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57話 如月のために作るお守り。家に届く悪質な年賀状に不安が押し寄せるーー。
しおりを挟むーー5日 佐野家
如月の実家から帰ってきた。帰ってくるなり、如月はこの家を出ていく準備を始め、胸が苦しくなった。
昨日は乗り切れる!! そう思ったのに、この家に帰ってきたら、急に居なくなるということが現実的になってきて、決まっていた覚悟が揺らぐ。
洋室で座って荷造りする如月を、襖の陰からじぃっと見つめ、声をかけた。
「何か手伝うことある?」
「必要最低限しか持っていかないつもりなので…特には……ありがとう。そんなところにいないで、おいで」
如月のそばに寄ると、すぽっと如月の脚の間におさめられた。ぎゅうっと如月が俺を抱きしめる。
「明日から離れるなんてさびしいです」
「……離れたくない」
「同棲なんかやめちゃおっか」
「……出来ないくせに」
少しずつ埋まっていくスーツケースがお別れのカウントダウンに思え、見ていられず膝に顔を埋める。
「これ、新しい住所です」
「なんで手帳……?」
「あげる」
「ありがとう……?」
2024と書かれた茶色のクラシカルな手帳を如月から受け取った。別に、メールで送ってくれればいいのに。
「後ろの方に住所が書いてあるから」
「分かった。でもこれ、もらっちゃっていいの?」
「今年の手帳は持ってますから」
「なるほど」
「ところで今日の予定はどうしましょうか?」
今日の予定……。スマホで時間を確認する。もうすぐお昼。卯月もいるし、どこか遠くに出かけたりは出来ないだろう。個人的にはもういっかいくらいえっちしたいけど!!!
「なんか今、えっちしたいみたいな顔した」
「してません~~」
「目つきがいやらしかったぁ」
「俺だってね!! 毎日えっちしたいと思ってる訳じゃないんだから!!!(嘘だけど)」
「へー」
ばむっ。
如月がスーツケースを閉じると、俺の頬にキスをした。ちゅ。なんていうか、お別れが近いせいか、ちゅーの頻度が増えている。普段もこれぐらいして欲しい。
「如月は何か俺としたいことや行きたいところとかないの?」
「そうですねぇ……」
「訊かれると困るでしょ」
「なんだろう、なんか見つけられない……あ、お守り欲しいです」
「お守りぃ?!?!」
今更?!?! 初詣デート、もう終わってるのに!!!! お揃いで色々装飾品はつけているが、願掛けになるようなお守りは持っていない。
「また参拝に行きますか?」
「う~~ん。パワーストーンブレスレット作る?」
「なんだかご利益のありそうな装飾品ですね」
「形にこだわりがなければ……本のしおりとか……」
「そっちの方が嬉しいかな」
よし!!! しおり付きブックカバーを作ろう!!!
押し入れを開け、ごそごそとあるものを探した。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
どーーん!!!
こたつの上に置かれたミシンとはぎれ布。こたつで勉強している卯月さんは少し困惑している。
「ふふふ、こう見えて俺は家庭科が得意なんだ」
「女子じゃん」
「女子言うな!!! 誰がいつも雑巾とか給食袋作ってきたと思って!!!」
じょきじょきじょき。
なんという、手際の良さ。感心する。真剣な眼差しも可愛い。私のために作ってくれていると思うと本当に嬉しい。
カタカタカタカタ。
布を縫う音が心地よくて、耳を澄ませながら読みかけの小説を開く。もっと睦月さんのそばにいきたい。のそのそ。こたつから出て、膝掛けを抱きかかえ、睦月の後ろへ行く。
邪魔は出来ないから……。
「ちょっとぉ!!!! 背中もたれないで!!! 今ミシンしてるんだから!!!」
「じゃあどこならもたれていいですか?」
「……膝……」
それ自分がやりたいだけじゃないの? ごろんと寝転がり、睦月の腿の上に頭を乗せ、本を読む。時々、睦月が私の髪を撫でた。
「如月、もう出来るよ~~」
「早いですね」
「裁縫は得意ですから!!!」
「女子じゃん」
「女子より女子力は高いはず!!! アイロンかけてくる!!!」
睦月が立ち上がるので、身体を起こす。ブックカバーにアイロンをかけ終わったのか、睦月が戻ってきた。
「しおりつきブックカバー!!!」
「すごいです。縫ってるところ真っ直ぐ……」
作ってもらったブックカバーを今読んでいる本に被せる。ピッタリ。褒めて? 褒めて? と言うように私をキラキラした瞳で見つめてくる。眩しい……。
「ありがとう、とても素敵です。大切に使わせて頂きます」
「それだけ~~?!?!」
「え?」
「『ありがとう、大好きですよ。ちゅ』とかないの?!?!」
なるほど。もっと愛を囁いて、キスして欲しかったと。膨らんでいる睦月の頬をぷすっと手で潰す。
「はいはい、大好きですよ、ありがとう~~」
「愛こもってない!!!」
「愛してる愛してる。めっちゃ愛してる」
「なにもぉ~~ひどい~~」
正面に座る卯月が肘を突いて、呆れた顔で私たちを見てくる。卯月さん見てるけど、いっか。ぶーぶー怒っている睦月に唇を重ねた。
ちゅ。
「これで気は済みましたか?」
「そんなんで俺が足りると思った?」
「いちゃつくなら和室へ行ってくれ」
「あ、年賀状!! 私、見に行ってきます」
身体を求めてくる睦月をサッと交わし、玄関のポストから年賀状を取り出す。輪ゴムで束ねられた年賀状は10枚もない。少なくなったなぁ。
「睦月さ~~ん、年賀状来てました」
「ばあちゃんからでしょ?」
「ですね。あともう一枚……」
年賀状の文面を見てゾッとし、思わず隠す。なんだこれ。筆ペンで大きく死ねと書いてある。誰だ差出人は。宛名面を見るが、書いてない。でも、睦月さん宛に届いている。
「如月? もう一枚あるんじゃないの?」
「あ……いえ。ないです。間違えました」
「やっぱり今年も一枚だけだったか~~」
能天気に睦月さんは笑っているが、全く笑えない。明日、私はこの家を出て行っても大丈夫なのか? 睦月さんに何かあったりしない? 胸に不安が押し寄せる。
「如月? どうした?」
「いや……なんでもありません……年賀状が減るのは少しさびしいですね」
悪質な年賀状を握り潰す。誰が一体こんなことを? まさか北条家が? 睦月さんに嫌がらせするメリットなんてないのでは? なんのために? それとも誰か個人の仕業?
「う~~ん……」
「如月?」
「……なにか最近変なこととかありませんでした?」
「変なこと? ん~~……あ、あった。まぁただの悪戯だと思うけど、エロサイトに携番とアドレスと、少し個人情報漏れた」
「なんですかそれ!!!!」
全身から血の気が引いていく。既に変なことが起きている。何もなかったから良かったものの、何か起きてからでは取り返しがつかない!!!
「なんでもっと早く言わないんですか!!!」
「なんでって……そんな大したことじゃないかなぁって……ごめん」
「もうっ……」
この手の中にある年賀状も見せるべきなのだろうか。あまり見せたいものではないが、見せたことで、少しでも睦月さんの警戒心が強まるならいいのかもしれない。問題の年賀状をこたつの上に置いた。
「なにこれ……」
「きも……」
「ポストに入ってました。理由は分かりませんが、睦月さんが誰かのターゲットになってるのは間違いありません。卯月さんも気をつけて」
絶句する睦月を後ろからぎゅっと抱きしめる。
私が居るから大丈夫だよ、そう言ってあげたいのに、言えない。何故このタイミングで私はこの家を出ていかなければならないのだろうな。
漠然とした不安が私の心をとらえ続けた。
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