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第二十九話
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「…………」
通された一室、その応接テーブルで、アンジェリーナは湯気を立てるマグカップを両手で持ったまま、うつろな視線を中空に向けていた。
カップの中身は減っていない。母が手ずから作ってくれたキャラメルミルクだったが、口をつけるという発想すら出てこなかった。
そんな彼女の頭の中は、先ほど知ってしまった真実とそれがもたらす罪悪感がグルグルと回り続けている。
(あの方の苦難は……わたくしたちが……)
そこまで考えて、思考がぷっつりと停止する。
『精霊戦争』において、少年兵の投入を決断したのは、他でもない自分の父親だった……その事実は、アンジェリーナの心をズタズタにしていた。
自分の思い人に降りかかった数々の苦難と苦痛……その全ての原因は、自分が生まれた公爵家にあったのだから。
ズキリ
覚えのある痛みが胸を刺す。最初は何なのかわからなかった痛み……今ならはっきりとわかる。失恋の痛みだ。
自分の恋は、終わったのだ。最悪の現実とともに。
(私に……あの人と生きていく資格なんか、ない……)
「ありがとうね、バーバラ」
沈んでいくばかりの思考を、母の声が打ち切る。
「ついでに悪いんだけど、明日、車を出してくれないかしら? 私とあの娘を、邸宅まで送ってほしいの」
「いいですよ、いつも先生にはお世話になってますし。いつ頃来りゃいいですか?」
「そうねぇ……午後一時にお願い。午前中は休ませるから」
「わかりました。それじゃ、明日」
「ごめんなさいね。お休み」
「お休みなさい」
そんなやりとりを交わして、母――グウェンドリンは扉を閉めて再び鍵をかけた。
振り返ったグウェンドリンが、アンジェリーナに微笑みかける。
「ひさしぶりね。元気……とは言えない状態ね」
「…………」
「狭くてびっくりしたでしょう? 奥の寝室以外は診療所になってるのよ。ここが今の家って訳」
「…………」
カップで揺れるミルクにうつろな視線を落とすアンジェリーナにため息をついたグウェンドリンは、そのまま娘の対面に腰を下ろした。
「何があったの?」
「…………」
「あなたがそんなになってしまうくらいのこと……婚約絡み?」
婚約。その単語に、びくりと肩が跳ねる。その様子に、グウェンドリンは眉をひそめた。
「当たらずとも、って所かしら?」
「……愛する人が……」
「え?」
弱々しく口を開いたアンジェリーナ、その内容に思わず聞き返す。
「愛する人が……出来ました」
「……王太子殿下ではなさそうね」
「その方は、とても、とても優しくて、強くて……でも、大きくて強い悲しみを抱えていて……その悲しみは……」
ポツポツと言い募り、その合間合間に涙が流れる。
「わたくしたちが……公爵家が……」
そこまでで、泣き崩れてしまう。嗚咽が止まらず、言葉が出ない。
「……知ってしまったのね」
さめざめと涙を流す娘の姿に、グウェンドリンはそう返した。その声音には、深い悔恨が伺えた。
「やっぱり、もっと早くに話しておくべきだったわね……はぁ、あのダメ親父が反対してても、言っておくべきだったわ」
「わたくしは……あの方と共に生きていく資格などないのです……ましてや、大公閣下の、隣になど……」
「大公って……まさか、マクシミリアン卿?」
うわごと同然の娘の言葉に、さすがに驚愕する。その母の問いに、アンジェリーナは静かにうなずいた。
「はい……ゼノン様に……マクシミリアン卿に、許されぬ思いを……」
「許されぬって……どういうことよ?」
娘の言葉に引っ掛かりを覚えたグウェンドリンは、その言葉の意味を問いただした。
母のその問いに、アンジェリーナは自虐的なほほえみを浮かべてかぶりを振り、口を開いた。
「そのままです……婚約者のいる殿方に、思慕を……」
「……お相手誰?」
なんだか顔をひきつらせた母が、簡潔に問うてくる。
「ハンター辺境伯爵令嬢様です……」
「あー……」
答えを聞いたグウェンドリンが、渋面を作って頬をかいた。
「それ、本人に確認したの?」
「いえ……ですが、マクシミリアン卿がハンター辺境伯令嬢様に……その手の甲に口づけするところを、見ました……」
震える声で紡がれる言葉に、グウェンドリンはほほをひきつらせた。
「……それ、たぶん誤解よ」
「え?」
「マクシミリアン卿に婚約者はいないわ。私が知る限りね」
「で、でも、手の甲にキスを……」
「それ、願掛け」
グウェンドリンの指摘に、アンジェリーナは呆けた顔をさらした。
「昔の戦場じゃ割と流行ってたのよ。チーム組んでるやつとの婚約者ごっこ」
「な、なんで……」
「単純に、婚約者や恋人、家族がいる兵士の生還率が高かったからよ。それに引っかけた願掛けってわけ」
「…………」
母の言葉に、絶句して言葉が出なくなった。
「まぁ、さ。色々言いたいと、あんたもあるでしょ? いっぺん、腹を割って話し合いなさい。あの大公閣下なら、邪険にするようなことはないって、あんたもわかってるでしょ?」
「ですが……わたくしには……」
「あなたには?」
うつむいて、声を絞り出す。
「ハンター辺境伯令嬢様のような、絆は……」
「それって、話し合うのに必要なこと?」
言いかけたところで、母の声が被せられた。
「……え?」
顔を上げた先で、あきれたような母と目が合った。
「よく考えなさないな。マクシミリアン卿はなぜあなたと交流していたの? あなたが言うとこの絆があったから?」
「それは……」
少し怒っているような無表情で言う母に、反駁しかける。
だが、うまく言葉に出来ない。
「あなたと心で繋がっていたから? それともあなたが戦友だったから? はたまた……」
母は、そこで意味ありげに言葉を切り、あやしい光を灯した瞳をアンジェリーナに向けた。
「公爵家に恩を売っておいしい思いしたいから?」
「……!? 違います!!」
母が重ねる言葉。最後のそれだけは、聞き捨てならなかった。思わず、母をにらみつけいていた。
その脳裏に、今までのゼノンとの思い出が駆け巡っていく。
アーノルドのこぶしを止めてくれた時の初対面。書庫で見せてくれた少年のような情熱に満ちた顔。童心に帰ったかのような高揚で、空の青を教えてくれた……そのすべてに、アンジェリーナは惹かれていた。
だから……その彼を卑しいと蔑むような言は、絶対に許せなかった。たとえ実の母が相手でも。
「あの方は、そんな人じゃありません!!」
「でしょう?」
涙も悲しみも振り払って、決然と睨みつけながら放った言葉は、あっさりと肯定された。
「そんな風に、彼のことを信じているのに……どうしてあなたは、最初から諦めているのかしら?」
「……!?」
諦めている。思いがけない言葉に困惑する。
「私が……諦めて……?」
「違うの? あなたさっきからあれこれダメな理由ばっかり探してるじゃない。アレがないからダメだとか、これがわからないからダメだとか、大事なのはそこじゃないでしょ?」
そう言って、グウェンドリンはアンジェリーナの頬に、そっと指先で触れた。
「あなたが彼をどう思っているのか……あなたの気持ちでしょう?」
「…………」
「言ってみなさい。あなたは彼にどんな想いがあるの?」
静かで、優しい母の問い。
「愛……して、います」
それに、絞り出すように答えた。
愛している。その言葉を実際に口にして、心にかかっていたもやが、晴れていくような気持ちになった。
「よーし、言えたじゃない。後は……本人にそれを伝えなさい」
母がそう言った刹那、じんわりと優しい温もりが殴られた頬に広がっていく。同時に感じるのは、覚えのある魔力。
母が、回復魔術で殴られた頬を治療してくれたのだった。母の細い指が離れたときには、腫れていた頬はすっかり元通りになっていた。
それに満足げに微笑んで、母は立ち上がった。
「彼の所に行って、ね。その為のお手伝い、してあげるから」
力強い母の言葉に、アンジェリーナは苦笑混じりに頷いた。
そのまま頤に手を当てたグウェンドリンは、呟くように言う。
「とりあえず、まずは御本人に会わないと始まらないわね……なんとか約束を取り付けて……」
「大丈夫です」
そう言って、母を遮る。
「いつも、待ち合わせている場所がありますから……」
続けて、ぎこちなく微笑んだ。今は、それが精いっぱいだった。
アンジェリーナが去った公爵邸、書斎で、デュラスは一人葉巻をくゆらせていた。
「…………」
無言で、何をするでもなく葉巻を吹かす。その脳裏に焼き付いているのは、先ほどの愛娘の、軽蔑しきった眼差し……。
「…………」
わかっているつもりだった。理解しているつもりだった……自分が、今は仕える君主となった親友と、ともに下した決断が、後ろ指を指されるような間違ったことであると……その時が来れば、指弾を受け入れると、そのつもりだったのだ……だが。
「実の娘から……とはな……」
つぶやいて、自虐的に笑った。
近寄らないで。実の愛娘から突き付けられた、明確な拒絶……それを受けて、思い知った。自分はまだまだ甘かったのだと。覚悟など、何もできていなかったのだと。
どこかで、思っていた、いや、甘えていたのだ。娘なら、実の子ならわかってくれると……当たり前の心を持った一人の人間であるということを、失念していたのだ。
(因果は巡る……報いを受けるのは自分自身とは限らない。覚えておけ)
脳裏によみがえる、紅い瞳に浮かんだ、皮肉気なまなざし……その言葉を鼻で笑ったものだったが、今となってはその意味を考えざるを得なかった。
いつの間にかシガーリングに迫っていた火に気づいて、渋面で灰皿に葉巻を押し付ける。葉巻を嗜むものとして最悪のマナー違反も、今のデュラスの心情を如実に表していた。
「……我々の番が来た、か……」
つい数日前に、君主から告げられた言葉をつぶやいた。それから、自虐の笑みを深くする。
結局、現実を見ていなかったのは自分一人ということか……ゼノンの召還を秘密裏に進められ、全てが決まってから知らされた時、フローレンスに言われたものだった。
『御息女を心配する気持ちはわかる。だが、曲がりなりにも王族であるアーノルドに対して強硬手段をとれるのはゼノンにおいてほかはない。現実を見ていただきたい……これぐらいしなければ、もう誰も納得しないのだ』
これぐらいしなければ……胸中で反芻して、ため息をついた。
心身を苛む現実を誤魔化すように、二本目の葉巻を手に取った時、ベルの音が室内に鳴り響いた。
緊急用に部屋に設置はしたものの、今日まで使う機会もなかった代物……通信球の呼び出し音だった。
慌てて起動させて、発信者を映し出して……硬直した。
映し出されたのは、銀の髪にエメラルドの瞳を宿した、妙齢の女性……妻の、グウェンドリンだった。
「グウェ……」
「何の話か、分かってるわよね?」
柔らかな微笑みに有無を言わせぬ口調で、妻は言った。分かってなかったら……暗に続く言葉を想像して背筋が凍った。
「明日、そっち帰るわ。アンジェを連れてね」
「あ、アンジェリーナはどうしている? い、いや、そもそも……」
「ええ。ここにいるわよ」
さらりと返されて、絶句する。
「細かい事情は後ね。明日は、そっちでアンジェに支度をさせるわ」
「し、支度? なんの……」
「決まってるじゃない。あの子の人生を決める、支度よ」
「人生……まさか、お前!?」
聖女の件を知っているのか……すんでのところでその言葉を飲み込んだ。
「何? 今になって反対する気じゃないでしょうね? アンジェ自身も望んでいることよ。大公閣下への求愛はね」
「な……」
知らないらしい……そう思ったとたんに放り込まれた修羅場は、ある意味それ以上だった。
「や、奴に……求愛だと……?」
「そうよ。今まで何があったか詳しくは聞いてないけど、覚悟は決めてるわ。アンジェの方から、結婚を申し込むつもりね、アレは」
「そ、そんな……令嬢の方から求婚などと……」
「あら……あなたがそれを言うの?」
そう言ってグウェンドリンは、かすかに頬を赤らめた。
「忘れてないわよね? アプローチしたのは、私の方だってこと」
「…………」
それを言われると、何も返せなかった。
そう、デュラスとグウェンドリンのベルリエンデ公爵夫妻は、グウェンドリンの方からの熱烈な求婚の末に結婚したのだ。これは当時の社交界に大きな衝撃をもたらした事件であった。
「あの娘も、自分の意志で相手を選ぶってことよ……ふふ、血は争えないわね」
「お前は……それでいいのか?」
「あら? むしろ遅いくらいだと思ってるけど?」
絶句するデュラスに、グウェンドリンは微笑みかけた。
「やっと、親よりも、お役目よりも大切なものが出来たのよ……母親としては背中を押すだけよ」
「…………」
「父親としては不満かしら?」
渋面を作って沈黙したデュラスに、グウェンドリンはいたずらっぽく問いかけた。
「そうじゃない……複雑なだけだ……」
チェアに背中を預けて、思い巡らす。
転入生が来るとアンジェリーナに告げた夜を……その日から、日に日に明るくなっていく愛娘の顔を。
王太子との婚約以降、硬い無表情に沈んだ眼差しを見せることが多かった娘は、あの赤毛の男との交流の中で、生来の明るさを徐々に取り戻していったのだ。
「愛する娘が選んだ相手が……よりによってアレだと言うことがな」
「腹を括りましょう、あなた。そして、信じましょう……私たちの、愛する娘を」
もう完全に埋まってしまったらしい外堀を感じて、デュラスは苦笑した。
翌日、娘が起きてきた頃には、日が昇ったどころか午前はとっくに終わっていた。
時計を見て絶句する娘をお寝坊さんとからかいながら、バーバラが運転する車で公爵邸へと帰宅していた。
アンジェリーナの帰りを聞いたお付きの侍女――クレアがパタパタと出迎えてくる。
「お帰りなさいませ、お嬢様……と、奥様ぁ!?」
「ただいま、クレア。元気そうね」
「お、奥様こそ、お久しぶりでございます……」
「色々聞きたいことはあるでしょうけど、話は後。アンジェを清めてやってちょうだい」
「か、かしこまりました!!」
戸惑いながらも命に従い、アンジェリーナを連れて浴室へと向かっていた。
それを見送ったグウェンドリンは、勝手知ったる我が家を堂々と闊歩し、目的の部屋へとたどり着く。
樫材の扉を開けたその中は、色とりどりの衣装が収められた部屋……ウォークインクローゼットだった。
室内に踏み入って、迷いない足取りで目的の服へ……収められた場所は、変わっていなかった。
「これしかないわよね!!」
手に取ったそれを見て、グウェンドリンはほくそ笑んだ。
入浴してクレアの手で体を清めて、母が待つ部屋へと向かった。
「お待たせしました」
「はいはーい、こっちは準備できてるわよ」
そう言って母が披露したそれを、アンジェリーナは驚愕の面持ちで見つめた。
「お、お母様……そ、それは……」
「素敵なドレスでしょ? 装飾が最低限でシックに仕上げられてるから、公務や外交なんかのフォーマルにも使えるわ。私が若い頃、王宮を初めて訪問したときに着たドレスよ。懐かしいわー、あの時にデュラスと出会ったのよねぇ……」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
しみじみと語る母に、アンジェリーナは慌てて割り込んだ。
「どうしたの?」
「こ、この色は……」
「あら、不満かしら?」
手にしたドレスの色を見咎めるが、母は涼しい顔だ。
「あなたの気持ちを表すには、これ以上ないくらいぴったりじゃない」
「で、ですが……」
「ですが?」
「ゼノン様に……ご迷惑では……」
それを聞いた母は、盛大なため息をつく。
「あのねぇ、アンジェ。あなたがこれからしなきゃいけないことは、彼に気持ちを伝えることだけじゃないわ」
「だけじゃない?」
「ええ……あなたはね、これから皆に宣言しなきゃいけないのよ」
「せ、宣言? 何をでしょう……」
アンジェリーナの疑問に、グウェンドリンはニヤリと笑った。
「決まってるじゃない」
ズイッと、アンジェリーナに詰め寄る。
「あなたの心に、誰がいるのかを、よ」
「わたしの、心に……」
母の言葉を、ゆっくりと繰り返した。
「あなたは自分で言ったでしょう? 彼を愛してると」
「はい……」
「それを言葉ではなく、態度と行動で、皆に知らせなさい。そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
聞き返すアンジェリーナに、グウェンドリンはいたずらっぽく笑った。
「権力亡者のバカ公爵家次男の夫人だの、色欲と権力欲だけはいっちょ前なスケベ公爵の第二夫人だのにあてがわれちゃうわよ」
言われた瞬間、怖気が走った。どっちもまっぴらごめんだった。
「わかりました……クレア、手伝ってちょうだい」
「かしこまりました!!」
決意をみなぎらせたアンジェリーナを、母は満足げに見守った。
身支度を整えたアンジェリーナは、公爵家の車で王宮に向かう。
時計は午後五時半を指している。いつもの待ち合わせと、ほぼ変わらぬ時間。王宮の第一城門をくぐる。
リーズバルト王国の王宮、その城門は二重構造となっている。経った今アンジェリーナがくぐった第一城門の中には、登城手続きのための窓口が設けられており、ここで署名して登城を記録する。
十年にわたる王太子婚約者としての生活で、すっかりと慣れ親しんだその場所で、いつも通りの手順をこなすため、窓口へと歩み寄った。
「登城手続きを」
担当官に声をかける。すると、こちらを見上げた相手がギョッと目を見開いた。アンジェリーナの出で立ちに、驚愕しているのだ。
「登城手続きを」
硬直している担当官に繰り返すと、ハッと我に返った相手が慌てて時間を記録する。そこに記帳して、アンジェリーナは城内へと続く第二城門をくぐった。
第二城門の両脇を固める小銃を肩に提げた衛兵達も、アンジェリーナの服装に仰天していた様子だった。
我が家同然に知り尽くした王宮の廊下、そこですれ違う人すれ違う人皆が、アンジェリーナの姿に驚愕して、立ち止まったり、まじまじと目で追ったりして、それぞれが驚きを表していた。
その視線の全てを柳に風と受け流し、堂々たる足取りで目的の部屋へと向かう。
ここ数日で、いつの間にかすっかりと慣れ親しんでいた……書庫に。
(まだ、一週間ばかり……なのよね……)
ここまで、色々とありすぎた……アーノルドの拳を止めてくれた朝が、遠い昔のように思えた。
すっ、はっ、と、覚悟を決めるように深呼吸して、書庫の扉を押し開く。ゆっくりと敷居を跨いで、衣擦れ一つ立てずに奥へ。ここ一週間で馴染みとなった場所、閲覧スペースの中には、望み通りの先客が、一人。
今では見慣れた赤毛の美丈夫が、書庫の扉を開けた者に気が付いて顔を上げた。
「アンジェ……」
安心したような、それでいて緊張しているような口調でアンジェリーナを呼んだゼノンが、立ち上がってこちらに歩み寄ってくる。
「心配したぞ。怪我は……もう……」
口をついた気遣いの言葉は、尻すぼみに消えていった。その原因は言われるまでもなくわかっている。アンジェリーナの衣服だ。
燃え上がるような、真紅のフォーマルドレス。母の言う通り外交での着用を意識して、刺繡もなく装飾も最低限に仕上げられ、首元からデコルテまで覆い隠す精緻なレースがその中で華やかさを添えていた。
赤……言うまでもなく、ゼノンの髪と瞳の色……
それを見て、ゼノンは額に手を当てて目をそらした。その顔には、複雑そうな渋面が浮かんでいる。
その光景に、アンジェリーナはいたたまれない気持ちになった。ここまで来た時の決意はどこへやら……フルフルと体を震わせて、俯いてしまう。そんな時だった。
「……俺はいつも、出遅れちまうな……」
そんなゼノンのつぶやきが、アンジェリーナの耳朶を打つ。顔を上げると、髪と同じくらい顔を赤くしたゼノンと目が合った。
「「あのっ」」
見事にハモる。
一瞬呆けたような顔をお互いさらしてしまうが、ここではアンジェリーナの行動のほうが早かった。苦笑して、手で発言を促した。
「あー……」
その様子にがりがりと頭をかいたゼノンは、意を決したようにアンジェリーナを正面から見据えた。
「アンジェ」
「はい」
「その……そのドレスだけど、よく似合ってる……とても……きれいだ」
その言葉に、感じたことのないぬくもりが胸に広がった。
自分の行動が報われた時の達成感……それに、思いが通じた、喜び……
「……昨日から、考えていたんだ」
「何をでしょう?」
「俺たちは、お互いのことを何も知らない」
その言葉に、かすかに頷いた。
「だから、今日は……」
そう言って、ゼノンは自分が座ってた隣の椅子を引いて、アンジェリーナに着席を促した。
「とことん話をしよう……俺達二人で、お互いのことを、伝え合おう」
「……はい!!」
いわれて、ぱっと笑った。父の所業を知ってから、初めてちゃんと笑えた気がした。
その姿に、改めてゼノンが椅子を勧めてきた。
「さぁ、座ってくれ、それを置いて、な」
「えっ?」
それを置いて……いわれて初めて、自分が右手に何かを握っていることに気が付いた。
握っているのは、一本の筒……両端がふさがれ、片方に閉じた瞼のような装飾が施された、三十センチほどの金属の筒……
「私……いつの間にこんなものを……?」
そのつぶやきを聞いたゼノンの顔から表情が消え、心情を読み取るまでもないほどの強い緊張が、その全身から迸った。
瞬間、カチリと音がして、端の瞼が開いた。その刹那だった。
バシュッ!!
大きな音がして、筒から桃色の煙が噴き出した。甘い匂いのするそれを正面から吸い込んで、アンジェリーナは激しくせき込んだ。
(……まさか!?)
知らないうちに持たされていた罠……その事実に、セレスティアラから聞いた一つの名前が脳裏に浮かぶ。
即ち――『カレン』
「アンジェ!!」
いまだに煙を噴出させる筒を遠くへと蹴り飛ばして、アンジェリーナの肩を抱いてその鼻と口を手でふさぎながら、一直線に扉へと走る。
(迂闊だった……当然、考えられることだったのに!!)
無意識に想定外にしていた事態に、内心臍を噛む。
(王国へのかく乱が目的なら、俺やアンジェを狙うことも……いや、俺がやつらの立場なら外堀から攻めていく……くそったれ!!)
内心で自分を罵りながら、扉に手をかけた、その瞬間だった。
「なっ!!」
バチリと放電の音がして、手が弾かれた。
「閉鎖結界……しまった、隔離措置か!!」
隔離措置。城内で魔術的・化学的な汚染が確認された場合、当該居室を封鎖して隔離する措置である。アンジェが何者かに――おそらくは『カレン』に持たされていたものから噴出したガス……それに反応して発動したということだろう。
内部からは解除どころか、干渉さえできないよう設計されている代物だ。外部からの解除を待つしかない……そう思ったまさにその瞬間だった。
ドクンと、突然全身が脈打つような感覚がして、体が熱を持った。同時に、血が股間に集まっていくのを感じる。
「畜生……そういう罠かよ……」
「ゼノン……様……」
絞り出すようなアンジェリーナの声に目を向けると、赤らんだ頬に、熱く潤ませたエメラルドの瞳と目が合った。
「わたし……変、です……体、熱くて……」
切ない口調と表情……それは、年頃の男であるゼノンに、劣情を催させるには十分すぎるものだった。
(ヤバい……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!)
ドクンドクンと胸が高鳴り、自分がだんだんと『その気』になっていっていることに危機感を募らせ、アンジェリーナを突き飛ばしてでも離れようとする……が、袖をぎゅっと握りしめる白い手を、振り切ることはできなかった。
「ゼノン……さまぁ……」
そのまま、しなだれるように抱き着いてきたアンジェリーナ。それを拒めず、さりとて受け入れられず……中途半端な心根と体勢で受け止めて、そのままもつれ合うようにしりもちをついていた。
文字通り、息も触れ合う距離で見つめあう。もとからきれいだと思っていたエメラルドの瞳は、今は体の昂ぶりに潤んで、常よりも輝いて見えて……その瞳に引き込まれていくのを自覚する。
それは、アンジェリーナのほうも同じだと、なぜかわかってしまった。お互いの瞳にひかれあって、必然目と目を合わせて……互いの双眸に浮かんだ感情に、理性がゆっくりと溶けていく。
「ゼノン様……」
「アンジェ……」
ただ、呼び合っただけ……それでも、きっかけとしては十分だった。
そっと、ゆっくりと、唇を重ねあう。触れ合うような、互いを気遣うような優しい口づけ……男を縁取る赤と女を縁取る銀をゆっくりと溶け合わせようとでもいうかのように、時が止まったかのように唇を重ね続ける。
ややあって、互いに唇を離して、見つめあう。
ポカンと、表情が抜け落ちて、呆けた顔。そのまま、一瞬だけ見つめあって、
「んん、むぅ!!」
「ん、ちゅ、んん!!」
打って変わって、ぶつかり合うように抱擁しあって、互いの唇と舌と唾液を、本能の赴くままに貪りあった。
――次に何かあるときは、この王宮の中だぞ
国王や王女に告げた自分の言葉が脳裏をよぎったのを最後に、ゼノンは理性を手放した。
通された一室、その応接テーブルで、アンジェリーナは湯気を立てるマグカップを両手で持ったまま、うつろな視線を中空に向けていた。
カップの中身は減っていない。母が手ずから作ってくれたキャラメルミルクだったが、口をつけるという発想すら出てこなかった。
そんな彼女の頭の中は、先ほど知ってしまった真実とそれがもたらす罪悪感がグルグルと回り続けている。
(あの方の苦難は……わたくしたちが……)
そこまで考えて、思考がぷっつりと停止する。
『精霊戦争』において、少年兵の投入を決断したのは、他でもない自分の父親だった……その事実は、アンジェリーナの心をズタズタにしていた。
自分の思い人に降りかかった数々の苦難と苦痛……その全ての原因は、自分が生まれた公爵家にあったのだから。
ズキリ
覚えのある痛みが胸を刺す。最初は何なのかわからなかった痛み……今ならはっきりとわかる。失恋の痛みだ。
自分の恋は、終わったのだ。最悪の現実とともに。
(私に……あの人と生きていく資格なんか、ない……)
「ありがとうね、バーバラ」
沈んでいくばかりの思考を、母の声が打ち切る。
「ついでに悪いんだけど、明日、車を出してくれないかしら? 私とあの娘を、邸宅まで送ってほしいの」
「いいですよ、いつも先生にはお世話になってますし。いつ頃来りゃいいですか?」
「そうねぇ……午後一時にお願い。午前中は休ませるから」
「わかりました。それじゃ、明日」
「ごめんなさいね。お休み」
「お休みなさい」
そんなやりとりを交わして、母――グウェンドリンは扉を閉めて再び鍵をかけた。
振り返ったグウェンドリンが、アンジェリーナに微笑みかける。
「ひさしぶりね。元気……とは言えない状態ね」
「…………」
「狭くてびっくりしたでしょう? 奥の寝室以外は診療所になってるのよ。ここが今の家って訳」
「…………」
カップで揺れるミルクにうつろな視線を落とすアンジェリーナにため息をついたグウェンドリンは、そのまま娘の対面に腰を下ろした。
「何があったの?」
「…………」
「あなたがそんなになってしまうくらいのこと……婚約絡み?」
婚約。その単語に、びくりと肩が跳ねる。その様子に、グウェンドリンは眉をひそめた。
「当たらずとも、って所かしら?」
「……愛する人が……」
「え?」
弱々しく口を開いたアンジェリーナ、その内容に思わず聞き返す。
「愛する人が……出来ました」
「……王太子殿下ではなさそうね」
「その方は、とても、とても優しくて、強くて……でも、大きくて強い悲しみを抱えていて……その悲しみは……」
ポツポツと言い募り、その合間合間に涙が流れる。
「わたくしたちが……公爵家が……」
そこまでで、泣き崩れてしまう。嗚咽が止まらず、言葉が出ない。
「……知ってしまったのね」
さめざめと涙を流す娘の姿に、グウェンドリンはそう返した。その声音には、深い悔恨が伺えた。
「やっぱり、もっと早くに話しておくべきだったわね……はぁ、あのダメ親父が反対してても、言っておくべきだったわ」
「わたくしは……あの方と共に生きていく資格などないのです……ましてや、大公閣下の、隣になど……」
「大公って……まさか、マクシミリアン卿?」
うわごと同然の娘の言葉に、さすがに驚愕する。その母の問いに、アンジェリーナは静かにうなずいた。
「はい……ゼノン様に……マクシミリアン卿に、許されぬ思いを……」
「許されぬって……どういうことよ?」
娘の言葉に引っ掛かりを覚えたグウェンドリンは、その言葉の意味を問いただした。
母のその問いに、アンジェリーナは自虐的なほほえみを浮かべてかぶりを振り、口を開いた。
「そのままです……婚約者のいる殿方に、思慕を……」
「……お相手誰?」
なんだか顔をひきつらせた母が、簡潔に問うてくる。
「ハンター辺境伯爵令嬢様です……」
「あー……」
答えを聞いたグウェンドリンが、渋面を作って頬をかいた。
「それ、本人に確認したの?」
「いえ……ですが、マクシミリアン卿がハンター辺境伯令嬢様に……その手の甲に口づけするところを、見ました……」
震える声で紡がれる言葉に、グウェンドリンはほほをひきつらせた。
「……それ、たぶん誤解よ」
「え?」
「マクシミリアン卿に婚約者はいないわ。私が知る限りね」
「で、でも、手の甲にキスを……」
「それ、願掛け」
グウェンドリンの指摘に、アンジェリーナは呆けた顔をさらした。
「昔の戦場じゃ割と流行ってたのよ。チーム組んでるやつとの婚約者ごっこ」
「な、なんで……」
「単純に、婚約者や恋人、家族がいる兵士の生還率が高かったからよ。それに引っかけた願掛けってわけ」
「…………」
母の言葉に、絶句して言葉が出なくなった。
「まぁ、さ。色々言いたいと、あんたもあるでしょ? いっぺん、腹を割って話し合いなさい。あの大公閣下なら、邪険にするようなことはないって、あんたもわかってるでしょ?」
「ですが……わたくしには……」
「あなたには?」
うつむいて、声を絞り出す。
「ハンター辺境伯令嬢様のような、絆は……」
「それって、話し合うのに必要なこと?」
言いかけたところで、母の声が被せられた。
「……え?」
顔を上げた先で、あきれたような母と目が合った。
「よく考えなさないな。マクシミリアン卿はなぜあなたと交流していたの? あなたが言うとこの絆があったから?」
「それは……」
少し怒っているような無表情で言う母に、反駁しかける。
だが、うまく言葉に出来ない。
「あなたと心で繋がっていたから? それともあなたが戦友だったから? はたまた……」
母は、そこで意味ありげに言葉を切り、あやしい光を灯した瞳をアンジェリーナに向けた。
「公爵家に恩を売っておいしい思いしたいから?」
「……!? 違います!!」
母が重ねる言葉。最後のそれだけは、聞き捨てならなかった。思わず、母をにらみつけいていた。
その脳裏に、今までのゼノンとの思い出が駆け巡っていく。
アーノルドのこぶしを止めてくれた時の初対面。書庫で見せてくれた少年のような情熱に満ちた顔。童心に帰ったかのような高揚で、空の青を教えてくれた……そのすべてに、アンジェリーナは惹かれていた。
だから……その彼を卑しいと蔑むような言は、絶対に許せなかった。たとえ実の母が相手でも。
「あの方は、そんな人じゃありません!!」
「でしょう?」
涙も悲しみも振り払って、決然と睨みつけながら放った言葉は、あっさりと肯定された。
「そんな風に、彼のことを信じているのに……どうしてあなたは、最初から諦めているのかしら?」
「……!?」
諦めている。思いがけない言葉に困惑する。
「私が……諦めて……?」
「違うの? あなたさっきからあれこれダメな理由ばっかり探してるじゃない。アレがないからダメだとか、これがわからないからダメだとか、大事なのはそこじゃないでしょ?」
そう言って、グウェンドリンはアンジェリーナの頬に、そっと指先で触れた。
「あなたが彼をどう思っているのか……あなたの気持ちでしょう?」
「…………」
「言ってみなさい。あなたは彼にどんな想いがあるの?」
静かで、優しい母の問い。
「愛……して、います」
それに、絞り出すように答えた。
愛している。その言葉を実際に口にして、心にかかっていたもやが、晴れていくような気持ちになった。
「よーし、言えたじゃない。後は……本人にそれを伝えなさい」
母がそう言った刹那、じんわりと優しい温もりが殴られた頬に広がっていく。同時に感じるのは、覚えのある魔力。
母が、回復魔術で殴られた頬を治療してくれたのだった。母の細い指が離れたときには、腫れていた頬はすっかり元通りになっていた。
それに満足げに微笑んで、母は立ち上がった。
「彼の所に行って、ね。その為のお手伝い、してあげるから」
力強い母の言葉に、アンジェリーナは苦笑混じりに頷いた。
そのまま頤に手を当てたグウェンドリンは、呟くように言う。
「とりあえず、まずは御本人に会わないと始まらないわね……なんとか約束を取り付けて……」
「大丈夫です」
そう言って、母を遮る。
「いつも、待ち合わせている場所がありますから……」
続けて、ぎこちなく微笑んだ。今は、それが精いっぱいだった。
アンジェリーナが去った公爵邸、書斎で、デュラスは一人葉巻をくゆらせていた。
「…………」
無言で、何をするでもなく葉巻を吹かす。その脳裏に焼き付いているのは、先ほどの愛娘の、軽蔑しきった眼差し……。
「…………」
わかっているつもりだった。理解しているつもりだった……自分が、今は仕える君主となった親友と、ともに下した決断が、後ろ指を指されるような間違ったことであると……その時が来れば、指弾を受け入れると、そのつもりだったのだ……だが。
「実の娘から……とはな……」
つぶやいて、自虐的に笑った。
近寄らないで。実の愛娘から突き付けられた、明確な拒絶……それを受けて、思い知った。自分はまだまだ甘かったのだと。覚悟など、何もできていなかったのだと。
どこかで、思っていた、いや、甘えていたのだ。娘なら、実の子ならわかってくれると……当たり前の心を持った一人の人間であるということを、失念していたのだ。
(因果は巡る……報いを受けるのは自分自身とは限らない。覚えておけ)
脳裏によみがえる、紅い瞳に浮かんだ、皮肉気なまなざし……その言葉を鼻で笑ったものだったが、今となってはその意味を考えざるを得なかった。
いつの間にかシガーリングに迫っていた火に気づいて、渋面で灰皿に葉巻を押し付ける。葉巻を嗜むものとして最悪のマナー違反も、今のデュラスの心情を如実に表していた。
「……我々の番が来た、か……」
つい数日前に、君主から告げられた言葉をつぶやいた。それから、自虐の笑みを深くする。
結局、現実を見ていなかったのは自分一人ということか……ゼノンの召還を秘密裏に進められ、全てが決まってから知らされた時、フローレンスに言われたものだった。
『御息女を心配する気持ちはわかる。だが、曲がりなりにも王族であるアーノルドに対して強硬手段をとれるのはゼノンにおいてほかはない。現実を見ていただきたい……これぐらいしなければ、もう誰も納得しないのだ』
これぐらいしなければ……胸中で反芻して、ため息をついた。
心身を苛む現実を誤魔化すように、二本目の葉巻を手に取った時、ベルの音が室内に鳴り響いた。
緊急用に部屋に設置はしたものの、今日まで使う機会もなかった代物……通信球の呼び出し音だった。
慌てて起動させて、発信者を映し出して……硬直した。
映し出されたのは、銀の髪にエメラルドの瞳を宿した、妙齢の女性……妻の、グウェンドリンだった。
「グウェ……」
「何の話か、分かってるわよね?」
柔らかな微笑みに有無を言わせぬ口調で、妻は言った。分かってなかったら……暗に続く言葉を想像して背筋が凍った。
「明日、そっち帰るわ。アンジェを連れてね」
「あ、アンジェリーナはどうしている? い、いや、そもそも……」
「ええ。ここにいるわよ」
さらりと返されて、絶句する。
「細かい事情は後ね。明日は、そっちでアンジェに支度をさせるわ」
「し、支度? なんの……」
「決まってるじゃない。あの子の人生を決める、支度よ」
「人生……まさか、お前!?」
聖女の件を知っているのか……すんでのところでその言葉を飲み込んだ。
「何? 今になって反対する気じゃないでしょうね? アンジェ自身も望んでいることよ。大公閣下への求愛はね」
「な……」
知らないらしい……そう思ったとたんに放り込まれた修羅場は、ある意味それ以上だった。
「や、奴に……求愛だと……?」
「そうよ。今まで何があったか詳しくは聞いてないけど、覚悟は決めてるわ。アンジェの方から、結婚を申し込むつもりね、アレは」
「そ、そんな……令嬢の方から求婚などと……」
「あら……あなたがそれを言うの?」
そう言ってグウェンドリンは、かすかに頬を赤らめた。
「忘れてないわよね? アプローチしたのは、私の方だってこと」
「…………」
それを言われると、何も返せなかった。
そう、デュラスとグウェンドリンのベルリエンデ公爵夫妻は、グウェンドリンの方からの熱烈な求婚の末に結婚したのだ。これは当時の社交界に大きな衝撃をもたらした事件であった。
「あの娘も、自分の意志で相手を選ぶってことよ……ふふ、血は争えないわね」
「お前は……それでいいのか?」
「あら? むしろ遅いくらいだと思ってるけど?」
絶句するデュラスに、グウェンドリンは微笑みかけた。
「やっと、親よりも、お役目よりも大切なものが出来たのよ……母親としては背中を押すだけよ」
「…………」
「父親としては不満かしら?」
渋面を作って沈黙したデュラスに、グウェンドリンはいたずらっぽく問いかけた。
「そうじゃない……複雑なだけだ……」
チェアに背中を預けて、思い巡らす。
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「腹を括りましょう、あなた。そして、信じましょう……私たちの、愛する娘を」
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翌日、娘が起きてきた頃には、日が昇ったどころか午前はとっくに終わっていた。
時計を見て絶句する娘をお寝坊さんとからかいながら、バーバラが運転する車で公爵邸へと帰宅していた。
アンジェリーナの帰りを聞いたお付きの侍女――クレアがパタパタと出迎えてくる。
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「ただいま、クレア。元気そうね」
「お、奥様こそ、お久しぶりでございます……」
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「か、かしこまりました!!」
戸惑いながらも命に従い、アンジェリーナを連れて浴室へと向かっていた。
それを見送ったグウェンドリンは、勝手知ったる我が家を堂々と闊歩し、目的の部屋へとたどり着く。
樫材の扉を開けたその中は、色とりどりの衣装が収められた部屋……ウォークインクローゼットだった。
室内に踏み入って、迷いない足取りで目的の服へ……収められた場所は、変わっていなかった。
「これしかないわよね!!」
手に取ったそれを見て、グウェンドリンはほくそ笑んだ。
入浴してクレアの手で体を清めて、母が待つ部屋へと向かった。
「お待たせしました」
「はいはーい、こっちは準備できてるわよ」
そう言って母が披露したそれを、アンジェリーナは驚愕の面持ちで見つめた。
「お、お母様……そ、それは……」
「素敵なドレスでしょ? 装飾が最低限でシックに仕上げられてるから、公務や外交なんかのフォーマルにも使えるわ。私が若い頃、王宮を初めて訪問したときに着たドレスよ。懐かしいわー、あの時にデュラスと出会ったのよねぇ……」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
しみじみと語る母に、アンジェリーナは慌てて割り込んだ。
「どうしたの?」
「こ、この色は……」
「あら、不満かしら?」
手にしたドレスの色を見咎めるが、母は涼しい顔だ。
「あなたの気持ちを表すには、これ以上ないくらいぴったりじゃない」
「で、ですが……」
「ですが?」
「ゼノン様に……ご迷惑では……」
それを聞いた母は、盛大なため息をつく。
「あのねぇ、アンジェ。あなたがこれからしなきゃいけないことは、彼に気持ちを伝えることだけじゃないわ」
「だけじゃない?」
「ええ……あなたはね、これから皆に宣言しなきゃいけないのよ」
「せ、宣言? 何をでしょう……」
アンジェリーナの疑問に、グウェンドリンはニヤリと笑った。
「決まってるじゃない」
ズイッと、アンジェリーナに詰め寄る。
「あなたの心に、誰がいるのかを、よ」
「わたしの、心に……」
母の言葉を、ゆっくりと繰り返した。
「あなたは自分で言ったでしょう? 彼を愛してると」
「はい……」
「それを言葉ではなく、態度と行動で、皆に知らせなさい。そうじゃないと……」
「そうじゃないと?」
聞き返すアンジェリーナに、グウェンドリンはいたずらっぽく笑った。
「権力亡者のバカ公爵家次男の夫人だの、色欲と権力欲だけはいっちょ前なスケベ公爵の第二夫人だのにあてがわれちゃうわよ」
言われた瞬間、怖気が走った。どっちもまっぴらごめんだった。
「わかりました……クレア、手伝ってちょうだい」
「かしこまりました!!」
決意をみなぎらせたアンジェリーナを、母は満足げに見守った。
身支度を整えたアンジェリーナは、公爵家の車で王宮に向かう。
時計は午後五時半を指している。いつもの待ち合わせと、ほぼ変わらぬ時間。王宮の第一城門をくぐる。
リーズバルト王国の王宮、その城門は二重構造となっている。経った今アンジェリーナがくぐった第一城門の中には、登城手続きのための窓口が設けられており、ここで署名して登城を記録する。
十年にわたる王太子婚約者としての生活で、すっかりと慣れ親しんだその場所で、いつも通りの手順をこなすため、窓口へと歩み寄った。
「登城手続きを」
担当官に声をかける。すると、こちらを見上げた相手がギョッと目を見開いた。アンジェリーナの出で立ちに、驚愕しているのだ。
「登城手続きを」
硬直している担当官に繰り返すと、ハッと我に返った相手が慌てて時間を記録する。そこに記帳して、アンジェリーナは城内へと続く第二城門をくぐった。
第二城門の両脇を固める小銃を肩に提げた衛兵達も、アンジェリーナの服装に仰天していた様子だった。
我が家同然に知り尽くした王宮の廊下、そこですれ違う人すれ違う人皆が、アンジェリーナの姿に驚愕して、立ち止まったり、まじまじと目で追ったりして、それぞれが驚きを表していた。
その視線の全てを柳に風と受け流し、堂々たる足取りで目的の部屋へと向かう。
ここ数日で、いつの間にかすっかりと慣れ親しんでいた……書庫に。
(まだ、一週間ばかり……なのよね……)
ここまで、色々とありすぎた……アーノルドの拳を止めてくれた朝が、遠い昔のように思えた。
すっ、はっ、と、覚悟を決めるように深呼吸して、書庫の扉を押し開く。ゆっくりと敷居を跨いで、衣擦れ一つ立てずに奥へ。ここ一週間で馴染みとなった場所、閲覧スペースの中には、望み通りの先客が、一人。
今では見慣れた赤毛の美丈夫が、書庫の扉を開けた者に気が付いて顔を上げた。
「アンジェ……」
安心したような、それでいて緊張しているような口調でアンジェリーナを呼んだゼノンが、立ち上がってこちらに歩み寄ってくる。
「心配したぞ。怪我は……もう……」
口をついた気遣いの言葉は、尻すぼみに消えていった。その原因は言われるまでもなくわかっている。アンジェリーナの衣服だ。
燃え上がるような、真紅のフォーマルドレス。母の言う通り外交での着用を意識して、刺繡もなく装飾も最低限に仕上げられ、首元からデコルテまで覆い隠す精緻なレースがその中で華やかさを添えていた。
赤……言うまでもなく、ゼノンの髪と瞳の色……
それを見て、ゼノンは額に手を当てて目をそらした。その顔には、複雑そうな渋面が浮かんでいる。
その光景に、アンジェリーナはいたたまれない気持ちになった。ここまで来た時の決意はどこへやら……フルフルと体を震わせて、俯いてしまう。そんな時だった。
「……俺はいつも、出遅れちまうな……」
そんなゼノンのつぶやきが、アンジェリーナの耳朶を打つ。顔を上げると、髪と同じくらい顔を赤くしたゼノンと目が合った。
「「あのっ」」
見事にハモる。
一瞬呆けたような顔をお互いさらしてしまうが、ここではアンジェリーナの行動のほうが早かった。苦笑して、手で発言を促した。
「あー……」
その様子にがりがりと頭をかいたゼノンは、意を決したようにアンジェリーナを正面から見据えた。
「アンジェ」
「はい」
「その……そのドレスだけど、よく似合ってる……とても……きれいだ」
その言葉に、感じたことのないぬくもりが胸に広がった。
自分の行動が報われた時の達成感……それに、思いが通じた、喜び……
「……昨日から、考えていたんだ」
「何をでしょう?」
「俺たちは、お互いのことを何も知らない」
その言葉に、かすかに頷いた。
「だから、今日は……」
そう言って、ゼノンは自分が座ってた隣の椅子を引いて、アンジェリーナに着席を促した。
「とことん話をしよう……俺達二人で、お互いのことを、伝え合おう」
「……はい!!」
いわれて、ぱっと笑った。父の所業を知ってから、初めてちゃんと笑えた気がした。
その姿に、改めてゼノンが椅子を勧めてきた。
「さぁ、座ってくれ、それを置いて、な」
「えっ?」
それを置いて……いわれて初めて、自分が右手に何かを握っていることに気が付いた。
握っているのは、一本の筒……両端がふさがれ、片方に閉じた瞼のような装飾が施された、三十センチほどの金属の筒……
「私……いつの間にこんなものを……?」
そのつぶやきを聞いたゼノンの顔から表情が消え、心情を読み取るまでもないほどの強い緊張が、その全身から迸った。
瞬間、カチリと音がして、端の瞼が開いた。その刹那だった。
バシュッ!!
大きな音がして、筒から桃色の煙が噴き出した。甘い匂いのするそれを正面から吸い込んで、アンジェリーナは激しくせき込んだ。
(……まさか!?)
知らないうちに持たされていた罠……その事実に、セレスティアラから聞いた一つの名前が脳裏に浮かぶ。
即ち――『カレン』
「アンジェ!!」
いまだに煙を噴出させる筒を遠くへと蹴り飛ばして、アンジェリーナの肩を抱いてその鼻と口を手でふさぎながら、一直線に扉へと走る。
(迂闊だった……当然、考えられることだったのに!!)
無意識に想定外にしていた事態に、内心臍を噛む。
(王国へのかく乱が目的なら、俺やアンジェを狙うことも……いや、俺がやつらの立場なら外堀から攻めていく……くそったれ!!)
内心で自分を罵りながら、扉に手をかけた、その瞬間だった。
「なっ!!」
バチリと放電の音がして、手が弾かれた。
「閉鎖結界……しまった、隔離措置か!!」
隔離措置。城内で魔術的・化学的な汚染が確認された場合、当該居室を封鎖して隔離する措置である。アンジェが何者かに――おそらくは『カレン』に持たされていたものから噴出したガス……それに反応して発動したということだろう。
内部からは解除どころか、干渉さえできないよう設計されている代物だ。外部からの解除を待つしかない……そう思ったまさにその瞬間だった。
ドクンと、突然全身が脈打つような感覚がして、体が熱を持った。同時に、血が股間に集まっていくのを感じる。
「畜生……そういう罠かよ……」
「ゼノン……様……」
絞り出すようなアンジェリーナの声に目を向けると、赤らんだ頬に、熱く潤ませたエメラルドの瞳と目が合った。
「わたし……変、です……体、熱くて……」
切ない口調と表情……それは、年頃の男であるゼノンに、劣情を催させるには十分すぎるものだった。
(ヤバい……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!)
ドクンドクンと胸が高鳴り、自分がだんだんと『その気』になっていっていることに危機感を募らせ、アンジェリーナを突き飛ばしてでも離れようとする……が、袖をぎゅっと握りしめる白い手を、振り切ることはできなかった。
「ゼノン……さまぁ……」
そのまま、しなだれるように抱き着いてきたアンジェリーナ。それを拒めず、さりとて受け入れられず……中途半端な心根と体勢で受け止めて、そのままもつれ合うようにしりもちをついていた。
文字通り、息も触れ合う距離で見つめあう。もとからきれいだと思っていたエメラルドの瞳は、今は体の昂ぶりに潤んで、常よりも輝いて見えて……その瞳に引き込まれていくのを自覚する。
それは、アンジェリーナのほうも同じだと、なぜかわかってしまった。お互いの瞳にひかれあって、必然目と目を合わせて……互いの双眸に浮かんだ感情に、理性がゆっくりと溶けていく。
「ゼノン様……」
「アンジェ……」
ただ、呼び合っただけ……それでも、きっかけとしては十分だった。
そっと、ゆっくりと、唇を重ねあう。触れ合うような、互いを気遣うような優しい口づけ……男を縁取る赤と女を縁取る銀をゆっくりと溶け合わせようとでもいうかのように、時が止まったかのように唇を重ね続ける。
ややあって、互いに唇を離して、見つめあう。
ポカンと、表情が抜け落ちて、呆けた顔。そのまま、一瞬だけ見つめあって、
「んん、むぅ!!」
「ん、ちゅ、んん!!」
打って変わって、ぶつかり合うように抱擁しあって、互いの唇と舌と唾液を、本能の赴くままに貪りあった。
――次に何かあるときは、この王宮の中だぞ
国王や王女に告げた自分の言葉が脳裏をよぎったのを最後に、ゼノンは理性を手放した。
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