如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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47話(2)見つからない探し物。大切なものは大切な人の手にーー。

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 今、睦月さんの声が聞こえた気がーー。


 くるっと後ろを振り向き、出入り口を見る。睦月さんは居ない。それはそう。だって今日は、睦月さん仕事だし。デスクワークの睦月さんがこんなところに居るはずがない。


「でも聞こえた気がする……」


 やっぱり気になってしまい、旭のそばを離れ、店の入り口を見に行く。居ない。


「気のせいかな……」


 辺りを見回すが、睦月さんらしき姿はない。足元で、きらりと光る何かが目に入った。


「これ……」


 しゃがみ込み、光ったものを手に取る。私と同じ黒いスタッドピアス。睦月さんのもの? それとも偶然同じピアスの落とし物? 睦月さんのものならば、ここに本当に居たことになる。


「んー……」
「どうした?」
「ピアスの落とし物かな」
「警察届けるー?」
「いや……大丈夫」


 何か仕舞うもの……。カバンから財布を取り出し、ピアスを財布のポケットに入れる。睦月さんのものじゃなかったら、警察へ持って行こう。


「プレゼント買えました?」
「うん、買ったー」
「そうですか。ちょっと用が出来たので、帰ろうかと思うのですが」
「人に早退させておいてそれはないんじゃない?」
「そ、そうですね……」


 睦月さんは時間的にまだ就業中。今すぐに帰らなくても大丈夫といえば、大丈夫。気にはなるが、私が誘ったこと。もう少しだけ、旭さんと過ごそう。


「私が渡すクリスマスプレゼント、一緒に見て頂けますか?」
「もちろん。そのために来たんだからさ」


 薄く笑みを浮かべ、雑貨屋を後にした。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー

 *


「お兄ちゃん遅いね」
「……ですね」


 そろそろ帰ってきても良い時間だというのに、兄が帰ってこない。心なしか、如月が不安げな表情を浮かべ、そわそわしている気がする。


「私、お腹空いたし、ご飯作ろうかな?」
「え゛」
「大丈夫だって~~鍋だから」
「なるほど。それなら切って煮るだけですね」


 如月とキッチンへ向かう。収納から大きな鍋を取り出し、コンロに置く。冷蔵庫を開け、具材になりそうなものを探す。


「白菜とかネギとか入れておけばそれっぽくなるよね」
「え? たぶん……」


 私の話、聞いているんだか、聞いていないんだか。まな板の上に白菜を置き、食べやすい大きさに包丁で切っていく。


 ざくっざくっ。


「豆腐、大根……水菜も入れよ。肉でしょ。えのきと……え~~っと…あとはにんじんと茄子?」
「茄子って入ってましたっけ?」
「煮ると美味しいよ?」
「確かに……?」


 如月が茄子を入れることに眉を顰めているが、無視して鍋の中に入れる。ぼちゃん。よし! 全部入れたしおっけー。鍋に蓋を乗せ、弱火で煮る。


 ぐつぐつ。


「野菜柔らかくなってきたね」
「そうですね、もう食べれそう」


 掛け時計を見る。20時半過ぎ。遅い。お兄ちゃんが遅い。こんなに遅くなることなんてない。スマホを見ても連絡はなし。流石に心配だ。


「卯月さん、先に食べてはどうでしょうか?」
「そうだね」


 こたつの上に鍋を運び、取り皿を並べる。如月から箸を受け取り、腰を下ろした。


「いただきます」
「いただきます」


 手を合わせ、食事を始めるが、なんだか気まずい。いや、気まずい訳じゃない。お兄ちゃんが居なくて、寂しいのかも。


 如月が取り皿一杯分だけ鍋を食べ終え、箸を置いた。


「もう食べないの?」
「うん。1人でご飯は寂しいでしょ? あとで睦月さんとも鍋が食べれるようにしておかないと」
「そっか」


 お兄ちゃんのことを想って話す如月の顔は優しい。お兄ちゃん、何やっているのだろう。


「ごちそうさま」


 兄が帰ってくる前に鍋を食べ終わってしまった。もう21時を回っている。私はそろそろお風呂に入って寝たい。


 如月が出掛ける準備を始めている。兄を探しに行くのかな? こたつから立ち上がり、玄関へ向かう如月について行く。


「出掛けるの?」
「うん。私ちょっと駅前見てきます。遅かったら先に寝てください」
「お兄ちゃん連れて帰ってきてね」
「ふふ。睦月さんを見つけ出すのは得意ですから。私に任せて」



 ぎゅう。



 如月に抱きしめられ、お兄ちゃんが帰って来なくて、不安な気持ちが少しだけ、和らぐ。



 如月なら見つけてくれる。



 そんな気がした。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *


 ない。全然ない。仕事も早く切り上げ、ずっとピアスを探しているが、全く見つからない。朝、会社に着くまでは耳に付いていた。これは間違いない。


「はぁ、どうしよう……」


 同じものを買うとか? いや、そもそもひとつのピアスを2人で分けているんだ。それしかない、唯一のピアス。買い直すなんて選択肢はあり得ない!!!


 絶対に見つける!!!


 いつの間にか陽が暮れ、空は真っ暗だ。風も冷たく、肌寒くなってきた。時間が経てば経つほど、見つけづらくなる。早く見つけないと。


 やっぱり、落とした可能性があるとしたら、如月が居た店周辺。あの時、上司に引っ張られた!!!


「もう一度あそこに戻ろう」


 スマホで時間を確認しながら歩き出す。もう21時を過ぎている。卯月は何か食べただろうか? 如月は大丈夫かな? 色々心配になる。


 でもそれを無視してでも、探している自分がいる。


 だって、俺にとっては如月からもらった大切な大切な世界にひとつだけのピアス。無くす訳にはいかない。


「もう店、閉まってるし……」


 如月のいた店は閉店時間なのか、シャッターが降りていた。店自体は、覗いたけど、中には入っていない。店内に落としてはいないはず。


 スマホのライトを頼りに、店周辺のアスファルトを照らす。


「んーー……」


 見つからない。もう何時間探している? 思い当たる場所は全部探した。もうこれ以上、どこを探していいか分からない。


 見つけられないことが悔しくて、髪の毛をぐしゃりと乱暴に掴む。


「どうしようっ……ぁあ……もぉっ!!! 一瞬でも浮気なんて疑ったせいだぁあぁあぁああ!!!!」


 ぎゅっ。


「わあっ!!!」


 背中から急に体重がのしかかった。首元を抱きしめるこの腕は、俺の大好きな優しい腕。首に抱きつく腕にそっと両手で触れる。


「私が浮気? バカじゃないの? あと帰り遅すぎ」
「あ……ごめん……疑ったのは一瞬だけだよ?」
「ふーん?」
「そう……えっと…その……」


 ピアスを無くしたことを伝えたいのに、言い出せず、口籠る。俺だけじゃない。如月にとっても、大切なピアス。それを無くしたなんて、とても言えず、俯く。


 でも隠すことは出来ない。隠したところで、絶対にバレる。言わないと。首に巻きつく如月の腕を、ぎゅっと掴んだ。


「如月あのね……その……無くしちゃって……探したんだけど……見つからなくて……」
「探し物はこれ?」


 如月に顔が覗き込まれ、拳が差し出された。握られた指先がゆっくり開く。開かれた手のひらの上には、俺が落とした黒いスタッドピアスが乗っていた。


「あぁ……良かったぁ~~っ……無くしたかと思った……俺っ…ずっと探してて……もう見つからないかと思ったら…俺っ……」
「そんなに大切なものだった?」
「当たり前じゃん!! 如月が俺に初めてくれたものなんだから!!!」


 くるっと振り返り、如月を見つめる。ピアスが見つかった安堵で、我慢していた気持ちが溢れ出し、涙が頬を伝う。如月の手が涙を拭うように、俺の頬に添えられた。


「ふふ。ごめん。私もすごく大切なものです」
「俺、本当に本当に見つからなかったらどうしーーんっ」


 動く口唇を塞ぐように口付けされる。そっと腕を如月の背中に回し、抱きしめた。
 

「ピアス付けていい?」
「どうぞ」


 如月の手のひらからピアスを取り、耳に付ける。はぁ。やっと戻ってきた。空いていたものが埋まり、ほっとする。


「なんか安心したらお腹空いてきちゃった」
「なすの入った鍋がありますよ」
「えっ!! トマト鍋? キムチ鍋?」
「塩ちゃんこ鍋~~」
「それ、なす入れないってぇ……」


 ドキドキしながら如月の手を握る。如月の頬がほんのり赤く染まった。最近、俺から繋いでないもんね。


 何も言わず、ぎゅっぎゅっとお互い手に力を込め、握り合う。


 はらぺこのお腹をさすりながら、帰路に着いた。
 


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