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27:学校を作ろう②
しおりを挟む今日は初めて家に子供たちを招いて勉強会をしている。意外と賛同してくれた親が多く、本日はアレクシ、リリヤちゃんを含む七人の子供たちが参加している。ある程度の年齢の子には簡単な文字から教え、リリヤちゃんのような小さな子には好きなようにお絵かきをしてもらったり絵本を見てもらう。
当面の予定としては週に二、三度水汲みに費やしていた三時間の時間を勉強に当ててそのあと皆で昼食を食べる。そして家の井戸で水を汲んで帰るというタイムスケジュールにしてみた。
「しかし狭いなぁ…」
「確かにこれ以上増えたら厳しいわね」
手伝いに来てくれていたアイナさんが頷く。一人分サイズにしては大きい家だと思うが学校を開く想定などしていないので二階を使ってもぎゅうぎゅうだ。青空学級なんてことも考えたがこれからめちゃくちゃ寒くなるというのにそんなこと出来ない。
「村には集会所みたいなのはないんでしょうか?」
「昔はあったみたいだけど今はボロボロで使い物にならないみたい。集まることなんかもないしね」
「そうなんですか…」
何という希薄な村なんだ。何か問題が起こっても個人で解決するしかない村なのか。
(うーん…みんなが集まれる場所…)
その時私は閃いた!
「ある!あった!」
私が突然叫んだことにアイナさんは驚いたが、クスリと笑った。だんだんと思考や行動パターンを読まれてきている気がする。この世界に来て人と交流することが楽しいと思える日がくるなんて屋敷や学校にいた頃からしたら考えられない。それだけ自分もこの村に来て変わってきたのだろうか。…いや、今の私は前世の私そのものなのかもしれない。
***
「えっ…工房を!?」
「はい。週に二、三回借りることはできませんか?」
そう尋ねるとタルモさんは驚いた。無理もない。あの埃にまみれた工房だ。まさか貸してくれと言われるなど夢にも思っていなかっただろう。
「もちろん利用料は払います」
「え!?いや、お金なんていらないよ」
「いえ、それではダメなんです」
不思議そうにしているタルモさんに説明する。無料での貸し出し、本当はとっても魅力的な提案なのだが。
学校として使うとなると寒い季節は薪も必要になってくるし、手洗いなどの水も必要だ。給食なんかを出すとなれば食費もかかる。
「タルモさんに利用料を払うのでそのお金で薪や水の準備をお願いしたいんです。そしてお母様には子供たちのお昼ご飯をお願いします。もちろん私もアイナさんも手伝います」
「なるほど…」
昼食の為に村で作られた野菜や玉子などを用意できる人にお金を払って譲ってもらう。微々たる額だが少しでも経済が回る。
「でもお金のことだけじゃなくて村の人同士の繋がりが欲しいんです」
タルモさんのお母さんが言うように昔は村にももう少し活気があった。その時はきっと住民同士の繋がりも今よりはあったはずだ。
私がこの村に来て思ったのは人間関係が驚くほど希薄だということだった。住民が少ないからこそ助け合って生活するのが良いはずなのに、この村ではあまりにも横の繋がりがない気がする。皆ばらばらであるから何かを変えようという気も起らないのだ。
「わかった。やってみよう」
「ありがとうございます!」
「まずは工房の片づけから始めるよ。椅子や机は祖父が作ったものもあるし、俺も作れる」
「はい。でも決して子供たちばかりにお金を使わないようにしてください。利用料の中にはタルモさんやお母様への賃金も入ってますので必ずそれは受け取って自分たちの為に使ってください。といってもおこずかい程度にしかならなくて申し訳ないのですが」
「…うん、わかった。今の俺には願ってもない提案だよ」
タルモさんが笑顔で頷いてくれたことに安堵する。まずはここからだ。
スレヴィ様に王都で宝石の売却を頼んでいたがそれが結構な額になった。この間トピアスが持って来てくれたのでしばらくの間はそのお金で何とかなるだろう。
(よっし、私は行政に嘆願書を書きまくろう!)
シルキア伯爵領は教育に力を入れ始めているし、教育関連のことなら比較的予算も下りやすいだろう。そのためには元だろうが何だろうが使えるものは肩書だって利用してやる!
(頑張るぞーっ!!)
少しずつ見えてきた光に私もまた心を躍らせるのであった。
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