【本編完結】無実の罪で塔の上に棲む魔物の生け贄になりました

ななのん

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招かれざる客

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 さすがにギマールの王女殿下の生誕パーティーだけあって規模は大きかった。しかしハルムが格式張ったパーティーではないと言った通りとても和やかな空気を感じる。

「良いパーティーだな」
「そうですね」

隣にいるアドルフィトもそう頷く。ホールの壇上には国王陛下始め王妃、側室そして王子王女たち。本日主役のテレシア第四王女を囲みとても温かい雰囲気を醸し出している。母親が違っても仲睦まじくできる環境は一朝一夕にできるものではない。王室はとても努力したのだろう。

セルトン家ではその努力をすることもなく…いや、初めから排除する対象でしかなかったアンジェルやレネの不遇に改めて心が痛んだ。

ひとまず挨拶に行こうと壇上に足を向けるとそれに気がついたのかハルムがテレシア王女を突然抱き上げてこちらに向かってきた。

「ティト!」
「相変わらずめちゃくちゃな…」

表向き身分を隠しているティトに主役を奪って向こうから来るなんてさすがハルムあほだ、と思っていると目の前で王女をストンと下ろした。あどけない表情の中にもどこか気品を感じるのは幼いながらも教育を受けているからだろう。

「ティト・アコスタと申します。テレシア王女殿下に誕生日の祝福を」
「ありがとうございます!」

礼をして祝辞を述べると嬉しそうにニッコリ微笑む。その微笑み一つでどれだけこの王女が愛されているかわかった。

「テレシア、ティトは兄様の学生時代からの親友なんだ!」
「まぁ!それではいつもお兄様がご迷惑をおかけしているのですね…申し訳ありません」
「テレシア!?」

七才の妹にフォローされうろたえているハルムに思わず吹き出す。このやり取りも仲が良い所以だ。

「スゴいな、お前よりしっかりしてるじゃないか」
「何だと!?」
「ふふ」

しばらくティトとハルムの話を聞いて笑っていたテレシアであったが他の客に挨拶すると言って別の兄妹に連れていかれた。

挨拶も済ませたし後はワインでも飲みつつひと通り観察したら切り上げようと端の方に寄るとわずかに場がざわめいた。

(何だ?)

「うわ、何だあの美人」
「美人?」

思わず声をあげたハルムの視線を辿る。ティトは信じられないものを目にした。

「…何であの女がここに」
「知り合いか?」
「いや…」

陶磁のような白い肌、絹のような美しい髪、まるで人形のような美しさは見る者に感嘆の声をあげさせた。その美しさに相応しい上質な絹で作られたドレスや煌めく宝石を身に纏った女性は――ヴィオレット・セルトンに間違いなかった。

「あれはアンジェルの異母妹いもうとだ。ギマール王室が招いたのか?」
「セルトン家の?いや、それはない。家とは縁がない」
「…だよな」

親戚であるメルテンス子爵家との仲は最悪の状態だし、このギマールに他に縁があるとは思えない。どこかからのツテを使って入り込んだのは間違いないだろう。

「…アド」
「お任せください」

そう答えるとアドルフィトはスッと人の間をすり抜けいつの間にか見えなくなった。

「しかし本当に美しいな…」
「はぁ…お前は本当に見る目がないな。アホのクレールと同じじゃないか」
「何だと!?」

ヴィオレットをうっとり眺めているハルムに呆れてしまう。皆あの華やかな見た目に騙されているが立ち姿や所作にだらしなさを感じた。七才のテレシア王女の方がよほど美しい振る舞いをしている。

「恐らく婿探しに来たんだろうな。ペルランではどの家にも相手にされないんだろう」
「まぁギマールうちにはまだ悪い噂は流れてきてないからな。狙い目は爵位が継げない貴族の令息ってとこか」

ペルラン王国の由緒あるセルトン侯爵家を継ぐなんて嫡男以外にはこの上ないことだろう。しかし現在のセルトン侯爵家に向けられるペルラン国民の軽蔑の念に耐えられればだが。

(ヴィオレットが婿を取らねばレネに継承権があるはずだ)

セルトン侯爵の元々の予定はアンジェルを王室に入れて後ろ盾を得、ヴィオレットに有力貴族の婿を取らせてその地位を盤石にするはずだったのだろう。しかし娘可愛さに我が儘を許し、姉から婚約者を奪ったあげく王室から捨てられペルランの貴族からは敬遠される。今相当焦っているに違いない。

正直アンジェルを捨てたセルトン侯爵家なんてどうでもいいが。

(俺とアンジェルの視界に入られるのはウザい)

見た目の美しさに惑わされた男たちが我先にと声を掛けている。ティトは婿探しに躍起になっているヴィオレットにヒヤリとするほど冷たい視線を送ったのだった。

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