61 / 118
全面対決編
宴の後①
しおりを挟む生誕パーティーの翌日の午後、一行はハルムが以前結婚祝いにカナリー宮内に建ててくれた屋敷にいた。
他国の宮殿の敷地内にまさか別荘のようなものを建ててもらえるとは思ってもおらず大層驚いたが、それだけハルムにとってティトは大切な存在なのだろう。
昨日はパーティーの主役だったのでほとんど会話をすることができなかったハルムとファースも今日はここでくつろいでいた。
「あ、そうだ。アンジェルあれ」
「はい」
ティトの指示を受けてアンジェルが棚に置いていた箱を取りに行く。ティトから直接渡したら喜ぶのにこういうことをするのは男性は照れくさいのかな、と思いながらその箱をハルムに差し出した。
「これ私たち夫婦からのお誕生日プレゼントです」
「!」
ハルムはアンジェルから箱を受けとると頬を上気させ包み紙をそそくさと破って中を見た。
「気に入ってもらえると良いのですが…」
「こ、これは…!」
ハルムに用意したのはジラルディエールで採れた、彼の髪色と同じ色の宝石であるカナリートルマリンをカフスボタンにしたものだ。そしてその石には魔力が込められている。
先月ジラルディエールに帰った時にアンジェルが選び、ティトが石に魔力を込めた。
ハルムは余程嬉しいのか贈り物を見て目を輝かせている、が。
「…フ、フン、まぁまぁだな」
「何だと?」
「っ!?」
心とは裏腹の一言にアンジェルの後ろにいたティトがジロッと睨み付けるとハルムがビクッとする。さらにはファースがため息を吐くという毎度お馴染みの展開だ。
「はぁ…お前は礼も素直に言えないのか」
「すみません、アンジェル様。主はこれでもとても喜んでおいでです。ほら、尻尾を振っているのが見えませんか?」
「おい!」
前回ギマールに来たときファースの懇願によりティトの魔力でハルムを子犬に変身させてからというもの、彼には耳や尻尾が見えているようだ。そう考えれば彼のキツイ性格も可愛く思えてくる。
「そんで?21才になってどうなんだ?未から済になったのか?」
「残念ながら未です」
「なっ!ファース!!」
ティトの質問にはファースがすかさず答えた。勝手にペラペラ答えそうな勢いの臣下を食い止めようとハルムは必死だ。
「実はモルスクの第三王女との婚約が上がっているのですが」
「わー!ファース、言うな!」
「うるさい。ちょっと黙ってろ」
「~っ…!?」
ピ、とティトが指先から何かを飛ばしたその瞬間ハルムの声が出なくなった。声を発しようにも口をパクパクさせるばかりで音になっていない。何か魔力を使ったのだろう。
「三ヶ月ほど前に一度会ってみようということになりまして」
「ほぉ、見合いか」
ハルムがファースにしゃべるなと涙目で首を横に振っている、が、臣下は暴露し続けた。
「ハルム殿下はお見合いの席で見事なまでのツンを発動させまして王女を泣かせてしまったのです」
「あ~ないわ~」
やれやれとティトがため息を吐く。ハルムが少し気の毒になってきた。
アンジェルはモルスク、と聞いて過去の記憶を引っ張り出す。
「モルスクの第三王女と言えば…ミルシェ王女でしょうか?」
「ええ、そうです。アンジェル様は面識が?」
「はい。一度お茶会でご一緒したことがあります…と言ってもかなり昔のことですが」
モルスクはギマールの北側に位置する小国だ。昔…アンジェルがまだ十二、三才の頃だと記憶するがモルスクの使節団がペルラン王室を訪ねて来たことがある。その時に同行したミルシェ王女は交流会という形で数名の貴族令嬢とお茶会をした。そこにアンジェルも参加していたのだ。
「私がお会いした時はまだ王女は十才くらいだったと思うので今は少し違うのかもしれませんが…とても可憐で優しく、おとなしい……その、実に繊細な方だと記憶しています」
「あ~…そんな相手にズバッと言って泣かせたんだな。アホだな、お前は。ちゃんと人を見ないからだ」
「~~っ!!」
音は聞こえなかったが確かに今ハルムのうるさい!という叫びが聞こえた。
小説などではツンツンしたキャラクターが好き!なんていう女性もいるがそれは物語の中であるから良いのだと思う。
現実に初対面で冷たい言葉を浴びせられたら誰だって怒ったり傷ついたりするのは当然だ。例え後でデレられても嫌な記憶は残るものだろう。
「ミルシェ王女のような方は分かりやすく優しく接した方が良いかもしれません。それこそファースさんのように紳士的な感じで」
「恐縮です」
「別に誉めてないぞ」
嬉しそうに笑顔でアンジェルにお礼を言ったファースをティトが牽制する。
「それか…自分はこういう性格だからと最初に打ち明けるのが良いかもしれませんね」
「アンジェルの含蓄のあるお言葉をちゃーんと心に刻んでおけよ、ハルム」
ついにハルムはソファに突っ伏してしまった。プライドを傷つけたかもしれない。言い過ぎたかな…と少し後悔したがファースを見たらなぜかアンジェルを拝んでいた。フォローは彼がしてくれるだろう。
「っていうかお前の恋愛とかどうでも良いわ」
「っ…お前が言い出したんだろ!あ、声出た」
パチン、とまた指を弾くと今度はハルムの声が出るようになった。相変わらず魔力は不思議だ。
声が出るようになったから文句のひとつでも言われるかと思ったがハルムも思うところがあったのかアンジェルをチラリと見て頬を掻くだけだった。
6
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる