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後日談(短編)

一世一代の~エピローグ①

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「リクハルド様のハレの日だったのに本当にすみません」
「いや、卒業式とか別にどうでも良かったし。そもそも学校行ってないし」
「そうかもしれませんが…」

王立学校から乗り込んだ馬車内は私の一方的な謝罪の場となっていた。
今更ながら本当に浅はかだったと思う。強硬日程だったが為にトラブルに巻き込まれるかもしれないという想定をして動かなかった。ギリギリでも間に合えばオッケーと甘い見通しをしてしまった自分をぶん殴ってやりたい。
リクハルド様は気にしてないと笑うが、少なくともパーティーは楽しみにしていたんじゃないだろうか。

「慣例も破りましたし…」
「慣例は慣例だから絶対に守らなきゃいけないってことじゃないぞ」

この懐の深さはいったい何なのだろう。何だかまた泣きたくなってきた。

「さっきも言ったがティナが無事に戻ってきたのならそれでいい。もう気にするな」
「……はい」
「それよりイヴァロンの被害はどうだったんだ?」

もう謝罪は終わりとばかりに話題変えられた。確かにこれ以上謝り続けても不毛だろう。

「幸い人家には被害もなく怪我人はいませんでした」
「そうか。良かったな」
「ただ栗の群生地に程近い場所が少し崩れまして」

一度土砂崩れが起こると連鎖的にまた起こるかもしれない。この辺りは専門家と相談し、必要な対策を確認して再び行く予定にしている。

「そうか。じゃあ次は俺も行くわ」
「え、でも公務で忙しくなるんじゃ…」

学校を卒業したことだしこれからは本格的な公務が増えてくるだろう。
それなのにシルキア領にばかり構っていては他の領地から不満が出るのではないか。

「それぐらいは調整できるから大丈夫だ」

申し訳ない、と断ろうとしたがものすごく優しい顔で微笑んでいるからこれ以上首を横に振ることはできなかった。

「…それなら一緒にお願いします」
「うん」
「そういえばこの馬車どこに向かっているんですか?お城とは逆方向のような…」

ちらりと窓の外を見ればいつもと景色が違う気がして不思議に思っているとリクハルド様が思い出したように口を開く。

「ああ、キルスティ湖のほとりにある別邸にな」
「え」
「今夜はそこで泊まろうと」
「!」

途端えも言われない緊張感が一気に押し寄せてきた。

(それは、もう、そういうこと前提だよね…)

そういった方面も準備出来なかったことを心底悔やむ。わかっていればシルキア伯爵家のエステティシャン並みの腕を持つメイド達にお願いしてつるつるのピカピカに仕上げてきたのに!
肌や髪の手入れどころじゃなかったからかつてないぐらい乾燥でボロボロだ。

「お、着いたな」

悶々と後悔している間にも目的地に着いてしまったらしく、手を借りて馬車を下りる。
そして顔を上げた時、後悔など一瞬で吹き飛んだ。

「わぁ…素敵な場所」
「少し小さいがいい場所だろう?」

湖がすぐそばにある緑豊かなロケーションに可愛らしいコテージが幾つか建っている。その中でも一番大きな建物だけに灯りがともっているので今夜はあそこに泊まるのだろう。
仄かにライトアップされた小道をエスコートされコテージの前まで歩くと扉の前には管理人らしき男性が立っていた。

「殿下、クリスティナ様お待ちしておりました」
「ああ」
「こんばんは」

この方は別邸の管理を任せている男性で名をセタラと言った。コテージの中に案内されセタラから設備などの説明を簡単に受ける。前世でも今世でも一棟貸しの宿に泊まったことなどなくワクワクしてきた。

「一階には居間とキッチン、それに奥が浴室でございます。上階は、」

セタラが二階の説明をしようとしたその時、ぐうぅ~とリクハルド様のお腹の音が盛大に鳴った。

「そういや何も食べてなかったな」
「重ね重ねすみません…」
「いやいや、ティナも同じだろう?」

そういえば私もここ数日まともに食べ物を口にしていない。今日は特に何も喉を通らなかった。

「どうぞ居間にお食事をご用意しておりますので」
「ああ。あとは自分達でやるからもう下がっていいぞ」
「承知しました。では管理小屋の方に控えておりますので何かあればお申し付け下さい」

そう言ってセタラは出ていった。ここからは二人きりの空間ということだ。

「とりあえず飯食うか」
「そうですね」

コテージの探索前にまずは腹ごしらえすることにしたのだった。


**


食事が終わると再びコテージ内を見て回った。二階は広い寝室にこれまた広いバルコニーのみ。
朝の風景も楽しみだな、とか言いながら最後にここが浴室だとリクハルド様がバーンと扉を開けた瞬間、飛び込んできた光景に目を見開く。

「ええー!?すっごいお風呂!これどうやって沸かしてるんですか!?」
「さぁ…仕組みはよくわからんがいい感じだろ?」
「しかも満天の星を見ながらお風呂なんて最高じゃないですか!」

イスキーの宿で入った家族風呂の三倍はあるだろう浴室で、しかも夢にまで見た半露天風呂。
夜は星、明るくなると湖が見えて景色が最高なのだろう。すでに明日が楽しみでテンション上がりっぱなしだ。

「すごい贅沢ですね!って……何で突然脱いでるんですか!?」
「へ?だって風呂入るから」

そうかもしれんが目の前で脱ぐな!
あっという間にパンイチやないか!
呆気にとられているとリクハルド様の手が突然私のワンピースのボタンに向かってきた。

「あ、ちょ!何するんですか!?」
「一緒に入ろう」
「ええっ!?」
「いや、ここまできたら混浴一択だろ」

だからって勝手に脱がそうとするな!

「エロ王子!」
「だからそうだって前にも言っただろ」

また開き直る!
あ、本当にあっという間に手際よく脱がしたな!?ムードの欠片もないわ!

「お?」

下着一枚になり肩紐に手をかけられて観念したとき急にリクハルド様の手が止まった。その視線は堂々と私の胸元に注がれている。

「な、何…?」
「また胸でかくなった?」

デリカシー無さすぎだろ!?
絶対に今日初めて結ばれる男女の会話じゃない!

「いい加減にしろぉーっ!!」

静寂な夜の湖畔に響き渡る怒号。管理小屋にいるセタラも驚いたに違いない。
だがそんなこと気にも留めずリクハルド様は楽しそうに笑うだけだった。

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