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第九章【セントラル】

9-57 全ての終幕

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―――上空地点にて。
魔剣士は雲にも手が届きそうな位置で停止すると、集中を始めた。
すると、魔力の集中に伴い、異様な事態を察知した"彼女"が目を覚ました。

ウィッチ(……魔剣士、何だこの状況は)
魔剣士(やっと目を覚ましたか、寝坊助が!)
ウィッチ(どうやら猛竜騎士の幻惑を解き、ブリレイを倒したようだが…、しかし幻惑の感染など…まさか……!)
魔剣士(解除方法なら分かってる。白姫の言葉でスッキリと覚悟も決められた!)

ウィッチは魔剣士の記憶と考えを瞬時に同調し、魔剣士がやろうとしていることもすぐに理解した。

ウィッチ(待て!本当にこれをやるつもりか!?)
魔剣士(オッサンだって理解してくれるはずだ!)
ウィッチ(そういうことじゃない!これをすれば、お前と白姫は……。それどころか、お前は世界から……)
魔剣士(もう決めたことだ!)

わずかな時間の集中でも、膨大な闇魔力を操るのには充分過ぎた時間だった。地上で猛竜騎士にリヒトが伝言を伝えた頃、魔剣士の集中した魔力も展開を始めた。

魔剣士「ぐっ…、うぉっ…!!」

無敵の身体でも、ミシミシと骨が軋む。以前、地下室でやった"強大な魔力"操ることがどれほど辛かったかを思い出した。

ウィッチ(お前の幸せは、それでいいのか……)
魔剣士(黙ってろ!俺の幸せは、白姫が望んだ世界を造ることなんだッ!!!)

―――刹那。
国民同士で血を流す中、天高くでそれは起きた。

幻惑に掛かった者たちですら振り向くほどの爆音が、鳴り響く。

全員が空を見上げる。

猛竜騎士は「よろしく」の一言を、それで理解する。

仲間の者たちですら、圧倒されたその姿。

天に現れたのは、雷鳴轟かせ、悪魔を模した巨大な顔であった。

魔剣士「ぐっ…ぐぎっ……!お、重ッ……イッ……!!」

その光景はセントラルの都市部に留まらず、セントラル領地内のほぼ全て、南方港の民たちにも見えるほどの強大なものだった。

ウィッチ(魔剣士!体内の魔力が乱れ過ぎている!)
魔剣士(な、何……!)
ウィッチ(お前、眼は見えているのか!以前、アサシンにやられた時から光を失いつつあっただろう!)
魔剣士(……聴こえねェ!見えない、何も…!俺はちゃんとできているのか…!)
ウィッチ(ま、魔剣士…!)

アサシンの攻撃で生死を彷徨った時に受けた傷は、肉体を蝕み始めていた。普通なら治癒するはずの傷も、そればかりは、魔法化が完全に済む前に身体をバラバラにされていたため、肉体が"失うことを当然としている"まま魔法化として保存されてしまっていたのだ。

魔剣士(くっ、だけどこれだけだけじゃ…まだ……!)
ウィッチ(これ以上は止せ!!本当に二度と光を感じることも、下手をすれば魔力化した身体が!)
魔剣士(俺はバーサーカーだ……!そもそも、二度と光を見ることなんて…出来や……しないんだよォ!!!!)

更なる集中。魔剣士は限界の中でも魔法で"拡声"し、国民たちに呼びかけた。
魔剣士はほとんど意識を失い始めていた状態だったが、芝居にも近いこれは、リッターに教えられた役作りに感謝せねばならないと薄っすら笑っていた。

「―――…セントラルの民よ!」

一人ひとりの心に、声が響いた。
戦いをしていた国民たちも、天に現れた悪魔の姿に圧倒され、動きを止めている。

「我はバーサーカー……。失われし古き戦神……!」

重く、ビリビリと身体を震わす声。バンシィと白姫も、恐怖にわずかに手が震えた。

「我はブリレイと共に全てを手に入れる筈だった!だが、奴めが自分の望む世界にしようとしたせいで全ては失敗した!我の自由にならない世界なのだとしたら、こんな世界はもう要らぬ!!暗黒の世界に導いてやろう!!!」

白姫「魔剣士……」
リヒト「確かに国民たちの戦いを止めた…だけど……」
バンシィ「それも、一時に過ぎない…。お兄ちゃん、どうするの…?」
リッター「……ゲホゲホッ!いや、一時には終わらせないつもりだ…しかし…」
リヒト「ど、どうやって……」

天高く現れた悪魔は、瞳に"黄金色の輝き"を宿した。
その瞬間、既に気付いていた猛竜騎士を除き、ようやく彼がしようとしていることを理解する。

猛竜騎士「あいつは…、魔法をやるつもりなんだ……」
リヒト「魔法ですか!?」
白姫「何の、どういう魔法を……」

……簡単なことだ。だが、それ以上に悲しむべきことを。

猛竜騎士「……この黄金の感覚は、幻惑魔法だ。ブリレイの魔力で掛けられた魔力より、生命力溢れバーサーカーとして完璧な魔剣士の魔力なら上書きを出来る」

重ねての幻惑魔法。ブリレイが死んだ今、解除できる者は消えた。殺すか、驚かせるか、どちらも無理な話である。だとしたら、魔剣士が考えたのは"長けた感知"で感覚的に習得していた幻惑魔法をぶつける他はなかった。

猛竜騎士「アイツの言葉は、自分を世界の敵として見せたんだ。ブリレイがやろうとしていた"敵"となって、国民たちの幻惑をかき消し……」
バンシィ「ちょっと待って…。待ってよ…。それじゃお兄ちゃんは、これを見た全ての人たちを…自分の敵にしようと……してるの……?」
猛竜騎士「もう、浸食され始めている。俺やお前たちは魔剣士の魔力に長く触れていたし、俺の言葉もあってアイツの幻惑にはかからないだろうが……」
バンシィ「ま、待って……」

猛竜騎士は、他の声を無視して槍を構えた。

猛竜騎士「覚悟を決めたということと、アイツの言葉。それを裏切ってはいけないだろう……」
リヒト「猛竜騎士さん、その槍は」
猛竜騎士「アイツの"よろしく"とはこういうことだ。リヒト、お前も闇魔力を有しているんだったな」
リヒト「ブレイダーの意識がない今、魔剣士さんほどじゃないですが……」
猛竜騎士「生憎、俺は属性に飛んだ魔法を上手く扱えん。足場のサポートをして、あの悪魔まで飛ばしてくれるか」
リヒト「どうするつもりですか…?」

槍を回し、矛先で悪魔の顔を差した。

猛竜騎士「これが望んだことだ。白姫、お前と魔剣士は既に覚悟を決めているんだろう?」

白姫は悲しそうにしながらも、静かに頷いた。

リヒト「まさか、魔剣士さんを"討つ"んですか!?」
猛竜騎士「アイツは死なないさ。そう見せるだけだ」
リヒト「でも、そんなことをしたら本当に魔剣士さんは"世界の敵"になってしまう!」

既に幻惑は発動された。しかし、まだ魔剣士が魔法を止めれば彼が英雄となる未来だってある。だが、攻撃をして倒したのなら、国民たちは折角"英雄"とし始めていた魔剣士を"悪魔の象徴"として、絶対的に認識しまうだろう。

リヒト「そ、そんなことは…!魔剣士さんが悲しすぎます!」

本人が覚悟を決めたといっても、リヒトは愕然とした。バンシィは膝を落し、魔剣士の造り上げた悪魔を見上げる。白姫は目を閉じ、何かを必死に考えていた。

リヒト「魔剣士さん…どうして……」

動くことが出来ないリヒト。
すると突然、魔剣士の声がリヒトの心に響いた。

魔剣士(リヒト、コラァ!!)
リヒト(魔剣士さん!?)
魔剣士(俺の意識はもう持たないんだ!早くしろ、オッサンに派手な魔法を使って俺を貫け!!!)
リヒト(で、でも…!魔剣士さんがこんなこと…………他にやり方は……!)
魔剣士(無かったのはお前だって分かってるはずだ!頭が良くても、ガキかテメェは!!)
リヒト(魔剣士さん、子供だとしても、僕は……!)
魔剣士(うだうだ言ってねーで早くしろ!!折角のチャンスを逃す…な……!!マジで…意識が……持たないんだ……!!)

段々と弱くなっていく声。魔剣士があれほどに凶悪で強大な力を操るのも限界だった。

魔剣士(良いんだ…俺は……。早く…無駄に……するな……!)
リヒト(ま、魔剣士…さん……)
魔剣士(早く……し……)
リヒト(……ッ!)
魔剣士(無駄に…す…る……な…………)

彼のか細い声を聞いて、心が動く。リヒトとて、本当は自分を救い出してくれた魔剣士にこんな真似はしたくなかったのだ。救われた時から、自分は魔剣士のために尽くそうと思っていたから、自分の魔法で貫くなど、考えたくもなかった。

リヒト「―――猛竜騎士さん、サポートします」

だけど、魔剣士さんが望んだことなら、何も言うべきじゃなかったとようやく分かった。覚悟を決めた。

猛竜騎士「頼む、負担をかけるな」
リヒト「いえ。全力で行きます。体内ではなく外部での風魔法を展開し、僕が操作しますので、槍の攻撃は任せました」

"パチン"と指を鳴らすと、猛竜騎士の脚部分に緑色の魔法が展開する。

白姫「魔剣士をお願いします…。みんなを、お願いします!」
リッター「頼んだぞ、未来は…あとは……」
バンシィ「お兄ちゃんが敵だなんて…嘘…嘘だ……」

リヒトと猛竜騎士は、暴風を経て、魔剣士の待つ天へと飛んだ。

猛竜騎士「すまん、恩に着る!」
リヒト「いえ…。でも、できればこんなやり方はしたくなかった……!全部、僕のせいで……!僕にもっと知識があって、門を変に解除しなければ……!」
猛竜騎士「誰のせいでもない。そういう"時代"だったんだ」
リヒト「時代という言葉では、僕のやってしまったことは……!」
猛竜騎士「謝るくらいなら行動するんだ。俺が操られたことも、君が反省すべき点も、行動で示す。もしそうじゃなかったら、アイツは本気で怒るだろうよ」
リヒト「猛竜騎士さん……」

雷の"バチバチ"という轟音は更に強くなる。目の前には"悪魔の顔"を形成する魔力渦があり、二人はその中に飛び込んだ。

リヒト「これは、闇魔力の魔力が…具現化したものでしょうか……」
猛竜騎士「悪魔の顔の内側に、こんな温かさが……」

外側こそ悪魔の顔だったが、形成する魔力の内部は光に輝いていた。ここが天国なんだと言われても納得してしまうような、心にほんのりした温かさすら感じる。

猛竜騎士「むっ…!?」

そして、光の中を走り続ける二人に、突如、魔剣士の声が聴こえた。
これは魔剣士が願ったものではない。あまりにも強大をイメージし過ぎた魔力は、1つの自分の世界を作り出してしまっていたのだ。真に成長を続けたバーサーカーとは、神にすら近い存在となれるものなのだろうか。

「……お母さんが、死んじゃった…の…………」

猛竜騎士「これは、昔の魔剣士の声か……」
リヒト「想いと感情が…なだれ込んでくる……!」

「もーりゅうきしさんは、いっつもここで色々売ってるんだね!」

猛竜騎士「……この声。懐かしいな…俺が市場に居た頃の思い出もあるのか…」

「俺はねー、いつかぼーけんしゃってやつになるんだ!」

猛竜騎士「そういう時代も…あったな」

「ほら、今日はアカノミを沢山とれたんだ!すごいでしょ!」

猛竜騎士「いつもこいつは、まともな価値も知らずに採ってきて…。腐ったアカノミを1,000ゴールドで買ったこともあったな……」

「……今日は初めてウルフを倒したんだ!引き取ってくれるよな!」

リヒト「段々と、大人になっていくんですね」

「今日は獲物がなかった。けど、次は持ってくるから先に金だけくれよ!」

猛竜騎士「段々と生意気になっていったの間違いだ」
リヒト「あ、あはは……」

―――魔剣士の成長の声が響く。
だが、これは彼が望まないことだ。猛竜騎士とリヒトは速度を上げ、光の魔力を突き進んだ。

猛竜騎士(…ッ!)

速度を上げる中で、猛竜騎士は魔剣士の本当の想いが流れ行った声で知ったが、それは聞かない振りをした。それは、魔剣士の覚悟を無駄にしてしまうものだと思ったから。

「本当は白姫とずっと一緒に居たい。オッサンと冒険したい。それでも、俺一人の犠牲で白姫が望んだ世界を造れるなら、それでいいんだ!!」

猛竜騎士「魔剣士……」

その声は既に遥か遠くに流れて行った。やがて、リヒトは前方に魔剣士を見つける。

リヒト「……見えました!」

光の道の先で、魔剣士の本体がこちらを見ていた。瞳は虚ろだが、まだ僅かに意識はある。

魔剣士「や、やっと来たか…クソ野郎ども…が…………!」
猛竜騎士「すまない、遅れたな……!」
リヒト「申し訳ありません!」

魔剣士は両腕を張り、十字の状態で宙に浮いていた。

猛竜騎士「魔剣士、良いんだな……」

槍を魔剣士に向ける。

魔剣士「あぁ、ひと思いにやってくれ」
猛竜騎士「……まさか、お前と世界を救う一世一代の芝居をうつ日が来るとは思わなかったぞ」
魔剣士「オッサンは即位式の劇に出られなかったからな…。最低の役を渡してやったんだよ……」
猛竜騎士「フッ…。魔剣士、色々とすまなかったな……」
魔剣士「―――そんなこと気にするタマか?話す暇があったらさっさとやってくれ!」

笑いながら言った。これ以上、覚悟を揺らぐ言葉をかけることは酷なだけだ。猛竜騎士も静かに笑い、言った。

猛竜騎士「スマートに行こうぜ」
魔剣士「終わったら煙草、吸ってみるかな……」

強大な魔力を打ち破るには、相応の威力が必要になる。
リヒトは全身全霊を込めて、猛竜騎士自体に干渉しないように体の"外側"と、槍の矛へと魔力を集中する。

リヒト「……威力高めます!魔剣士さん、衝撃に備えてください!」
猛竜騎士「あとで元気な姿を見せろよ!」
魔剣士「ったりめぇだ……」

矛先に青色の魔力が具現化し、纏わりつく。槍が"竜"の形を描き、魔剣士の肉体に刺さった。

魔剣士「…ッ」
猛竜騎士「……ッ」
リヒト「…っ」

そして、槍は魔剣士の身体を貫く。
"……ザシュッ…!"

猛竜騎士「…ッ!?」

驚くべきことに、猛竜騎士の手ごたえは人を刺すそれと同じで、一瞬"魔剣士の肉体を滅ぼしたのではないか"とひやりとした。魔法化し身体は煙を斬るようなものと思っていたので、魔剣士が受け続けていた攻撃が"本気の痛み"を感じているだろうということを理解し、情けないな…と涙を流した。

リヒト「……く、崩れます!地上へと戻ります!」
猛竜騎士「あ、あぁ……!」

光の世界は音を立てて崩れ始める。
また、この位置からでは分からないが、猛竜騎士が魔剣士を刺した瞬間、外側では驚きべき光景が広がっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
―――地上サイド。
リヒトと猛竜騎士が発って1分か2分程が経過したところで、異変は起きた。

白姫「あっ…!?」
リッター「これは……」

天を覆っていた悪魔の顔が、中心あたりから雲の切れ間に差す一筋の光によって切り裂かれ始めた。そして、悲痛にも似た声が全ての民の耳を痛める。

「ぐっ…、ぐあああぁぁあっ!!!」

それは一瞬だった。悪魔の顔に走った光の亀裂は、縦に伸びたあと、中心から両脇へと伸びて十字を描く。リッターの魅せた十字斬に似た軌道を描き、悪魔の顔は一気に弾け飛んで地上にも届く暴風を吹き荒した。

白姫「きゃああっ!?」
リッター「大丈夫か…。雨も…止んだようだ……」

光は、雲を割って広場の中央を差し込んだ。そして、天高くからゆっくりと降りてくる"猛竜騎士"と"リヒト"の姿があった。猛竜騎士の右腕には、まだ青の光を帯びた竜の形を成す槍があり、国民たちはまるで夢物語を見ているかのように圧倒され、思惑通り"幻惑を破壊するほどの光景"によって、既に落ち着きを取り戻していた。

白姫「ま、魔剣士はどこに……」

魔剣士の存在がいないことに、白姫は名前を呼んで走り出そうとした。しかし、リッターはそれを止める。

リッター「白姫様、もう魔剣士の名前を呼んではいけないんだ」
白姫「リ、リッターさん…!」
リッター「分かっている筈だ。魔剣士の存在は恐るべき存在として、国民たちの心に刻まれてしまったんだ。見ろ……」

正気を取り戻し始めた国民たちの声が、聴こえてくる。

「魔剣士ってやつは、最悪な奴だったんだな……」
「白姫様をたらしこんで、俺らまで操ろうとしてたんだ!兄貴を…俺はこの手で……」
「早く治療院に行って来い!クソッ、信じた俺らをよくも……!」
「それで、白姫様は無事なんだろうな!誰か確認しろ!!」
「……それで、魔剣士は死んだのか!?あの槍使いがやってくれたんだな!?」

国民たちの声は、魔剣士に対する罵倒ばかりが乱れ飛ぶ。白姫も、既に隣で愕然とするバンシィと同じく膝を崩した。

白姫「ま、魔剣士……」
リッター「白姫、バンシィ…。これは国民を落ち着かせるためだ。人が何かに恐怖した時、一番の団結をするということをアイツは知っていたんだ」
白姫「アサシンの…時みたく…」
リッター「本来、ここまで国の内部を荒されたら国情はボロボロになる。しかし、国民たちは魔剣士という敵の象徴を糧に、団結し、未来に向かって考えようとしている」

自らを犠牲にし、国を救った。世界を救ったのだ。

白姫「…」

騒ぎは直に落ち着いていくはず。しかし、その時に傍に彼はいてくれるのだろうか。

白姫(魔剣士……)

拳をギュっと握り締める。だが、バンシィは許せなかった。

バンシィ「嫌だ……」
白姫「……バンシィ?」

彼女は立ち上がり、肩を震わせた。

バンシィ「お兄ちゃんがあんなに頑張ったのに、みんなに嫌われるのなんて嫌……」
白姫「バンシィ!」
バンシィ「絶対に嫌、こんな世界、魔剣士お兄ちゃんがいなくなる世界なら、私はいらない!!」

両腕を地に着け、詠唱を始め、魔力を集中する。

白姫「バンシィ、何を……!」
バンシィ「この国の人たちがいなかったら、お兄ちゃんは英雄だった!だったら、私が全てを壊す!!」
白姫「だ、ダメ!!これは魔剣士が犠牲にしてまで守りたかった人たちなんだよ!!」
バンシィ「煩い煩い煩い煩い!!魔剣士お兄ちゃんは英雄だから…!私も、みんなも、お姉ちゃんも救ったのに!!」

彼女の周囲に青い陣が浮かび上がる。とっくに限界を迎えていたバンシィだったが、魔剣士のことを想えば死を覚悟しても戦う覚悟があった。

白姫「バンシィッ!!」
バンシィ「こんな世界、私が壊して……!!」

"――…トスッ!"
一撃が、バンシィを気絶させた。

リッター「馬鹿者が……!」
白姫「リッターさん!」

脇腹の傷は癒えていないが、油断したバンシィを気絶させるくらいは容易だった。

リッター「兵士に…、バンシィを地下牢で様子を見させるぞ……」
白姫「そ、そんなこと!?」
リッター「彼女は魔剣士を想い過ぎているだけだ…。すぐに落ち着く…。お前が話かけてやれ……」
白姫「は、はい……」

倒れるバンシィを抱える。すると、向こう側から猛竜騎士とリヒトが歩いてきた。

白姫「リヒトさん!猛竜騎士さん!」

白姫は走って、猛竜騎士の胸に抱き着いた。

猛竜騎士「白姫……」
白姫「魔剣士は…、魔剣士はどうだったんですか……」
猛竜騎士「……俺の槍に貫いたが、アイツは死にはしない。ただ…」
白姫「ただ…?」
猛竜騎士「この状況だ。暫くは顔も出せないだろう。しばらくすれば、世界中にこの情報は流れる。ただでさえ賞金首として顔を知られているんだ、これからアイツは……」

―――世界のどこにも居場所がなくなる。
そんなこと、言いたくなかった。

猛竜騎士「最低だな。世界を救った本人が災厄と呼ばれるなんて……」

悔しさに、歯を強く噛んだ。だが、泣き言を言っていられないのも事実だ。

猛竜騎士「ハイルは馬、地下牢にいる。だが、ハイル、ブリレイ、魔剣士が悪とされた以上、残ったハイルも……」
白姫「……分かってます。大丈夫です…」

処刑しなければならない。新たな世界のため、革命を起こすために。

猛竜騎士「これから忙しくなる。白姫、俺たちを頼り、セントラルを再生するんだ」
白姫「……はい。きっと、みんなが笑顔の最高の国を作りたいと思っています」
猛竜騎士「強くなったな。お前なら出来るさ」
白姫「有難うございます…。魔剣士は、絶対に顔を出してくれますよね。戻ってきて…くれますよね」
猛竜騎士「当たり前だ。何たって、魔剣士はお前を大好きだからな」
白姫「……はいっ!」

先ほどまでの雨は嘘のように、いつの間にか雲ひとつない青空が広がり始めていた。まるで世界が、それを祝福するように。

白姫「魔剣士……」

…………
……


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