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全面対決編

年間優秀賞

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「アンジェル!ここよ!」
「モニク叔母様!」

アンジェルは今日、叔母であるモニクと会うために街に出ていた。ギマールにしばらく滞在すると知った叔母が王都まで会いに来てくれたのだ。
王都で近頃流行っているというティールームで待ち合わせ、お茶やお菓子を楽しむ。フルーツを使ったタルトが人気だというこのお店は女性客で賑わっていた。
香りの高い琥珀色の紅茶にイチゴやオレンジ、ブドウ等が乗った一口大の可愛いタルトが目の前に並ぶとアンジェルは目を輝かせた。今度ルシアナを連れてきたら喜ぶだろうな、と考えているとモニクが口を開く。

「元気そうで安心したわ。一年前は驚くことばかりだったけど」
「そうですね…叔母様には心配ばかりかけて」
「そんなことないわ。アンジェルとレネが元気でいてくれることが何よりだもの」

そう言ってモニクは微笑む。
レネがペルランに向かってから行方不明になり、死んだと思っていたアンジェルは生きていた。
しかもその後婚約者がジラルディエール王太子であると明かされ、すでに結婚しました、と報告に来たときはメルテンス子爵邸に絶叫が響き渡ったのは記憶に新しい。
しかし驚き以上に心から喜んでくれたことが何より嬉しかった。

「ティト殿下とハルム殿下が親友ということも驚いたわ。やはりあなたは王室と縁があるのね」
「…そうかもしれませんね」

アンジェルは苦笑する。
ペルランとジラルディエール…規模は違えど王太子妃という立場になったというのはもはや運命なのかもしれない。

「で、どうなの?」
「ん?」
「殿下はとてもアンジェルを愛しているようだし、そろそろ子供なんかも」
「っ…!」

うふふ、とモニクが笑う。
どこも女親というのはこんな感じなのだろうか。モニクにエステル王妃が重なった。

「子供はその、まだで…」
「そうなの。まぁまだ若いし子供は授かりものだから焦ることはないわね」

今はまだ二人でいるのが楽しい時期かしら~と笑うモニクにアンジェルは頬を赤くしたのだった。




しばらくはアンジェルの新婚生活についてあれこれと会話をしていたが、そうそう、と思い出したようにモニクが切り出す。

「レネがすごいのよ!」
「え?」

モニクが鞄の中から興奮気味に一通の大きな封筒を差し出してくれた。差出人はレネが通う王立学校だ。
昨年から王立学校に通っているレネだが、やはりすべての費用をメルテンス子爵は出してくれている。ティトも申し出てくれたのだが、ここは私たちに任せてほしいと子爵に言われその好意に甘えている現状だ。

「王立学校では保護者にきちんと成績が届くようになっていてね」
「あ、なるほど」

子供が成績の良し悪しを親に報告しなかったり、誤魔化したりできないようになっているらしい。
レネはどんな成績を納めているのだろうか、とワクワクしながら中の成績表を取り出した。

「え……ええ!?」
「スゴいでしょう!?」

ほとんど1が並ぶ成績表。悪い方からの評価ではない。科目別の順位がほとんど学年一位だ。そして総合でも一位。

「学年一!?レネってそんなに成績が良いのですか!?」
「ビックリでしょう?」

アンジェルは今までレネと接した時間が少なかったから勿論彼の成績の事などは詳しく知らなかった。レネの性格からいって不真面目ではないと思っていたがまさかここまで優秀だとは思わなかった。

「レネは昔からこんなに成績が良かったのですか?」
「今までも常に上位ではあったわ。けれど学年一になるのは今回が初めてなの」

おそらく成績の事や生活態度などで叔母家族に迷惑をかけない、と意識して頑張っていたのだろう。

「ジラルディエールで視察に行ってから変わったみたいよ」
「え」
「やりたいことができたのかとても意欲的に色々なことに取り組んでいるみたい。無理している感じでもないわ」
「そうだったんですね…」

無理をしてなければいいが、と思ったがそれは杞憂だった。
本格的な視察といったわけではなかったがジラルディエールで見聞きしたものはレネの中にしっかりと根付いている。
その事を誇りに思い、アンジェルもまたモニクと共に喜んだのだった。


***


「年間優秀賞?」
「ああ、そんな感じの賞作れないか?」

カナリー宮に戻ってレネがとても優秀であると伝えると、ティトはすぐさまハルムを呼び出しレネに何か賞を与えてほしいと切り出した。

ギマールの王立学校は周辺国から貴族が集まっているしその中で優秀な成績を残せば箔付けにもなる。
しかし心配なのは、この間のパーティーでティトとハルムが懇意であるということが知れ渡ったし、優秀だからといって親友の義弟おとうとに突然賞を与えると良からぬ噂が流れるのではないかということだ。

「贔屓だと言われないでしょうか?」
「…いや、学年別に出して、他にも何種か出せばそういった声は上がらないと思う。うん、良いな」
「生徒たちのモチベーションアップにも繋がりますし良い案だと思います」

ハルムとファースも頷く。

「そんで俺直々に表彰しに行ったら話題性を集めるということだな」
「ああ」
「よし。国王に掛け合ってくる。すぐに許可が下りると思うぞ」

そう言ってハルムとファースは出ていった。即実行タイプでとても頼もしい。

「何か意図があるのですか?」
「ああ。レネが優秀だと敏感に反応する領地があるだろ」
「!」

ティトがふ、と笑う。

「…何かしようとしているのですね」
「俺はこのままで良いとは思っていない。まぁアンジェルはあまり心配するな」

そう言って頬に口づけられる。
…これは穏やかな日常が終わることを意味していた。

そしてその思惑通り、“セルトン侯爵家の令息はギマール王室に認められるほど優秀である”という噂と“アンジェルは生きているのではないか”との噂が合わさり、早々にセルトン侯爵領に届くことになったのだった。


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