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第三話 ※レイプ描写あり・胸クソ注意

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 同じ頃、とある空き教室で粘着質な水音がこだましていた。

「うう、ひいあああ!! も、もう、おやめくださいませぇ、王太子殿下ぁ!!」

 少女の悲痛な叫びが、空き教室内にこだまする。力なく横たわった体、その下半身を左脚だけ突き上げるように持ち上げられた姿勢で、乙女の秘裂を蹂躙されていた。
 制服を剥ぎ取られて露わになったたわわな乳房に、かわいらしいへそが出たお腹に、涙でぐしゃぐしゃになった可憐な面立ちの顔に、白濁とした粘液がこびりついている。それを少女に向けて容赦なく撃ち放った男……アーノルドは、突き込む腰を休めずに、脳裏で悪態をつく。

(クソ、クソクソクソクソ、畜生!!)

 苛立ちを隠しもせず、八つ当たり同然に少女を辱める。

「やぁあ……痛いよぉ、熱いよぉ……もう終わってえぇ……」
「うるさいんだよ!! この俺が使ってやってるんだから大人しくよがってろ!!」
「いやぁ……助けてぇ、ルーク……」

 少女が、誰かの名を呼んだ。多分、思い人なのだろう。いい気味だ。

(あの赤毛野郎……俺の邪魔立てしやがって!!)

 少女を強姦し続けながら、悪態は止まらなかった。

(これじゃあ、『KNIGHT』最高傑作の世界に転生した意味がないじゃねぇか!!)

 脳裏で毒づいた。


 アーノルド・リーズバルトには前世の記憶がある。生前、現代日本で暮らしていた彼は、不摂生が原因の糖尿病で命を落とし……気がつくとこの世界……前世でやりこんだアダルトPCゲーム『学淫―淑女たちの喜悦―』の世界に転生していたのだった。主人公の王太子として。
 それに気付いた彼は歓喜した。生前、所謂陰キャだった彼は日陰で縮こまって生きてきた。女性には当然のごとく縁はなく、ずるずると二次元に傾倒していき、気がつけば立派な魔法使いが一丁上がりであった。
 そんな彼のオタク人生の中で、もっとも傾倒したのがアダルトPCゲームメーカー『KNIGHT』の作品群であった。
 その中でも『学淫―淑女たちの喜悦―』は『KNIGHT』史上最高傑作との呼び声の高い一作であり、彼も例に漏れずやりこんだのだった。

(アンジェリーナはこっち見向きもしねぇ、アリシアはまだ学校に来ねぇ……どうなってんだ!!)

 アンジェリーナは『学淫』のメインヒロインの一人であった。もう一人のメインヒロイン、アリシアはまだ学院に転入してきていない。ゲームとはずいぶんな食い違いがでていた。

(あの二人とヤレると思ったのに……)

 脳裏に、『学淫』のキービジュアルを思い浮かべる。
 制服を引き裂かれて半裸になり、肩を寄せ合う肢体に、大量の精液をかけられた姿のアンジェリーナとアリシア。アンジェリーナは毅然とした表情でこちらを睨み付け、アリシアは恐怖を抱いた表情をこちらに向けている。当時人気絶頂だった絵師を起用したその一枚は、『KNIGHT』隆盛の象徴となった一枚であった。
 それに惹かれて購入したユーザーは数多く、当然のごとく彼もその一人だった。
 考え抜かれたシチュエーションに、個性豊かで魅力的なキャラクターたち、さらには抜きゲーでありながら徹底的に作り込まれた背景設定……様々な要素が相互に引き立て合う傑作であった。

(メインの二人だけじゃねぇ……残りのヒロインもつけいる隙がねぇ……どうなってんだ!?)

 騎士道を極める侯爵令嬢、天真爛漫な子爵令嬢、クールで不敵な生徒会長、妖艶な色香を振りまく女教師……皆、アプローチどころか一歩近づけば、三歩は距離を取る有様だった。

「俺は主人公だぞ!! どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!」

 憤怒の形相で叫んで、さらに抽送を速めていく。
 その態度、性根が女性たちに避けられているということに、彼が気付くことはない……。
 そうこうしているうち、射精感が立ち上ってきた。

「そら、出すぞ!! 王族の血だ!! ありがたく受け取れ!!」
「いや!! やだやだやだやだやだ!!!!」
「ん、ぐおおお!!」

 くぐもった叫びとともに、目の前の少女の膣奥まで、怒張で貫いて、限界まで高まった繁殖欲求を解き放った。

「いやぁああああああああ!!!!」

 ドクドクと、腹の奥の子袋に容赦なく胤を注いでいく。その熱い感触に、少女の口から嫌悪と絶望の絶叫が迸った。

「ぐぉ、はあ……ふぅ」

 一息ついて、逸物を少女から引き抜くアーノルド。股を広げたまま、淫靡にヒクつく膣から精液を垂れ流す少女の姿に、大きな優越感と強烈な達成感を覚えた。
 その光景を手持ちの魔石に記録していく。

「いやぁ……赤ちゃん……できちゃう……」
「お前の艶姿は記録したぞ。誰かに言えば……わかってるな?」
「……助けてぇ……」
「それじゃあ、俺はもう行くからな。授業に遅れるなよ? ああ、それから、これそのまんまだとバレるから、掃除しとけよ」

 そう言って服装を整え、空き教室を後にするアーノルド。

「うう、ぐす……ひっぐ……ごめんなさい……ルークぅ……」

 一人取り残された空き教室に、少女の悲痛なすすり泣きがいつまでもこだました。


「……あのボケナス王子、どこに行きやがった」

 アンジェリーナたちと別れ、校内をさまよって一〇分ほど、もうそろそろ昼休みも終わりだ。このままでは午後の授業が始まってしまう。
 次の授業は、魔術式だ。これに限らず、アーノルドは実技系の授業はあらゆる手を使ってサボろうとする。午前の剣術も、あと一歩遅かったら認識阻害で逃げられていた所だった。

「あの野郎、ああいう手合いの魔術だけやたらうまいんだよな……一体どこで覚えたやら……と、お?」

 徒然つぶやいていると、見覚えのある後ろ姿を視界に捉えた。

「あんなところにいやがったか」

 口の中で悪態をつきながら、廊下の曲がり角へと向かっているアーノルドに声をかけようとして、

「……?」

 スンと、奇妙な臭いがゼノンの鼻をついた。
 眼を臭いの源……空き教室の扉へと向ける。
 すえた、生々しい獣臭……栗の花にも例えられるそれは……
 それを認識したゼノンの行動は迅速だった。角を折れようとしているアーノルドに追跡魔術を仕掛け、空き教室に音もなく忍び込み、即座に認識阻害を仕掛けた。

「……!?」
「ねぇ……ルークぅ……誕生日のグローブ……もう少しで縫えるよ……待っててね……」

 沸騰しかけた感情を気力と理性で抑え込み、ゼノンは上着を脱いだ。


「ふー、いい天気ねー」

 イングリッド・イルバーンは窓から差し込む午後の陽気を浴びながら、ぐぐっと伸びをした。その拍子に、たわわに実った二つの果実がぷるんと揺れる。
 ソバージュがかかった緑色の髪に、リムレスの眼鏡をかけたイングリッドは、黒いチュニックワンピースの上に白衣を引っかけている。
 彼女は、この魔導学院の化学教師であり、『学淫』のヒロインである女教師であった(もちろん、その事実は本人の知る所ではない)。
 午後一は授業のない彼女は、自らの城である化学室のアルコールランプを私的流用(本人曰く有効活用)して、サイフォンを使ったコーヒーを楽しんでいた。馥郁とした香りを胸いっぱいに吸い込み、時季外れの転入生についてボンヤリ考える。

「あいつが学生とはね……焼きが回ったってこのことかしらね……」

 もちろん、彼が転入してきた本当の理由も聞かされてはいた。確かに彼なら、あの王太子の監視役には適任だろう。なんだかんだで、責任感の強い男だ。役割を全うするだろう。

「……少しは、マシになったのかしらね」

 最後に会ったときのことを思い返しながら、コーヒーをすする。今日はやけに苦い気がした。
 そのとき、化学室の扉がノックされる。

「はーい。開いてるわよ」

 カップを置いて、ドアに向かってそう声をかけた。だが、ドアが開く気配はない。
 さらにノックされる。

「開いてるって言ってるでしょ?」
「すまない、俺だ。手が塞がっている。開けてくれ」

 噂をすれば。件の転入生……昔は自分の弟分だった、ゼノン・マクシミリアンだ。
 しかし、手が塞がっているとは……何事だ?
 小首をかしげながらドアに歩み寄り、勢いよく開く。

「はいはーい。かわいい弟分よ!! プレゼントは酒かコーヒー豆以外受け……つけ……」

 目の前の光景は、イングリッドの予想をはるかに超えていた。
 上着を脱いでワイシャツ姿になったゼノン……その両手に、どこかのカーテンらしい大きな布と、脱いだものであろう制服のブレザーをかぶせられた何かを抱いている。
 端から、片方だけ靴の脱げた足が見えていて……それで、誰かを抱いているのだとわかった。
 問いただす前に、すえた臭いがイングリッドの鼻腔を刺激して、せっかくのコーヒーの香りが栗の花の匂いで上書きされてしまった。

「……他に頼れる人を思いつかなかった」
「とにかく中に入りなさい!!」

 シュンと、小さくなりながら言うゼノンの言を、ピシャリと遮った。


 出されたコーヒーをすすったが、まるで味がしなかった。自分で思っていた以上に、あの光景には堪えたようだ。
 カップを置いて、深々とため息をついた。そのとき、ドアが開く音がして、隣の化学準備室からイングリッドが姿を現した。

「……どうだった?」
「今は眠ってるわ。当たり前だけど、強烈なショック症状で前後不覚になってる」
「そうじゃない」
「ああ、そっち……最悪ね。避妊された形跡は一切なし。最低でも一回は膣内射精されてるわ」

 どっかと専用のチェアに腰を下ろしながら、イングリッドは苛立たしげに言った。
 それを聞いたゼノンは、手近なテーブルに拳を振り下ろした。ズドガンと言う、人間業とは思えない破砕音が轟いて、一枚板で頑丈なはずの天板が木っ端微塵に砕け散った。

「……一応、それ備品よ。あたしは払わないからね」

 淡々と、無表情でそう言うイングリッド。

「それで? 犯人の目星は?」
「あのクズ王子以外、誰がいる?」
「ですよねー……んで、どうすんの?」

 荒くなった息を努めて整え、力なく腰を下ろす。

「残留魔力をかき集めて、証拠にできるレベルには濃縮したが……それだけじゃ弱い」
「同感ね。部屋全体に散らばってた時点で、彼女の体液から検出される魔力と区別がつかなくなる。たまたま、近い時間帯に魔術使いましたって言われれば、証明のしようがないわ。それを証拠にするなら……」

 チラリと、準備室のドアに目をやった。

「本人の証言が必要になるわ。だけど……」
「むずかしいだろうな。彼女には――カティア・ファルメール伯爵令嬢には婚約者がいる」
「ええ、知ってるわ。彼女と婚約者のルーク・ハミル侯爵令息の仲睦まじさは学院内でも有名だもの」

 イングリッドは冷め切った卓上のコーヒーを一気に呷った。

「このままだとよくて修道院……悪けりゃ自害ね」

 現実を容赦なく突きつけるイングリッドに、再びため息をついた。

「……現場を押さえられなかったのは痛恨の極みだ」
「あるのは下半身サル王子が教室から出てきたっていう、あんたの目撃証言と残留魔力のみ……おまけに学園内で起きた以上、上はもみ消しにかかるわよ」
「だろうな」

 不思議はないという口調で、ゼノンは同意した。
 学校というものは、基本的に閉鎖された場所である。特にこの魔導学院のような歴史ある学校ほど、校内の不祥事は隠蔽される傾向にある。
 ましてや、起こったのは性犯罪……それも、第一容疑者が王太子殿下その人……もみ消すどころか、噂に上ることさえ上は許さないだろう。
 
(……やっぱり、この手しかないか)
「イング姐、頼みがあるんだ」
「どしたの? 改まって」
「彼女を……カティア嬢を助手にしてやってくれないか?」

 ゼノンの頼みにイングリッドは目を見開いた。

「ちょっと、それどういうこと?」
「校内でも迷わずやらかすようなクソ王子が、一回であの娘を手放すとは思えない。起こったことは消せないが、せめてこれ以上の被害は防いでやりたい」
「だからって、助手? あたしの?」
「彼女の優秀さ、むしろイング姐のほうがよく知ってるはずだよ」
「問題にしてるのは、そこじゃないわ。王権を振りかざされたら、あたしでも逆らえないわよ?」

 そのイングリッドの言葉に、ゼノンは懐から取り出したものを彼女に向かって投げ渡した。
 受け取ったものは、菱形の赤い魔石が中央にはめ込まれた御守だった。

「これは……」
「王族魔力が込められたタリスマンだ。アルとフローラの魔力が込められている」

 疑問符を浮かべるイングリッドにゼノンは答えた。
 アルはリーズバルト王国当代国王・アルハザード・リーズバルトを、フローラはその娘にして第一王女・フローレンス・リーズバルトを指している。

「これが委任状ってわけね」
「ああ。全部で三つ受け取った。あと一つはアンジェリーナ嬢にわたすつもりだ」
「何かあったら、これを見せてやればいいわけね」
「ああ、ゴミ王子はこっちでなんとかする。彼女を見てやってくれ」
「……わかったわ。できる限りはやってみる」
「頼んだぞ、今から王宮に行ってくる。ああ、それから」

 出て行こうとして、思い出したように、イングリッドに振り返った。

「コーヒー、ごちそうさま。前よりも、おいしくなったよ」

 それだけ言い残して、ゼノンは化学室を後にした。

「……なんだかんだ。成長してるじゃない」

 昔は絶対に聞かせてくれなかった言葉は、悪い気はしなかった。
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