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59話(5)女性の勘は浮気を見抜きます?!好きではないので致しません?!
しおりを挟むハッとして目が覚めた時には外が明るくなっていた。隣に如月の姿はなくて、残り香だけがふわりと香った。少しだけ首筋が痛む。ふらふらと起き上がり、洗面所の鏡を見た。
「あ……」
首筋に咲く紅い花。寝ている間に付けるなよ。如月の残した愛情の証に、ふっと、笑みが溢れる。
「如月、大丈夫かな?」
うちに来たことバレてなければいいけど。リビングに行くと、こたつの上に如月からもらった手帳が置いてあった。
「俺、こんなところに置いたっけ?」
もらったけど、そういえば一度も開いていない。手帳を手に取り、ぺらりとページを捲る。月間ブロックのページ。ほとんど何も書いてないし。もう1ページ捲ってみる。
「日記……?」
見開きの2週間のスケジュールページには、毎日ではないが、日々の出来事や感想が書かれていた。
「『4月×日……女の子に誘拐され、この家にやってきて少し経った。睦月さんのご飯が美味しい。』なんじゃそりゃ」
次の日記に目を通す。
【4月×日 あたたかくて、優しくて、ひまわりみたいに笑う貴方が好きだ。】
【4月×日 睦月さんとピアスお揃いになった。嬉しい。】
【5月×日 遊園地に行った。睦月さんが初めて私を意識した。嬉しいけど、良いのだろうか。】
【5月×日 睦月さんと恋人になってしまった。睦月さんは良いというけれど、貴方には幸せになって欲しい。】
「俺のことばっかりじゃん……」
如月と過ごした、俺との日々が綴られている。バカじゃねぇの。目に涙が溜まる。ひとつずつ、日記を目で辿る。
【1月5日 この日記は睦月さんに渡す。ここまで読んでるならきっと、私はもうこの家には居ないだろうな。離れて暮らすことにはなるけど、私は睦月さんを置いて居なくなったりしない。ずっとずっと一緒にいるし、愛してます。頬が濡れて眠れない夜は会いにきて。弥生】
「そんなこと言ったら……毎日会いに行くよ……」
はらりと手帳の隙間から写真が落ち、拾い上げる。俺と一緒にひまわり畑で撮った写真。如月。俺、迎えに行ったら絶対に絶対にお前のこと離さないから。
俺も、ずっと一緒にいることを如月に誓うよ。
写真を手帳に挟み、手帳を引き出しへ仕舞う。でもそこまでたどり着くにはまだ問題が山積みだ。北条家に頭を下げる前にまずは悪戯の犯人を捕まえる!!!
ポケットからスマホを取り出し、ある人物に連絡を入れる。本当はあんまり頼りたくないのだけど。きっとこいつが1番適任だ。
*
朝、目覚めると、訝しげな表情で私を見つめる澪が隣に座っていた。大丈夫、帰ってきてからタートルネックに着替えたから、首筋の紅い痕は見えないはず。
「な、なんですか?」
「なんかくさい」
「え?」
「うちのお風呂の匂いじゃない。あと変な甘い匂いする」
「…………」
なんて鋭い……。恐ろしい。とりあえず誤魔化してもう一度風呂に入るか? どうする? 悩んでいると、澪に胸ぐらを掴まれた。
「や……やめてください」
「昨日風呂上がった時タートルネックなんて着てなかった」
「さ、寒かったので着替えました……」
下げられそうになるタートルネックを手で押さえる。なんだかんだ、睦月さんに何個か痕を付けられた。こんなの見られたら私だけではなく、睦月さんも危険すぎる。
「何かあるんでしょ!!!」
「ないです!!!」
「なら、服脱いでよ!!!」
「…………(絶対絶命……)」
「何もないのでしょう?」
女性の勘とは何故、いざという時に抜群の能力を発揮するのだろう。言葉では説明できない『何か』を完全に嗅ぎ取っている。諦めて脱ぐしかないのか?
「んーー……」
「何を躊躇ってるの?」
「……女性の前で服を脱ぐのは流石に抵抗があるというか(嘘だけど)」
「脱がないと証明にならない」
「はぁ…………」
無理だな、諦めよう。そういう覚悟の上で会いに行ったんだ。多少の暴力や暴言は我慢しよう。着ているタートルネックのセーターを脱いだ。
「肌着も」
「う~~ん……」
肌着を脱いでしまうと、言い訳は出来ない。覚悟の上とはいえ、痛いのも怒鳴られるのも嫌だと思う私は情けない。渋々、肌着も脱いでいく。
そういえば、まだ澪の前で脱いだことはない。私の素肌を見るなり、澪は頬を赤らめていた。
「胸元と首筋!!! キスマークが付いている!!! 何してきたの?!?!」
「んーー……熱き扉の向こうへ性欲を葬りました……」
「ふざけてるの?!?!」
「痛っ!!!! 離してください!!!」
また私の髪を!!!! 髪を引っ張る澪の手首を掴み、押し倒す。そんな恥ずかしそうにされても、シないけど!!!
「髪、離して」
「あ……うん…ごめん……」
澪の手から髪がするりとすり抜けた。髪の毛を耳にかけ、澪から下りると、澪がゆっくりと起き上がった。
「するんじゃないの?」
「ハッ、まさか! 申し訳ないけど、私は貴女のことが好きではないし、今も愛してるのは睦月さんだけ。ごめんね」
脱いだタートルネックと肌着を手繰り寄せ、ベッドから下りる。私の言葉を聞いた澪が呆然と固まっている。でも、はっきり言っておかないと。
私は婚約破棄する。
この想いは変わらない。愛しているのも睦月さんだけ。だらだらと、こんな偽りの新婚生活なんて、続けたくない。
現実を突き付けておく必要はある。
「じゃ、そういうことで」
「…………」
ばたん。
扉を閉め、寝室から出る。これだけキツく言えば、澪が睦月さんに対して何か行動を移すかもしれない。ポケットからスマホを取り出し、睦月に連絡を入れた。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
ーー夕方
むっちゃんにお願いをされ、仕事を休み、朝からずっとむっちゃんの家の前で見張りをしている。我ながら、仕事を休んでまで引き受けるなんて、お人好し。
こんなことしたって、睦月と結ばれることなんてないのに。
俺はバカだ。好きだから断れなかった。『ありがとう』と、笑うお前の顔が見たかった。なのに、今日のお前は笑顔に元気がなかった。
恋人と引き離され、悪質な悪戯が続き、お前の心を何者かが蝕んでいるのは俺でも分かる。
弥生さんが居ない今、お前を救えるのは俺しか居ない!!! 絶対に犯人を捕まえる!!!
睦月から渡されたあんぱんをかじり、アパートの陰から、不審な人物が来ないか見つめる。あんぱんと牛乳って。張り込んでいる刑事みたいな食料渡すなぁあぁあ!!!! もっとなんかあるだろ!!! おにぎりとかさぁ!!!
「……むっちゃんはセンスない!!」
アパートに忍び寄る全身黒ずくめの怪しい人影が目に入った。体型からして、女か? 帽子を深く被っているせいで、顔がよく見えない。アパートの階段を上り、睦月の玄関の前で立ち止まっている。
「意外とあっさり現れた感じ?」
何か家の前でごそごそと準備をし始める女に、忍び足で近づく。片手にはスプレー缶を持っている。もう、確定だな。後ろからスプレー缶を持つ、女の手首を掴んだ。
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