如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

文字の大きさ
上 下
193 / 306

42話(3)想っていることは同じなのにすれ違う。大丈夫? 何も大丈夫じゃないーー。

しおりを挟む


「前、触る?」
「いや……イッちゃうからいい……」


 触れることを拒否されたように思えて、少し俯く。私が始めたことなのに、なんだか胸が苦しい。


「キスする……?」


 俯いた顔を上げ、もう一度、睦月に訊く。


「ううん、いいや。ごめん」
「うん……大丈夫」


 大丈夫? 何が? 全然大丈夫じゃない。睦月さんにキスもえっちも断られたことがつらい。心がナイフで抉られているみたいだ。


 身体を起こすと、睦月も起き上がった。睦月を見る。目が合うと、スッと逸らされた。睦月は立ち上がり、キッチンへ行ってしまった。


 14日後に仲良しになる、どころか、触れ合わない時間が、会話を減らし、私と睦月さんの間に溝を作っているなんて、本末転倒だ。



 いつも一緒に居るはずなのに、心が離れていっている気がする。

 

 私は一体何をしているのだろう?



 いつもなら睦月さんの後ろを追いかけ、背後から抱きしめていたかもしれない。



 でも今はそれすらも出来ない程、断られたことに自信をなくし、その場を動けないでいる。



 もう、どうしていいか分からないよ。



 *




 思わず、断ってしまった……。


 深く舌を絡め合っただけで、ムラムラは最高潮だし、後ろを攻められて、気持ち的には、もう爆発しそうな域まで来ている。


 なのに、如月とえっちすることが重く感じて、身構えてしまう。前も触って欲しいし、キスもしたい欲求はあるのに、気持ちが前向きになれない。


 シたいのに、シたくない。


 このクソゲーのコンセプト的に、絶頂はまだ出来ない。それを良いことに、えっちを断り、如月と距離を取った。最低なことをしているのは分かる。


 心と体が違う反応をするせいで、頭がおかしくなりそう。


(はぁ……なんか気まずい)


 身体を起こし、立ち上がる。一瞬、如月と目が合った。断った手前、如月の目を見ることができず、すぐに逸らす。


「…………」
「…………」


 誘いを断っているのだから、如月の気持ちを考えればフォローした方が良いに決まってる。でも如月と顔が合わせられなくて、逃げるようにキッチンへ行った。


 絶対に良くない。俺の言動が如月を傷つけているかもしれない。いや、確実に傷つけている。如月はメンタルが弱い。そんなの分かっている。


 謝って、自分の気持ちを伝えた方が良いに決まっている。


 なのに、気が進まないのは何故?


 冷蔵庫からお茶を取り出し、コップへ注ぐ。ごくごく。アレ? 最後に如月へ自分から抱きついたのっていつだっけ?


 よく思い出せない。なんだかんだ、触れ合わないで、ここまで来ている。キスやハグはして良いはずなのに。


 寝る前にぎゅーってすることはある。このクソゲーが始まってから寝る前以外で、如月に一度も抱きつきに行っていない……。


 でも如月だって、俺のこと抱きしめてないよね?

 
 なんだかお互いのこともあまり話さなくなったような気がする。


 一緒にいる時間も減ったかも?


 遠目で如月を見る。えっちした場所から動いていない。声をかけるにしても、何を話しかけて良いか分からない。


 いつもなら『ぎゅっ』て後ろから抱きつき、甘えて済ませてきたことも、今はどんな風に如月に抱きついて良いか分からない。


「……このまま、あと4日も過ごしていいの?」


 この先に仲良くなる結末が本当にあるの? 答えが出ないまま、キッチンを離れ、脱衣所へ向かう。


 歩きながら如月の横を通り、チラッと様子を見る。何かを考えているのか、ぼーーっと、体育座りをしていた。


 如月のことは好きだけど、今は触れあいたいという気持ちが思うように湧かない。申し訳ないな、と思いつつ脱衣所の扉を閉めた。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
  
 *



 ーー翌日



「あ……如月おはよう」
「おはようございます」



 薄い笑みを浮かべ、私に挨拶をする睦月さんに違和感がある。


 昨日はあの後、色々考えてしまい、全然眠れなかった。結局、抱き合って寝ることも、何か話すこともなく、ただ『おやすみ』とだけ伝え、お互い寝た。


 リビングのローテーブルの上にはいつも通り、朝食が並べられている。いつもと何も変わらない日常のはずなのに、睦月さんと距離を感じる。


「ふぁあ~~お兄ちゃん、如月おはよ」
「もうご飯食べるよ」
「はぁい」


 3人で食卓を囲む。睦月さんと目が合わない気がする。これは昨日のせい? でも拒否したのは睦月さんでしょ……?


 無理強いもしていない。拒否された私が避けるなら分かるけど、なんで貴方が私を避けるの? 分からない。


「いただきまぁす」
「いただきます」
「……いただきます」


 睦月さんの作ったご飯は相変わらず、美味しい。黙々と作られた朝食を食べる。卯月が私と睦月を交互に見つめ、口を開いた。


「なんかあった?」
「なんも」
「ふーん」


 なんもって……。これは何もないことで、いつも通りなの? ご飯を食べながら睦月を見つめる。


「何?」
「別に……」


 心なしか冷たい気もする。


「ごちそうさま」


 食べ終わった食器を持ち、流し台へ向かう。そういえば、最後に抱きしめてコミュニケーションを取ったのはいつだったかな。


 あれ? あれれ?


 急に胸の中が不安になる。私だけじゃない。睦月さんだって私に抱きついたり、そういったコミュニケーションを取りに来ていない。


 リビングの床に座り、ぼーっとスマホをいじる睦月の元へいく。スマホをいじっているのも珍しい。


 抱きしめてみる……?


 また拒否されたらどうしよう。怖い。でもこのままじゃ、どんどん距離が離れていく。それはダメだ。


 大丈夫、きっと、大丈夫。自分に言い聞かせる。


「何見てるんですか?」


 睦月の後ろへ回り、そっと腕を伸ばし、睦月の肩に触れる。


「ちょっ……」


 腕で軽く、振り払われた。咄嗟に肩に触れた手を離す。私に抱きしめられたくなかった? 触れ合いたいと思うのは私だけ?


 気持ちがどんどん沈んでいく。


「あ、いや……えっと……違う……ごめん……」
「ううん、良いんです。ごめんなさい」


 優しく微笑み、軽く、睦月の頭を撫でる。頭を撫でたのも久しぶりかもしれない。この先にあるのは別れでは? 睦月の頭を撫でる手が小さく震える。


 少しずつ崩れていく関係性に不安が募る。震える手で、最後にそっと、睦月の頬に触れた。嫌がらない。私を大きな瞳で、じっと見つめる。


「愛してますよ。私は大丈夫ですから、伝えたいことがあるなら、なんでも言ってくださいね」
「え……?」


 頬から手を離す。今にも涙が溢れそうになるのをグッと堪え、笑顔を作る。


「私はいつでも貴方の幸せを願っています」
「は……?」


 睦月に背を向け、洋室へ向かう。必要最低限の持ち物と読みかけの本をショルダーバッグへ入れ、オーバーサイズのシャツとテーパードパンツに着替える。


 急に肩が掴まれ、後ろに引かれた。振り返ると、睦月が不安そうな顔で立っていた。


「待って。どこいくの?」
「え……家?」


 分からない。だって行き先、決めてない。


 気持ちはぐちゃぐちゃ。これ以上、傷つきたくない。1人になりたい。もしかしたら別れるかもしれない。別れることに対して、気持ちの準備も出来ていない。


 私は大丈夫? 何も大丈夫じゃない!


 自分が思っている以上に心がボロボロになっている。


「なんでそんな泣きそうな顔してるの?」
「え……さぁ……?」
「ねぇ、帰ってくるよね?」


 睦月にシャツが掴まれる。なんでそんなこと言うの? 貴方の気持ちが分からない。睦月の手をシャツから剥がす。


「……帰ってくる」
「それはいつ?」
「…………」


 答えられない。


 別に帰ってこないつもりはない。少し自分の気持ちに整理をつけるだけ。いつ終わるか分からないことを、軽々しく約束することも出来ず、黙って洋室を出た。


「待って!!! ねぇ、話し終わってない!!! 出ていくのは、俺が腕で如月を払ったから?!」


 玄関へ向かう足を止め、後ろから追いかけてくる睦月を見る。今度は何故、貴方が泣きそうな顔をしているの?


「べつにそれだけでは……ほら、仕事行く時間になりますよ」
「やだ……行きたくない!!! 俺が仕事に行って帰ってきたらもう居ないんじゃないの?!」


 何も言えず、目線だけが下がる。


「ねぇ?! 何か言ったら?!」
「……居なくなったりなんかしませんよ」


 ぎゅっと睦月を抱きしめる。そう、居なくなったりなんかしない。貴方が私に別れようと言わない限り、私はずっとそばにいる。


 でも、今だけは1人にして。


 睦月さん。


 久しぶりに抱きしめた睦月の感触。少し高い体温に甘い匂い。愛しいよ。睦月の肩を持ち、自分から離す。


「大丈夫ですよ」
「何が……? ねぇ、何が大丈夫なの?」



 再び睦月に背を向け、玄関へ向かう。何も大丈夫じゃない。自分への言い聞かせに過ぎない。これで良い。全て睦月さんに委ねる。



 自分の気持ちを睦月さんに全てぶつけることが出来たら、どんなに良いか。



 でも嫌われるのが怖くて出来ない。



 靴を履き、玄関扉を開け、外に出た。



 秋晴れとは程遠い、曇り空。雨でも降るかもしれない。どこに行くかなんて決めてない。ただ、行く宛もなく、真っ直ぐ歩き続けた。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...