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33話(5)中秋の名月、夜散歩デート?!月を見て想うのは貴方のことだけーー。

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「…………」


 畳を見る。己の白濁。潤滑剤と愛液が混ざり合い、どろどろに濡れ湿っている。次から俺もゴム付けた方が良いのでは? とすら思う。


「掃除しよ……如月手伝っ……居ないし!!! 逃げるの早!!! もぉ~~っっ」


 乾いた雑巾で拭き取っていく。畳にカビ生えたらどうしよ。換気もしよう。窓を開け、部屋の空気を入れ替える。そういえば今週は三連休だったなぁ。俺、明日も休みだ。


「水族館、楽しめなかったし、明日デートに誘ってみようかな……?」


 掃除が終わり、如月のいるリビングへ行く。夜のお散歩でーと、まだ有効だよね? 


 如月のお気に入りの場所。リビングの隅っこ。ねこみたいにごろんと転がって本を読んでいる。後ろから静かに近づき、脇腹へ手を差し込み抱きついて寝転がる。


 ぎゅ。


「なぁに?」
「夜のお散歩でーと」
「あぁ、行きますか?」


 ぱたん。本が閉じた。回した腕が掴まれ、如月と一緒に身体を起こす。如月が先に立ち上がる。俺に向けられた手のひらに、手を乗せると、引っ張られた。


 よいしょ。


 触れ合うと、ドキドキするけど、この感情にも少しずつ慣れて来た。でも頬は染まる。


「卯月さん、公園行って来ます」
「後で買ってね~~」


 卯月が手をヒラヒラ振りながら、リビングから見送っている。後で買うって何を? なんの約束??


「何を買うの??」
「べつに」
「べつにって~~」


 都合の悪いことはすぐ隠す。


 樹脂製のサンダルを履き、玄関を出ると、手がぎゅっと握られた。


 うわぁぁああ!!! 手、繋がれちゃった!!! 今までだって散々繋いできたのに!!! 何この恥ずかしさ!!! なんか照れ!!! 嬉しい!!!


 だって如月と繋ぎたかった。


 ドキドキドキ。


「あ…ぁああぁあぁあっっ!!!」
「ちょっ大きな声出さないで!!! 近所迷惑だってば!!」
「ぁああぁ…んん~~~~っっ!!」


 口元が如月の手で塞がれる。手が!! 如月の手が口元を!!! 手のひらと頬と唇の密着感がえっち!!! 意外と口を塞がれるのもいいっ!!


「はぁっ…はぁ…もっと塞いで……って違ぁああぁあぁあ!!! アレぇえぇぇえ?!?!」
「はいはい、また今度手足と一緒に塞いであげますから」

「はぁあぁあぁ?!?! 何言ってんの!!! しなくていい!!!」
「…………(自分が言い出したんじゃん)」


 日中より涼しくなった夜道を、如月と手を繋ぎ歩く。秋の虫の音やそよ風が心地よい。暑かった夏は過ぎ、秋がすぐそばまで来ていると実感する。


「公園いきましょうか」


 夜の街灯に照らされ、如月がにっこり微笑む表情が見えた。釣られて俺もにっこり微笑む。


「うん、行く」
「この辺りだと明太子公園ですか?」


 如月が首を傾げ、訊いてくる。


「明太子公園はダメだ。卯月の保護者連絡網で髪の長い男の不審者が寝泊まりしてるって、注意喚起のメールが来たことある」
「へー。髪の長い男の不審者ですか。居るんですね、そんな人」


 くだらない話をしながら、よく待ち合わせに使う、噴水のある公園へ向かう。俺も久しぶりに如月とゆっくり話がしたい。


 公園に人影はない。橙色の街灯がぽつぽつと並ぶ、夜の公園を歩く。噴水の近くまで来ると、常に流れ出る水のせいか、涼しさを感じた。噴水の淵に如月と腰掛ける。


「ねぇ……卯月と一緒にお風呂入ってるの?」
「は……?」


 1番問い詰めたい問題。ハッキリさせたい。まだ入ってるのか、入ってないのか!!! その理由も!!!!


「あ~~えっと……」目線が泳いでいる。怪しい。
「入ってるの? ねぇ? 入ってるの?!?!」


 如月のTシャツを掴み、揺さぶる。ゆさゆさ。吐け!!! 隠すな!!! 洗いざらい全部吐け!!! ゆさゆさゆさゆさ。


「……仕方ないじゃないですかぁ、卯月さんにせがまれるんだもん……断りづらくて」
「…………!!!(まさかの卯月から!!!)」


 俯いてもじもじする如月に複雑な心境を抱きながら、さらに問い詰める。


「何かシてたりしない?!?!」
「何をするんですか……やめてくださいよ……立ちもしない」


 2人の間には何もないようだな!!!


「でもそろそろやめようかと思ってます。だって月日が経つたびに卯月さんの体が大人に……!!」
「はぁ? 顔赤くして何言ってんの。まだ中学生じゃん」


 冷めた目で如月を見つめる。卯月が大人だなんて、何言ってるんだか。胸もない、ちんちくりん(?)の子どもじゃん。


「中学生って……貴方卯月さんの何を見ているんですか!!! だからいつまでもスポブラつけさていたのですね!!! ひどい!! 誰があの子の下着毎回買い替えてると思ってるんですか!!!」
「はぁ? 下着? ずっと前、買ったし」


 なんで俺がこんなに怒られるの?!?! 最低限の衣類は与えてるし!!! 卯月だって何も言ってこないじゃん!!!(※兄には言いづらい)何が問題なの?!?!


「ずっと前って……もう合ってないんですよ!!!」
「へ? 何が?」
「鈍感!!! もう女性の胸の平均サイズはありますよ!!!」
「はぁ? そんなわけ……」


 卯月にそんなに胸が? いやいやいや、ないでしょ~~。あり得ない。


「測りましたから。本当です(※卯月に測らされた)」
「卯月の胸触ったの?!?!」
「そういう言い方されると困ります」


 俺の知らないところで2人が密接に!!! 俺にはなんにも言わないのに!!! 如月にはなんでそういうこと頼むの!!! 兄妹なのに!!!(※兄には言いづらい)


「卯月さんの成長に関すること全部丸投げするなら風呂の件、口出ししないでください!!!」
 

 如月はぷいっと顔を横に向け、頬を膨らませた。


「う~~ん……えっと……ありがとう」


 如月のTシャツを軽く引っ張り、顔を近づける。横を向いた顔がこちらを向き、唇が重なった。


「ん……三連休だから、俺明日も休みなんだよね」


 如月の瞳をじぃっと見つめる。


「明日もデートする?」
「する」


 如月の問いかけが嬉しくて、笑みが溢れる。緩んだ頬に如月の手が添う。頬を引き寄せられ、唇が触れ合った。


「ん……んんっ…ん…ん……んはぁ…ん……」


 夜の静かな公園に響く甘い吐息は、身体を少しだけ熱くさせる。少し開いた口唇に誘われて、舌を差し込み、深く絡め合った。


「んはぁっ……」
「……のぼせてるみたいに顔真っ赤。可愛い」
「うるさい」


 ふと、空を見上げると、夜空にはくっきりとした月が光り輝いていた。あまりの明るさに、目が離せなくなる。


「今日は中秋の名月ですよ」
「中秋の名月?」
「本当、風情に縁がない人ですね……」


 如月の言葉にムッとしながら、耳を傾ける。


「月が最も美しく見える日のことを中秋の名月って言うのですよ。十五夜くらいは聞いたことあるでしょう」
「団子食べる的な……」


 我ながらくそみたいな知識である。如月が目元を押さえ、ため息を吐いている。


「月は、新月から満月まで15日かけて少しずつ満ちていきますよね。旧暦で新月の日から数えて15日目の夜を十五夜って言います」
「あれ? じゃあ、毎月十五夜じゃない?」


 にこっと笑みを浮かべた如月に頭をくしゃくしゃっと撫でられる。子ども扱い。むー。


「正解。十五夜は秋に限ったものではないんです。旧暦15日の夜すべてを言います」

「十五夜と中秋の名月は同じ意味で思われがちですが、本来は旧暦8月の十五夜を中秋の名月って呼ぶのですよー」

「如月物知りー」
「本を読め」


 高く、明るく、冴えざえとした夜空を照らす月を、如月と一緒に黙って見上げる。


 如月の手が肩へ乗り、軽く抱き寄せられた。ちょっとだけ甘えたくなり、如月の肩に頭を乗せる。なんか最近、リードされっぱなしだな。


 大阪旅行とか、俺がめっちゃリードしてたはずなのに。あの時の如月、可愛かったなぁ。完全なる受けになってる気がする。また旅行行きたい。


「相逢うて 月見る心 別々に」
「え? 何?」

「ん~~? 高濱年尾の句 で、2人でこうして会い、同じ場所で同じ月を見ても、何を想うのかは別々だろうなぁって意味です」

「なんか切ないんですけど」

「そう? どの思い出に対して深く感じて、何を思い返すかなんて、人によって違うと思いません? 感慨深いですよ。睦月さんは月を見て、何を思い返しましたか?」


 月を見ていた如月の視線はこちらへ向き、目が合う。甘い見つめ合いに頬が赤く染まる。思い返すことなんて、如月との思い出だけだよ。



 如月は何を思い返した?



「恥ずかしいから秘密」
「なんですかそれ~~」



 秋澄む夜空に浮かぶ秋の月。



 満月ではないけれど、夜空を明るく照らす月を、愛しく想う。



 月を愛でる気持ち以上に、隣に座る如月が愛おしい。



 如月の顎を掴み、自分の方へ顔の向きを変える。最近ずっと、されっぱなしだからね。たまには俺から。



 顔を近づけ、そっと唇を重ねた。薄目を開けて如月を見る。ほんのり染まった頬が艶っぽく、気持ちを少しだけ昂せた。



「睦月さん、月が綺麗ですね」
「うん、そうだねっ! ってなんで笑うの~~?!」
「べつに~~ふふっ」



 月の光が心を落ち着かせ、安らぎの時間を与えてくれたような気がした。


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