如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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59話(6)バトンリレーで犯人を生け捕り?!兄を傷つけた犯人が許せないーー。

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「誰?!?! 離して!!!!」
「俺? むっちゃんの友達~~。ねぇ、何してるの? 人の家の前でさ」
「なんだって良いでしょ!!!」


 俺に手首を掴まれてるのに、威勢が良い。振り解こうと、何度も腕を揺さぶられる。細身なのに結構、パワーがある。


「そのスプレー缶で何をしようとしてたの?」
「何もしてない!!!」


 がみがみがみ、情緒の激しい女だなぁ~~。弥生さんが一緒に住んでいる人ってこの人? もしそうなら大変そう。同情するわぁ。とりあえず警察に突き出して、万事解決でいいのかな?


「何か書こうとしてたよね? 現にスプレー缶、持ってるし。こういうの、建造物等損壊って言うんだよ? おねーさん、警察行こうか」
「警察?!?! 嫌っ!!!」
「ーー~~~~っ!!!」


 シュッという音と共に、目に鋭い痛みが走る。目が痛ーーーーっ!!!! 掴んでいた女の手首を思わず離す。痛くて瞼が開かない!!!! 涙が出る!!! これって催涙スプレー?!?! 


 ドンっ。


 誰かと肩がぶつかった。やばい!!! 逃げられる!!! 手探りで、階段の手すりを掴み、身を乗り出して叫んだ。


「卯月ぃいいぃい!!!!! そっち行ったぁあぁあぁあ!!!!」
「はぁあぁぁあい!!!!」


 目元を押さえながら、ふらふらと、手すりを伝い階段を下りた。頼む。怪我だけはしないでくれよ。



 俺の大切な人の妹なんだからーー。
 


 *


「ほわちゃぁあぁあぁあ!!!!」


 全速力で全身黒ずくめの女を追いかける。運動神経で負けたことは一度もない!!! なんならスポーツ推薦にすれば良かったと思うレベル!!!(※文化部)


 風のように走り、目の前の標的を夢中で追いかける。


「逃すかぁあぁあぁあ!!!!」
「!!!!」


 スプレー缶?!?! 旭さんはアレにやられたのか!!! 被っていたキャップを脱ぎ、顔をガードしながら走る。意外と足、早いな!!! でも、T字路まで追い込むのが私の役目!!!


 このまま真っ直ぐ追いかけて、T字路で曲がらせる!!!!


「お兄ちゃんを傷つけるやつ許すまじぃいいぃい!!!!」


 獣を追うようにまっしぐらに駆け抜け、女を追い越し、曲がるよう誘導する。よし!!! 曲がった!!!! 立ち止まり、大声で叫んだ。


「如月ぃいぃぃいい!!!! いっけぇええぇええ!!!!」
「声大きすぎますって!!!」


 角を曲がり、如月の様子を見に行く。死んだ魚の目をした如月が、女の首根っこを掴んで立っていた。この人と知り合いなの?


「生け捕り大成功~~!!!」
「旭さんは?」
「スプレーで目ヤられて、玄関の前で伸びてる」
「それは早く洗わないといけませんね。はぁ、それにしても……やっぱり貴女でしたか、澪」


 澪と呼ばれる女は黙って、私をじろりと睨んだ。なんで私が睨まれるの? こんな人知らないけど。


「兄が兄なら妹も妹ね!!!」
「どういう意味それ」
「しつこいってことよ!!! ほんっと、兄妹!!! 諦めが悪い!!!」


 イラ。


 しつこい? お兄ちゃんが? バカにしてんの? 如月のことめちゃくちゃ大好きなんだから、しつこくて当たり前だろ!!!!


 兄のことを侮辱され、自分の中で繋ぎ止めていた緒が切れた気がした。腹の底から怒りが湧き、気づいたら澪の頬を叩いていた。


「これはお兄ちゃんを傷つけた分」
「いった!!!! 何すんのよ!!!」


 もう一度、澪の頬を叩く。これだけじゃ足りない。


「これは如月のこと殴った分」
「痛い!!! 親にも叩かれたことないのに!!!」
「私、卯月さんに言いましたっけ?」
「お兄ちゃんが言ってた。自分の恋人を傷つけられたこと、ショックだったみたいだよ?」
「あれは弥生がっ!!! 痛っ!!!」


 如月のせいにしようとする澪の頬を叩く。言い訳は聞かない。何があったかは知らないけど、殴った方が悪いに決まってる!!!


「これは旭さんに催涙スプレーかけた分!!」
「痛い!!!」
「これはうちに落書きした分!!!」
「痛っ!!!」
「これはうちのポストに虫と卵を入れた分!!!!」
「卯月さん、ストップ!!!」
「これはーー」


 もう一発、頬を叩こうとした瞬間、後ろから手が掴まれた。振り返ると、目元を濡らした旭が立っていた。


「卯月、それ以上はダメだ。頬が赤くなってる」
「だって許せない!!! お兄ちゃんのことも如月のことも傷つけて!!!」
「だとしてもダメだ。相手が悪くても手を出したら負けだ。睦月もそんなこと望まない。口で負かせるようになれ」
「そうだけどぉ……」


 叩かれてもなお、反省の色が見えない相手にどうしても『ごめんなさい』の一言が言えず、目線を下げ、口を紡ぐ。言わなくて良いよね? お兄ちゃん……。掴まれた手がそっと離された。


「で、こいつどうするの?」
「……家に連れて帰って叱ります」
「そんなお母さんみたいな方法でいいの? また繰り返すかもしれないよ?」
「とりあえずは……」
「弥生さんは優しいねぇ~~」


 頷きも返事もしない澪を3人で見つめる。また悪戯をしないなんて、保証はない。旭がグッと澪の胸ぐらを掴み、引き寄せ、澪の耳元で囁いた。


「弥生さんが許しても、俺は許さないから。次、睦月に何かしたら遠慮なく警察に突き出す。覚えとけ」


 旭が澪の胸ぐらを離し、にっこりと笑みを浮かべた。


「じゃ、帰ろうか」
「旭さんって怖いです……」
「お兄ちゃんの高校の友達なんだから元ヤンみたいなもん」
「元ヤンじゃないってのー。これでも煙草はしたことありません~~」
「では私、こっち方面なので……」
「じゃあな~~」


 冷たい目で澪と手を繋ぎ、私たちに手を振る如月の背中を見つめる。連れて帰るのに、わざわざ手を繋ぐ如月は優しいなぁ。


「アレ? 旭さん、なんでついてくるの?」
「そりゃだって、催涙スプレーまで浴びて協力したのだからむっちゃんからご褒美貰わないと」
「…………」


 これ、私、夜寝れないやつ? いや、でも、2人の間にはそういうえっちな関係はなかったはず!!! 訝しみながらも、旭を家に案内した。


 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


「なんで旭がうちにいるの?」
「催涙スプレー目に入ったからなぁ~~今日は泊まる」
「見えてるよね?」
「いやぁ~~全っ然見えない! 瞼が開かねぇ!」


 瞼、開いてるし。俺のこと絶対見えてる。犯人は如月がお持ち帰りしたと訊き、自分としては少し心配である。如月は優しいから……逆ギレさせて、また殴られてたりしたら嫌だな。


 3人分の夕飯の支度をしながら、離れて暮らす、如月を想う。


 如月がこの家を出て行って1週間が過ぎた。早く、北条家の父親に会う方法を考えないと。日にちだけが過ぎていく。


 俺はまだ、如月のために何か行動していない。俺に出来る最大限のことをやる!!!



 ポケットに手を突っ込み、この小さな世界で眠り続ける、手のひらサイズの小さな箱を握りしめた。

 

 如月。



 俺ね。本当に如月が大好き。出会えて良かったと思ってるよ。



 この家にお前が戻ってきた時、俺はお前にーー。



 
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