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53話 忘年会はシラフではやっていられない?!でも酒に弱い貴方が心配です?!
しおりを挟むーー年末、仕事納め。
「お兄ちゃん、今日忘年会だから帰り遅くなるって」
「忘年会? 大丈夫ですか? 酒とか酒とか酒とか酒とか」
「どんだけ酒言うの」
「だってそこが1番心配ですから」
う~~ん。あまり職場にはお邪魔したくないけど、心配だし、時間見て迎えに行こうかな? 酔っ払ってなんか変な人と関係を持ったりしたら嫌だ。
睦月さんの帰りが遅いとなると私たちは自分で夕飯を作らなければいけない。面倒くさいな。
「私たちはデリバリーでいいですか?」
「やったぁ!!!」
「どれにしましょ~~」
こたつに入ったまま、卯月と寝転がり、スマホを取り出す。卯月さんはデリバリーが嬉しそうだ。デリバリーを実施している店舗が表示されているスマホの画面を卯月と見つめ、今日の夕食に頭を悩ませた。
*
ーー忘年会。
睦月は既に出来上がっていたーー。
「うっうっ……ぐすっ…神谷ぁああぁあ……っ」
「そんなに飲んでたっけ~~?」
ガヤガヤとした賑やかな声と笑い声が居酒屋に響き渡る中、隣に座る佐野が僕に泣きついてくる。テーブルに並べられた色とりどりの料理を皿に取り分けた。
「ぐすっ…えっぐっ……なんか……如月のね……小さい頃……うっうっ…仲良かった女の子…うわあぁあん……が…ひっく……現れた……ぐすっ」
「はぁ? 何それ? どういう関係?」
酔っ払いながら話している割には、何か重要なことを言っている気がする。佐野の背中をさすりながら、話に耳を傾ける。
「うっうっ…地主? の…ぐすっ……娘で…ぐすっ…如月も…うぅ~~っ……家地主で…うっ…家同士仲良くてぇ……ひっぐ…」
「なるほどね~~」
「なんか……うっ…ぐすっ…その女の子が…うっ…『年明けからよろしく』って……ぐすっ…うわあぁあんっ」
年明けからよろしく? 机に伏せて泣き始める佐野の頭を撫でる。また会う予定でもあるのかな。箸で取った刺身を口の中に放り込む。
「よくわかんないけどさぁ~~如月氏は地主の長男で跡取り息子でしょ?」
「う?」
「本来なら家柄の良いお嬢さんと結婚して、二世帯住宅? とかで過ごしていてもおかしくない訳で」
顔を伏せていた佐野が僕の方を見る。目からは涙がぼろぼろ溢れている。もう、先輩のくせに世話が焼けるなぁ。お手拭きで佐野の涙を拭きながら話す。
「それを姉上の旦那さんが婿入りして、如月氏がやるべきことを引き受けてる」
「そぉだけどぉ……ぐすっ…うっ……だからぁ…ううっひっぐ……如月は…自由なんだよ……?」
自由って。佐野の涙を拭き終わり、テーブルの上の料理に手を付ける。はぁ。シラフじゃ、やってられないな。ビールに口を付けた。佐野と話しながら、料理とアルコールで腹を満たしていく。
「自由とかじゃなくてさぁ~~僕が言いたいのは、家柄も良くて、教養も備わった品の良いイケメンが独身フリー状態ですよってこと」
「俺と付き合ってる~~っ」
「その女の子は指輪してたの?」
僕の質問に佐野表情が暗くなる。これはしてなかったやつかな。
「……してなかった」
「その資産家の娘が独身だったら、如月氏は優良物件じゃないの~~」
「……何もないって如月言ってたもん」
「じゃあ何もないんじゃない? ま、気をつけるに越したことないかもね~~」
良い感じに腹が膨れてきた。泣き止みつつある、佐野の背中を叩く。
ばしっ。
「大丈夫だって~~恋人なんだから。それに如月家公認なんでしょ?」
「うん……行けば嫁の如く、料理から片付け……庭の草むしりに至るまでこき使われてる……」
「如月氏の嫁は大変だな~~。セクシュアルマイノリティも理解してもらえる良い家なんだから、何か起こるとかないって。多分」
グラスに入ったビールを飲み切った。「そろそろお開きです」と上司の声が聞こえ、幹事の方を向く。忘年会からやっと解放されたと思うと、疲労感に苛まれ、大きな欠伸が出た。
*
「では、良いお年を! お疲れ様でした~~」
「お疲れ~~」
店先に立ち居酒屋の、のれんをくぐって出てくる会社員の姿をひとりひとり確認する。睦月さんではない。しばらく待っていると、神谷に担がれた睦月がのれんから出てきた。
完全に酔い潰れている。あーあ。迎えにきて正解だった。すぐに神谷のそばへ寄る。
「あ……神谷さん。ありがとうございます。すみません、睦月さんが……」
「大丈夫大丈夫~~いいなぁお迎え。羨ましいよ」
「皐ならコンビニで待ってますよ」
「えっ……皐さんが?」
半ば強引に睦月を押し付けられ、神谷はコンビニへ足早に行ってしまった。睦月の目は完全に据わっている。1人じゃ歩けないだろう。
「睦月さん、後ろ来て」
「う? バックでするの?」
「…………」
黙って笑顔を作り、睦月の膝の後ろに腕を入れ、強制的におんぶした。首の後ろからアルコールの匂いが強く香る。くさい。首に睦月の腕がぎゅっと絡まった。
「……きさらり、結婚するのぉ?」
「はぁ? 誰と?」
「わかんないけどぉ……」
「しませんよ。あ、でも、睦月さんとならしても良いかなぁ~~海外とかで。ふふっ」
どうせ、私の言ったことなんて朝になったら忘れてしまうだろう。酔ってない睦月さんにはとても言えないが、意外と本気な私の本音。
伝えたことで、睦月さんの重荷になりたくなくて、言えない。今だけは特別。
「おれとけっこん?」
「……少し寝たら? 家までちゃんとおぶりますから」
「きさらぎの背中ひとりじめ」
誤魔化すように話をすり替えた。私が言ったことは、恥ずかしいからもう忘れて。
とろんとした目で柔らかい笑みを浮かべ、私の顔を覗き込んでくる。可愛い。アルコールのせいで頬が赤く染まっているのが、また可愛い。
おぶりながら歩いていると、睦月の目が次第に閉じたり、開いたりし始めた。眠たいのだろう。家に着いた時には静かな寝息が肩から聞こえてきた。
「……仕方ないなぁ」
家の中に入り、睦月の靴を脱がせ、寝室へ運ぶ。卯月が気を利かせて、布団を敷いてくれた。ありがとう。そっと睦月を寝かせる。
「着替えさせた方がいいんじゃない?」
「そうですね……」
そうっと起こさないように部屋着に着替えさせると、突然、かばっと抱きつかれた。
「ちょっ!!!」
「きさらぎぃ~~だいすきぃ」
「はいはい」
首に巻きつく腕を外そうとするが、離してくれない。もういいや。抱きつかれたまま、一緒に寝転がった。隣の布団で横になる卯月に背を向け、睦月の方を向く。もぞもぞと背中に腕が回った。
「ちゅーして、きさらぎぃ」
「はいはい……ん」
アルコールの匂いでこちらまで少し酔いそうになりながら、睦月の真っ赤な頬を両手で包み込む。可愛い。私の大好きな人。そっと、唇を重ねる。
ちゅ。
「っん……はぁ……ずっと俺のそばに居てね」
「何回言うんですか、それ。ずっとそばに居ますよ」
なんか、可愛過ぎて、ムラムラしてきた。睦月のズボンの中に手を入れ、下着の上から幹に触れる。
「あぁ~~っだめぇ~~っ……」
「ちょっ……声大きいですって!!」
「お兄ちゃんたち、ここでするのはやめて!!! 私今から寝るんだから!!!」
「寝ます寝ます!! ごめんなさい!!」
リモコンで部屋の明かりを消し、睦月を寝かしつけるように優しく頭を撫でる。アルコールが回っているせいか、すぐに睦月の瞼が落ちた。隣の布団からは卯月の寝息がすぅすぅと聞こえる。
「おやすみ、2人とも」
布団から起き上がり、襖をゆっくり閉め、リビングに戻った。
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