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58話 始まった同棲生活。弥生のモノは私のモノ?!元恋人コンビで敵情視察?!
しおりを挟む重い足取りで、指定された住所に向かう。着いた場所は高層マンション。私が言うのも変だが、流石、地主の娘なだけはある。良いところだ。
そして、意外と睦月さんの家から離れていない。30分程歩けば、会いに行ける。会えるかどうかはわからないけど。
教えてもらった暗証番号を入力し、エントランスを抜ける。この号室は最上階か。いずれ破棄するつもりの婚約なのに、こんな良いところに住まわされると、気が引ける。
部屋の前で立ち止まり、チャイムを鳴らした。
「はぁ~~いっ!!」
ドアが開き、そこにはいかにも『新婚』みたいな花柄の、可愛らしいエプロンを身に付けた女性が私を出迎えた。
「遅かったねぇ~~!!」
「……少し道に迷っただけ」
靴を脱ぎ、部屋にあがる。とてつもなく広い部屋を想像していたが、パッと見、2LDK。私の家の方が広い。きょろきょろと辺りを見回していると、肩がガッと強く掴まれた。
「な、なんですか?」
「靴。脱いだらちゃんと並べて!!」
「え? あ……はい……すみません……」
「早く並べてきて」
「あぁ、はい……」
そんな強く言わなくても。気づいたなら自分で並べれば良いのに。なんで私が。玄関に戻り、先ほど脱いだ靴を並べる。几帳面なのかな。綺麗に靴が並べられていた。
「ちょっと!!! スーツケース、キャスター拭かないで部屋に置かないでよ!!!」
「え? あぁ…はい……すみません…」
なんでこんなに怒ってるの? 雑巾を渡され、致し方なくキャスターを拭く。いつもスーツケース使った時、どうしてたっけ?(※睦月がいつも全員分、拭いてた)
なんか面倒くさいな。
拭き終わった雑巾を床に捨て、スーツケースを部屋に運ぶ。
「ねぇ、雑巾は?」
「え? なんかその辺に」
「その辺って……ちゃんと洗って干してよ!!!」
「私まだ仕事残ってるので、やっておいてください。適当に部屋もらいます」
「何その態度!!!」
スーツケースを持ち上げ、空いてそうな部屋に逃げ込む。2LDKならひとつは空き部屋だからな。執筆部屋にしよ。スーツケースを開け、ノートパソコンを取り出した。
はぁ~~。今後生活が厄介そうだ。そもそも、私って、結婚とか向いていないのでは? 自分の選んだ女以外と同棲するのは、初めてかもしれない。
夜とか、澪と寝る羽目になるのか?
おえっ……。
スーツケースから睦月にもらった膝掛けを引っ張り出し、匂いを嗅ぐ。はぁ。睦月さんの匂いがする。いっぱい睦月さんを包んでおいて良かった。
ガチャ。
ドアが開く音がして、振り向くと、澪がズカズカと部屋に入ってきた。澪をじろりと見つめる。
「はぁ。何よ、その目。文句あるの?」
「いや、べつに……」
「何持ってきたのか見せて」
「それは嫌です!!!」
中を見られないように、サッとスーツケースを閉める。見られちゃいけないものなんて、何ひとつ入っていないが、身体が拒否反応を示す。
「はぁ? 見せなさいよ!!! 弥生のモノは私のモノでもあるんだから、見る権利があって当然でしょ?!」
「……?!?!」
私から無理やりスーツケースを奪い、中身のチェックを始める澪にストレスを感じる。何故、私のモノがこの女のモノになるんだ? どっかのガキ大将と同じ考えじゃないか。理解できない。
「本ばっかり。使えない。役立たず」
「……もういいでしょ。執筆の邪魔」
「物書きなんて大した稼ぎにならないんじゃないの? どうせ私の方が収入上なんだし。書いてないで、私の代わりに家事でもやったら?」
イラッ。
カフェで会った時の印象とはまるで違う。家事などやりたくないが、今は事を荒立てるわけにもいかない。パソコンを閉じ、部屋を出た。
家事っていっても何をすれば。キッチンの流し台を覗くと、洗い物が積み上がっていた。やれよ。
「はぁ。洗うかぁ……」
ピンポーン。
「はぁ~~い!! あっ、ママ!!!」
「澪、同棲生活はどう? 心配で来ちゃったわぁ」
「順風満帆だよ!! ほら、弥生も率先してを家事手伝ってくれてるの~~っ! 将来、良い夫になるかも」
良い夫? なりませんよ。心の中で悪態を吐く。外面良すぎ。順風満帆? どこが!!! 率先して家事をやってる? やらせてるの間違いじゃないのか?
「ちょっと挨拶ぐらいしたらどうなの?」
澪の母親が私に近づいてきた。化粧品の匂いが鼻にまとわりつく。気持ち悪い。洗い物が終わり、濡れた手を拭き、軽く頭を下げた。
「どうも……」
「愛想がないわねぇ~~、私はこの子の母親よ? ニコッとぐらいしたらどうなの?」
「元からこういう顔です。では、まだやるべきことが残っているので、失礼します」
「何? 感じ悪!!!」
感じ悪くて結構!!! 仲良くしたいとも思ってないですから!!! 足早に自分の部屋へ戻り、大きな音を立て、扉を閉めた。
ばんっ!!!
「はぁ~~……睦月さぁん……会いたい……」
まだ別れて1日も経ってないのに。恋しい。膝掛けをぎゅっと抱きしめた。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
部屋に戻ると、卯月が気まずそうに俺の服を引っ張った。
「お兄ちゃん、敵情視察なんだけど……」
「うん?」
「神谷さんにお願いしたら、敵陣へ行くのに相応しい年齢の人を用意したって言ってた」
相応しい年齢の人って……。絶対あの人だ。無理!!! 絶対無理!!! あの人、自分の言いたいこと好き勝手言っちゃうタイプじゃん!!!!
「……俺は無理だと思うな~~」
「私も不安だったから、もう1人敵陣へ行くのに良さそうな人に連絡した。今日その2人が打ち合わせでうちに来ます」
「今からくるの?!?!」
ピンポーン。
玄関扉を開けると、そこには皐と千早がいた。どういう組み合わせ?!?! この2人に行かせるの?!?! 大丈夫?!?!
「お邪魔する」
「如月くん婚約したんだって? ぷ。絶対、自分の選んだ子以外と同棲なんて上手くいかないよ~~温厚で相当な世話焼きじゃないと如月くんと結婚なんて無理無理!」
「……俺は世話焼きなのか?」
異様な雰囲気の2人を部屋に招き入れ、リビングへ案内する。こたつに吸い込まれるように2人は脚を入れた。遠慮とかないの?
「如月くんってこんな家に住んでたんだね~~ぼんぼんのくせに意外と庶民ー」
「私は暇では、ない。早くしろ」
こいつら言いたい放題だな!!! 敵情視察なんて任せて大丈夫なの?!?! 敵陣に行っても言いたい放題なんじゃないの?!?! なんだか不安になる。
卯月が勉強をする手を止め、口を開いた。
「えっとね、簡単に言うと北条家に行って、お父さんがどんな感じの考えを持っているのか聞き出してきて欲しい」
「何故父親なんだ」
急須で湯呑みにあたたかいお茶を注ぎながら、皐と千早に説明する。
「お見合いの時、見ていた感じ、母親が話の通じる人じゃなさそうだったのと、如月いわく、仲が良いのは父親同士らしいから、そこを崩して取り込めばどうにかなるかもしれない」
確証はないが、母親が勝手に進めているものだとしたら、止められるのは父親しかいない。どうにか父親の情報は欲しい。
「なるほど~~いつ行けばいいの?」
「早い方が助かる……」
「そうか。なら、今から行くとしよう」
「え」
「え」
「え~~!!! 今から行くの~~? やだぁ」
千早が嫌そうに渋っていると、皐が千早の胸ぐらを掴んだ。
「お前、名前は?」
「柊木千早……」
「へぇ。弥生の元彼に不細工は居ないな。早くしろ、千早」
座ったばかりなのに、早々と皐は立ち上がり、鞄を片手に持ち、玄関へ向かった。行動が早い!!! 皐の後をみんなで追いかける。よく考えたら、元恋人コンビじゃん。喧嘩とかしないかな?
「人に名前を聞いておいて、自分の名前は名乗らないんですか~~」
「白川……神谷皐」
「よくそんな性格で結婚できたね~~」
「したくてしたわけじゃない。ではまた後で、卯月、睦月」
「気をつけてね~~!!」
不安に思いながらも、扉の向こうに消えていく2人を見つめる。
今は2人に任せるしかないーー。
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