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55話(4)このキスもあと何回出来る? ずっと一緒。離れる覚悟が出来ないーー。
しおりを挟む義実家に戻ってきて、如月と会っても、如月はお見合いの話を俺に話してはこなかった。ただ、いつもより少し暗い表情で、俺に甘えるように、俺を後ろから抱きしめる。
如月が何も言わないから、俺も何も聞かず、無言で抱きしめられる。扉の閉まった如月の自室は静かで、沈黙の時間が流れた。
「……如月、えっちする?」
「んーん。しない。今はこうしていたい」
俺を抱きしめる如月の腕にぎゅっと力が入る。いつ如月は俺の家から居なくなるのか? 俺たちは別れるのか? 気になることはたくさんある。
でも、まだ手を伸ばせば触れられる距離に如月が居る。
今のうちに、如月と出来ることをしたい。
「初詣、行かない?」
「そうですね、神様に祈願しないと……」
「明日いこ?」
「うん……睦月さん、キスしよ」
如月に顎が掴まれ、強引に口付けされる。甘い果実を食べるように、優しく何度も唇が啄まれる。少しだけ開いた唇の隙間から舌が捩じ込まれてきた。
唾液の混ざり合う音がいやらしく室内に響く。
「んっ…んんっ……ん……ふ……っん…んっんんっん……」
このキスも、あと何回出来る? 実は両手で数えるほどしかもう出来ないんじゃないの? そう思うと胸が苦しくなる。
愛しい。離れたくない。まだ手放す準備なんて出来てない。皐の俺とは違って、俺は如月が別れを望んでも、優しく受け止めることは出来ない。
如月の頬を両手で包み、触れ合う唇を更に押し付けた。少しでも長く繋がっていたくて、舌を激しく絡ませる。
「っん…ふ……んふ……んんっん…んっ……んっんっ…ふ……」
舌を絡めて深く触れ合う。身体の向きを如月の方へ向け、膝の上に跨る。絡み合う舌は緩急を付けながらゆっくりと離れた。
「ーーはあっ……」
お互いがお互いの目をみて、見つめ合う。愛しくて、キスが終わっても、如月の頬が離せない。
「……睦月さん」
「……うん?」
「……ずっと一緒です……」
ぎゅう。
如月が強く俺を抱きしめた。そうだよ、ずっと一緒。なのに、その言葉を聞いて涙が頬を伝う。
如月は言わないけど、俺は知ってるから。
『ずっと一緒』が重くて、儚い言葉に今は聞こえる。
俺に涙の理由を訊くわけでもなく、如月が俺の涙を指先で掬った。
「……お正月は始まったばかりですよ? いっぱい楽しまないとね」
「……うん」
涙で濡れた頬でにっこり笑う。如月もまた、茶色の瞳を濡らしながら、俺を見つめ、笑った。
「…んっ……ぁ……」
如月の手が俺の素肌に触れ、ゆっくりと身体全体を撫でさすったーー。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
「お兄ちゃん、目腫れてる」
「え……ぁ、ちょうどいいや。今如月、お義父さんのところだし、卯月に話がある」
「話……?」
目を真っ赤に腫らした兄が「こっち」と手招きをするのでついていく。物置き部屋のような部屋に入ると、扉が閉められた。
「話とは……?」
「単刀直入に言うと、如月が婚約した」
「はぁ? 誰と? お兄ちゃんと?」
「俺とだったら良かったね……」
目を伏せ、苦笑いする兄の姿に胸が詰まる。顔色の悪い兄の顔を見る限り、よくない相手との婚約というのは分かる。
「如月はどうなるの?」
「分かんない……如月、何も言わないし……」
「そこはさ、聞こうよ!! 自分に関係する大切なことじゃないの?!」
「そうなんだけど……」
現実が受け止められなくて、聞けないでいるの? 兄らしくない。婚約したら私たちと一緒に住んでいる家を如月は出ていくことになるってこと?
「どうにか出来ないかな?」
「いや、どうにかって……恋愛経験ゼロの中学生に相談されても」
「う~~……」
「とりあえず、婚約しちゃったものはもうどうにも出来ないんだからさ。ぶち壊す方法を協力してくれそうな人と考えるしかなくない?!」
「……ぶち壊す……」
ぶち壊すは違ったか? でもなんらかの方法で婚約破棄まで持っていかないと、如月は結婚してしまう。ない知識を絞り出し、兄のために一生懸命考える。
「やっぱりここは、敵情視察じゃない?」
「敵情視察?」
「相手の状況が分からないとこっちも動けないよ」
「そうだね……」
「如月が同棲始まったら動こう!!」
弱りきっている兄を私はそっと抱きしめた。
「大丈夫だよ。だって、お兄ちゃんと如月はらぶらぶだからね!」
*
「話が違ったんだけど……」
「私と話し合った時点では婚約なんて話は出ていなかった」
「じゃあなんで、こんなことになってるんですか! はぁ。婚約して同棲することになったから」
「睦月さんのことは……?」
「自分で伝えるから何も言わないで。あと、絶対に婚約破棄する。その時は後始末して」
父は頭を片手で抱えながら小さく頷いた。頭を抱えたいのは私の方だ。さっきも睦月さんに話そうと思ったが、言い出せなかった。
それどころか、私の状況を察しているみたいに、泣き出す睦月さんを見ると胸が苦しくて、余計に言えず。
だって言ったら、傷つけて、泣かせてしまう。貴方の泣き顔を私は見たくない。
佐野家に戻ってしばらくしたら、同棲が始まるだろう。ここにいる間だけでも、婚約のことなんて忘れて、笑顔で睦月さんと過ごしたい。
「報告はそれだけ。母さんと姉さんにも言っといて」
「分かった」
部屋を出ると、隣の部屋から睦月と卯月が出てきた。この物置き部屋、気に入ってるの? 暗い顔をした睦月さんに笑顔の花を咲かせたくて、優しく笑いかける。
「もうすぐ夕飯ですね」
「うん」
「お兄ちゃん先行ってて、スマホ取りに行ってくる~~」
「はぁい」
私の顔を見るなり、睦月が薄く微笑む。睦月の指先を指先で絡め取り、リビングへ向かう。私と違い、この少し骨ばったごつごつした手も今は愛しい。
「手、少し乾燥してますか?」
「え? あぁ、うん。ここに来てからいっぱいお掃除してるからね!」
「ごめん…別に断ってくれてもいいからね?」
「断るのは無理だってぇ~~」
あはは、と笑う睦月さんを見て、ほっとする。リビングに着くと、睦月さんが椅子にかかったエプロンを手に取り、つけ始めた。
「俺、手伝ってくるね」
「うん。あとでハンドクリーム付けましょ」
「……ハンドクリームよりイイコトしたいな」
頬を赤く染め、私から目線を逸らすと、エプロンの裾を握ってもじもじしている。可愛い。睦月の耳元に顔を近づけ、甘い声で囁く。
「……明日、初詣終わったらシよ」
「~~~~っ…ばち当たりぃ~~」
「えぇ、そうですか? 繋がって愛し合うなんて、縁起が良さそうですけど~~」
「そうなのか……? まぁそうか? う~~んっ」
腕を組み、考え始める睦月の背中を押して、一緒にキッチンへ足を運んだ。
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