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49話 落葉樹の紅葉デート?!あまり知らなかった如月のことを知るーー。
しおりを挟むーー翌日、朝。日曜日。
俺は今、上半身裸で鏡の前に居る。
自分の姿を鏡で見て、正直、明日仕事に行くかどうか迷う。(※耳、甘噛み痕。首筋、キスマークだらけ。胸の突起、噛まれたり弄られすぎて、過敏中)
明日、朝起きて、全て治っているとは思えない。この姿を卯月に見られることも抵抗がある。
付けた如月は布団でまだぐっすり寝ている。今日の朝ごはんはサンドイッチ(セルフ制)にした。とりあえず、肌着と長袖のTシャツを着て、リビングへ向かう。
「お兄ちゃんおはよ」
「おはよう」
今日は起きるの早いな。卯月の目線は当然のように俺の首筋と耳を追う。
「今日、外行かない方が良いんじゃない?」
「そんなの自分が1番分かってる……」
こたつのそばに腰を下ろし、布団の中に脚を突っ込んだ。ぬくぬく。あったか。痕はひどいけど、この痕を嫌だとは思わない。
むぎゅ。
んふ。口元が緩む。如月の脚が俺を挟み、二本の腕に抱き締められた。
「睦月さん、おはようございます」
「お、おはよ。如月」
昨日の情事を思い出し、頬が染まる。過敏になってる身体は、如月の手が少し動く度にビクッと反応する。こたつに伏せ、赤く染まった顔を隠した。
「睦月さん?」
「少し色々不調です……」
「落葉樹の紅葉でも一緒に見に行こうかと思ったのですが、難しそうですかね?」
「それって……でーと?!」
がばっと顔を上げ、振り向き、如月を見つめる。如月がにっこり笑い、俺の頭を指先で撫でた。
「紅葉デートです」
「行く行く行く行くーー!!!」
「ちょっ急に下がって来ないで!!! もう~~っ」
両腕を上げ、思いっきり如月にもたれかかる。背中が如月の胸部に付いた。
ちぅ。
顔を覗き込まれ、キスされた。え、え、え???? 思考停止。かぁああぁあ。頬が真っ赤に染まる。顔を背け、手の甲で顔を隠す。いきなり何すんだ!!! ばか!!!!
「卯月が目の前に居んだろ!!! ばか!!!」
「え? もう今更じゃないです? 気にします? それ」
「俺、今デリケートなの!!!(?)」
「なるほど……?」
如月が首を傾げながら、立ち上がり、出掛ける準備をするために、洋室へ行ってしまった。絶対分かってない!!!
俺も出掛ける準備のため、洋室に向かう。洋室では如月がもう既に着替えを済ませていた。
白いシャツにえんじ色のセーター。珍しくデニムを履いている。キャメルのチェスターコートがもう大人……。年の差を感じる。
「何着るのですか?」
「え……白のプルパーカーに黒いデニムジャケットとカーキのズボン……」
「なるほど……(系統がまるで違うなぁ)」
必要なものを持ち、玄関を出た。イチョウってどこの見に行くのかな。如月が歩く方へ横並びでついて行く。
手繋ぎたいな。
如月の手を掴もうとそっと手に触れる。スッと手を上げ、避けられた。なんで? 俺と繋ぐの嫌なの? 立ち止まり、如月を見つめる。
「あ……えっと……睦月さんに沢山の痕を付けてしまったので……手など繋いだら……その……あからさまに……」
チェスターコートのポケットの中に手を入れ、俺と繋ぐことを完全に拒否している。
気遣ってくれているのは分かるが、そんなの、嫌だ。
「世間にどんな目で見られても、俺が如月のことを好きなことには変わりないよ。だから繋ごう?」
「うん……」
如月に手を差し出すと、恥ずかしそうに、如月が手のひらを重ねた。秋の柔らかい日差しが降り注ぐ中、指先を絡め合い、再び歩き出す。
しばらく歩くと、イチョウの並木道に着いた。黄色に染まった綺麗なイチョウの葉が風で揺れる。少し肌寒さを感じ、身震いをする。
「寒い?」
「うん、ちょっと……」
「気休めでしかないですが」
繋がれた手がチェスターコートのポケット中に一緒に入った。風に当たらない分、あたたかい。コートの中でも絡め合う指先を離したりはしない。
「ありがとう」
「いいえ~~」
黄金色の絨毯のように広がる葉の上を、如月と歩いていく。風が吹く度に、ひらひらとイチョウの葉が舞い落ちる。葉が散る様子が綺麗だと思った。
「綺麗だね!」
「そうですね。あ、どこか座りますか?」
「うん!!」
並木道の途中にあるベンチに腰を下ろす。目の前に広がる黄金色の風景を見つめながら、如月の肩に寄り添った。
「私の家ね、不動産の地主なんです」
「へ?」
「自分のことってあまり話したことないなぁって……」
「そうだね」
あまり知らない、如月自身のこと。セクシュアルマイノリティのことは知っているけど、それ以外は18の時に家を出た、とか、小説家として才能があってすぐ売れたとか、その程度しか知らない。
俺たちは恋人になって、半年が過ぎた。お互いを知る良い機会なのかもしれない。
「お金持ちってこと?」
「ん~~まぁ、そうかもしれませんね」
「確かに如月の実家、着物いっぱい持ってたよね」
「英才教育の一環として、着付けがありましたから」
そういえば如月も俺の乱れた浴衣、すぐ着付けして、直してくれたなぁ。(※23話(3)#)
「姉さん達はみんな良い大学出てますよ。跡取りなんだから、勉強しろ、良い大学行けみたいな、そういうのも嫌だったのかもしれません」
「跡取り……」
あの姉妹の中だと、如月だけだもんなぁ、男性。俺と付き合っていて、良いのかな、なんて少しだけ不安になる。
「1番上の姉さんの旦那さんが婿入りしてるので、心配することは何もないですよ~~」
「……うん」
俺が心配したことを見抜かれ、頭をぐしゃぐしゃっと撫でられた。んもぉ。
「ふふ、睦月さんは玉の輿ですね」
「玉の輿なのかこれ~~」
「なんだかまったりしていて、楽しいです」
少し冷えた風が頬を掠め、空いている手で、息を「はぁ~~」と吐き温める。如月の手のひらが俺の頬に触れた。
「冷たい」
「でも、手繋いでるからあったかいよ」
如月を見つめ、歯を見せてにぱっと笑う。ポケットの中で握られていた手が、更に強く握られた。
「こういう時間がずっと続けばいいなぁ」
如月が俺の言葉に頷き、触れていた頬を引き寄せた。冷たい口唇が重なる。でも、口唇から漏れる吐息はあたたかい。唇を離すのが惜しい。
「もっとキスしたい」
「こんなところじゃ睦月さんが欲しがってるキスは出来ませんよ」
赤くなった鼻を人差し指で、つん、と押される。如月がベンチから立ち上がり、俺も釣られて立ち上がった。
「帰りますか」
「うん」
黄金色の世界に包まれながら、奥行きのある景色を眺め、黄色の絨毯の上をサクッサクッと歩く。イチョウの葉がさらさらと音を立てた。
「ねー、もういっかい言ってもいい?」
「何を?」
如月が首を傾げ、足を止めた。
「キスしたい」
「仕方ない子ですねぇ」
並木道から外れ、小径を通りイチョウの木の影に隠れる。とん。繋がれた手が解かれ、如月の両手がイチョウの木を突く。背中がイチョウの木に押し付けられた。
スイッチが切り替わったように、妖艶な雰囲気を纏い、如月が迫ってくる。自分から挑発したことなのに、恥ずかしくて頬が染まる。
「あ……や……えと……」
「さっきの勢いはどうしたの? 急にしおらしくなっちゃって」
「……家に帰ってからでもいいかなって」
「何言ってるの?」
如月の顔が近づき、唇が触れ合った。風が吹き抜ける中、何度も唇を啄む。肌寒いはずなのに、口唇から感じる熱で身体は熱くなる。
イチョウの木々に見守られながら、正しさを忘れ、唇を重ね続けた。
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