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58話(2)いざ敵城に視察へ?!思い描くのはいつも貴方のことばかりーー。
しおりを挟む睦月さんに教えてもらった北条家の住所に来た。なんて大きな一軒家。流石地主。如月くんの家も相当大きいけど。あまりの大きさに尻込みしてしまう。
「千早、行くぞ」
「ねぇ、そんな簡単に入れるものなの?」
ピンポーン。
しかも正面から入るんだ。チャイムを鳴らす皐を後ろからじっと見守る。如月くんってどういう女の趣味してるの? 皐さんの何が良かったんだろう……。
「はい」
少し、野太い声がして、扉が開いた。これは父親か? 自分の父親と同じぐらいの年齢の男性が出てきた。優しそうに見える。
「私たちは澪の友達だ。新年の挨拶に来た」
「ありがとう。でも澪は……今はこの家に居ないんだ。折角来てくれたのに申し訳ない」
「折角来てくれたと思うなら茶でも出したらどうなんだ?」
皐さぁあぁあん!!! 貴女何様なの!!! 強引に中へ入ろうとする皐に焦る。いやでも、そうしないと門前払い?!?! いいの?!?! これで?!?! いいの?!?!
ずいずいと屋敷の中へ勝手に入っていく皐の後をついて行く。皐の態度に父親が苦笑いしている。そりゃそうだ。困りながらも、和室に案内してもらえた。畳の雰囲気に合わせ、自然と正座する。
「悪いね。妻も今は家を出ていて、こんなおっさんしか居なくて……」
むしろ都合が良い。目の前に並べられたあたたかいお茶と高級和菓子が美味しそう。食べて良いのかな。隣に座る皐を見ると、遠慮なく、お茶を啜り、和菓子を食べていた。何この人……。
「弥生には恋人が居た。それでも娘と婚約させたのは何故だ?」
単刀直入過ぎる!!!! たらりとイヤな汗が流れる。父親を見ると目線が下がり、気まずそうにしていた。
「……妻と娘が嬉しそうに良い人が見つかったと言うから、婚約したら良いんじゃないかと進言した。まさか、相手が如月家の長男で、恋人がいるなんて思わなかったんだ……」
「よく調べもしないで。無責任だな」
「如月さんちの長男は…自分が好きになった人しか……」
皐が湯呑みを机にドンっと置いた。少し目に怒りを感じる。隣で皐と父親の様子を静かに見守る。下手に口出しはしない方がいいだろうなぁ。ここは皐さんに任せよう。
「そこまで分かっているのか。もういい。私たちが行動に移したら、お前は然るべき行動を取れ。判断を見誤るな。自分の娘が可愛いなら、な。以上だ。帰る」
「お茶と和菓子は美味しかった」
相手のことなど気にせず、部屋を出ていく皐のマイペースさに、如月くんの元カノだな、なんて思う。取り残された父親に軽く頭を下げ、皐の後を追った。
「皐さん……相手の父親に対してお前呼びはどうなんですか……」
「知らん。私とはなんの関わりのない人物だ」
「そうかもしれないけどさぁ~~」
心なしかまだ皐の瞳が怒りに満ちている気がする。靴を履き、皐と一緒に外へ出た。
「ねぇ、もしかして皐さんはまだ如月くんのことーー」
「それ以上言ったらお前の漫画を打ち切りにする、葉月吉乃」
「なんで僕のペンネーム知ってるの? 怖っ!!!」
なんだか(皐さんが)言いたいことだけ言って出てきた感が否めないが、とりあえず任務は完了した。僕たちは報告するために、また佐野家へと足を運んだ。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
「澪、そろそろ帰るわね」
「また来てね、ママ」
「……今日は初夜よ、ゆっくり過ごしなさい」
「もう~~っママったらぁ~~!!」
早く帰らないかな。キーボードを叩きながら、嫌でも耳に入ってくる会話に溜息が出る。しばらくすると、話し声が聞こえなくなり、部屋の扉が開いた。ノックぐらいして欲しい。
「ご飯作るね!!」
「あぁ……うん……」
にっこりと笑い、キッチンへ向かう澪に少し安心する。怒ってない……? パソコンを閉じ、リビングに向かい、澪の様子を窺う。鼻歌を歌いながら料理をしている。機嫌は良さそう。
「あ、弥生!! もうすぐ出来るよ!!」
「え……あぁ……はい」
「そんなかしこまっちゃって~~!! 座って座って!!」
妙な機嫌の良さに少し警戒しつつも、促されるまま、リビングの椅子に座る。目の前のテーブルに、ハンバーグやサラダ、スープなどが次々と並べられていく。最後にワイングラスが2つ置かれた。
「弥生、食べよう~~!!」
「……うん」
テーブルの上のワインボトルに手を伸ばし、グラスにワインを注ぎながら考える。
こんなお洒落に睦月さんとご飯食べたことないなぁ。今度、高級レストランとかどうだろう。そんなところ連れて行ったら、睦月さん緊張しちゃうかな? あ、でも睦月さん、お酒飲めないや。ワインなんか飲んだらすぐ潰れて泣いちゃうかも。いや、絶対泣く。
「はぁあぁあ……」
「弥生?」
「ごめん、なんでもない。いただきます」
軽く乾杯し、ハンバーグに手を付ける。んーー。美味しくない。く、くどい。ハンバーグってこんなに重かったっけ? それともこれが一般的なハンバーグ?
そういえば、睦月さんの作るハンバーグは豆腐が使われていたな。使っていない日は大葉が入ってたり、大根おろしがかかっていたような……。
これって、重たい食べ物が苦手な私の為に作られていた……?
睦月の優しさと愛を思い知らされ、一粒の涙が頬を伝う。
「今、あの男のこと考えていたでしょう!!!」
ばしゃ。
澪が立ち上がり、正面からワインが吹っかけられた。え、何……? 突然のことで思考が止まる。ぽたぽたと髪先から赤い雫が落ち、白いシャツに赤い染みが出来ていく。
「……冷たっ……」
「今、目の前に居るのは私なの!!! 分からないの?!」
「…………」
ガシャンと料理がひっくり返る。折角の料理がぐちゃぐちゃだ。確かに睦月さんのことを考えていた私も悪いのかもしれないが、ヒステリックすぎる。ついていけない。
静かに席を立つと、またそれが気に障ったのか、私を何度も怒鳴りつけてくる。何かごちゃごちゃ言っているが、全く頭に入ってこない。冷めた目で、喚き散らす澪を見つめた。
「弥生は私といずれ結婚するの!! 分かってるの?! あんな顔しか取り柄のなさそうな男にいつまでも未練がましく執着して!!! アレの何がいいの?!」
「……髪が濡れたのでお風呂入ります」
自分が悪く言われるのは構わないが、睦月さんの悪口は聞きたくない。言いたいことは山程ある。でも同じように言い返してはダメだ。怒鳴りたくなる気持ちを押し殺し、浴室へ向かった。
浴室で身体の汚れと一緒に、怒りの感情も洗い流された気がした。澪に合わせて感情的に怒ってはいけない。気持ちを強く持たなくちゃ。
浴槽で至福のひと時を過ごし、風呂から上がると、澪が申し訳なさそうにリビングで待っていた。
「弥生……ごめん。言い過ぎた」
「あぁ……はい」
「わ、私もお風呂入るね」
「え? はい、どうぞ……?」
頬を赤らめ、浴室に向かう澪を見て、急いで寝室と思われる場所のドアを開けた。ダブルベッド。マジか……。寝ても良いけどシないよ?
「これって……初夜ってやつ……?」
先に寝ようかなぁ。別に夫婦じゃないし。えっちなんてする義理もない。それに多分、立たない。前戯もしないって睦月さんと約束した。だから絶対にシない!!!
「睦月さん……今何してるかなぁ……」
布団に入り、スマホの待受画面を見る。太陽みたいに笑う睦月の写真に、荒んでいた心が柔らかく溶かされる。
私は睦月さんが好きだ。
スマホの画面に映る睦月をそっと指先で撫でた。
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