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泣ける場所があるよ
しおりを挟む「どうする?中の宝石取り出すか?」
「あ…そうですね」
ティトが言うには一度壊して宝石を取り出し、また元に戻すことができるという。母はどんな宝石を入れてくれたのだろうか。それはとても気になるのだが…
「これはこのままにしておきます。母と弟の思いが一つになっているようで嬉しいですから」
「そうですか。それもいいと思います」
「じゃあこのまま割れたとこだけくっつけちゃおう」
ルシアナが割れたブローチを綺麗に嵌めて目を瞑る。すると何かカチッとしたような音と共に小さな光が飛散した。
「はい。くっついた~」
「スゴい!ありがとうございます!」
ルシアナが修理してくれたブローチはもうすでにどこが割れたのかなんてわからない。そして何より大事なものだから直そうとしてくれる彼らの気持ちがとても嬉しい。
もう一度お礼を言ってブローチを宝石箱の中にしまう。すると宝石箱の底が少しずれていることに気がついた。
(誰かが裏を開けたのね)
一見普通の宝石箱だがこれにはちょっとした仕掛けがある。蓋を閉めて裏返すと底がスライドできるようになっており、それをずらすと隠しスペースが現れた。
「二重底か?」
「はい。ここには弟や叔母からの手紙を入れていて…たぶん使用人が手紙の内容も確認していたとは思いますが」
普通ならあり得ないことだが父や義母に言われてアンジェルが不在の間に確認していたのだと思う。
「あら?これは…」
一番上に乗っていた手紙、それは封が開いていない。封筒を取り出し日付を確認するとあの儀式から一週間後に届いたものだ。
昨日アンジェルお嬢様の呪いだ、と口を滑らせたメイドがいた。さすがに良心が咎めたかただ単純に呪いがあると恐れたか、どちらかはわからないがレネからの手紙を入れておいてくれたらしい。
「弟から最近届いたものです」
アドルフィトがペーパーナイフを持ってきて綺麗に封を開けてくれた。手紙を取り出し文章に目を通す。
**
クレール殿下との婚約解消の話を聞きました。もう姉さんがその家にいる必要はないよ。すぐに迎えに行くから待ってて。
レネ
**
「っ…」
短く書かれた手紙。この手紙がもし婚約破棄のすぐ後に届いていたらどんなに心強かっただろうか。…いや、例えレネが迎えに来てくれても罪を被る流れは変わらなかったのかもしれない。それどころかレネまで危険な目に遭わせたかもしれないし、よりいっそう悲しませることになったのかもしれない。
「弟は何と?」
「これを…」
ティトに手紙を渡すと三人が覗き込む。
「この手紙を書いた時はアンジェルが生け贄になったことはまだ知らないんだよね」
「とすると弟さんはこの王都に来て初めて儀式のことを知ることになりますね」
「…辛すぎるな」
やっと姉と暮らせると意気込んで隣国から王都まで乗り込んできたレネが事実を知った時どんなに絶望しただろう。レネの気持ちを考えたら胸が締め付けられるように苦しい。ぎゅっと拳を握りしめ目を伏せて耐えているとそっとその手を優しく包まれた。
「アンジェル。辛い時は一人で我慢するな」
「っ…!」
そのひと言に涙が溢れる。我慢することには慣れていたはずなのに随分弱くなったと情けなくなる。
「ここに来たからには頼れる場所、泣ける場所があることを知ってほしい。決して恥ずかしいことではないから」
「っ…はい」
どうしてこの人は心の奥底までわかるのだろう。この三人に出会ってから心の中にあった凝り固まったものが次々に溶かされているような気がする。
「そしてそんなに悲観することもありません。あなたは生きているのですから弟さんに必ず会えます」
「…はい」
うん、とティトも頷く。そして封筒の裏に書かれた住所を見て少し考える素振りをした。
「レネが暮らしているのは隣国…ギマールか。あそこは知り合いもいるし一度行ってみるか」
「え、でも…もしばれたら」
「ペルランを出たらアンジェルのことを知る人もそんなにいないでしょうしある程度隠していたら大丈夫ですよ」
そうと決まればまず手紙を、やらレネが王都に来たかどうか調べる、やら具体的な行動が次々と決まっていく。彼らの行動の早さにポカンとしているとルシアナがあっと何かに気がついた。
「っとその前にまた新月が来ちゃうね…」
「明後日からまた癒しのもふもふ生活だぞ、アンジェル!」
「だからグリズリーには癒されませんから」
「…ふふ」
思わず笑ってしまうと、さぁあなたは今日は眠りに徹する日ですとアドルフィトに布団を掛けられてしまう。一緒に布団に入ろうとしたティトを注意して騒ぐ三人を眺めながら、アンジェルはゆっくりと眠りの世界に入っていったのだった。
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