論、本人にそれを言っても否定するだけなので、ジョンは口にしない。

「いやな。コイツ、前についうっかりヤのつくヤバい職業の人のお財布からお金をな…」
「あー!あー!ナンデモナーイ!キコエナーイ!」
「とぼけちまってぇ…」
「本当に何もなかった、いいね?」
「アッ、ハイ…なんて言うと思ったかブァカめ」
「このヤローッ!」

 そして、しばししょうもない漫才をやりつつ、数分後。

 ようやく一段落ついたというところで、マキナが自ら周辺警戒を買って出た為、残された男達二人は、現状の把握に努めていた。

「で、なんで装備品一切無くなってるんですかねぇ…?」
「知らん。てか、ガチャ回す為に服以外全部売ったテメェが言う事か」
「課金してたまるか!」
「変な所でプライド高いよなお前…」

 こんな会話をしているが、ちゃんと現状把握はやっているのである。やっているったらやっているのだ。いいね?

「ところで、ここってどこなんだよ。密林エリアっぽいけど」
「ああ。MoEで見覚えのある植物をチラホラと見かけた。だから、どういうわけかログアウトできていない、という可能性も無きにしも非ずだが…」
「多分、違うと思うんだよなぁ。もしそうならGMコールなり何なりできるはずだし」

 それに、と続けながら、ヴィクターは自分の頬を抓る仕草をする。

「痛覚がある。おかしいと思わないか?VRゲームで痛覚を感じたなんて話、聞いた事ないぜ」
「一応研究はされてるらしいが、実用化はされてないって話だしな」

 MoEを含め、この手のVRゲームは、プレイヤーはダメージを負っても痛覚を感じる事はない。それこそ、暴力性の高い格闘ゲームやFPSといったゲームも含めて、だ。
 ジョンの言う通り、どこそこの国ではよりリアリティのあるゲームを作る為にと、脳が痛覚を感じ取るようにする研究が行われているという話は、ヴィクターもニュースサイトで目にした事がある。だが、実際に実用された時に痛みによるプレイヤーのショック死もあり得る為、実用には至らないだろう、というのが一般的な見解である。

「…待てよ?つまり、なんだ…そういう事、なのか?」
「…まぁ、そういう事なんじゃないかな、と」

 そこで、ジョンが少しばかり遅れる形で、ようやく二人の考えが一つの着地点へと導かれる。
 それは「現実的に物を考えて」、と言ってしまえば否定されるだろうが、生憎と既に現実離れしてしまっている彼らの頭は、それらを超越した真実に辿り着いていた。寧ろ彼らに言わせれば、この現状を見て「これは現実ではない」と言ってしまう方が、現実を見ていないのだ。

「…ここ、リアルMoEの世界?」
「…かも、しれんね」

 一見すれば、割と絶望的な現実。しかし、読者の皆様がこれを読んでいるという事は、恐らくあらすじもちゃんと読んでくれているのだろう。ならば分かるはずだ。今この時点で、彼らが何を考えているのかを。

 その二人の顔は、何やら良からぬ事を考えているような、実に意味深な笑顔を浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?

BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。 婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。 この場所で貴方達の味方はいるのかしら? 【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...