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33話(3)妹に恋愛相談?!どんなセクシュアルマイノリティでも関係ありません?!
しおりを挟む水族館から早めに帰ったつもりだったが、家に着いた頃には陽が落ちて、空はオレンジ色に染まっていた。家に帰ってきても、如月を見ると、相変わらず、心臓は煩く鳴る。
お腹を空かせた2人のために夕食の準備をする。料理をしている間は、他のことを考えなくて済み、気が紛れた。
「お風呂洗いました」
「ありがとう」
最近、如月は色々手伝ってくれる気がする。手伝ってくれてもそれが上手に出来ているかは別だけど。
「ご飯出来た」
ローテーブルに並べられた夕食を3人で囲い、食べ始める。俺のせいなのか、会話がない。如月をチラッと見る。すぐに俺に気がつき、如月は首を少し傾け口元に笑みを浮かべた。
ドキ。
見たことがバレて恥ずかしい。すぐに目線を逸らし、夕食に集中する。頬が染まり、如月の方をもう一度、見ることが出来ない。
そんなことをしているうちに会話のない夕食が終わった。如月が風呂へ入ったのを見計らい、リビングで勉強する卯月に声をかける。
「卯月……ちょっと」
「何?」眉を顰め、こちらを見てくる。
「相談が……」
本当はこんな相談、妹に相談なんてしたくない。でも相談出来る相手がいない。セクシュアルマイノリティへの理解がありそうな旭に相談したくても、俺のことが好きな以上、到底、出来ない。
たった1人の俺の家族。卯月のことは信頼している。
俺が声をかけると、何かを察したのか、勉強していた教科書を閉じ、真面目な表情で俺を見た。手を握りしめ、卯月の目をしっかり見つめる。
「何? お兄ちゃん」
「……ちょっと申し上げにくいんだけど……なんか如月を見ると急にドキドキするようになったというか……」
「惚気かよ」
呆れた顔をしている。まぁ、そうなりますよね。こんな阿呆みたいな相談。やっぱり無理か。自分で解決するしかないのかな。
卯月は少し考え、口を開いた。
「う~~ん。あっ、私もドキドキするよ? 如月とお風呂入ると」
「……えっ……?」
え? 未だにお風呂一緒に入ってるの? え? ちょっと!!! どういうこと?!?! これいつの話?! 慰安旅行の話?! 如月さぁあぁあん!!!! やめてぇえぇえ!!!!
「すみません、お風呂というのは……」
ドキドキする以前に、恋人として、そこが気になる。
「あ~~(言っちゃいかんやつだった、どうしよ)」
「えっ、何? 時々入ってるの?!?!」
自分の恋人が妹と時々風呂に入ってるとか嫌なんですけど!!! 普通に!!!
「いや~~えっと……まぁお兄ちゃんが疲れて寝ちゃった時とか?(※嘘がつけない人)」
「はぁああぁあぁあぁあ?!?!」
もう二度と寝ない!!! 絶対嫌だ!!!
「お風呂って2人でゆっくり話せるんだもん」
「……何もないんだよね?」
「何があるっていうの」
卯月は、ぷっ、とバカにしたように笑い、下敷きで睦月の頭を叩いた。イラ。
「話を戻すけど~~後ろからぎゅって湯船の中で抱きしめられると、身体が大きくて、男の人だなぁ~~って感じてドキドキする」
「男の人……(色々突っ込みたい)」
「お兄ちゃんって如月のことどう思ってるの?」
どうって……。好き? うん。好き、めっちゃ好き。大好き。ってそういうことじゃない? え、分かんないんだけど。
「好きだよ?」
「どういうところが?」
何か思い当たることでもあるかのように、間髪入れずに聞いてくる。でも俺自身はまだ何もわからない。
「えっと……さりげなくいつもそばに居てくれたり、俺や卯月のこと大切に考えてくれるところ」
「へー。内面的だね」
内面的?
再び勉強道具を広げ始め、卯月の目線は教科書に落ちた。今のが答え? 俺、それだけじゃ分からないし、解決されてないんですけど。
「え……待って……どういうこと?」
「1番最初はそうやって見てたのに、衣食住を共にしてるうちに、家族になっちゃったんだね」
「はぁ?」
クスクス笑う卯月に腹を立てながら、一生懸命考える。1番最初って何?! いつの話?! 家族になっちゃったって何?! 恋人だとずっと思ってますけど!!!
「今のお兄ちゃんは如月を好きになった頃にそっくり」
「へ?」
「ねぇ、如月も男性だよ? 知ってた?」
「はぁ? そんなの知っ……」
卯月は睦月を見てニコッと笑い、背中を思いっきり叩いた。
「痛っ……」
「もう分かるでしょ。どんかーん!! 今まで男性として意識してこなかったの? 何も考えずに求めるとか本能的ぃ!!」
はぁあぁあぁあ?!?! 俺が如月を男性として意識してなかった?! そんなバカな!!! 好きになったり、ムラムラする時点で意識してるんじゃないの?!?!
「男の如月?!?! ちょっ待っ……理解が……如月は男では? アレ? ん? え? 嘘っ……」
自分自身のセクシュアルマイノリティについては認めたような……。認めたことと相手を意識することは違う? 違うな!!! 全く違うな!!!
「俺が家族感覚で途中から好きになっていたと?!?!」
「別にそうとは言わないけど。雰囲気も中性的だし、完全に男性として意識はしてなかったんじゃね? って話」
なんで急に……。
「恋愛とかしたことないけど、急に誰かを意識することってあると思う。お兄ちゃんは今まで女の子を好きだったでしょ」
真面目に話し出す卯月をじっと見つめる。
「なのに急に、男性を好きになった。自分のことを認めているつもりで、どこか誤魔化していたのだと思う」
「…………」
何も言い返せない。だってそうかもしれないから。脱衣所に目を移すと、脱衣所のドアが開き、毛先から雫を滴らせながら、如月が出てきた。湯上がりの火照った顔と濡れた髪に鼓動が早くなる。
あぁ……見ていられない。ドキドキする。
「む、無理ぃいぃいいい!!!!」
立ち上がり、逃げるように和室へ入り、襖を勢いよく閉めた。
スパン!!!!
引きこもり。俺も風呂に入らないといけないんだけど。ちょっと今は無理!!! 何せ、如月の入った後の風呂!!! 考えただけで、頭爆発しそう!!!! お風呂入れない!!!
「ぁああぁあぁあぁあ!!!」
なんか分かんないけどめっちゃ色っぽかった!!! 無理!! 無理!!! 無理!!!! 恥ずかしい!!!! 無理!!!
真っ赤に染まる顔がただ、ただ、熱い。体育座りをして、ぎゅっと膝を抱え込んだ。
*
「…………避けられてます? 私?」
「ん~~多分ちょっと違うと思われ。とりあえず顔見てこれば。多分真っ赤だから」
「はぁ?」
笑いを堪えながら見てくる卯月を横目で見つつ、和室へ向かう。襖の前で立ち止まる。勝手に入って良いものか。でも様子は気になる。呆然と佇んでいると、後ろから卯月に声をかけられた。
「如月。1時間かけてお風呂入ってあげるから、秋服買って」
「……ブーツも付けてあげるから、1時間半でよろしくお願いします」
卯月は親指と人差し指で輪を作り、如月にウインクし、ジップロックの中にスマホを入れると、浴室へ向かった。
「さてと……」
襖にそっと手をかけ、開ける。体育座りをして、膝に顔を埋める睦月の姿があった。こんな風になるまで悩んでいるの? 襖を閉め、中へ入る。
「顔見せて」
後ろから抱きしめて座り、横から顔を覗き込む。膝に伏せていて、見えない。
「やだ」
耳が赤くなっている。可愛い。顔が見たい。
「見せて」
「やだ」
「見せてくれないとキス出来ないよ?」
ゆっくり睦月の顔が膝から上がる。赤く染まった頬に瞳孔の開いた大きな黒目は、まるで恋をしているみたい。でも、すごく可愛い。
「真っ赤になって可愛い」
睦月の後頭部に手を添え自分の顔へ寄せる。恥ずかしそうに目線が逸らされた。
「ねぇ、何が起こってるの? 教えて?」
「それは……ん…ん……んっ…んんっはぁ…」
潤んだ瞳が可愛くて、口付けする。腕の中で感じる睦月の体温が熱い。私にドキドキしているの?
「~~っ……そのえっと……き、如月も男だった……」
「はい? 何言っ……いや……んーー」
これは結構デリケートな話かもしれない。
自分が今まで向き合ってきたものの経験上、下手なことは言うべきではない。そう思い、言いかけた言葉を濁す。
でも私からしたら嬉しいことだ。私のことをきちんと見て、認識しているということ。それでこんなに恥ずかしがっているなら、愛しさしかない。
なんて声をかけよう。
「頭では分かってたつもりだったけど……その……出来てなかった? みたいで……」
「だったら何? 嫌いになった?」
睦月のTシャツの下にそっと手を忍ばせていく。
「っん……好き。その気持ちは変わらない。ただ、急に恥ずかしくなって……んっ…」
「うん」
頬を染めながらビクッと反応するのがとても可愛い。話は聞かないといけないが、もっと、ビクビクしてるところを見たくてやめられない。
「俺バイセクシュアルじゃないかも」
「え?」
真面目に話し始める睦月に這わせていた手を止める。
「俺って一体何?」
「いや、知りませんよ……でも私にとっては、貴方がどんなセクシュアルマイノリティを持っていたとしても、なんにも関係ありませんから」
何かつきものが落ちたのか、穏やかに笑う睦月を見て、安堵する。顎に触れ、優しく唇を重ねた。
ちゅ。
「如月って最強……」
「全性愛って言ってくれる?」
「まぁでも、私のこと男性として意識して、その上で好きって判断するなら、自ずと自分のセクシュアルマイノリティは見えてくるかと」
グイッと睦月に顔を近づけ、笑ってみせる。大丈夫だよ、私は『貴方を』好きになったのですから。
「まだドキドキはするけど、俺もう大丈夫かも。ねぇ、如月続きシよ」
「睦月さんは本当、えっちな子ですねー」
甘えるように私の胸元へ背中をもたれかかり、赤く染まった頬で見上げる睦月にそそられ、這わせていた手を再び動かし始めた。
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