如月さん、拾いましたっ!

霜月@サブタイ改稿中

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37話(2)神谷カプ結婚式。彼女への執着は今日で全て終わりにしようーー。

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 ーー結婚式場


 深く考えずに来てしまったが、思い返すと少し複雑である。私は皐の元彼だ。睦月さんは新郎から招待されているとは言え、恋人同士で来てるって、どうなのか。


 まぁ、良く言えば家族ぐるみの付き合い? のようなものではある。


 親族と親しい友人だけの結婚式だけあり、来ている人は少ない。気軽に話せるまったりとしたアットホームな雰囲気は良いものがあった。


 受付の前へ、3人で並ぶ。


「本日はおめでとうございます。新婦の友人の如月弥生です」
「えっ? あっ…えっと……本日はおめでとうございます? 新郎? の友人の佐野睦月です……?」
「妹の卯月で~~す!!!」


 そこから?!?! 色々教えておくべきだった!!! 大丈夫かな?!?! 少し戸惑ってる感はあるが、一応大人だもんね?!?! 挨拶を済ませ、袱紗ふくさからご祝儀袋を取り出し、両手で手渡す。


「心ばかりのお祝いでございます」
「えっ? ちょっ如月待って……」


 普段はしっかり者なのに、今日は手際が悪い。もたもたしながら袱紗ふくさからご祝儀袋を取り出している。


「えっと……こ…心ばかりの? お祝いでございます?」


 よく分からず言ってる様子が可愛くて、笑ってしまいそうになり、手で口元を押さえる。


「俺のこと笑ってるでしょ!!」
「ぇえ? 笑ってないですって」
「すみません、こちらにお名前とご住所をお願いします」


 ゲストブックが差し出され、名前を書き込んでいく。『結婚おめでとうございます』っと。最後はお祝いのメッセージで締めくくり、睦月にペンを渡す。


「私も書いていいの?」
「書いて良いと思いますよー」


 2人が書き終わり、会場内へ入る。式場も大きいものではなく、こじんまりとしている。睦月に目を向けると、職場の人と談笑していた。まぁ、神谷さんとは同僚なのだから、職場関係の人が来ていてもおかしくはない。


 挙式が始まるらしく、チャペルへと案内された。


「なんかドキドキする!!」
「そうですね」


 卯月さんは結婚式を楽しんでいるように見える。伸びやかで息の長い旋律が場内に響き渡り、後ろを振り向くと、神谷が赤い絨毯の上をゆっくり歩いてきた。


 その後ろから、真っ白なドレスに身を包んだ皐が、父親と腕を組み、凛と背筋を伸ばし、歩く。なんだか感慨深い。


 父親と神谷の交代。皐は神谷に嫁ぐのだと改めて実感する。皐と神谷が手を取り合い、バージンロードを歩き始めた。


 父親ではないが、私も彼女への気持ちに、きちんとケジメをつけなくてはならない。


 彼女への執着は、全て最後終わりにしよう。睦月さんのためにも今日で清算する。


 皐はきっと、今、これまでの人生を振り返り、未来に向かって、歩きだす覚悟を決めているはずだ。2人の輝かしい未来を邪魔してはいけない。


 私と皐は今後、作家と担当だ。それ以上の関係も、気持ちもない。長年付き合ってきただけに、寂しさが少しだけ心に残る。


 睦月の腰にそっと手を添えた。


「どうしたの?」
「最後のジェラシーです。今日だけは許して」


 私の言葉に睦月さんは何も言わない。腰に触れた私の手の上に、ただ、そっと睦月の手が重なった。


 聖書の朗読、指輪の交換と、淡々と、式が進んでいく。式が進めば進むほど、人のものになる、という現実が見えてくる。


 現実的になればなるほど、皐への想いは薄れ、私の側にいる睦月が全てに思えた。


「新郎、湊。あなたはここにいる皐を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」

「新婦、皐。あなたはここにいる湊を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓う」


 ベールが神谷によって、捲られ、誓いのキスが交わされる。私の脳裏には、睦月さんが私へ指輪をはめてくれた日のことが過ぎった。


 もう、私の心に皐は居ない。


 睦月さんが真っ直ぐ私を愛してくれるように、これからは睦月さんだけを想い、愛する。


 人間、一緒に居る人によって、自分自身も変わってしまうものなのだろう。私は睦月さんと居る時の私が1番好きだ。


 睦月さんが好きだからこそ、今度はその自分へ執着する。この執着は健全な愛し合い、だと思う。多分。


 神谷と皐がバージンロードの上を歩き、退場していく。渡された花びらを2人に向かって華々しく投げた。隣に居る睦月の顔を覗き込み、声をかける。


「睦月さん」
「なに?」
「愛してますよ」
「もぉ~~なに急にぃ~~」


 ふにゃんと照れたように笑う睦月の顔が可愛くて、思わずキスしそうになる。新郎新婦が退場すると、チャペルから会場へ戻るように促された。


 睦月の手を握ると、にぱっと笑顔を向けられた。この笑顔に癒される。手を繋ぎ、3人で会場へ戻る。


 会場では写真撮影が行われており、新郎新婦の周りに人だかりが出来ていた。


 披露宴も食事会もない。本当に簡素なものである。今時の結婚式とはこんな感じなのか。結婚する予定なんてないけれど。


「自由に写真撮って良いんだって!! お兄ちゃん、皐さんのところ行こ!!!」
「え? あ、うん」


 卯月に引っ張られ、皐の元へいくと、待ってたように、手のひらを見せ、皐が薄い笑みを浮かべた。


「私の結婚式はどうだ」
「皐さん綺麗!!!」
「そうか、ありがとう」


 皐と目が合う。真っ直ぐ私を見つめる漆黒の瞳からは『今日で本当に終わり』というメッセージが伝わってくる。分かっているよ。


「皐、幸せになるんだよ」
「それは、弥生もだよ。そのハナタレを離すなよ」
「ハナタレってひど……」
「ハナタレの小童だろう?」


 睦月を見て嘲笑う皐は通常営業だ。ウェディングドレスに身を纏う皐は、いつもより綺麗で、幸せそうに見えた。神谷を含め、5人で写真を撮る。


「皐さん、結婚してもうちに遊びにきてね!!!」
「勿論、行くとも」
「神谷、愚痴はいつでも訊くよ」
「ぐ、愚痴なんてないよ~~」
「次の人が待ってるから、そろそろ」


 2人に軽く手を振り、その場を離れた。フリータイムが終わると、新郎新婦の挨拶から始まり、また式が進行していく。皐がマイクの前に立ち、手紙を広げ始めた。


「皐さん、手紙読むの??」
「花嫁の手紙ですよ」


 卯月の頭をぽん、と撫でる。卯月さんも大きくなったら、いずれ花嫁になるのか。切ない。もし卯月さんに彼氏が出来たら面接しよう。変な男には絶対あげない!!


「本日はご多用のところ、私たちの結婚式ににご列席頂き、誠にありがとうございます。皆様にたくさんの祝福をいただき、嬉しい気持ちでいっぱいです」

「私ごとではございますが、少しお時間をいただいて、両親へ手紙を読ませて頂くことをお許しください」


 皐がまともに見える。


「お父さん、お母さん、33年間本当にありがとう。お母さんから花嫁の手紙はやめてと言われたが、好きなように今まで過ごさせてもらった分、今日は内緒で書いた」

「言いたい放題、やりたい放題で過ごしてきた私だが、心の中では一応感謝している。中々、口に出してお礼を言えなくて、悪い」


 なんだか、皐らしい花嫁の手紙だ。朗読する皐を黙って見つめる。


「お父さん、今日は花嫁姿を見せることができて幸せだ。前に実家へ帰った時、「いつまででも家にいていいからなー」と言われ、独身貴族で居ようと思った」


 なんの話?!?!


「とは言え、結婚することになって、湊が挨拶へ来た時「大事に育てた娘だから幸せにしてください」と快く送り出したことは感謝する」


 ちゃんと、花嫁の手紙らしいことを話している。皐の手紙に耳を傾けながら、睦月を見る。真剣に話を聞いている。


 今日をきっかけに睦月さんの思い描くものが、私との未来から、違うものになることもあり得る。その時、私は現実を受け入れることが出来るだろうか。


「お父さんとお母さんの娘に生まれて本当に良かった。2人は、私の自慢の両親だ。これからの道のり、どんなことがあっても湊と乗り越えていきたい」

「最後に、私たちふたりの新しい門出を祝っていただけたこと、幸せに思う。本当にありがとうございました」


 皐が一礼すると、拍手が沸き起こった。私も皆と同じように手を叩く。両家の両親が挨拶し、花束の受け渡しが行われた。親だけあり、涙を浮かべている。


 別に生涯離れる訳でもないのに。きっと、結婚式は親にとって特別なものなのだろう。


 最後に神谷がお礼を述べて、式は締め括られた。新郎新婦に見送られながら、会場を後にする。ぼーっとする睦月に声を掛けた。


「今日参列して、何を思った?」


 私にとっては、気持ちの確認のような質問でもあった。


「親孝行できるっていいなぁって……」


 卯月の顔を見ると、睦月と同様、ぼーっとしていた。両親が居ない2人にとって、この結婚式は、羨ましくもあり、辛いものだったのかもしれない。


「俺、自分の親の代わりに如月の家族へ親孝行するよ」
「私もそーする」
「……ありがとう」


 両腕で2人の肩を抱き寄せる。睦月さんも、卯月さんも、何も言わない。特に何か話すこともなく、2人の肩を抱きながら、タクシー乗り場へ向かう。


「如月、俺なんか寂しくなった」
「帰ったら抱いてあげようか?」
「こんなところでそんな話やめて~~」


 呼んであったタクシーに乗り込むと、睦月が耳打ちをしてきた。


「待ってる」


 熱い吐息が耳に吹きかかり、ドキッとする。待ってるなんて言われたら、抱くしかない。睦月の手にそっと自分の手を重ねる。


「はぁ~~あ、俺も如月と結婚式挙げたーい」
「睦月さんがウェディングドレス着てくれるなら考えようかなぁ」
「ぇえ?! 何それ~~やだぁ~~」
「皐さん綺麗だったぁ~~」


 参列して感じることはそれぞれ違ったが、睦月さんも、卯月さんも、私も、新郎新婦神谷と皐の幸せを願う気持ちは同じだ。


 窓から流れ行く景色を眺め、誰にも聞こえないような小さな声で呟く。


「皐。結婚、おめでとう。末長くお幸せに」


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