如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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57話(2)貴方の笑った顔が見たい。離れていてもいつも一緒ーー。

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 一緒にお風呂に入って、いちゃいちゃして、同じ布団に入ったけど、明日からもうこの家に如月が居なくなるって思うと、全然眠れなくて。


 こんな状況でも、隣で平然と寝ている如月の顔を見つめ続け、夜を明かした。


 それでも気づいた時には眠りに落ちていて。目が覚めた時には、身体を起こした如月が俺の顔を見つめていた。


「……おはよ、如月」
「おはよう、睦月さん」
「ん……」


 背中に腕が回り、身体が起こされた。首の後ろを支えられ、唇が重なる。これは、最後のおはようのキス? 如月の頬を両手で挟み、唇を押し付けた。


「んっ……」
「ーーはぁっ…そんな悲しい顔でキスしないで」
「だって……」
「仕方ないなぁ、抱っこしてあげる」
「どういう流れ?!?! 頼んでないし!!!」


 俵のように抱きかかえられ、リビングまで運ばれる。抱っこもこれが最後だ。抱っこすら、愛しい。脚が自然にぱたぱたと動く。


「はい、到着~~」
「俺、朝ごはん作ってくるね」
「見ててもいい? 作るとこ」
「うん? いいよ?」


 いつもと変わらず、キッチンで朝ごはんを作る。そしてご飯を作る俺を、後ろから如月が抱きしめた。これもいつもと変わらない。


 如月は俺に『今日が最後』とは言わない。それが俺を励ました。また会える。俺たちは別れてない。そうだろう? 少し振り向き、如月を見つめる。


「ん」


 ちゅ。


 べ、べつにキスして欲しくて見たわけじゃないけど。キスされちゃった。頬が赤く染まる。


「如月、ご飯できたから卯月起こしてきて」
「卯月さんならもう起きて勉強してますよ」
「おー、珍し」


 如月が居なくなる日だからかな? 出来上がった料理を持ち、こたつに並べる。3人で揃って食べるご飯も、次はいつになるか分からない。こたつを3人で囲い、手を合わせた。


「「「いただきます」」」


 言葉を発することなく、無言で朝食を食べる。今日の朝食の雰囲気は重い。ご飯を食べながら、ちらりと如月を見る。にっこりと薄く微笑まれた。


「何時に行くの?」
「ご飯食べて準備したら行こうかと……」
「そっか……」


 如月と過ごせる時間はあと1時間ってところかな。はぁ。嫌だ。鬱々とした気持ちのせいか、食事が喉を通らない。机に箸を置いた。


「食べないんですか?」
「んーー……うん。あんまり食欲ないかも」
「そうですか……」


 朝食を終え、出かける準備をするために、如月が洋室へ向かうのを見て、後ろをついていく。くるっと如月が振り向いた。


「またついてきて~~」
「え゛っ……」
「ほら」


 差し出された手をしっかりと握り、洋室に向かう。こんな短い距離なのに手を繋いでくれる。如月、大好き。


 トレーナーを脱ぎ、着替え始める如月を凝視する。目に如月の全てを焼き付けておかなければ!!!! 1人でも抜けるように(?)!!!!


「なんか貴方の視線にえっちな思惑みたいなものを感じます」
「何それ!!!」
「気のせいなら良いんですけど」


 ぉお……ズボンを下ろした!!! じぃ~~~~。はぁあっ…下着の膨らみがえっちぃ。もう脳内で下着が透けて、中が見える気がする。思わず、唾を飲む。ごくん。


「もうっ貴方って人はーー!!!」
「い゛たいいたいいだっーーい゛っ!!!」


 拳で頭が挟まれ、ぐりぐりと押しつけられる。子どものお仕置きじゃん!!! もぉっ!!!


「すぐ、胸とか!! 下腹とか、尻とか見るんだから!!! 私が居ないからって旭さんをそういう目で見ないでくださいよ!!!」
「見ないっつーの!!!」


 こんなやり取りも、もう出来なくなる。笑っているのに、目に涙が滲む。俺と戯れあってくれる人はもう居なくなるんだ。笑顔が少しずつ消えていく。


 如月の着替えと身支度が終わり、お別れの時間がすぐそこまで来ている。コートを羽織る如月を見て、もう行くことが分かり、一緒に玄関へ向かった。


「行くの……?」
「うん」


 卯月が慌ただしく玄関に来て、如月に抱きついた。


「絶対帰ってきて!!! 私の家族なんだから!!!」
「私にとっても、卯月さんは家族です。早く帰れるよう努めます」
「協力もするから!!!」
「危ないことはしないでくださいよ」


 抱きしめ合う2人を優しく見守る。俺だけじゃなくて、卯月にとっても如月は大切な存在なんだ。婚約破棄なんて、簡単なことじゃないかもしれないけど、絶対にやり遂げたい。


 卯月が如月から離れると、俺の背中を叩き、前へ押し出した。


「いったぁ……」
「後ろ向いててあげる」
「え?」


 いちゃいちゃしていいよってこと? でもとてもじゃないけど、そんな気分にはなれない。如月を見るとクスッと笑い、俺の頭を撫でた。


「また会えます。絶対に」
「俺はそれでも離れるのが嫌だ」


 こんな今になってゴネても仕方がないし、如月が出ていくことを止められないのは分かってる。なのに、如月の顔を見ると抑えていた気持ちが溢れ出す。


 行って欲しくなくて、如月のコートを掴んだ。


「行かないでよ、如月……」
「ごめんなさい……」
「ずっと俺のそばにいるんじゃなかったのかよ!!」
「……ごめんなさいっ…」
「出来ない約束なんかするなよ……うぅ…」


 涙の止まらない俺を、如月がぎゅっと強く抱きしめた。嫌だ。嫌だ。行かないで。見苦しいくらい涙が零れ落ちる。俺の決めた覚悟とはなんだったのか。


 そんなの忘れてしまうくらい、如月が自分のそばから居なくなるのが辛い。如月との思い出ばかりが込み上げる。やっぱり離れるなんて出来ないよ。


「睦月さん……ごめん…ごめんなさい。それでも私は……世界で1番貴方が大好き」


 泣きながら笑う如月の頬を両手で包み、唇を重ねた。嗚咽で口唇が震える。如月の頬に触れた両手は涙で冷たい。


「笑って、睦月さん。笑った顔が見たい」
「笑えないよ……」


 涙でぐしょぐしょに濡れた顔で、歯を食いしばり、今できる最大限の笑顔を作って見せる。


「……いってらっしゃい、如月」
「行ってきます……あ、そうだこれ……」


 手首がそっと如月に掴まれ、腕時計が付けられた。俺が階段から落ちた時に割れた、惑星軌道が描かれた腕時計。割れた面は直っている。


「渡すの遅くなってすみません。修理に出していました。ほら、お揃い」


 如月がにこっと笑い、俺に手首を見せてきた。歯を食いしばり、止めていたはずの涙がまた頬を伝う。


「じゃあ、今度こそ」
「如月」
「なんですか?」


 ぎゅっと拳を握り、歯を見せ、いつもの笑みを浮かべる。涙で目の前が霞み、如月がキラキラして見えた。


「俺も……世界で1番如月が大好き」


 苦しいくらい強く抱きしめられ、腕を如月の背中に回し、同じくらい強く抱きしめた。


「もう行かなきゃ……」
「うん……」
「あんまり連絡は出来ないかもしれないけど。また会えるし、婚約破棄はする」
「俺も協力する」


 背中を締め付けていた腕が緩み、如月が俺の頬に触れた。


「私が愛していること、忘れないで」
「如月も忘れないで? 俺が如月のこと愛してること」
「ふふ、忘れません……ん」


 ちゅ。


 お別れの口付けはとっても優しくて、消えてしまいそうなくらい、柔らかく重なった。


 卯月と一緒に如月を外まで見送る。卯月の瞳も薄く濡れていた。でも、泣いてばかりはいられない。


「さよならは言わないよ。行ってきます」
「いってらっしゃい、如月!」
「如月っ……俺は如月を迎えに行く!!! 如月も俺を迎えに来い!!!」
「どういう理論ですか、それ~~」


 あはは、と笑いながら、スーツケースを引っ張って、俺たちに手を振って歩く如月の姿を、見えなくなるまで、卯月と一緒に見続けた。



 左手にはめられた腕時計へ目線を落とす。



 時計は時間を刻む象徴。如月が何故このタイミングで渡してきたのか。

 

 どこに居ても、あなたと同じときを刻む。ストレートな如月の愛情表現。



 ーー離れていても一緒。



 そう、聴こえた気がした。

 


 
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