【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん

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後日談(短編)

そんなところが③

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 開け放たれた窓から入ってくる風が心地の良い朝、メリヤが廊下を歩いていると軽快な足音が聞こえてきた。その音の主に気がつき振り返ると予想通りアレクシが走ってきている。

「メリヤおばさま、おはようございます!」
「アレクシおはよう。よく眠れた?」
「はい!」

アレクシの元気な返事にメリヤの心も癒される。子供が一人いるだけで屋敷の中はまるでヒマワリの花が咲いたように明るくなるから不思議だ。

いつもはクリスティナと一緒に出てくるはずのアレクシが一人でいることに不思議に思い首を傾げる。

「アレクシ一人?ティナはまだ眠っているのかしら?」
「うん、ティナ様まだ寝てるよ」
「そう…」

ここのところマナーなどの家庭教師も頻繁に来ているし王妃に城にもよく呼ばれている。これまでの生活とはまったく違ったのものになっているので慣れずに疲れているのだろう。

「朝ごはんはまだね?一緒に食堂に行きましょう」
「うん!あ、でも…」

クリスティナのことが気になるのか部屋の方を振り返る。そんな健気なアレクシに微笑むとメリヤはそっと頭を撫でた。

「あの子は後で食べるから大丈夫よ。それよりもアレクシのお腹の虫が鳴いちゃったら大変だわ」
「お腹の虫…」

そう言うとアレクシはお腹に手を当てた。途端にクゥとかわいい音が鳴り二人で笑う。メリヤはアレクシの手を握り食堂へ向かった。

「今日は何をして過ごすの?」
「お庭のお花を見に行くよ!」
「そう、ステキね」

イヴァロンの自然の中で育ったからだろうか、アレクシは植物が大好きらしい。向こうでは野菜なども育てていると聞いたからアレクシのために小さな畑を作るのも良いかもしれない、と思いつく。

「あの…」
「何かしら?」

アレクシが少しおずおずといった感じで見上げてくる。

「僕も王子さまにお手紙をおくることはできますか?」
「王子様に?」

アレクシは随分熱心に勉強しており、最近は文字を読めるだけでなく書くこともできるようになったという。

「王子様に何か伝えたいことがあるのね?」
「…うん、ティナ様にないしょで…」
「あら」

今ここでクリスティナに聞こえるわけではないのに小声で伝えてくるアレクシに思わずクスリと笑みが漏れる。

「そうしたらまずは朝食をいっぱい食べましょう。そのあと私と一緒にお手紙を書きましょうね」
「はい!」

希望が叶って嬉しいのか満面の笑みで返事をする。ふわふわの玉子楽しみ!と無邪気に笑うアレクシにメリヤも頷いたのだった。


***


 あの日以来、王妃様主催のお茶会が頻繁に行われその度に招待を受けた。参加するのは毎回違う婦人だがお茶会の会話の内容は似たり寄ったりだ。
いったい何の意図があるのかと王妃様に素直に尋ねてみると、これからは社交界に慣れていくことが必要よ、とにっこり笑われた。これも教養の一環、ということだろうか。

「痛てて…」

慣れないことばかりをしているからかここ最近胃がキリキリして食欲もあまりない。こんなにストレスを感じるのは前世での就職活動以来かもしれない。

「はぁ…今度は夜会かぁ~」

なぜか私がダンスの練習をしていることまで把握している王妃様は実践の場として夜会やパーティーの招待状をたんまりと送ってきた。
パーティーとなれば今度は若い令嬢とのバトルだ。以前絡んできたアリサ嬢のように敵意むき出しでくる令嬢もいるだろう。友達と言えるような人も少ないしまた孤立無援かもしれない。

「あ~っもう!やっぱり伯爵令嬢向いてない!」

ソファにぼすっと座り込み大声で叫ぶ。誰かに聞こえたかもしれないがそんなことは気にしない。

(そういえばリクハルド様にも会ってないなぁ…)

ちょいちょい城に通っているのにリクハルド様にはまったく遭遇しない。迷惑なことに冷やかすだけ冷やかしてスッと逃げていくスレヴィ様には割りと会うのだが。
ほんのちょっとだけでも会えれば…と期待しながら行ってるが、わざと会えないように王妃様に仕組まれてるんじゃないかと疑っている。

「はぁ…しんどい…」

もう口を開けばネガティブワードしか出てこない。
いや、こんなときこそ無になろう。そうだ、腹式呼吸だ。前世で有名だったヨガっぽい感じで…やったことないからよくわからんが。


おへその下あたりに手を当て……静かに目を閉じ……鼻から息を吸ってお腹を膨らまし……


「ティナさまーっ!!」
「うっわ!!」

びっくりした!
驚いて口から何か飛び出るかと思ったわ!

勢いよく扉を開けて入ってきたアレクシはトトトっと私の前まで来ると、はい、とガーベラの花を一輪渡してくれた。

「わ、かわいい黄色だね」
「黄色は元気が出るんだって、お庭のおじさんが教えてくれたよ」
「うう…」

なんて優しいんだ。
アレクシはそのかわいらしさで屋敷の使用人たちを次々に懐柔していってる。皆がくれるのだろう、ポケットがお菓子でパンパンになっている日もあるくらいだ。

「ありがとう、アレクシ」
「えへへ~」

アレクシがいなかったら今の私は笑顔さえ出ないかもしれない。本当に尊い存在だ。

「あ、さっきダンスの先生が来てたよ」
「……うぇ」

……そうだった。
今日はダンスのレッスンだ。次は夜会だからダンスは避けられないだろう。
今現在の足がもつれまくる状態からちゃんと踊れるようにならなければ笑われてしまう。
またキリキリし始めた胃をさすりながら深いため息を吐いたのだった。

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