【本編完結】無実の罪で塔の上に棲む魔物の生け贄になりました

ななのん

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ジラルディエール編

瑠璃色の庭園

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 ロルダンに客室を案内され一度着替えてから今度は庭園に向かうために廊下を歩く。

(とても素敵なお城だわ…)

アンジェルは立場上ペルランの王城や様々な貴族の屋敷に出入りしたがどこも競うように贅を尽くしていたし、セルトン家も例外ではなかった。
しかしこのジラルディエールの城内は外観と同様に、富を象徴するような華美さはなく至ってシンプルな装飾が多い。大きな窓からは自然が一番美しいと言わんばかりに光が差し込み遠くには海が見える。アンジェルはこの温かみのある城をすぐに気に入ってしまった。

城から庭園に繋がる通路の先、その入口には澄んだブルーの愛らしい花が咲き乱れていた。花の中心部が白いことでよりいっそうその青さを際立たせているように見える。

「わ…キレイな花だね」
「そうね。モニク叔母様もこういうの好きそう」

レネも目を奪われたブルーの花。二人して足を止めると気がついたロルダンが説明してくれた。

「これはネモフィラという花です」
「ネモフィラ…初めて見ました」
「昔ペルランとの争いに破れた人々がこの島に辿り着いた時、この場所に咲いていたと言われています。今ではあちらこちらに植えられていてこの島の象徴のようになっていますね」
「そうなんですね…とても素敵です」

この花が先の大戦で傷ついた人々の心を癒してくれたのだろうか。風にそよそよと揺れるネモフィラを見ているとどこか心が落ち着いてくるようだ。

「種はたくさん保存してますし、持ち帰りいただいても大丈夫ですよ」
「本当ですか?ありがとうございます!」

ペルラン王都にあるお屋敷の庭にこの青い花が咲いたらとても美しいだろう。ジラルディエール出身の人が目にしたら喜ぶかもしれない。

「ルーシーさ、じゃなくて…ルーシー」
「はい?」
「ペルランのお屋敷に帰ったら植えましょうね」
「はい、そうしましょう!」

うっかり“様”を付けて呼びそうになって慌てて言い直す。
先ほどロルダンにアドルフィトやルシアナに敬称をつけないようにと注意を受けたのだ。これまでずっと“様”付けで呼んでいたので急に変えられず、しばらくは意識しないとまずいな、と苦笑した。
レネはもともとルシアナのことを呼び捨てにしているし、言葉も友人同士のように砕けているがここでは逆にルシアナが丁寧な言葉を使わなくてはならず窮屈そうに見える。

「アンジェル~レネ~こっちよ!」
「あ、はい!」

庭園の奥で先に準備して待っていたエステル王妃に呼ばれ急ぎ足でそちらに向かった。





 使用人を立たせて自分達だけ楽しむのが大嫌いだというエステル王妃の要望で全員が席に着いている。ティトも同じような考え方だからきっとこの辺りは母親譲りなのだろう。皆それぞれお茶やスイーツを楽しんでいるし、先ほど元気がなさそうに見えたルシアナもレネと会話しながら美味しそうにケーキを頬張り少し安心した。

「今回はどれくらいここで過ごす予定なの?」
「レネの進路のこともあるし…まぁひと月くらいかな」
「それなら式はドレスができ次第になるのかしら?」
「そうだな…準備に手は抜きたくないし二十日後くらいがちょうどいい」

な、とティトに微笑まれアンジェルの頭に?が浮かんだ。

「あの…式って何ですか?」
「へ?結婚式に決まってるだろ」
「え……ええ!?」

あれ、言ってなかったかなとティトが首を傾げる。

「アンジェルの身分登録はどうなっているのかアドに役所に潜入させたんだ」

処刑であれば死亡になるのだが、今回の場合は“ジラルの塔の生け贄”と書かれているだけで死亡にはなっていなかったらしい。ジラルの塔に入ってその生存を確認する気もないだろうし、アンジェルの身分登録はずっと宙ぶらりんのままで終わるのだろう。

「死亡になっていればこちらで一から身分を作るつもりだったが…まぁ難癖つけられた時のために魔物オレの生け贄、即ち魔物オレとの婚姻という風にしてこっちに記録しようと思うんだ」
「それならもう簡単には手出しできないでしょうし、万が一何かあっても我々にはギマールの後ろ盾もあります」
「ハルムも何かあれば駆け込めと言っているから問題ない」

自分の知らないところでティト達が色々と考え、手を回してくれていることに驚いてしまう。外を堂々と歩ける第一歩にジラルディエールに行くとは言っていたがまさか結婚とは思ってもいなかった。

「じゃあ明日の朝にはさっそくマダム・カンデラを呼ぶわ。最高のドレスを作らなきゃ!」
「ああ」
「アンジェルにはどんなドレスが似合うかしらね~!楽しみだわ!」
「アドバイスは良いけど好みの押し付けはやめろよ」
「わかってるわよ」

ティトと王妃がウェディングドレスについて話しているのを聞いているとどこかふわふわとした気分になってくる。

(結婚…私結婚するんだ…)

「あなたも空気になってないで何かおっしゃって下さいな」

ペシリとエステル王妃に肩を叩かれ、レアンドロ国王が少し困った顔をしながらも小さく頷き優しい笑みを浮かべた。

「アンジェルとレネがここに来てくれて…新しい家族ができると思えばとても嬉しいよ」
「っ…ありがとうございます。温かく迎え入れて下さってとても幸せです」

夫となる人とその家族がこの婚姻を喜んでくれている、受け入れてくれている、その事実がとても嬉しい。
アンジェルはこの瑠璃色の庭園での感激を一生忘れないだろうと思った。


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