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後日談

ハルム王子の恋騒動⑥

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「ふんふんふ~ん♪」
「えらくご機嫌だな」
「うおっ!?」

街に出ていたティトはカナリー宮の専用邸に戻る途中でハルムを見つけた。ニヤニヤしながら鼻歌を歌っているハルムの後ろから声を掛けるとビクッと体を震わせる。

機嫌がいい理由など明白だ。
この間ティト一家専用邸でミルシェ王女と偶然会えたことをきっかけに、ちょいちょい双子たちを利用して…というと言葉が悪いが二人の距離が縮まっている。
なかなかミルシェに会おうとしなかっただけに良いきっかけになったと思う。これもアンジェルとレネが動いてくれたおかげだ。

「今日も来るのか?」
「いや、今日はこれから会議があって」
「へぇ、お前一応ちゃんと公務やってんだな」
「失礼な!!」

そうは言ってもかなり自分勝手に予定を変えてるようだから心配していたが最低限は押さえているのだと安心した。

「なんならティトも一緒に行くか?東部の鉱山についての会議なんだが」
「いや、知らん国のやつ混じってたら話できんだろ」
「そうか?俺は別に構わないけどな」

何でそこで「そうか?」と首を傾げるのかティトにはさっぱりわからない。こちらの方が間違ってるのかと逆に首を傾げたくなる。

(…まぁ何か面白い話が聞けるかもしれんな)

他国の会議など潜入以外ではそうそう出られるもんじゃない。ティトの中で単純に好奇心が生まれた。

「なら行ってみるか。姿消しするわ」
「普通に出てくれても良いけど」

国家の機密事項に触れるかもしれないのに簡単に言ってのけるハルムに呆れてしまうが、彼がいいと言うのならいいのだろう。魔力で姿を消してティトも会議に参加することにしたのだった。


**


しかしさっきのノリとは打って変わって会議は重苦しい空気に包まれていた。

いつもは頭が足りていない言動をするが、親しい者以外の前では絶対的な威厳を見せるのがハルム・デ・フラーフ王子だ。
そのハルムが腕を組みヒヤリとした視線を担当者である貴族たちに向けている。

「…で。お前たちが絶対出ると豪語し王室に莫大な資金を出させた鉱山からは思ったほど鉄鉱石が出なかったと」
「それはっ…しかしまだ完全に希望が消えたわけではありません!もう少し掘り進めば必ず…」
「その確証はどこにある?」

コン、とハルムが机上に置かれた資料の上に中指を下ろした。その資料には今まで採掘した鉄鉱石の量が記されているがその量は明らかに少ない。
今回の議題にあがっている東部の鉱山、ここはハルムの言葉通り探鉱開発に王室が莫大な資金を投入した鉱山だ。これ以上は進むも止めるも地獄だろう。

「利のないものに更に金を出せと?」
「しかし…このまま放置するわけにも…」
「王室としては現時点でこれ以上の資金は出さない。更に出させたいのなら利益を証明してからにしろ」
「っ…承知しました」

当然の対応だ。
いくら国が潤っているといっても無駄なものに金を掛ける理由はない。

「…ここを成功させないと…」
「?」

関係者の中にハルムの完全な拒否を聞くや否や頭を抱えてブツブツ呟いている男がいるが、ハルムは一瞥しただけで特に追求はせず無視している。

「この話はこれ以上は無駄だ。以上で会議は…」
「殿下!」

ハルムが会議の終わりを示したが一人の男が挙手した。

「恐れながらハルム殿下に進言がございます」
「何だ?」
「モルスク王女との婚約を考え直して頂きたいのです」

(はぁ?)

何でこの会議の流れでハルムの婚約の話が出るのかわからない。ハルムも疑問に思ったのか顔を顰めた。

「…なぜ?」
「モルスクの王女と結婚しても我が国には何のメリットもありません。それどころかマイナスに繋がりかねません」
「まぁ確かにメリットはないが。……イテッ」
「…殿下?」

(馬鹿かコイツは…)

馬鹿正直に答えたハルムにティトが後ろからチョップを入れた。反対しているヤツに付け入る隙を与えてどうするんだと呆れる。
ハルムは頭をさすりながらひとつ咳払いをしスッと立ち上がった。

「その話をここで議論する必要はない。会議は以上だ」

そう言い切ってハルムは颯爽と会議室を後にした。
ハルムの婚約に関しては今まで特に反対意見は出なかったと聞いたのにここに来て急に反対する貴族が現れるとはどういうことだろうか。

(ふむ…)

先ほど頭を抱えていた男も気になる。
ティトはハルムの後を追わず、このまま貴族たちの様子を少し探ることにしたのだった。


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