【本編完結】無実の罪で塔の上に棲む魔物の生け贄になりました

ななのん

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後日談

レネの叙爵①

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それはレネが十八才になった晩秋のこと――


「レネ・セルトン、前へ!」
「はい」

ペルラン王国、王城謁見の間。

ここでは本日叙爵式が行われている。そして今回爵位を賜る数名の中にレネの姿もあった。

荘厳な空気の中、大臣に名を呼ばれたレネは国王の御前に一歩一歩進み、その王座の前まで来ると跪いて頭を垂れる。

「レネ・セルトン。貴殿に子爵位を下賜する」
「この上ない喜びでございます」
「このペルラン王国のために尽力してほしい」
「…はい。精進してまいります」

レネは何かを飲み込んだように返事をした。国王もわかっていながら気づかないふりをしている。
正直ペルラン王国のため、などと言われたら腹立たしいだろう。
この国王は、そのペルラン王国…否、自分たちの保身のために姉、アンジェルの人生を終わらせようとした張本人なのだ。

(だが地位がないとできないこともある…)

それがわかっているからレネも叙爵を受け入れた。己がこれから背負っていく領民の未来のために……


「立派じゃないか」
「はい。まさかこんな日が来るなんて…」

アンジェルとティトはその様子を謁見の間の末席で眺めていた。
セルトン家からレネが追い出された時、よもやこの国で爵位を受ける未来があるなど思ってもみなかっただろう。それを考えると感慨深いものがある。
ティトは隣に立つアンジェルの手をそっと握った。

「レネなら素晴らしい領主になるだろ」
「はい…そう、信じてます」

目を潤ませてレネを見つめるアンジェルにティトもまた、小さく頷いたのだった。





「ぇねにぃーい!」
「おかぇい!」

叙爵式が無事に終わりレネと共に王城から王都にあるジラルディエールの屋敷に戻ると待ってましたとばかりに双子たちが飛びついてきた。

ギマールに滞在していた頃から約半年。
双子たちも更に成長し言葉もはっきりし始めた。そして高速ハイハイというスキルを既に手に入れている。
立ち上がって走り回る日も近いだろう。またエミリアが脱走を繰り返すかと思えばアンジェルは少々頭が痛い。

「ただいま、エミリア、イサーク」
「にぃーい、ぁっこ」
「こらこぐまちゃんたち。レネの晴れ着にヨダレをつけるなよ」

いきなり抱っこをせがんでいる二人にティトが釘を指す。レネが今日着ているのは叙爵式のために新調した上等なものだ。うっかりヨダレでシミでも残ったら大変だ。

アンジェルがレネに着替えを促すと双子たちも後を追っていく。本当にレネが大好きなのだとその姿を微笑ましく見送った。

「おーい祝いに来たぞ~」
「え、この声はまさか…」

玄関口から大きな声が聞こえたので急いで迎え出るとハルムとミルシェが立っている。
叙爵式があることは伝えていたがまさかペルラン王都まで来てくれるとは思わなかった。

「おお、二人ともよく来たな!」
「ご無沙汰しております」
「ミルシェ王女様も!お二人ともありがとうございます」

お礼を言うと恥ずかしいのか「りょ、旅行のついでだ!」と顔を赤くする。
相変わらずのツンを見せるハルムにアンジェルも思わず笑ってしまった。それにこうして二人で旅に出るほど婚約関係は良好だということにも安堵する。

「そんでそこでアレ拾った」
「アレ?」

ハルムが振り返って指をさす。
そこには、

「え、クレール殿下!?」
「…拾ったってお前…一国の王太子だぞ」

門に隠れるように立っていたのはなんとクレール王太子だった。訪ねても良いかどうか悩んでいるところに丁度ハルムが通りかかったのだという。

「どうしてこちらに…」
「いや、その…」

おずおずと近づいてきたクレールは手に箱を二つ抱えている。

「セルトン子爵への祝いと…その、子供が生まれていると知らなかったからその祝いに」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます」

着替えを終えて戻ってきたレネはクレールを見るなり案の定不機嫌な顔をした。
双子たちは知らない人の登場に興味津々でクレールに寄っていってなぜか足をペチペチ叩いている。叩かれているクレールは困惑しているが怒ってはいないのでそのままにしておく。

「ははっ!安定の嫌われっぷりだな、お前」

仏頂面のレネを目にしてなぜか楽しそうにしているハルムが笑いながらクレールの背中をバシバシ叩いている。いつの間にこんなに打ち解けたのだろうか。

「良いじゃないか、夫人弟レネ!盛大にパーティーでもやって金はクレールに出してもらおうぜ」
「底抜けに図々しいな、お前は」

ティトが呆れてタメ息をつくとエミリアも一緒にタメ息をついた。それを見てミルシェ王女がクスクス笑う。

「いや、それくらいは喜んで出すが…」

ポツリと呟いたクレールの言葉にはティトとハルム、どちらもが反応した。

「はぁ!?俺だって出せるわ!ギマールの国力舐めんな」
「何でお前たちが出すんだよ!レネは俺の義弟おとうとだぞ!?俺が出すに決まってるだろ!」

三国の王子がなぜかお祝いの費用を巡って揉め始めた。ハルムに至っては先ほどはクレールに払えと言っていたのになぜ張り合うのかよくわからない。
王子同士がこんなくだらないことで言い争うなどいったい誰が想像しただろうか。

アンジェルはその様子をクスクス笑いながらレネの背中をぽんと撫でる。

「皆あなたのためだから喜んで受け入れましょう」
「…うん」

クレールに対しては許せないことの方が多いだろう。レネの中で簡単には割りきれない感情だ。

だが三国の王子が一介の子爵相手にこうして祝ってくれるなど本当ならあり得ないことだ。それにモルスクのミルシェ王女も来てくれている。
ハイレベルな多国間交流にセルトン家の秘書バルニエなどは緊張で固まっているが、仲が悪いよりこうしてフランクな関係を保てることはひいては三国、いや四国の平和にも繋がると信じ、アンジェルも皆の来訪を喜んだのだった。

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