94 / 118
後日談
ハルム王子の恋騒動⑥
しおりを挟む「ふんふんふ~ん♪」
「えらくご機嫌だな」
「うおっ!?」
街に出ていたティトはカナリー宮の専用邸に戻る途中でハルムを見つけた。ニヤニヤしながら鼻歌を歌っているハルムの後ろから声を掛けるとビクッと体を震わせる。
機嫌がいい理由など明白だ。
この間ティト一家専用邸でミルシェ王女と偶然会えたことをきっかけに、ちょいちょい双子たちを利用して…というと言葉が悪いが二人の距離が縮まっている。
なかなかミルシェに会おうとしなかっただけに良いきっかけになったと思う。これもアンジェルとレネが動いてくれたおかげだ。
「今日も来るのか?」
「いや、今日はこれから会議があって」
「へぇ、お前一応ちゃんと公務やってんだな」
「失礼な!!」
そうは言ってもかなり自分勝手に予定を変えてるようだから心配していたが最低限は押さえているのだと安心した。
「なんならティトも一緒に行くか?東部の鉱山についての会議なんだが」
「いや、知らん国のやつ混じってたら話できんだろ」
「そうか?俺は別に構わないけどな」
何でそこで「そうか?」と首を傾げるのかティトにはさっぱりわからない。こちらの方が間違ってるのかと逆に首を傾げたくなる。
(…まぁ何か面白い話が聞けるかもしれんな)
他国の会議など潜入以外ではそうそう出られるもんじゃない。ティトの中で単純に好奇心が生まれた。
「なら行ってみるか。姿消しするわ」
「普通に出てくれても良いけど」
国家の機密事項に触れるかもしれないのに簡単に言ってのけるハルムに呆れてしまうが、彼がいいと言うのならいいのだろう。魔力で姿を消してティトも会議に参加することにしたのだった。
**
しかしさっきのノリとは打って変わって会議は重苦しい空気に包まれていた。
いつもは頭が足りていない言動をするが、親しい者以外の前では絶対的な威厳を見せるのがハルム・デ・フラーフ王子だ。
そのハルムが腕を組みヒヤリとした視線を担当者である貴族たちに向けている。
「…で。お前たちが絶対出ると豪語し王室に莫大な資金を出させた鉱山からは思ったほど鉄鉱石が出なかったと」
「それはっ…しかしまだ完全に希望が消えたわけではありません!もう少し掘り進めば必ず…」
「その確証はどこにある?」
コン、とハルムが机上に置かれた資料の上に中指を下ろした。その資料には今まで採掘した鉄鉱石の量が記されているがその量は明らかに少ない。
今回の議題にあがっている東部の鉱山、ここはハルムの言葉通り探鉱開発に王室が莫大な資金を投入した鉱山だ。これ以上は進むも止めるも地獄だろう。
「利のないものに更に金を出せと?」
「しかし…このまま放置するわけにも…」
「王室としては現時点でこれ以上の資金は出さない。更に出させたいのなら利益を証明してからにしろ」
「っ…承知しました」
当然の対応だ。
いくら国が潤っているといっても無駄なものに金を掛ける理由はない。
「…ここを成功させないと…」
「?」
関係者の中にハルムの完全な拒否を聞くや否や頭を抱えてブツブツ呟いている男がいるが、ハルムは一瞥しただけで特に追求はせず無視している。
「この話はこれ以上は無駄だ。以上で会議は…」
「殿下!」
ハルムが会議の終わりを示したが一人の男が挙手した。
「恐れながらハルム殿下に進言がございます」
「何だ?」
「モルスク王女との婚約を考え直して頂きたいのです」
(はぁ?)
何でこの会議の流れでハルムの婚約の話が出るのかわからない。ハルムも疑問に思ったのか顔を顰めた。
「…なぜ?」
「モルスクの王女と結婚しても我が国には何のメリットもありません。それどころかマイナスに繋がりかねません」
「まぁ確かにメリットはないが。……イテッ」
「…殿下?」
(馬鹿かコイツは…)
馬鹿正直に答えたハルムにティトが後ろからチョップを入れた。反対しているヤツに付け入る隙を与えてどうするんだと呆れる。
ハルムは頭をさすりながらひとつ咳払いをしスッと立ち上がった。
「その話をここで議論する必要はない。会議は以上だ」
そう言い切ってハルムは颯爽と会議室を後にした。
ハルムの婚約に関しては今まで特に反対意見は出なかったと聞いたのにここに来て急に反対する貴族が現れるとはどういうことだろうか。
(ふむ…)
先ほど頭を抱えていた男も気になる。
ティトはハルムの後を追わず、このまま貴族たちの様子を少し探ることにしたのだった。
0
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる