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第十一話
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「……近頃、放課後に書庫に入り浸ってるそうだな」
夕食時、何気ない口調で父から問われ、アンジェリーナは小首をかしげた。
「はい。王妃教育の終了を告げられましたので、空いた時間を読書にあてたくて……」
「そうか……」
複雑そうな、渋面。これは知っている。ごまかしは聞かない……そう悟ったアンジェリーナは、実態を告白することにした。
「そう思って書庫に行きましたら、マクシミリアン卿がおられまして、お話をさせていただきました」
「お話?」
それを聞いた瞬間、父の顔色が変わった。
まるで、何かを恐れているかのように……
「一体、何を聞かされたんだ!!」
「何をって……本業は考古学者で、副業は冒険者とか。でも実入りがよくないから、本業だといっても誰も真剣に聞かないとか、今書いていらっしゃる本の内容とか……そんな他愛もないことばかりですわ」
打って変わっての剣幕に、アンジェリーナは少し引きながらも答える。
「戦争のことは聞かされてないだろうな?」
「戦争? いいえ、何も。あの方、本業をとても楽しんでいらっしゃるみたいですから、昔のことを話そうと思われていないのでしょうね……話題に上がったこともございません」
「……そうか」
ホッとしたような調子の、父の姿。
(……いったい、何を危惧していらっしゃるのかしら?)
「……明日のことは、忘れておらんだろうな?」
ちょっと尋常ではない父の様子に少々困惑していると、話を替えられた。この話題はおしまい……暗にそう言っているのが分かった。
「はい。叔父様が出資されている孤児院への慰問ですわね?」
父・デュラスの弟は商会経営で財を成し、その一部を孤児院に出資している。本人曰く、『未来への投資』とのことだったが、子供たちと接しているときの叔父の笑顔にそれだけではないことぐらいは理解していた。
「全く……あれもいい加減所帯を持てばいいのに……独身貴族を気取って遊び惚けるから、人の娘を駆り出すような羽目になるのだ」
「でも、叔父様はきちんとその分を稼がれたうえでそうなさってますわ」
「すまんな、アンジェ。面倒ごとを押し付けて」
「大丈夫ですよ。わたくしとしても、子供たちと触れ合うことは嫌いじゃありませんし、殿下のお相手に比べれば千倍も万倍も楽で楽しいですわ」
「それは不敬だぞ」
「わたくしも人の子です。鬱憤ぐらいはございますわよ」
笑顔でそう答えて、食後のコーヒーカップを傾けた。
「…………」
ゼノンは、書庫の閲覧スペースで一人懊悩していた。
理由は当然、魔力放射の検証結果だ。間違いなく、『水晶宮』はアンジェリーナに反応している。このことは、すでにアルハザードにも報告済みだ。
問題は、これを本人にどう切り出すかだった。国の命運を左右する事態の中心に置かれていることを伝えなければならない。だが……
「……戦争のことを、どう話したもんか……」
『水晶宮』に封じられた存在、それに認められた以上、彼女にはすべてを話さなければならない。そうでなければ、すべてを理解できないからだ。
だが、それはあの戦争でこの国が……当時の大人たちが犯した罪のすべてを明かさなければならないということだ。特に、彼女の家、ベルリエンデ公爵家は……
思考が堂々巡りに陥りかけた時、扉が開く音がした。反射的に、そちらを見る。
今日、彼女は用事で来れないと言っていた。ならば来たのは誰だ? この書庫は人の出入りは滅多になく、ゼノンもそこを気に入って作業場に選んだのだ。
足音は止まることなく、まっすぐに閲覧スペースへとやってきた。その主を見て、ゼノンは固まった。
「久しぶりだな」
「……これはこれは……御自ら何の御用ですかな? 公爵閣下」
現れたのは、デュラス・ベルリエンデ公爵だった。
「こんな流れ者の冒険者に何の御用です?」
「…………」
皮肉気な笑顔で、目の前の赤毛の男はそう聞いてきた。
相手が、自分にいい印象を持っていないことはわかっていた。今この瞬間の態度も、それが表に出ているということだろう。
「聞きたいことがある」
「答えられることなら」
「ここのところ、私の娘がこちらに来ているそうだな?」
「ええ。放課後に毎日。聡明な娘さんですな。おかげで仕事が捗ってますよ」
そこまで言われて、デュラスはゼノンに詰め寄っていた。
「娘に何を吹き込むつもりだ? 答えろ」
「吹き込むとは人聞きの悪い……私の本業に関して二・三講釈はさせていただきましたが、それだけですよ」
「本当だろうな?」
「心配せずとも、戦争のことは話していませんよ」
そこで、ゼノンは真顔になった。その表情に、デュラスは気圧される。
「あんたの、聖女の休息を盛大に邪魔してくれた横紙破りのことも含めて、な」
「……!!」
そういわれると、デュラスは絶句するしかなかった。許されたとでも思っていたのか? 相手の赤い目がそう語っていた。
横紙破り……あの戦争の時、爆撃を受けた都市でボランティアとして活動していた妻が、都市内に患者とともに取り残されたことを知り、救出のために強権を使って聖女が所属する部隊を動かした。
戦場に取り残された民間人の救助……それだけ言えば聞こえはいいが、結局は貴族が己の身内を救うために無理を押し通したというだけの話だ。押し付けられた側からすれば、理不尽以外の何物でもない。ゼノンの怒りも当然の話だった。
「……あのときは、すまないことをしたと思う。お前にも、聖女……イリス・アルフェノスにも、申し訳ないこと……を……」
デュラスの言葉は、尻すぼみに消えていった。
目の前の赤毛の男が、殺気も露わな視線を自分に向かって突き刺してきたからだった。お前がその名を口にするな。何よりも明瞭に、その目が語っていた。
「……聖女にも、申し訳ないことをした……」
「その言葉は六年前に聞きたかったな」
フン、と鼻を鳴らして、話は終わったと言わんばかりに資料に向き直った。
「待ってくれ」
「まだ何か?」
「……娘には、戦争でのことは黙っててくれないか?」
「何?」
「あの娘は、もう十分にこの国で理不尽を味わった……これ以上、心労を増やしたくない」
「…………」
「やっと、やっとあの愚物との婚約から解放されたのだ……それなのに、これ以上背負う必要はない」
「…………」
「身勝手な要求だとはわかっている。だが、もう少しで、あの娘も望む幸せを……」
「だったら、さっさと次の婚約者でも見つけてやることだな」
デュラスの懇願をゼノンは遮った。ペンを机において、デュラスに向き直ってくる。
「今の彼女の価値は計り知れない。本人は成績優秀で四カ国語をマスターし、王妃や第一王女からの覚えもめでたい。あげくが一時的とは言え王太子の婚約者だった女性だ。普通の貴族ならば知り得ない機密にも触れる機会があっただろう。あらゆる貴族が喉から手が出るほどほしがるような情報をな。他の三大公爵家……ノーラン公爵家とグラウハルト公爵家も黙ってはいまい。ノーラン公爵は第二夫人の申請をしたと言うし、グラウハルト公爵家は芸術家の次男を王都に呼び戻したという話だぞ? これから、何らかの形でアプローチを仕掛けてくるのは確実だ」
ゼノンの話に、デュラスは戦慄する。他の公爵家が動き始めていることは把握していたが、その細かい動きまでは知らなかった。
この国は、しかるべき手続きをふめば一夫多妻が認められる。ノーラン公爵がその手続きを申請したと言うことは、自分で娶る気だと言うことだろう。グラウハルト公爵家も、三〇に迫っていまだ独身の次男を呼び戻したということは、婚約者としてあてがうつもりだ。
自分でさえ手に入れられない情報を、この男はどうやって……恐れを何とか抑えて覆い隠し、気を取り直して口を開く。
「そんなことはわかっている。それを含めてだな」
「それに、あんたや俺が何を言った所で、もう状況は覆らない」
「ど、どういう意味だ?」
困惑するデュラスの前に、バサリと一冊のファイルが投げ出された。それに向かってあごをしゃくるゼノン。
「……?」
読めと言うことか。ファイルを取り上げて開き、そこに収められた書類の内容に目を通していき、自分の顔が、みるみるゆがんでいく様をデュラスは自覚した。
「……お、お前……こ、これは……」
「今朝方、陛下には報告したよ。こんな結果になって残念がっていらっしゃった」
「で、でたらめだ!! こんな、こんなことが……」
「残念だが、何度繰り返しても同じ結論しか出なかった。次の『聖女』がアンジェリーナ・ベルリエンデ公爵令嬢だという結論が、な」
そこで、皮肉気な笑みを再び浮かべた。
その手の笑みは、デュラス自身何度も見たことがある。これは……敵を痛めつけることに成功したものの、歓喜の笑みだ。
「ご自慢の愛娘が『聖女』に選ばれる栄誉を賜ったご感想は?」
邪悪な微笑みとともに発せられたその言葉に、デュラスはゼノンの胸ぐらを掴み上げていた。
ふーふーと、息が止まらない。自身の呼吸さえ制御できない、怒り……それはデュラスが初めて抱いた怒りだった。
「そうだ、たっぷり味わえ。それがあの戦争で死んでいった子供達の無念だ」
「き、貴様があの方の係累でなければ、この王宮の敷居を跨がせんところだ!!」
「そうか。貴族ってのは大変だなぁ? 人を憎むのも身分が邪魔をする。平民の出でよかったよ。おかげで戦争じゃ七面倒くさい役割を押しつけられたがね……おや? それを提案したのは誰だったかなぁ?」
「き、さ……」
ニヤけ顔のゼノンの言葉に、頭が沸騰しかけたとき、扉が強く開け放たれる音が書庫内に響いた。
「なんの騒ぎだ!!」
ズカズカと閲覧スペースにやってきて開口一番、怒声を上げたのは国王だった。
「よぉ、アル」
「へ、陛下……何故ここに?」
「お前たちが言い争っていると侍女から報告があったのだ。一体、何をしている?」
「何にもないさ。ちょっと旧交を温めていただけだよ」
飄々とそう答えて、ゼノンはやんわりと胸ぐらを掴んだ手を振り払っていた。
「お話ししたとおりですよ、公爵閣下。私の権限ではもうどうにもならない。ご理解のほどをよろしくお願いします……わかったら消えてくれ」
最後の言葉とともに、再び資料に向き直る。
「仕事の邪魔だ」
その言葉には、誰の目にも明らかな拒絶が込められていた。
力ない足取りで書庫を後にしたデュラスを見送るでもなく、ゼノンは手つかずだった作業に取りかかる。
が、すぐそばにアルハザードが立っている状況に三分と経たず根を上げた。
「……さっきの言葉はお前にも言ったつもりだったんだがな?」
「一体、何があったんだ?」
「何もと言ってるだろう?」
「話さないなら命令してやってもいいぞ?」
有無を言わせぬ態度の国王に、ゼノンは根負けした。
手短に、デュラスとのやりとりを説明する。
「……なんとまぁ……」
「公爵殿の懸念もわかるがね、もう俺にはどうしようも出来ないことだ」
「それにしても、もう少し言い方があるだろうに」
「六年分の鬱憤を晴らして何か問題が? そんなモンは話にならんほどの理不尽を叩き込まれたんだがな、こっちは」
「……その気持ちはわかる。その観点で言えば、私やフローラでさえお前にとっては敵だ」
はぁ、とため息をついて、アルハザードはゼノンの隣に腰を下ろした。
「自分で思っていた以上に、あの公爵にはムカついていたらしい」
「あの戦争のことを思えば、それは仕方ないことなのだろう……だが、公爵には一言謝っておけ」
「なん」
「明らかに言い過ぎだ」
反論しようとした言葉を、容赦なく潰される。
「よく考えろ、お前は相手を痛めつけるためだけに相手の身内を利用したのだぞ? 失礼極まりないと思わんか?」
「……あの公爵が相手ならどうでもいい」
「デュラスにじゃない、アンジェリーナ嬢にだ」
考えもしなかったことに不意を突かれ、目を見開いた。
「お前は何度も彼女を賞賛し同情していた……だが、今日のこれはなんだ? 彼女を気に食わないやつを殴りつけるための棍棒にしているではないか。これではアーノルドのことを悪くは言えん。いや、それ以下だ。少なくとも、やつはアンジェリーナ嬢を最低限人間扱いしていたからな。お前がやったことはそれに劣る愚行だ」
バッサリと切り捨てて、国王は立ち上がる。
「心から謝罪しろとまでは言わん。だが、最低限の筋は通せ。そうでなければ、お前は畜生以下の獣となるぞ」
踵を返して、大股で書庫を後にした。
その背中を見送り、ゼノンは立ち上がってソファに向かい……
不貞腐れた顔で、どっかと寝転んだ。
「……誰が獣だ、クソッタレ……」
漏れた悪態にすら、力はなかった。
そのまま寝転んでいると、いつの間にか眠りに落ちていた。
引き金にかかった指が、震えて動かない。目の前の光景は、ゼノンの心身を脅かしていた。
『撃てー!! 早く撃つんだ、ゼノン!!』
『少佐、撃ってください!! もう時間がありません!!』
いやだ。そんなこと出来るか。あいつは。カシューは。親の後を継ぐって。食堂を継ぐって。俺が作った料理を食いに来てくれって……必ず食いに行くって、約束したんだ……。
目の前で、徐々にカシューの『イクスレイヴ』が青い燐光をこぼす黒い触手に蝕まれていく。コックピットにまで達するのは時間の問題だ。
早く撃って、『滅却』しなければ……カシューが、あいつらに『使われる』……そんなことはわかっている。
だが、引き鉄に掛けた人差し指が、まるで石化したかのように動かなかった。
『……少佐』
そこで、通信がはいる。目の前の機体のパイロット……カシューからだ。
「カシュー……生きてるんだな? 待ってろ。すぐそこから出してやる」
『いえ……もう、無理です。脱出機構が死にました……ハッチも開きません……もう、逃れる術はありません』
「諦めるな!! 実家の食堂継ぐんだろ!! 俺に料理食わせてくれるんだろ!? 諦めるのかよ!!」
『すいません……約束、破ることになっちまいました……』
「破りたくないなら生き残る努力をしろ!! 命令だ!! 諦めるな!!」
『もう無理って言ってんだろ馬鹿野郎!!』
突如迸った怒声が、ゼノンの口を噤ませた。
『ここでやらなかったら、俺は敵になるんだろうが!! 俺に仲間を殺させたいのか!! 奴らの仲間入りをさせたいのか!?』
「かしゅ」
『俺を、仲間と思っているのなら……』
震える声。恐怖がにじんだ、声。
『俺を……俺のことを、人間のまま死なせてくれぇ!! ゼノォォォォォン!!!!』
心からの、叫び。それに絶叫を上げながら、ゼノンは引き鉄を引き絞った。
アンジェリーナは王宮の廊下を書庫に向かって進んでいた。
慰問は思っていたよりも早く終わり、門限まで時間が空いてしまったので、王宮に顔を出すことにしたのだ。
「作業は出来ないでしょうけど、少しお話しぐらいなら出来るわよね」
そう独りごちながら、アンジェリーナは書庫の扉を押し開く。
いままでなら涎を垂らさんばかりに見つめていたであろう書架の列を華麗にスルーして、閲覧スペースに直行する。
「ごきげんよう!! ゼノン……様……」
掛けた声は、尻すぼみに消えてしまう。
なぜなら、普段は机に向かっているはずの、目的の人物が、どういうわけだか奥のソファで眠り込んでいたからだった。
(……お疲れだったのかしら?)
よく考えれば、いつ行ってもこの書架に入り浸っている。それこそ休日でも。空いた時間は全て、仕事につぎ込んでいると言うことなのだろう。
「もう、根詰めると体に毒ですのに……」
憤りも露わにつぶやいた。話が出来ればと思って立ち寄ったが、これではどうしようもない。起こすのも悪いし、今日は退散だ。
とりあえず、何か掛けてやろう……周りを見回すと、ブランケットが持ち込まれているのに気付いた。
それを取り上げて、寝ているゼノンに近づいて……
「ゼノン様?」
彼が、ひどくうなされていることに気がついた。
このまま、夢を見させてはならない……なぜだか強くそう思って、気がつけばゼノンを揺さぶっていた。
「ゼノン様?」
声を掛けたとき、クワッと、ゼノンが目を剥いた。そのあまりの形相に、アンジェリーナは硬直する。
だから……起き上がりざまに抱きついてきた彼を、拒む暇もなかった。
あっと思ったときは遅かった。そのままバランスを崩して、対面のソファに二人して倒れ込む。
アンジェリーナは、ゼノンに押し倒されていた。
「ぜ、ゼノン様!? そ、その、おやめくださいませ!! わ、わたくしはまだ未婚の生娘で……」
「……許してくれ」
焦りに焦ったアンジェリーナの言を、ゼノンの嗚咽が遮った。
「……ゼノン様?」
「許してくれ……カシュー……許してくれ……皆……俺は、ああするしかなかったんだ……お前たちが乗っ取られないように……死体が使われないようにするためには、焼くしかなかったんだ……」
そのゼノンの懺悔に、全ての思考が停止した。
「乗っ取る? 死体? 焼く?」
「そうしないと……誰でもあいつらの手先に変わったんだ……大人の方が狙われるからって……子供を使ったって……そこにいるやつを使うだけだったんだ……許してくれ……ああするしか、なかったんだ……」
許してくれ。許してくれ。嗚咽交じりに繰り返される、懺悔。
その内容は、アンジェリーナの聡明な頭脳の中で、月に一度の検診や精霊の呪い、戦争のことを聞かされなかったかと詰問する父の剣幕、そして……転入当日からたびたび彼の面に差していた『陰り』とゆっくりと繋がっていった。
「なんて……こと……」
二人だけの書庫に、ゼノンの嗚咽がいつまでも響き続けた。
夕食時、何気ない口調で父から問われ、アンジェリーナは小首をかしげた。
「はい。王妃教育の終了を告げられましたので、空いた時間を読書にあてたくて……」
「そうか……」
複雑そうな、渋面。これは知っている。ごまかしは聞かない……そう悟ったアンジェリーナは、実態を告白することにした。
「そう思って書庫に行きましたら、マクシミリアン卿がおられまして、お話をさせていただきました」
「お話?」
それを聞いた瞬間、父の顔色が変わった。
まるで、何かを恐れているかのように……
「一体、何を聞かされたんだ!!」
「何をって……本業は考古学者で、副業は冒険者とか。でも実入りがよくないから、本業だといっても誰も真剣に聞かないとか、今書いていらっしゃる本の内容とか……そんな他愛もないことばかりですわ」
打って変わっての剣幕に、アンジェリーナは少し引きながらも答える。
「戦争のことは聞かされてないだろうな?」
「戦争? いいえ、何も。あの方、本業をとても楽しんでいらっしゃるみたいですから、昔のことを話そうと思われていないのでしょうね……話題に上がったこともございません」
「……そうか」
ホッとしたような調子の、父の姿。
(……いったい、何を危惧していらっしゃるのかしら?)
「……明日のことは、忘れておらんだろうな?」
ちょっと尋常ではない父の様子に少々困惑していると、話を替えられた。この話題はおしまい……暗にそう言っているのが分かった。
「はい。叔父様が出資されている孤児院への慰問ですわね?」
父・デュラスの弟は商会経営で財を成し、その一部を孤児院に出資している。本人曰く、『未来への投資』とのことだったが、子供たちと接しているときの叔父の笑顔にそれだけではないことぐらいは理解していた。
「全く……あれもいい加減所帯を持てばいいのに……独身貴族を気取って遊び惚けるから、人の娘を駆り出すような羽目になるのだ」
「でも、叔父様はきちんとその分を稼がれたうえでそうなさってますわ」
「すまんな、アンジェ。面倒ごとを押し付けて」
「大丈夫ですよ。わたくしとしても、子供たちと触れ合うことは嫌いじゃありませんし、殿下のお相手に比べれば千倍も万倍も楽で楽しいですわ」
「それは不敬だぞ」
「わたくしも人の子です。鬱憤ぐらいはございますわよ」
笑顔でそう答えて、食後のコーヒーカップを傾けた。
「…………」
ゼノンは、書庫の閲覧スペースで一人懊悩していた。
理由は当然、魔力放射の検証結果だ。間違いなく、『水晶宮』はアンジェリーナに反応している。このことは、すでにアルハザードにも報告済みだ。
問題は、これを本人にどう切り出すかだった。国の命運を左右する事態の中心に置かれていることを伝えなければならない。だが……
「……戦争のことを、どう話したもんか……」
『水晶宮』に封じられた存在、それに認められた以上、彼女にはすべてを話さなければならない。そうでなければ、すべてを理解できないからだ。
だが、それはあの戦争でこの国が……当時の大人たちが犯した罪のすべてを明かさなければならないということだ。特に、彼女の家、ベルリエンデ公爵家は……
思考が堂々巡りに陥りかけた時、扉が開く音がした。反射的に、そちらを見る。
今日、彼女は用事で来れないと言っていた。ならば来たのは誰だ? この書庫は人の出入りは滅多になく、ゼノンもそこを気に入って作業場に選んだのだ。
足音は止まることなく、まっすぐに閲覧スペースへとやってきた。その主を見て、ゼノンは固まった。
「久しぶりだな」
「……これはこれは……御自ら何の御用ですかな? 公爵閣下」
現れたのは、デュラス・ベルリエンデ公爵だった。
「こんな流れ者の冒険者に何の御用です?」
「…………」
皮肉気な笑顔で、目の前の赤毛の男はそう聞いてきた。
相手が、自分にいい印象を持っていないことはわかっていた。今この瞬間の態度も、それが表に出ているということだろう。
「聞きたいことがある」
「答えられることなら」
「ここのところ、私の娘がこちらに来ているそうだな?」
「ええ。放課後に毎日。聡明な娘さんですな。おかげで仕事が捗ってますよ」
そこまで言われて、デュラスはゼノンに詰め寄っていた。
「娘に何を吹き込むつもりだ? 答えろ」
「吹き込むとは人聞きの悪い……私の本業に関して二・三講釈はさせていただきましたが、それだけですよ」
「本当だろうな?」
「心配せずとも、戦争のことは話していませんよ」
そこで、ゼノンは真顔になった。その表情に、デュラスは気圧される。
「あんたの、聖女の休息を盛大に邪魔してくれた横紙破りのことも含めて、な」
「……!!」
そういわれると、デュラスは絶句するしかなかった。許されたとでも思っていたのか? 相手の赤い目がそう語っていた。
横紙破り……あの戦争の時、爆撃を受けた都市でボランティアとして活動していた妻が、都市内に患者とともに取り残されたことを知り、救出のために強権を使って聖女が所属する部隊を動かした。
戦場に取り残された民間人の救助……それだけ言えば聞こえはいいが、結局は貴族が己の身内を救うために無理を押し通したというだけの話だ。押し付けられた側からすれば、理不尽以外の何物でもない。ゼノンの怒りも当然の話だった。
「……あのときは、すまないことをしたと思う。お前にも、聖女……イリス・アルフェノスにも、申し訳ないこと……を……」
デュラスの言葉は、尻すぼみに消えていった。
目の前の赤毛の男が、殺気も露わな視線を自分に向かって突き刺してきたからだった。お前がその名を口にするな。何よりも明瞭に、その目が語っていた。
「……聖女にも、申し訳ないことをした……」
「その言葉は六年前に聞きたかったな」
フン、と鼻を鳴らして、話は終わったと言わんばかりに資料に向き直った。
「待ってくれ」
「まだ何か?」
「……娘には、戦争でのことは黙っててくれないか?」
「何?」
「あの娘は、もう十分にこの国で理不尽を味わった……これ以上、心労を増やしたくない」
「…………」
「やっと、やっとあの愚物との婚約から解放されたのだ……それなのに、これ以上背負う必要はない」
「…………」
「身勝手な要求だとはわかっている。だが、もう少しで、あの娘も望む幸せを……」
「だったら、さっさと次の婚約者でも見つけてやることだな」
デュラスの懇願をゼノンは遮った。ペンを机において、デュラスに向き直ってくる。
「今の彼女の価値は計り知れない。本人は成績優秀で四カ国語をマスターし、王妃や第一王女からの覚えもめでたい。あげくが一時的とは言え王太子の婚約者だった女性だ。普通の貴族ならば知り得ない機密にも触れる機会があっただろう。あらゆる貴族が喉から手が出るほどほしがるような情報をな。他の三大公爵家……ノーラン公爵家とグラウハルト公爵家も黙ってはいまい。ノーラン公爵は第二夫人の申請をしたと言うし、グラウハルト公爵家は芸術家の次男を王都に呼び戻したという話だぞ? これから、何らかの形でアプローチを仕掛けてくるのは確実だ」
ゼノンの話に、デュラスは戦慄する。他の公爵家が動き始めていることは把握していたが、その細かい動きまでは知らなかった。
この国は、しかるべき手続きをふめば一夫多妻が認められる。ノーラン公爵がその手続きを申請したと言うことは、自分で娶る気だと言うことだろう。グラウハルト公爵家も、三〇に迫っていまだ独身の次男を呼び戻したということは、婚約者としてあてがうつもりだ。
自分でさえ手に入れられない情報を、この男はどうやって……恐れを何とか抑えて覆い隠し、気を取り直して口を開く。
「そんなことはわかっている。それを含めてだな」
「それに、あんたや俺が何を言った所で、もう状況は覆らない」
「ど、どういう意味だ?」
困惑するデュラスの前に、バサリと一冊のファイルが投げ出された。それに向かってあごをしゃくるゼノン。
「……?」
読めと言うことか。ファイルを取り上げて開き、そこに収められた書類の内容に目を通していき、自分の顔が、みるみるゆがんでいく様をデュラスは自覚した。
「……お、お前……こ、これは……」
「今朝方、陛下には報告したよ。こんな結果になって残念がっていらっしゃった」
「で、でたらめだ!! こんな、こんなことが……」
「残念だが、何度繰り返しても同じ結論しか出なかった。次の『聖女』がアンジェリーナ・ベルリエンデ公爵令嬢だという結論が、な」
そこで、皮肉気な笑みを再び浮かべた。
その手の笑みは、デュラス自身何度も見たことがある。これは……敵を痛めつけることに成功したものの、歓喜の笑みだ。
「ご自慢の愛娘が『聖女』に選ばれる栄誉を賜ったご感想は?」
邪悪な微笑みとともに発せられたその言葉に、デュラスはゼノンの胸ぐらを掴み上げていた。
ふーふーと、息が止まらない。自身の呼吸さえ制御できない、怒り……それはデュラスが初めて抱いた怒りだった。
「そうだ、たっぷり味わえ。それがあの戦争で死んでいった子供達の無念だ」
「き、貴様があの方の係累でなければ、この王宮の敷居を跨がせんところだ!!」
「そうか。貴族ってのは大変だなぁ? 人を憎むのも身分が邪魔をする。平民の出でよかったよ。おかげで戦争じゃ七面倒くさい役割を押しつけられたがね……おや? それを提案したのは誰だったかなぁ?」
「き、さ……」
ニヤけ顔のゼノンの言葉に、頭が沸騰しかけたとき、扉が強く開け放たれる音が書庫内に響いた。
「なんの騒ぎだ!!」
ズカズカと閲覧スペースにやってきて開口一番、怒声を上げたのは国王だった。
「よぉ、アル」
「へ、陛下……何故ここに?」
「お前たちが言い争っていると侍女から報告があったのだ。一体、何をしている?」
「何にもないさ。ちょっと旧交を温めていただけだよ」
飄々とそう答えて、ゼノンはやんわりと胸ぐらを掴んだ手を振り払っていた。
「お話ししたとおりですよ、公爵閣下。私の権限ではもうどうにもならない。ご理解のほどをよろしくお願いします……わかったら消えてくれ」
最後の言葉とともに、再び資料に向き直る。
「仕事の邪魔だ」
その言葉には、誰の目にも明らかな拒絶が込められていた。
力ない足取りで書庫を後にしたデュラスを見送るでもなく、ゼノンは手つかずだった作業に取りかかる。
が、すぐそばにアルハザードが立っている状況に三分と経たず根を上げた。
「……さっきの言葉はお前にも言ったつもりだったんだがな?」
「一体、何があったんだ?」
「何もと言ってるだろう?」
「話さないなら命令してやってもいいぞ?」
有無を言わせぬ態度の国王に、ゼノンは根負けした。
手短に、デュラスとのやりとりを説明する。
「……なんとまぁ……」
「公爵殿の懸念もわかるがね、もう俺にはどうしようも出来ないことだ」
「それにしても、もう少し言い方があるだろうに」
「六年分の鬱憤を晴らして何か問題が? そんなモンは話にならんほどの理不尽を叩き込まれたんだがな、こっちは」
「……その気持ちはわかる。その観点で言えば、私やフローラでさえお前にとっては敵だ」
はぁ、とため息をついて、アルハザードはゼノンの隣に腰を下ろした。
「自分で思っていた以上に、あの公爵にはムカついていたらしい」
「あの戦争のことを思えば、それは仕方ないことなのだろう……だが、公爵には一言謝っておけ」
「なん」
「明らかに言い過ぎだ」
反論しようとした言葉を、容赦なく潰される。
「よく考えろ、お前は相手を痛めつけるためだけに相手の身内を利用したのだぞ? 失礼極まりないと思わんか?」
「……あの公爵が相手ならどうでもいい」
「デュラスにじゃない、アンジェリーナ嬢にだ」
考えもしなかったことに不意を突かれ、目を見開いた。
「お前は何度も彼女を賞賛し同情していた……だが、今日のこれはなんだ? 彼女を気に食わないやつを殴りつけるための棍棒にしているではないか。これではアーノルドのことを悪くは言えん。いや、それ以下だ。少なくとも、やつはアンジェリーナ嬢を最低限人間扱いしていたからな。お前がやったことはそれに劣る愚行だ」
バッサリと切り捨てて、国王は立ち上がる。
「心から謝罪しろとまでは言わん。だが、最低限の筋は通せ。そうでなければ、お前は畜生以下の獣となるぞ」
踵を返して、大股で書庫を後にした。
その背中を見送り、ゼノンは立ち上がってソファに向かい……
不貞腐れた顔で、どっかと寝転んだ。
「……誰が獣だ、クソッタレ……」
漏れた悪態にすら、力はなかった。
そのまま寝転んでいると、いつの間にか眠りに落ちていた。
引き金にかかった指が、震えて動かない。目の前の光景は、ゼノンの心身を脅かしていた。
『撃てー!! 早く撃つんだ、ゼノン!!』
『少佐、撃ってください!! もう時間がありません!!』
いやだ。そんなこと出来るか。あいつは。カシューは。親の後を継ぐって。食堂を継ぐって。俺が作った料理を食いに来てくれって……必ず食いに行くって、約束したんだ……。
目の前で、徐々にカシューの『イクスレイヴ』が青い燐光をこぼす黒い触手に蝕まれていく。コックピットにまで達するのは時間の問題だ。
早く撃って、『滅却』しなければ……カシューが、あいつらに『使われる』……そんなことはわかっている。
だが、引き鉄に掛けた人差し指が、まるで石化したかのように動かなかった。
『……少佐』
そこで、通信がはいる。目の前の機体のパイロット……カシューからだ。
「カシュー……生きてるんだな? 待ってろ。すぐそこから出してやる」
『いえ……もう、無理です。脱出機構が死にました……ハッチも開きません……もう、逃れる術はありません』
「諦めるな!! 実家の食堂継ぐんだろ!! 俺に料理食わせてくれるんだろ!? 諦めるのかよ!!」
『すいません……約束、破ることになっちまいました……』
「破りたくないなら生き残る努力をしろ!! 命令だ!! 諦めるな!!」
『もう無理って言ってんだろ馬鹿野郎!!』
突如迸った怒声が、ゼノンの口を噤ませた。
『ここでやらなかったら、俺は敵になるんだろうが!! 俺に仲間を殺させたいのか!! 奴らの仲間入りをさせたいのか!?』
「かしゅ」
『俺を、仲間と思っているのなら……』
震える声。恐怖がにじんだ、声。
『俺を……俺のことを、人間のまま死なせてくれぇ!! ゼノォォォォォン!!!!』
心からの、叫び。それに絶叫を上げながら、ゼノンは引き鉄を引き絞った。
アンジェリーナは王宮の廊下を書庫に向かって進んでいた。
慰問は思っていたよりも早く終わり、門限まで時間が空いてしまったので、王宮に顔を出すことにしたのだ。
「作業は出来ないでしょうけど、少しお話しぐらいなら出来るわよね」
そう独りごちながら、アンジェリーナは書庫の扉を押し開く。
いままでなら涎を垂らさんばかりに見つめていたであろう書架の列を華麗にスルーして、閲覧スペースに直行する。
「ごきげんよう!! ゼノン……様……」
掛けた声は、尻すぼみに消えてしまう。
なぜなら、普段は机に向かっているはずの、目的の人物が、どういうわけだか奥のソファで眠り込んでいたからだった。
(……お疲れだったのかしら?)
よく考えれば、いつ行ってもこの書架に入り浸っている。それこそ休日でも。空いた時間は全て、仕事につぎ込んでいると言うことなのだろう。
「もう、根詰めると体に毒ですのに……」
憤りも露わにつぶやいた。話が出来ればと思って立ち寄ったが、これではどうしようもない。起こすのも悪いし、今日は退散だ。
とりあえず、何か掛けてやろう……周りを見回すと、ブランケットが持ち込まれているのに気付いた。
それを取り上げて、寝ているゼノンに近づいて……
「ゼノン様?」
彼が、ひどくうなされていることに気がついた。
このまま、夢を見させてはならない……なぜだか強くそう思って、気がつけばゼノンを揺さぶっていた。
「ゼノン様?」
声を掛けたとき、クワッと、ゼノンが目を剥いた。そのあまりの形相に、アンジェリーナは硬直する。
だから……起き上がりざまに抱きついてきた彼を、拒む暇もなかった。
あっと思ったときは遅かった。そのままバランスを崩して、対面のソファに二人して倒れ込む。
アンジェリーナは、ゼノンに押し倒されていた。
「ぜ、ゼノン様!? そ、その、おやめくださいませ!! わ、わたくしはまだ未婚の生娘で……」
「……許してくれ」
焦りに焦ったアンジェリーナの言を、ゼノンの嗚咽が遮った。
「……ゼノン様?」
「許してくれ……カシュー……許してくれ……皆……俺は、ああするしかなかったんだ……お前たちが乗っ取られないように……死体が使われないようにするためには、焼くしかなかったんだ……」
そのゼノンの懺悔に、全ての思考が停止した。
「乗っ取る? 死体? 焼く?」
「そうしないと……誰でもあいつらの手先に変わったんだ……大人の方が狙われるからって……子供を使ったって……そこにいるやつを使うだけだったんだ……許してくれ……ああするしか、なかったんだ……」
許してくれ。許してくれ。嗚咽交じりに繰り返される、懺悔。
その内容は、アンジェリーナの聡明な頭脳の中で、月に一度の検診や精霊の呪い、戦争のことを聞かされなかったかと詰問する父の剣幕、そして……転入当日からたびたび彼の面に差していた『陰り』とゆっくりと繋がっていった。
「なんて……こと……」
二人だけの書庫に、ゼノンの嗚咽がいつまでも響き続けた。
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