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42話(4)愛しているからこそ怖い。会ってしまえば抱えていた全てが解けていくーー。
しおりを挟む「待っーー」
バタン。
俺の声も虚しく、如月は出ていった。帰ってくるよね? 帰ってくるって言ったもんね……?
不安で胸がいっぱいになる。
まだ食器洗ってない。なのに、仕事へ行く時間は迫っている。とても仕事に行ける気分じゃない。それでも行くしかない。
服を脱ぎ、ワイシャツに着替える。何故こんなことに? 昨日断ったことがここまで悪化させた?
でも愛してるって。
俺のことはちゃんと好きなんだよね? 俺だって如月のこと好きだよ? ならどうして?
「……俺……如月に好きって伝えてない……」
その事実に身の毛がよだち、ゾッとする。如月は俺がもう如月のこと好きじゃないと、思っているのでは?
もしそうだとしたら……。
俺は如月からのえっちもキスも、ハグも全て拒否している。触れ合いたくない、そういう気持ちがあったのも事実。それがもし如月に伝わっていたとしたら?
怖い。
すごく怖い。如月を傷つけたどころか、俺たちの関係性は取り返しのつかないことになっているんじゃないのか? どうしよう。別れたいなんて如月に言われたら……。
この離れた距離が怖い。
如月がどこへ行ったのか把握出来ないことが怖い。
帰ってくるか、分からないことが怖い。
もし、あの如月の背中が最後で、もう2度と会えなかったら?
怖い。
拒否しておいて、とても身勝手だが、如月とは離れたくないし、如月への気持ちに変わりはない。
大切にするべきなのは如月の気持ちだったはずなのに。
バカだ。
また間違えた。学習してない。自分の気持ちを優先して、何も考えず、ただ、如月を傷つけた。
あんな泣きそうな顔までさせたのに、それでも俺のために、如月は微笑んでいた。何をやっているんだろう。
言葉の足りなさがすれ違いを起こしている。
ちゃんと言わなきゃ。好きだって。愛してるって。そして、謝らなきゃ。如月を失いたくない!!!
仕事から帰ってきたら、如月はちゃんと帰ってきているだろうか? 居なかったらどうしよう。どうしようじゃない!!! 探しに行こう!!!
こんなんだけど、俺は如月のこと愛してるーー。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
ーー夕方
佐野家には戻りづらくて、結局、自分の家へ帰ってきてしまった。気持ちの整理はついていない。
別れたいとは思わない。
睦月さんのことは好き。でも睦月さんが私と触れ合いたくないと思っているのならば、別れた方が良いだろう。
私は触れ合いたいし、えっちしたいのに、睦月さんから拒否されてばかりだと、それって、私ばかり辛い思いをすることになる。
睦月さんへの愛情があるからこそ、満たされないことが、寂しい。
「はぁ……」
ソファに体育座りをして、膝を抱える。佐野家に帰った方がいいのは分かる。帰って睦月さんと話し合い、関係性を正すことが1番良い。
だけど、向き合うことが怖い。
電気を点けてない部屋は、日の暮れと共に暗くなっていく。電気をつけるのも面倒くさいな。普段使わないスマホをカバンから取り出す。
着信一件。
【家にいる?】既読。
睦月さんからのメッセージ。居ないけど。心の中で返事をする。既読、ついちゃった。
ぽん。
【どこにいるの?】既読。
既読を付けてしまったせいか、もう1通、メッセージが届く。自分の家だよ。また、心の中で返事をする。
貴方、まだ就業中では? このまま、メッセージを読んでおいて、返事をしないのも気まずい。返そう。
【日本】既読。
すぐ既読が付いた。もうキリがないからやめよう。スマホをカバンをしまい、持ってきた本を取り出す。
たまには月明かりの下で読書も良いかもしれない。ベランダの灯りをつけ、掃き出し窓を開けた。
ベランダに出て空を見上げる。雲が多く、月が隠れて、見えづらい。人の心みたい。
手すりにもたれかかりながら、片手で本を持ち、しおりの挟まったページを開いた。
*
ーーオフィス
「日本って……そんなの知っとるわぁあぁあぁあぁ!!!」
手元にある帳簿を持ち、デスクへ思いっきり叩きつける。
パン!!!
ひそひそ。
「佐野さんの荒れ方朝からやばいです」
「経費振替持って行った子、記入ミスあってめっちゃシバかれてましたぁ」
「今日は関わらぬが吉」
ぺし。
頭が書類で叩かれ、見上げる。
「荒れすぎ。みんな引いてる」
「神谷ぁ~~……」
荒れてると言われても仕方がないくらい、今日は自分でも荒れていると思う。先ほどのメッセージで、如月が家に居ないことは明白。
もう、今から帰って探しに行こう!!!
「神谷、俺帰る!!!」
「いや、まだ仕事終わってない……」
「俺の仕事は終わった!!! なんかテキトーに誤魔化しといて!!! よろしく!!!」
「ちょっーーおまっ」
カバンを持ち立ち上がり、オフィスを走り抜ける。早く、早く、如月のところへ行かなきゃ!!!
朝からそれしか頭にない。
外へ出ると、ぽつぽつと雨が降ってきた。傘は持っていない。こういう日はいつも如月が傘を持って、職場まで迎えに来てくれる。
でも、今日は居ない。
雨に打たれながらも走り続ける。如月が居るのはきっと自分の家。ワイシャツが雨に濡れて身体に張り付く。
早く行かなきゃ。その一心で、足を踏み出し続ける。
「はぁ……はぁ……着いた……」
下から見上げても、如月の部屋がどこかはよく分からない。とりあえず中へ入ろう。エントランスへ入り、鍵を開錠し、如月の家へ向かう。
ここにも居なかったらどうしよう。それだけが不安。ここに居なかったら、俺は如月が居そうな場所はもう分からない。
扉の前まで行き、鍵を差し込み、ドアを引いた。
「暗い……」
明かりのついていない部屋。物音ひとつしない。もしかして、居ないの? ドアをそっと閉める。足元に何か当たり下を見る。
如月の靴。
電気ついてないけど、居るの……? 何か起こってたりしない? 暗闇の中、部屋に上がる。リビングまで行くと、部屋の電気を付けた。
「居ないの……?」
人の気配がしない。ふと、ベランダに灯りがついていることに気づき、近づく。夢中になって走っていたせいで気づかなかったが、雨は止んでいた。
手すりに寄りかかり、本を読んでいる如月。触れたいなんて思えなかったり、手で振り払ったくせに、今は抱きしめたい。
俺にそんな資格あるかなぁ?
掃き出し窓を開け、如月に近づき、後ろから抱きしめた。
「ごめん……」
「……ふふ。なにがごめん?」
ぱた。
本が閉じられ、如月が俺の方を向き、優しく微笑む。
「びしょ濡れ」
「雨降ってたから……」
顔についた水滴を拭うように、如月の手が頬に触れる。
「如月、俺……」
「もう、いいんですよ。貴方の今の行動が全て答えなんですから」
背中がぎゅっと締め付けられた。密着する身体に、鼓動が早くなる。
「えっと…その……嫌いになったとかそういうのはないから……。振り払ったり、拒否したりしてごめん」
「うん……」
如月の背中に腕を回す。如月を見上げ、歯を見せて笑った。
「俺、如月が好き。大好き」
「私も大好きですよ」
「だからね」
「うん?」
じっと如月の目を見つめる。
「えっちしよ」
「へ?」
ハグにより、ムラムラは最高潮。キスでもしたらすぐに立ちそう。我慢の限界がすぐそこまできている。早急にえっちがしたい。
「もぉ、いいでしょ。なんとかなんとかってやつは」
「えぇ、まぁ……」
このよく分からないクソゲーの名称が思い出せない。
「俺思ったんだよね!! 毎日スキンシップ取りながら実はいっぱい、お話しして、コミュニケーション取ってるって!!」
「う、うん……」
「そこやめちゃうのは違うと思う!!!」
「そ、そうですね……」
如月を引っ張り部屋の中へ連れて行く。
「そりゃ、我慢して、2人で成し遂げた先のラブラブと仲良しアップも良いと思うけど、それよりも2人で話す時間や、一緒に過ごす時間を大切にした方がラブラブで仲良くなれる気がする!!!」
如月が優しい笑みを浮かべ、俺の頭を撫でた。
「だから、えっちしよ」
「はい、これ」
笑顔で紙袋が渡される。なんだこれ? 紙袋の中を覗く。
猫耳、猫手、首輪、しっぽ。
これはハロウィンコスですか?
「…………俺に付けろって?」
「だって買っちゃったんだも~~ん」
如月がクスッと俺に笑いかける。
その笑みに口元が緩む。
もぉもぉもぉ!!! 仕方ないなぁ~~っ!!!
俺はやっぱり、如月の笑った顔に弱い。
もう2度と泣きそうな顔になんてさせない。
その笑顔に誓うーー。
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