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後日談

エミリアの大冒険③

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ペルラン王城門前――


「すいましぇーん、ここにわるい王子しゃまいましゅか?」
「な、」

遠目で見ていた時は子供二人が手をつないでニコニコ歩き、何と微笑ましい光景かと和んでいた門兵は――目の前まで来た子供のその口から出た言葉に絶句した。

「不敬な!子供だからといって許されるものではないぞ!」
「ぬ?だって王子しゃまはむかしママをいじめたんだよ」

今にも槍を突きつけてきそうな門兵の怒りなどまったく気にせず平然としているエミリアにトビは不安を覚え、その手をグッと引いた。

「エミィだめだよ。捕まっちゃう」
「だいじょーぶよ。エミィに任せて!」

不安そうにしているトビの手を離し、エミリアは両手を腰に当ててバーンと胸を張った。

「わたしはエミリア・アコスタ!じらるぃえーうの王女しゃまだよ!!王子しゃまにお話があってきたの!」
「はぁ、じらる…何だって?」

――ジラルディエール――

まだまだこの国にとって馴染みのない名前だ。そしてまだ上手く回らない口で話すものだから門兵も理解できず困ってしまった。

「んもう!パパの名前はティト・アコスタ!ママの名前はアンジェル・アコスタよ!」

それを聞いて門兵はハッとした。もう何年も前のことであってもアンジェルの身に起こったことはペルラン国民にとって忘れ難いことだ。

「アンジェル様と言えば……ジラルの…!そうか、ジラルディエールか!」
「どうしたのだ?」
「あ!これは、クレール王太子殿下!!」

ちょうど外出先から戻ってきたクレールが門前で何やら揉めていることに気がつき馬車を降りてきたらしい。
門兵は急いで敬礼のポーズをとる。

「あ、わるい王子しゃま!」
「あれ、君は…」
「王子しゃま、トビを助けて!」
「うん?」

何事かとクレールがしゃがみこんで目線を合わせる。
その時ビスケット三枚では足りなかったエミリアのお腹が再び、ぐうぅ、と盛大に鳴ったのだった。






「たくさん食べると良い」
「うん!トビもたくさんお食べ!」

まったく物怖じしないエミリアを前にクレールが苦笑する。
突然城の庭園に案内され戸惑っていたトビも恐る恐る目の前にある焼き菓子を口にした。その途端瞳を輝かせたことが目に見えてわかりクレールは小さく微笑んだ。
こんな可愛らしいお客様を迎えるのが初めてであるクレールは、美味しそうに食べる二人をしばし眺める。

「ところで先ほど助けてと言っていたが何があったのか教えてくれるかい?」
「うん、あのね」

満足した頃を見計らって声を掛けるとエミリアは急いでナプキンで手を拭いた。ぴょんと椅子から下りクレールの前に来て見上げてくる。

「王子しゃまはへいたいしゃんよりえらいよね?」
「うん?まぁ…そうかな」
「王子しゃまがめっ!てしたらトビはへいたいしゃんにつかまらないよね?」
「うん?」

エミリアの要領を得ない話にクレールは頭をひと撫でして立ち上がった。
トビの前まで来ると目線が合うようにしゃがみこむ。

「ひとまずあったことすべて話してごらん」
「あ、」
「大丈夫だ。何も恐れることはないから」

不安げな表情をしているトビに微笑むと少しホッとしたのかコクリと頷いた。
そうしてトビがここ数日自身に起こったことを話し始める――


「違法な薬物、か…」
「うん…そう言ってた」
「まふぃあだよ!はいきょをねじろにしてるの!」

うむ、とクレールは頷く。
実を言うとここ最近チェルーフからの密輸で違法な薬物が出回っているとの情報があった。しかし出るのは噂ばかりでなかなか尻尾を掴めずにいたが思わぬところから解決への道に繋がるかもしれない。
クレールはすぐに兵を呼び指示をし始めた。

「すぐにこの子の母親を保護してくれ。君たちはそのアジトに案内してくれるかい?」
「うん、エミィもトビもおぼえてる!」
「よし、行こう。兵が一緒だから心配はいらないよ」
「ひひ、まふぃあをいちもうだじんよ!」

何か楽しいことでもするかのように盛り上がるエミリアにクレールは目を瞬かせた。ずいぶんと難しい言葉を知っているな、と聞けば「ハルムに聞いた」と言う。なるほどあり得るな、とクレールは苦笑したのだった。


**


楽しかった冒険も終わりに近づき、ついにトビと別れる時間になった。

「エミィ、本当にありがとう」
「うん、うまくいってよかったねぇ」

二人がアジトの場所を覚えていたので違法薬物に関わった犯人を摘発するのは容易いことだった。例え氷山の一角に過ぎなくとも大きな進歩だろう。

「王子しゃま、トビはもうだいじょーぶ?」
「ああ。王室が保護するから心配はいらない」
「よかった!」

残党がいないとも限らないのでトビとその母親は王家所有の施設でしばらく保護されることになった。そしてトビのように事情があり収入を得ることができない家庭への援助なども早急に整備するとクレールが約束してくれたことも安心だ。

「…エミィは王女様だったんだね」
「うん、そうだよ。でもエミィはみんなにやさしいからね!」
「…うん、エミィは優しくて勇敢だ」
「でしょ!」

エミリアの言う――そこには貴族も平民も関係ないという意味が込められている。
身分、貧富、人種、年齢…あらゆる違いで差別、分断しない、そんな人になってほしいという両親の思いをしっかり受け継いでいる。

「今日はたのしかったね!」
「うん!」
「また会おうね!」

最後にエミリアはトビの手を両手でギュッと握り、まるで大輪の花を咲かせるようにニッコリ笑ったのだった。





トビと別れた頃はもうすっかり夕暮れ時だった。
今日の冒険に満足したエミリアは鼻歌を歌いながら跳ねるように歩いている。

「エミリア王女、一つ聞きたいのだが」
「にゅ?」

エミリアと帰途についていたクレールはふと疑問に思ったことを問い掛けた。

「どうやって奴らのアジトから脱出したのだ?」
「それは~…」
「うん」
「ひみちゅ!」
「秘密?そうか…」

可笑しそうに笑うエミリアの頭をクレールが思わず、といった感じで撫でた。その奥にを重ねたのだろう。

「さて君も送って行こう」
「エミィはかぎりなく四才に近い三才だから一人で帰れるよ!」
「いや、だがしかし、」
「こーら、エミリア」
「!!」

突然の浮遊感。

何が起こったのか一瞬で理解したエミリアはここまでか…と呟く。
エミリアが収まったのは迎えに来たティトの腕の中だった。

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