私の旅

龍牙

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1日目

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痛い





全身が痛い










 
ここは、どこか








何故、こんなにも暗いのか。





そして何故、こんなにも痛いのか。





原因は何だ?
どんな理由で痛いのだろう。



思い出せ、思い出せ…




鈍器で殴られた様な
あるいは両側から強い力で肉を引き裂かれた様な
強い衝撃を受けたのだ。
そうに違いない。
いや、絶対にそうだ。



呼吸が冷える
喉の奥が熱い。
沸騰した血が喉からせり上がってくる様な





足が震える。







立て。






歩け。







鉛の様に足が重い。





いや、


震えてうまく歩けない。









怖い。







ここは、とても








怖い。







周囲を見渡しても
ここには何も無い。
明かりも、地面すら見えない。




ただ、私という存在がある事だけは確かだ。





何故って、







私は今






この身を引き擦って歩いているのだから。













あれは、なんだ?












遠くに何かが見える。



微かに動いている。




だが、何かまでは解らない。




ソレはとてもとてもか細いリズムで、背を上下させているだけだ。
その場から動こうとはせず、ただ
じっとしている。




眠っているのだろうか?
動物だろうか?



痛みを堪えながら
私はソレに近付いた。




ソレの姿がハッキリと
私の視界に映し出されてくる。







全身が総毛立つ。
奥歯がガタガタと震え始め
血の巡りが完全に途絶えてしまったかの様に
私の血が一気にどこかへ流れ出てしまったかの様に
渾身の力を振り絞って立たせていた両足は
誰かが悪戯に弾いたジェンガの如く
音を立てて崩れてしまった。

と、同時に私の口からは

意味のなさない声の連続が咆哮として吐き出され
冷えた頬を熱い涙が留まる事なく溢れては濡らしていく。

握り締めた拳を地面の無い空間にバンバンと叩き付け
私は声をあげて泣いている。






目の前にいるソレは見た事は無かったが、
解る。














これは、私の心臓だ。












肉を裂かれ、踏み潰され、泥にまみれて汚され
その形は歪にひしゃげ、
呼吸をする事がやっとの


虫の息の私の心臓。


長年ひたすらに連れ添って
私の一番近い所で優しく、時に激しく
鼓動を打って応えたくれていた存在。
今はこんなにも見るも無惨な形になって
それでも死なず、ただただその場に打ち捨てられて
「苦しい」と声をあげる事すら出来ず
ただただその場に転がる心臓。
逃げることも出来ず、ただただ傷つけられて
その場に横たわる私の心臓。


私の心臓。



「辛かったろう。痛かったろう」



震える両手で、私はその心臓を抱き締めた。
まだ、温かいのだ。
ヒューヒューと不気味な呼吸を繰り返し
物言わない私の心臓は
それでも、まだ




温かいのだ。



「今まで、よく耐えてくれたね」



私は心臓に語りかけた。
答えが返ってくる事は無いが。
そして前を向く。



私は、歩かなくては行けない。






この子を静かに眠らせてやりたい。






私は、





歩き続けなければならない。
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