【本編完結】無実の罪で塔の上に棲む魔物の生け贄になりました

ななのん

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激昂

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「たったこれだけなの!?もう少しあると思ったのに期待外れだわ!しかも地味なドレスばっかりね~」
「仕方ないでしょう。ヴィオレットと違ってあの娘は殿下に愛されてなかったのだから」
『(……)』

随分な言われように思わず気が遠くなりそうになる、と同時にとても恥ずかしい。確かに間違ってはいないが自分には価値がないと再度言われているようだった。
ヴィオレットはたったこれだけと言うが十八年もの間クレールの婚約者だったのだ。ドレスも宝石もアンジェルにしてみたら決して少なくはない。

「まったく…こんな物のためにわざわざ王都に来なくともお前のためならいくらでも買ってやると言うのに」
「だってこんな高価な物勿体ないじゃない!それに新しい婚約者を探すためにた~くさんドレスも宝石もいるんだもん!」
「仕方のない子ね」

今のやり取りのどこに微笑ましさがあったのか謎だが三人は楽しそうに笑っている。部屋を覗き込んでいるティトたちが白い目で見ているのがわかった。

「(なぁそろそろ燃やしていいか?)」
「(奇遇ですね。私もそう思っていました)」
『(……)』

何となくもう反対しなくても良いんじゃないかという気になってきた。ちょっとぐらい痛い目にあった方が…いや、ついこの間王家にあんな仕打ちをされたのにこのポジティブさだ。生まれ変わらない限り改心などしないかもしれない。

「靴も他の装飾品も一応全部詰めておいてね。向こうに帰ってから選別するから」
「かしこまりました」

ヴィオレットに指示され使用人がテキパキとアンジェルの物を箱に詰めていく。話しぶりからすると本当にアンジェルの私物を漁るためだけに王都にまで来たようだ。

「(アンジェル、良いの?)」
『(はい。すべて要りません)』

持っていてもパーティーに行くこともないし、それにクレールが用意してくれた物を今更惜しいとも思わない…売ったら大金にはなるかもしれないが。

「う~ん、それにしてもお姉様って倹約家だったのね。この部屋何にもないじゃない」

馬鹿にしたようにヴィオレットがくすくす笑う。必要最低限の物しか買えなかったことを知ってるはずなのによく言う、とアンジェルは呆れた。いなくなっても尚ここまで言われる理由はいったい何なのだと逆に不思議に思うほどだ。

「あら?これは何かしら?」
『(っ…!!)』

机の上に置いてあった木彫りの宝石箱。それに触られ思わず体が跳ねた。

「な~んだガラクタか。いらないわ」

ヴィオレットは宝石箱から取り出した物を一度かざして笑った後、ぽいっと後ろに放り投げた。投げられた物は床で小さく音をたてて二つに割れる――それを見たアンジェルはカッと血がのぼった。

『(っ…この!)』
「(アンジェル!?)」
「きゃあっ!?」

怒りを抑えることはできなかった。ティトの懐から飛び出したアンジェルはヴィオレットに飛びかかりその手をバリっと引っ掻いた。

「何よこの猫!」
「ヴィオレット!くそっ!」
『(う…ぅ…っ)』
「(ルーシー!)」

驚いた父親がアンジェルである子猫を蹴った。部屋の外に弾き飛ばされたアンジェルはルシアナに受け止められる。全身に走る痛みにアンジェルの体はビクビクと震えた。

「早く捕まえろ!」
「はい!……え?」

指示を受けた使用人が慌てて廊下に出たが子猫は見当たらない。ルシアナが抱えているせいで他の人間には見えていないのだ。

「……どこにも、いません」
「そんなはずないだろう!」

使用人の報告に怒った父親が廊下に出てくる。見回してみても本当に猫などどこにもいない。しかし部屋の中を振り返ると確かにヴィオレットの手からは血が流れている。

「…アンジェルお嬢様の呪いだわ」

メイドが怯えたようにポツリと言うと皆が戸惑う。怒った義母がメイドの元に向かいその頬を思い切り叩いた。

「くだらないことを言わないでちょうだい!」
「~っ!この部屋の物はすべて処分しろ
!ドレスもすべて燃やせ!」
「(ああ、燃やしてやろう)」
「え…キャーっ!!」

ティトがそう呟いた途端部屋に火がぼわっと上がった。アンジェルの部屋にいた全員が悲鳴をあげ我先に出ようとする間にも火は一瞬で広がり、また一瞬で収まった。そのあとは――

「ドレスが…」

ヴィオレットが持ち出そうとしていたアンジェルのドレスや装飾品はすべて灰となってしまった。

「だから私は王都に来ることに反対したんだ!領地に戻るぞ!この部屋は取り壊せ!まったく…何て忌々しい」

呆然とするヴィオレットの手を引っ張り父親と義母は怯えながらも出ていった。残された使用人達も慌てて逃げていく。

「(アンジェル!しっかり!)」
『(ぅ……)』
「(ルーシー、こっちに)」

ルシアナからアンジェルを受けとるとティトが目を瞑りその体をぽんぽんと優しく撫でる。激痛が走っていた体がぽわっと温かくなり次第に呼吸もしやすくなってきた。

『(あ……ティト、様)』
「(まだ痛むか?)」

心配そうに覗き込んでくるティトの顔を目にすると抑えていたものが溢れだし、ポロポロと涙がこぼれた。

『(離れて、ごめんなさいっ…)』
「(いや、いい。あんなの当然だ)」

優しく撫でられ涙が止まらなくなる。怒りと悔しさと悲しさ、すべてが一緒になって溢れてきた。

「(…帰りましょう)」
「(ああ)」

これだけ持って帰ろうね、とルシアナが木彫りの宝石箱とヴィオレットに投げ捨てられた物……粘土で出来た花の形のブローチを拾ってセルトン侯爵家を後にしたのだった。

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