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55話 新年は義実家に挨拶へ?!聞こえてしまった如月のお見合い話ーー。 挿絵
しおりを挟むーー1日 新年、朝
どどんっ!!
「お雑煮を作りましたぁ!!!」
「ぉおお~~!!」
「ありがとうございます~~!!」
新年を迎えた朝。大きな鍋にたっぷり入った雑煮を兄が誇らしげに、こたつの上に置いた。鍋の蓋を開けると、ふわりと立ち上がる湯気とともに出汁の豊かな香りが部屋に広がった。美味しそう!!! これぞ、新年!!!
「お餅何個食べる??」
「2個でお願いします」
「3!!!!」
「はーい」
トースターで焼いた餅を兄が皿に乗せ持ってきた。3人でこたつを囲うと、兄がお玉で器に雑煮を取り分け、私と如月に配っていく。透明なだし汁に美しく盛り付けられた餅と具材を見て、笑みが溢れる。早く食べたい!!
3人で手を合わせた。
「「「いただきまーす!!!」」」
早速熱々の雑煮を口に運ぶ。出汁の旨みが口内に広がった。うまぁ!!! 流石、兄!!! 雑煮の中にぷかぷかと浮かぶ餅を箸で摘み、かぶりつく。餅が口の中でとろけた。煮込まれた野菜やかまぼこもとても美味しい。お雑煮最高だ!!!!
「はふ……おいひいです、睦月さん」
「それは良かった」
1人用のこたつの幅にわざわざ大の大人が2人で入るらぶらぶ具合。食事の時ぐらい離れたらどうなのか。向かい側から2人の様子をじぃっと見つめる。
「はい。睦月さん、あーーん」
「あ~~っ」
ぱく。
この月日が経つと、妹が目の前に居てもなんの恥ずかしげもなく、あーんが出来るらしい。見てるこっちは恥ずかしい。
「この後だけど、如月の実家に泊まりで新年の挨拶に行きます!!!」
「お兄ちゃんって完全に嫁だね」
「いいんだよ、親公認ってことなんだから!!!」
「とりあえずお雑煮食べ終わったら3日分くらいのお泊まりの準備してくださいね」
3日……。結構泊まるなぁ。でも如月の実家は好き。あたたかいお母さんとお姉さんが居て、お兄ちゃんの妹なのに、嫌な顔もせず可愛がってくれる。だから、如月の家族は大好きだ。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
電車に揺られながら都心を離れていく。身体の痛みや怠さはないが、昨日の疲労がどことなく全身に残る。あたたかくて、ゆりかごのような小さな揺れを感じる電車はうとうと、と眠気が襲ってくる。
こっくり。
ぽす。
眠たくて、隣に座る如月の肩に寄りかかった。重くなる瞼に抗いながら、如月を見つめる。黙々と読書をしている。俺のこと気にならないの? 少しはこっちを向いて欲しくて、如月の横髪に手を伸ばし、耳にかけた。
「なんですか?」
「べつに?」
如月と目が合ったが、スッと逸らす。もう満足。俺を気にかけた如月の負け。俺の勝ち。そのまま如月の肩に頭を乗せたまま、瞼を閉じた。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ぺちぺち。
「ーー睦月さん…睦月さぁん!!!」
「ふぁあっ」
頬が叩かれ、ゆっくり瞼を開けた。停車のアナウンスが耳に入り、一気に目が覚め、慌てて起きる。
「もう降りる駅じゃん!!!」
「そうですよ、だから起こしてるんです。ってちょっと!! よだれ!! 私の服に付いてる!!!」
「えっ? あぁ、ごめん~~」
「着いたよ!! お兄ちゃん、如月、降りるよ!!」
口から垂れた涎を手で拭い、電車を降りた。改札を出ると、小春が手を振って待っていた。挨拶をしないと!!!
「新年、あけましておめでとうございます」
「堅いなぁ、睦月ちゃんは~~おめでとう~~」
「小春さんあけおめことよろ~~」
「卯月ちゃん、よく来たね! 今日から追い込みで勉強しようね」
「うげぇ~~」
「受験生でしょうが」
小春に案内され、車に乗り込み、そのまま如月の実家へ向かう。車を走らせ、20分ほどで、実家に着いた。玄関扉を開け、家の中に入ると如月の家族全員が出迎えてくれた。歓迎されている、そう思うと、嬉しくて、笑みが溢れる。
「えっとぉ……あけましておめでとうございます!! 今年もよろしくお願いします!!」
「あけましておめでとう、疲れたでしょ? ゆっくりして」
「あ、これ!!! よかったらどうぞ!!」
「ありがとう」
義母に手土産の紙袋を渡すと、にっこり微笑まれた。如月の家族ひとりひとりに深々と頭を下げ、新年の挨拶をする。よし、挨拶は終わった。ミッションクリア!!! 俺の好感度は保たれた!!!(?)
挨拶が済み、義母に案内されるまま、リビングへ行く。
ぐちゃあ……。
「????」
大晦日にどんちゃん騒ぎをしていたのがよく分かる卓上。酒の空き缶、食べかけのつまみと菓子のゴミ。ゴミ、ゴミ、ゴミ、とにかくゴミ!!!!
「あはは……楽しい年末をお過ごしだったんですね……あはっ…あはは……」
「楽しかったよ、うん」
「そうですよね……新年ですもんね……あはっ…」
笑顔という無言の圧力!!!
持ってきた荷物を開け、ごそごそとあるものを取り出し、自分に装着する。持ってきて正解だった!!! どうせこんなことだろうと思ったよ!!! くそがぁああぁぁああ!!!!
マイエプロンを装備して、如月家の掃除に取り掛かった。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
ーー夕食後。
「美味しかったですね~~」
「うん!!!」
家では中々食べられないお寿司をたらふく食べさせてもらい、掃除の頑張りが報われた気がした。お寿司って美味しい。幸せだぁ。
如月と温かいお茶を飲み、一息ついていると、深刻そうな顔をした義父が近づいてきた。ただならぬ雰囲気の義父に少しだけ、胸騒ぎがする。
「弥生、部屋に来なさい」
「えぇ……」
「いってらっしゃい……?」
「うん、またあとで」
如月が湯呑みを机に置き、俺の頭をぐしゃぐしゃっと撫で「大丈夫だよ」と笑った。義父の後を着いていく如月の背中を見守る。
入れ替わるように、今度は義母が俺の前に来た。
「睦月くん、お風呂沸いたよ。弥生と入ったら?」
「えっ……あ、はい……」
義母からバスタオルを2枚受け取る。ご両親から一緒に風呂へ入ることを推奨されるのは、未だに慣れず、ちょっぴり恥ずかしい。バスタオルを抱きしめ、如月を探しにリビングを出る。
「如月どこだろう?」
とぼとぼと、廊下を歩いていると、あるドアの前で如月と義父の話し声が聞こえた。自然に足が止まる。
『見合い? 恋人が居るのにそんなのする訳ないだろう!!! その場できちんと断われよ!!』
『どうしても断れなかったんだ。頼む。北条さんと会ってほしい。婚約は断ってくれて構わないから……』
『婚約は断って…って、あたり前だろ!!! 何言ってんだ!!!』
……お見合い? どういうこと? 北条って誰? 穏やかな如月が、声を荒げて怒っている。結婚……するの……? 胸が不安で張り詰めていく。
『断る役は私なのに。しかも顔も知れた相手。見合いの必要なんてあるの? これ』
『……向こうが望んできたことだ。一応これでも弥生には恋人が居ると一度は断ったが、上手く折り合いがつかなかった……すまない』
『はぁ……情けな……で、いつなの? 見合い』
『明日』
『はぁ?! 明日?!』
はぁ?!?! 明日?!?! でっ、でも……よく分かんないけど、断るんだよね? ってことはお見合いしようが如月がどっかいくことはないし、大丈夫だよね……?
左手の薬指に、はめられた指輪をぎゅっと押さえる。
『明日、頼んだよ』
『…………』
舌打ちと共に足音がこちらに近づいてくる。如月が来る!!! やばい!! どうしよう!!! あたふたしていると、後ろから口元を押さえられ、隣の部屋に引き摺り込まれた。
ガチャ。
「……ふざけるな」
如月の怒りの呟きが扉の向こうで聞こえた。
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