【本編完結】無実の罪で塔の上に棲む魔物の生け贄になりました

ななのん

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ジラルディエール編

デモンストレーション

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 楽しい時間を引き延ばせて満足したのか子供たちは今日は笑顔で見送ってくれた。また来ること、手紙を送ること、忘れないこと…そうした小さな約束が希望となってくれたら嬉しい。

ルシアナの辛い過去も踏まえて、これからペルラン出身である自分が混血の人々のためにできる事…それを考えていかなくてはならないとアンジェルは心に留めた。

「あれ…?何だろう」
「え?」

もうすぐ城に着くという頃、窓の外を見ていたルシアナが異変に気がついた。アンジェルも外を見ようとするがアドルフィトがそれを制し御者に合図をして馬車をストップさせる。

「デモンストレーションですね」
「デモ…」
「ひとまずアンジェルとレネは姿を見られないようにしてください」

そう言うとアドルフィトとルシアナが素早く馬車内のカーテンを閉めた。アンジェルとレネ、とはっきり言い切ったことからおそらくペルランに対するデモなのだろうと思い至る。

耳を澄ますと確かに「ペルラン人との結婚反対!」「結婚を考え直せ!」などの声が飛び交っていた。

「姉さん…」
「大丈夫よ」

グッと拳を握りしめたレネの手を安心させるようにトントンと叩く。

「見たところ集まっているのは表だけかと思うので裏に回りましょう」

アドルフィトの機転で馬車を裏門に走らせる。裏門付近は特に混乱もなく難なく入ることができた。城内に入るとティトの居場所を使用人から聞きそちらに向かう。どうやら会議室でエステル王妃らと一緒にいるらしい。

「あ、アンジェル様!」
「ブランカさん」

会議室に向かう途中ブランカに遭遇した。どうしてここに、と思ったがウエルタが一緒だったので宝石の納品のために城を訪れたのだと気がつく。

「今、外がデモで大変なことになってて!」
「はい、私も今帰ってきたところなのでこれからティト様のところに行きます」

あのデモンストレーションの混乱の中を通り抜けてきたのかブランカもウエルタも心配そうな顔をしている。

「とにかく会議室に参りましょう」

アドルフィトの一言に全員が頷き会議室に向かった。


 

「ティト様!」
「おー、アンジェルおかえり」
「…え?」

急いで飛び込んだ会議室内の光景にアンジェルは目を丸くした。
それもそのはず、ティトも王妃も特に慌てた様子もなく花職人と打ち合わせをしていたのだ。テーブルの上にはコサージュやブーケのサンプルが所狭しと並んでいる。

「アンジェルいいところに来たわ!」
「あ…ただいま戻りました」
「北部への視察ご苦労様。今花関係の最終チェックをしていたのよ~」

王妃は嬉しそうにテーブルのネモフィラのブーケを一つ手に取ってアンジェルに見せた。

「この間の花かんむりと同じような感じでこれなんかどうかしら?あ、でも白い花とグリーンだけというのも捨てがたいわね」
「あ…えっと…」
「式用と披露パーティー用二種類用意したらいいだろ」
「あの…」

デモのことで駆けつけたアンジェル達とこの二人の温度差が凄まじい。ティトはブーケと対になっているブートニアを摘まんで見ていた。
アドルフィトがふぅ、とため息を吐く。

「ティト様…皆さん外のデモの事を心配しておられます」
「あ~デモな。まぁそんなに気にしなくていいぞ」
「今ロルダンが把握しに行っているから大丈夫よ」

とりあえず皆座るように促され、戸惑いながらも各々着席する。すると会議室の扉がノックされ使用人が入ってきた。

「王妃様、ご公務のお時間です」
「あら、もう?」

アンジェルとブーケを決めるはずだったのに…と王妃は肩を落としている。

「少し席を外すわ。デモのこともあなたたちに任せるから」
「ああ」
「ではアンジェルまた後でね」

そう言うと王妃は会議室を後にし、花職人も後でまた伺いますと下がっていった。それと入れ替わるようにロルダンが戻ってくる。ロルダンはアンジェルたちに一礼するとティトの元に向かった。

「どうだった?」
「規模は五十人程度ですね。過激な事をする人はいませんが…このまま居座られると増えてくる可能性もあります」
「そんなっ!」
「……?」

ロルダンの報告になぜか悲痛な声をあげたのはブランカだった。アンジェルはその様子にどこか違和感を覚える。

「ねぇ、このままじゃ結婚式できないんじゃないの!?」
「できない?なぜ?」
「だってデモが起きるくらい反対している人がいるのよ!国民の意見をないがしろにしてはいけないでしょ!」
「ふむ…」

突然過剰な反応をし始めたブランカにティトが考え込んだ。ティトはどう思っているのだろうか、どういう決断をするのだろうかと少し緊張しているとバチリと目が合う。

「アンジェルはどう思う?」
「私は…」

北部に行った後で良かったとアンジェルは思った。ペルランの血が嫌忌されているという現実を知らないままだったらデモが起こったことに戸惑っていたのかもしれない。
しかしそれも想定内のことだ。どんな国であっても王太子との婚姻などすんなりいく方が珍しいだろう。

「反対とはどの程度なのか…国民のほとんどなのか半分か、一部なのかそれがわからないと何とも言えません。だけど大多数が反対であればその声は今日突然ではなく視察の時にあがっていてもおかしくないと思います」

アンジェルの言葉にティトが頷く。
もし国民のほとんどが反対だとしたら先日視察に出た際に行く先々でそういう声を投げ掛けられていたはずだ。
しかしエルヴァのジュエリーショップでの微妙な反応以外は歓迎されたし、国民が強い反対の感情を持っているようには思えなかった。

「…一部であれば無視しても良いと?」
「そうではありません。しかし国民全員が納得するのは難しいと思います。そこは結婚後の私の働きで納得してもらう外ありません」

口を挟んだウエルタにそう返す。その答えが不服だったのかウエルタは厳しい顔をした。

「反対しているのは一部ではないわ!アンジェル様、この間街であったことティト様に言っていないの?」
「街であったこと?」

ティトが怪訝な顔で尋ねてくる。あの時のことは報告していないのでブランカ以外誰も知らない。言うつもりはなかったがこうなった以上仕方がないとアンジェルが口を開こうとした時、

「それはなぜか雑貨店付近でのみあがった、アンジェル様を『ペルラン出身』『罪人』と非難した声のことでしょうか?」

(え……?)

アンジェルは驚いて声の主を見る。
ティトの疑問に答えたのは――なぜかあの場にいなかったはずのルシアナだった。

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