【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん

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29:訪問者③

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「ティナ様、これどうやるの?」
「だいたいおんなじ長さに揃えてね…そうそう、それで下の方を紐でまとめて結んでハサミで切るの」
「んー…こう?」
「そうそう、上手!」

褒めて伸ばす、これが私のモットーだ!なんて大袈裟な話ではないが、今私とアレクシは畑で咲いたラベンダーをドライフラワーにするべく作業をしていた。例え上手く出来なくても小さな手で一生懸命取り組んでくれることがすばらしい。

「ねぇティナ様」
「うん?」
「王子様来ないね」
「…そうだね」

毎日忙しくしていてすっかり忘れていたが、最後にリクハルド様が来てから彼是二ヶ月経った。スレヴィ様にはもっと会ってないし二人とも忙しいのだろう。気安く接してしまっているが彼らは王子様なのだ。勉強や公務などもたくさんあるはずだ。

「アレクシ寂しい?」
「ううん、全然」

おっと全然ときたか。二人が聞いたら泣きそうだ。

「僕はティナ様がいるから平気。お友達もいるし」
「そっか。そうだね」

学校をやるようになってから子供たち同士の繋がりができた。それはとても尊いことだ。…私が子供の頃に行った“お友達作ろう会”はとんでもなかったが。だけどあのとんでもないお茶会がなければ王子様二人とも知り合ってなかったのだろう。

「ティナ様がさみしいかなって思って」
「うーん…そうだねぇ」

そう言われて考える。前世でも今世でも人と会えなくて寂しいと感じたことはあまりなかった気がする。でももし本当にひとりぼっちだったならそういう感情も芽生えたのかもしれない。

「王子様二人とはアレクシくらいの年の頃からお友達でね。今もずっと仲良くしてくれてるから…うん、離れててもお友達だし会えなくても寂しくないよ」
「仲良しなのにさみしくないの?」

うーん、矛盾してるのかな。説明し辛いな。

「また会えるって思ってるから大丈夫」
「ふーん…」
「でもアレクシがいなかったら私も寂しかったかな」
「僕がいるからさみしくない?」

うん、と頷けば嬉しそうに笑う。本当に可愛いなぁ…。毎日アレクシに癒されまくっている。
ほっこりしていると玄関の扉が控えめにノックされた。誰か来たのかと立ち上がるとアレクシが僕が出ると言って先に走って行った。

「……こんにちは」
「…あら?わたくし家を間違えたのかしら?こちらにクリスティナ様は居られる?」

久しぶりに聞いた貴族の丁寧な言葉に、あ、と思った。
アレクシが見上げた先には深紅の髪をなびかせたソフィア様が立っていた。 





「どうぞ」
「ありがとう。頂くわ」

アレクシが溢さないようにゆっくり運んでくれたハーブティをソフィア様がひと口飲んだ。

「とても美味しいわ」
「良かった!カモミールとレモングラスのブレンドに初めてソフィア様に会った時のことを思い出してラベンダーも足してみました」
「…懐かしいわね」

ソフィア様が昔を思い出すように目を伏せる。たった二年程前の話だが随分昔のことのように感じた。アレクシはソフィア様が持って来てくれた可愛い焼き菓子のお土産を目を輝かせて見ている。それを見たソフィア様も嬉しそうに微笑んだ。

「アレクシは少し家庭環境が複雑で…私が保護させてもらってるんです」
「そうなの。それは素晴らしいわ」

アレクシの手前詳細は言わなかったがソフィア様も何となくわかってくれたようだ。この辺りの対応はさすが侯爵家のご令嬢だなと思う。

「あ、そうだわ。ヘレナ様からも手紙と荷物を預かってきましたの」
「え」

渡されたピンク色の箱を開けてみると中には五本ほど化粧瓶が入ってる。
添えられた手紙には、 


―― クリスティナ様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。さて、貴殿が伯爵家から追放されたことでわが社は永久定期購入の顧客を逃してしまいました。つきましては、この穴埋めをモニターという形で返していただきたく存じます。五種類の化粧水を入れておきましたので、月に一度使用感想をレポートにまとめて送ってきてください ――

「手紙というより企業からの通知!そしてやっぱり永久だった!」

レポート!そんな面倒な事絶対無理!
手紙を読んでぷるぷる震えているとソフィア様がクスリと笑う。

「ヘレナ様もあなたの事をとても心配しておられたわ、といってもストレートに口には出さない方ですけれど」
「…そうですか…とてもありがたいです」

隙あらば自社製品を売りつけようとしてきたヘレナ様だが、伯爵令嬢でなくなったのにこうして気遣ってくれるのは縁を切らないと言ってくれているということだ。

「ソフィア様もこうして遠い所まで来てくださって本当にありがとうございます」

学校のある王都からここまで何日もかけて会いに来てくれた。その事実がとても嬉しい。
ソフィア様は微笑んでいたが次第に顔を曇らせていく。

「ソフィア様?」
「わたくしはあの時…あの時のことをずっと後悔していたの。どうしてもっとあなたを庇うことができなかったのか、と」
「ソフィア様…」
「あなたが人を陥れるなんてそんなことするはずない。今でも自信を持って言えるのに…父には逆らえなくて…ごめんなさい」

ソフィア様は真っ直ぐな人だ。自分の信念を曲げてしまったことに苦しんでいるのだろう。

 「でもあの時私を庇おうと動いてくれたのはソフィア様だけなんですよ」
「え…」
「誰にも信じてもらえなかったあの校長室でソフィア様が飛び込んで来てくれたこと…本当に嬉しかったです。ありがとうございます」
「っ…」

ソフィア様の目に涙が滲む。それでも泣くまいとするところがソフィア様らしい。

「それに今ここでの生活はとても充実してるんです。何もない村ですけど少しずつ変えて行けたらと思ってます」
「そう…」
「少し前から学校のようなこともやり始めたんですよ」

この村での近況報告をするとソフィア様も嬉しそうに頷いてくれる。そうだ、医療関係に詳しいソフィア様にアドバイスをもらおう、と村における病院のあり方なんかを尋ねていると急にソフィア様の様子がおかしくなり始めた。

「ソフィア様?」
「……」
「顔色が悪いですけど大丈夫ですか?」
「…わたくしはっ今日ほど屈辱を感じたことはありません!」
「ええっ」

ソフィア様はよほど悔しいのかプルプル震えている。だがいったい何が屈辱なのかさっぱりわからない。今の今まで笑顔で色々教えてくれてたじゃないか!何でだ!?

「あなたが言ったのよ!男のクセに女のクセには時代遅れだと!」
「ああっ、あの時ソフィア様いたんですか!?」
「あれはわたくしの家で行われたお茶会よ!」
「マジか!?」

あのとんでもないお茶会での暴走をソフィア様に見られていたとは思わなかった。もしかしてずっとヤバい奴だと思われてたんじゃないか!?恥ずかしい!
 
「……わたくしはあの言葉に何度も勇気付けられました。父や兄に「女は余計なことをするな」と押さえつけられる度に、殿下の妃になることだけが私の人生ではないと」
「ソフィア様…」
「あなたもヘレナ様も女性でありながら自分の道を切り開いていっている」

思えばソフィア様はアロマのことに精通していた。もっともっとその道を極めて誰かの役に立ちたいとずっと思ってきたのだろう。

「だから、私も!これからはやりたいことをやります。あなたには負けないわ!」

ソフィア様は何かを吹っ切ったようなとびきりの笑顔を見せてくれた。ランタラ侯爵を説得するのは難しいのかもしれない。だけどソフィア様ならきっとやり遂げるだろう。
その決心に私もまた元気をもらえたのだった。

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